このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。

交通違反と企業規程

資料出所:The RoSPA Occupational Safety and Health Journal
「OS&H」|2003年1月号 p.48
(仮訳 国際安全衛生センター)



今月はRoSPAの労働安全アドバイザーであるロジャー・ビビングズ氏の、安全運転についての企業規程を雇用契約に含めるべきであるという提案を紹介する。

 RoSPAは、多くの団体(www.orsa.org.uk)と共に、勤務中の道路上のリスクを重要な安全衛生問題として管理し、規制化するためのキャンペーンを行っている。

 この見解は、政府の独立労働関係道路安全作業グループ(Government's Independent Work Related Road Safety Task Group)によって承認され、2001年11月にダイクス・レポート(Dykes Report)として報告された。英国安全衛生庁(HSE)は、ガイダンス―――企業の持つ車やバンの業務運行に関する管理規程が事業者に与える影響について―――の作成に取り組んでいる。
 RoSPAの取り組み(www.rospa.com で「occupational safety」を、次に「occupational road safety」を選択)の骨子は、事業者は既存の安全衛生管理システムを調整し、道路交通リスクを組織的に管理できるように方針、人員対策および手順を適切に整備するべきであるというものである。事業者は、リスクアセスメントに基づいて安全対策を立て、その効果を観察・評価し、そこから学んだことをフィードバックして、継続的改善サイクルが確立されるようにしなければならない。
 このような体系的な職業交通リスク管理(managing occupational road risk: MORR)の方法を確立するにあたっての重要な問題は、有効なデータを集めることにある。特に、ドライバー、車輌、走行、交通事故、事故原因、コスト等である。RoSPAは、情報収集の一つとして、事業者が入社時及びその後適切な時期に労働者の運転免許証をチェックすることをアドバイスしている。
 そうすることで、マネージャーはこの情報を(事故記録、走行距離等の他の情報とともに)リスクアセスメントの材料として使うことができる。この情報はまた、ドライバーの行動をモニターする助けともなり、ドライバーに対する訓練や支援が必要かどうかを判断するのにも役立つ。一例として、免許取消しになりそうなほど罰則点数の多いドライバーに対しては、運転マナーの改善を促し、免許を保持させるためのカウンセリング及び再教育を行うことができる。
 一方で、免許証のチェックは規律上でも利用されうる。例として、いくつかの企業は、職業交通リスク管理(MORR)への取り組みの一環として、労働者は道路交通法を守らなければならず、重大な違反は「規則違反(misconduct)」と見なされるという取り決めをしようとしている。アルコールや違法な薬物を摂取しての運転、またはスピードの出し過ぎといった重大犯罪は、ACAS(訳注 Advisory, Conciliation and Arbitration Service。労働紛争の仲裁機関)のガイダンスにおける「重大な規則違反(gross misconduct)」ともみなされ、取り調べ中の職務停止の正当な理由となり、やがて罪が確定すれば即時解雇という結果になることもある。
 しかし、事業者がこのやり方を行うためには、安全運転が雇用契約にはっきりと要件として入っていることが重要である。もしそうなっていなければ、労働者は、事業者が自分たちをアンフェアに扱ったとして、労働裁判所に堂々と異議を申し立てることになる。
 また、企業が会社の車または車雇上のための金銭を支給する場合には、労働者がどのように運転するかということだけではなく、配偶者その他の人々がその車を使用しても良いかどうかを含めて、車使用基準を定めておくとよい。
 しかし、運転マナーを全体的な企業規程の一部にすることは、そう簡単なことではない。
労働者は、事業者が自分たちの運転マナーに口を差し挟むことに対して、特に労働時間でない場合には、不快に思うかもしれない。また実際問題として、事業者が、免許証に記載されている通常の違反(スピード違反が大半)が勤務中のものかそうでないのかを調べることは往々にして難しい。
 免許証をチェックするやり方は時間がかかり、探し出した情報は、最新のものでない可能性もある。RoSPAは、事業者が安全なインターネットで(ドライバーの同意を得て)、DVLA(訳注 Driver and Vehicle Licensing Agency。免許センター)の免許データベースを検索できるような仕組みを整えるべきだと運輸省に提案を行った。この種のものとしては、レンタカー会社関連の保険業務のニーズに応えて、ファックスサービスが現在存在している。
 一方でまた、機密性を保持する必要もあり、データ保護および人権保護に関する法令(Data Protection and Human Rights legislation)も間違いなく関係してくる。例えば、企業が労働者の運転成績一覧表を公開することができるのか、あるいはそうすべきなのかといった問題である。
 例えば、事業者が採用しようとする労働者について犯罪記録局(Criminal Records Bureau)に照会できる場合、重大な交通違反の前歴が明るみに出る可能性があるだろう。その人が若い人を運ぶ車輌を運転する職務につくような場合には、恐らくこの種の情報の公開は適切であると思われる。
 もうひとつ、スピード違反のような違反は、高性能セダン型乗用車のドライバーの間に著しく集中しているという問題がある。企業では、こうした車は一般的に上級管理職が運転している。企業方針が公平であれば、上級管理者(いかなる場合にも、企業方針を先頭に立って遂行するべき人)は、自分たちの秘密がことさら暴かれるように感じるかもしれない。企業は、これまでは目に見えなかった労働者の行動をより詳しく調べ始めることで、価値ある上級管理者を失うリスクを犯したいだろうか。
 すべての点で重要な原則は、労働者の参加(commitment)と賛同(buy-in)を得ることなしに、企業は前へは進めないということである。しかし、もし事業者が厳しい規律という手段、またはマイナスのインセンティブによって労働者の行動に影響を与えようとするならば、この大切な二つの事項(参加と賛同)を失うことになるだろう。より良い安全衛生は、労働者と共に実現するものであり、一方的に与えるものではない。したがって、職業交通リスク管理(MORR)計画作成に当たっては、労働者及び彼らの安全代表の意見をよく聞くことに特に重点を置くべきである。
 そうすることで、事業者が職場での強力な安全運転文化を創り上げるチャンスが高まり、運転マナーに関して規律上の大きな問題が発生した際に、誰もが、とられた規律上の処分が必要かつフェアなものであると同意するようになるのである。