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職場の電気安全

資料出所:The RoSPA Occupational Safety and Health Journal
「OS&H」|2002年10月号 p.26-28
(仮訳 国際安全衛生センター)



「1974年労働安全衛生法(Health and Safety at Work etc. Act 1974)」の下、事業者が従業員やその他の人びとに対して負う一般的な注意義務のなかで電気に関する重要点をピーター・エリスが解説します。エリスは、低電圧の電気器具の安全使用について定めた「1994年電気器具(安全)規則(Electrical Equipment (Safety) Regulations 1994)」の要旨を述べるとともに、職場のすべての電気器具および電気系統によるリスクを低減する目的で制定された「1989年職場の電気規則(Electricity at Work Regulations 1989)」について基礎知識を提供します。


 電気がもたらす主な危険は、感電、火傷、火災、そして爆発である。感電自体が危害になるほど重大なものでなくても‐ビリッと感じて驚き、高所から墜落して致命的な重傷を負うなど‐悲惨な結果を招く場合がある。

1974年労働安全衛生法
 すべての事業者は、「1974年労働安全衛生法」の下、従業員ならびに一般市民の健康と安全を、就業中の事故から守る義務を負う。本法は授権法(enabling act)であり、これにもとづき、国務大臣は規則を設けることができる。

1994年電気器具(安全)規則
 「1994年電気器具(安全)規則」は、「1989年低電圧の電気器具(安全)規則(Low Voltage Electrical Equipment (Safety) Regulations 1989)」の廃止と同時に制定された新規則であり、1997年1月1日以降に市場に出た製品が適用対象となる。「1994年電気器具(安全)規則」は、「1989年低電圧の電気器具(安全)規則」のすべての条項を再制定後、わずかな修正を加えている。
 「1994年電気器具(安全)規則」は、「電気器具は、人間や家畜に対して安全なだけではなく、財産へ損害を与えるものであってはならない」と規定している。その上、そうした器具は、「一定の条件に適合し、器具そのものから発生する危険だけでなく、外的影響によって器具に生じる危険に対しても防護を施したものでなければならない」としている。
 「1994年電気器具(安全)規則」の要件を満たした電気器具には、「CEマーク」("CE marking")注1)を貼らなければならない。また、中古の電気器具についても、「安全に使用できるものでなければならない」と「1994年電気器具(安全)規則」は規定しているが、「CEマーク」の貼付に関する条項を遵守する必要性は認めていない。
 「1994年電気器具(安全)規則」は「1987年消費者保護法(Consumer Protection Act 1987)」の下に制定されたが、英国安全衛生庁(HSE)が職場で規則の実施を行えるように、「1974年労働安全衛生法」の下、特別条項が設けられた。

1989年職場の電気規則
 事業者が従業員および一般市民に対して負う一般的な注意義務とは別に、職場ならびに労働活動における電気の安全利用に関する明確な規則が、労働安全衛生法の下で設けられている。「1974年労働安全衛生法」の下で制定され、1990年4月1日より実施された「1989年職場の電気規則」は、責任範囲の拡大をもたらした。この規則は、1908年と1944年に制定された規則に取って代わるものであり、適用範囲をすべての職場へと広げている。
 「1989年職場の電気規則」は、電気を使う労働活動の評価について、事業者の責任を厳しく問うものである。その際の判断基準となるのは、電気系統を直接扱う作業、もしくは電気系統の近くで行う作業が、危険を発生させたり人的傷害を招く恐れがあるかどうかという点である。
 先の規則のように必要条件の細部を論じるのではなく、本規則は安全な電気利用に関する一般原則を規定している。 この規則についての詳しい情報は、この規則を補足する「Memorandum of guidance on the Electricity at Work Regulations 1989」や英国電子学会(IEE)発行の英国および欧州の「IEE Wiring Regulations, British and European Standards」、そして英国安全衛生庁(HSE)発行の出版物に掲載されている。(文末の「詳細情報」参照)
 「1989年職場の電気規則」は、感電の防止だけでなく、予測可能なあらゆるリスクにも注意するよう、事業者に命じている。規則に従い、特定の職務を遂行するための電気器具の適合性、設計、架設、設置にも注意していくべきである。
 規則制定以前に設置された電気器具および電気系統も、安全と判断され、規則の要件を遵守している限り、使用を続けることができる。それゆえ、電気器具および電気系統を取り替えなければならないのは、使い続けると危険な場合、その使用が危害を与える危険性がある場合である。
 「1989年職場の電気規則」に記載されている規制が有する責任レベルはさまざまである。例えば、規則3などのいくつかの規則は、絶対的な義務であり、いかなる金銭的コストが発生しようとも実施しなければならない。しかし、4(4),5,8,9,10,11,12,13,14,15,16などの規則は、「法律違反を犯すことがないようにあらゆる合理的な手段を講じ、しかるべき注意を払っていることを立証できる義務責任者を擁護する」という規則29の「義務責任者を擁護する条項」が適用される。
 その他のすべての規則には、「合理的に実行可能な限り」という条件がついており、事業者は電気を使った労働活動のもたらすリスクと安全衛生を脅かすリスクの低減にかかるコストを比較検討することができる。
 一般的な職場に関係する「1989年職場の電気規則」の主な条項は以下のとおりである。(規則17から28は鉱山に関するものであり、本記事では除外する)

規則 2−解釈
 規則2は、以下に続く規則を理解する上で重要な単語の意味を明確化する。
  • コンダクタ(conductor):電気系統の中で正常に電流を流すものすべて。
  • 危険(danger):危害(injury)の原因となり得るすべてのリスク。そして、危害は、「人間に傷害を与える可能性のあるもの」を指す。当該規則で危害と見なされるものは以下のとおりである。感電、火傷、電気が原因となる火災、アーク放電、電気に起因する爆発。
  • 電気器具(electrical equipment):乾電池で作動する懐中電灯から400KVの電線にいたるまで、電気を利用するもの、電気を利用するために使われるもの、あるいは電気利用のために設置されるものすべて。
  • 電気系統(system):回路に必要なすべての要素から成る電気系統で、電気エネルギーに接続しているか、もしく電気エネルギーの影響を受けるもの。

規則 3−義務を負う人びと
 事業者、従業員、自営業者はこれらの規則に掲げられた条項を遵守する絶対的な義務を有する。その上、従業員は、労働安全衛生法第7条に掲げられる義務を復唱するこれらの規則に基づき、事業者と協働しなければならない。

規則 4−電気系統、労働活動、そして保護具
 本規則は、合理的に実行可能な限り、いかなる時も危険防止につとめられるようにすべての電気系統を構築し、保全することを要求している。加えて、この規則の下、就業中の人びとを保護するために供給されるいかなる器具も、作業員の保護という目的に適合し、その用途にあうように保全され、適切に使用されなければならない。規則29の擁護条項がこの要件に当てはまる。

規則 5−電気器具の強度と可能出力
 電気器具の強度と可能出力の許容範囲を越え、危険が発生するような使い方をしてはならない。規則29の擁護条項がこの要件に当てはまる。

規則 6−有害あるいは危険な環境
 機械的な損傷(天候による影響、自然災害、気温、気圧、湿度や汚れやほこりや腐食による影響、粉塵や蒸気やガスなどの可燃性および爆発性物質)に曝され、損傷を被ることが合理的に予測可能な電気器具は、そうした暴露によって生じる危険を合理的に実行可能な限り防止できるよう、構築され、防護されなければならない。

規則 7−絶縁、防護、そしてコンダクタの設置
 電気系統の中にあるコンダクタで危険を発生させる可能性があるものは、すべて絶縁材で適切に防護するか、もしくは合理的に実行可能な限り、危険が起きにくい場所に設置するなどの予防措置を講じなくてはならない。

規則 8−アースなどの適切な予防措置
 電気系統の使用もしくは欠陥により充電される可能性がある充電コンダクタ(charged conductor)は、危険を発生させることがないようにアースしたり、その他の対策をとるなど、適切な予防措置を講じなければならない。規則29の擁護条項がこの要件に当てはまる。

規則 9−レファレンスコンダクタ(referenced conductors)の保全
 アースもしくは他のレファレンスポイント(reference point)に接続する電気回路のコンダクタに、電気が流れなくなるか、あるいは高いインピーダンス(交流回路における印加電圧と回路を流れる電流との比)が発生するなどの危険性がある場合には、適切な予防措置を講じなければならない。規則29の擁護条項がこの要件に当てはまる。

規則 10−接続
 電気系統におけるすべての接続やコネクタは、危険を防止するために、機械的にも電気的にも、適切なものを使用しなければならない。規則29の擁護条項がこの要件に当てはまる。

規則 11−過剰電流が流れないようにするための防止手段
 危険防止のために、電気系統の各部において、過剰電流が流れないようにするための有効な対策をとることが肝要である。最も一般的な防止対策は、ヒューズやブレーカの設置である。規則29の擁護条項がこの要件に当てはまる。

規則 12−電気供給の停止および絶縁方法
 危険防止のために、電気器具への電気供給の停止および電気器具の絶縁を適切に行える方法を備える必要がある。
 当規則では、絶縁を、「電気器具を、あらゆる種類の電源からの安全な切断および分離」と定義する。
 電気器具のスイッチを切ったり、絶縁することができない場合には、合理的に実行可能な限り、危険防止のための予防措置を講じなければならない。規則29の擁護条項がこの要件に当てはまる。

規則 13−電気を切った状態の電気器具を取り扱う際の予防措置
 電気を切った状態の電気器具に電気が通じ、危険を生じるようなことがないように、十分に注意する必要がある。規則29の擁護条項がこの要件に当てはまる。

規則 14−電気が活きた状態のコンダクタを直接扱う作業、もしくはその近辺で作業を行う場合
 電気が活きた状態のコンダクタを直接扱う作業、もしくはその近辺で行う作業は、以下の条件が整っていない限り実施してはならない(但し、絶縁材で適切に防護されているコンダクタに関してはこの限りではない)。
  • あらゆる状況に鑑みて、コンダクタに電気が通じていないと合理的に判断される場合。
  • あらゆる状況に鑑みて、作業当事者が、電気が活きた状態のコンダクタを直接扱うこと、もしくはその近辺で作業をすることが合理的と判断される場合。
  • 適切な防護具の着用を含め、危害を防止するための有効な予防対策が講じられている場合。
 規則29の擁護条項がこの要件に当てはまる。

規則 15−作業スペース、アクセス、そして照明
 危害を防止するために、作業の対象となる電気器具またはその近辺に十分な作業スペース、適切な接近手段および照明を確保し、危険を誘発することがないよう配慮しなければならない。
 電気が活きた状態のコンダクタを扱う作業の場合には、作業員が、危険を冒すことなくコンダクタから離れられるだけの十分な作業スペース、そして場合によってはリスクを冒さずに作業員同士が互いにすれ違うことができるだけのスペースを確保するべきである。規則29の擁護条項がこの要件に当てはまる。

規則 16−危険や危害の防止を行う適任者
 危険や危害の防止に専門的な知識や経験が不可欠な場合、こうした知識や経験のない人間を、適切な監督なしに作業に従事させるようなことを行ってはならない。規則29の擁護条項がこの要件に当てはまる。

結論
 事業者は、すべての電気器具が、通常の使用の際には通電部分に接触できないように設計されていることを確認し、電気による危険を排除するための予防措置が十分に講じられているようにしなければならない。携帯用の器具は、発生する危険を減らすために、絶縁(必要に応じて二重に)しなければならない。
 保全修理等のために電気系統に作業を行う場合、事業者は、「作業許可(permit to work)」システム注2)を実施しなければならない。そして、作業を開始する前に必ず、承認された機器によって、電気系統や器具に電気が通っていないことを検査し、確認するべきである。

<詳細情報>
以下の出版物は、HSE Books で入手できます。TEL : 01787 88 1165
WEBサイト http://www.open.gov.hse/hsehome.htm
  • HS R 25 (1989) Memorandum of guidance on the Electricity at Work Regulations 1989
  • HS G 85 (2000) Electricity at Work: Safe working practices
  • HS G 107 (1994) Maintaining portable and transportable electrical equipment
  • IEE Wiring Regulations 16th edition is available from the Institution of Electrical Engineers, Savoy Place, London. Tel : 020 7240 1871; website: www.iee.org.uk


(注1)CEマーク---ヨーロッパの安全基準を満たした製品につけられる
(注2)作業許可(permit to work)」システム---危険な作業について、手順や注意事項を記載した文書