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安全衛生トレーナー
資料出所:The RoSPA Occupational Safety and Health Journal
「OS&H」|2003年3月号 p.32
(仮訳 国際安全衛生センター)



 あなたの事業場が効果的な安全衛生教育訓練プログラムを実施するために、管理者として、又は安全衛生専門家として、あなたはどうしたらいいだろうか?教育訓練を始めるにはどんな手順があるのだろうか?どういうときに社内訓練を行って、どういうときに外部専門家を呼ぶのがいいのだろうか?組合は助けになるだろうか? Nick Cookがレポートする。

 情報、教育、訓練。1974年安全衛生法(Health and Safety at Work etc Act 1974)から6本詰め(six pack、訳注:1992年に6本一括で制定された規則)さらにはそれ以降も、呪文のように繰り返された言葉だ。労働安全衛生管理規則(Management of Health and Safety at Work Regulations)の規則13は教育訓練の要求事項を詳細に定めている:

 労働者は、以下に記すように安全衛生に関する教育訓練を受けなければならない:
  • 採用時に(新入教育訓練)
  • 新しいリスク又は増大したリスクに暴露されるとき
  • 新設備、又は改造された設備で働かなければならないとき
  • 新技術のもとに働かなければならないとき
  • あたらしい作業方法又は変更された作業方法で働かなければならないとき
 一回限りの教育訓練の内容ほど早く忘れられるものはないということは、法令でもよく認識されている。その理由から規則13(3)(a)は、必要な場合は教育訓練を定期的に繰り返して行うよう要求している。これに付随するガイダンスは、継続して使用しなければスキルは衰えると指摘して、この要求を補強している。例としては(希望を込めて!)非常時・災害時の手順も挙げられている。
 
 リスクアセスメント、個人的アセスメント、災害分析、これらはみな事業者が、事業場の安全衛生教育訓練の頻度や、その内容、レベルを決める上で助けになるものだ。

 しかし、あなたの事業場が効果的な安全衛生教育訓練プログラムを実施するために、管理者として、又は安全衛生専門家として、あなたはどうしたらいいだろうか?教育訓練を始めるにはどんなプロセスがあるのだろうか?どういうときに社内訓練を行って、どういうときに外部専門家を呼ぶのがいいのだろうか?組合は助けになるだろうか?

 恐らく、最も重要な問題はチョークを持っている人、いや現代風に言えばプロジェクターを操作している人だろう。これがトレーナーである。社内教育を行う安全衛生専門家であろうが、コンサルタントであろうが、トレーナーには一定の資質が必要なのだ。

良いトレーナーとは?

 第一に要求されるのは能力と経験だ。これらをチェックするのは容易だ。NEBOSH(訳注:全国安全衛生試験委員会、the National Examination Board in Occupational Safety and Health)の修了証は基本的な要件だが、RoSPAが自分たちのためのトレーナーを探す場合は、通常IOSH(訳注:労働安全衛生協会、Institution of Occupational Safety and Health)のコーポレート会員(訳注:IOSHの会員資格の一つ)を想定し、また出来れば「登録安全実施者」(Registered Safety Practitioner, 訳注:コーポレート会員の中からIOSHが登録する)であることが望ましい。しかし、能力だけでは有能な安全衛生トレーナーになることはできない。必要な経験と正しい態度が同じように価値があることが多い。これらはつかみどころがなくて測定することも困難であるが、それでも非常に重要なのだ。それはなんだろう?

 RoSPAの教育訓練・コンサルティング課長であるJohn Phillipsは彼自身の見方を持っている。「安全衛生に関する詳細な知識を手元に持っている人はたくさんいるけれども、その多くは知識を非常に機械的なやり方で応用することしかできない。受講者の共感を得るために必要なコミュニケーションをうまくやるスキルと、対人関係のスキルが不足しているのだ。あいにく、これらのスキルはありふれたものではない。」

 RoSPAの選択手順は、労働安全トレーナーの候補者がこれらのスキルを持っているかどうかテストするように作られている。選択手順の一部として、候補者に短いプレゼンテーションをして貰い、その間にコミュニケーションスキル及び対人関係スキルを評価するのである。

 「我々が求めるものは、フリップチャート、ビデオ、プロジェクターなどの教育器材の選択のような目に見えるものもあるが、また、目に見えにくいもの、例えばトレーナーがクイズ、質問、討論などを行って受講者を引き込んでいるかといった面も求めている。」とJohnは語る。

 ユーモアはもう一つの重要な資質であるが、ここでJohnは警鐘をならしている。「受講者が学習経験を楽しむことは重要だが、ユーモアは、感性をもって使わなければならない。人の感情は尊重しなければならず、そして、多様性を尊重することが重要なのは明らかである。また、あまり冗談が多いと主題から注意が逸らされる。」

 Johnの意見は、トレーナーのための教科書「結果を出す教育」(Instructing for Results)でも裏付けられている。それは次のように述べている。「教育訓練におけるユーモアはうまく使われれば素晴らしい道具だが、使い方がまずければ悲惨だ...滑稽さを狙った特別な努力をしないことをアドバイスしたい。トレーナーは一流のコメディアンではない人がほとんどなのだから。」

 ユーモアが最も効果的であるためには、その教育訓練の間に自然に生じるようなものであるべきで、決して、選ばれない危険を侵してまで候補者が使うものではない、とその教科書は結論づけている。
 
 West Mmidlands州WoodlandのWoodland Grange Training and Conference Centreの上級講師である Robin Bloodworthは、望ましい能力のリストに、次の点を追加している。「トレーナーは、複雑な情報を人々が理解できるようなやり方で伝えることができる能力をもっていなければならない。また、例えば、厳選したケーススタディを使用して、理論のなかにしっかりした実用的な知識を織りこむ能力も持っていなければならない。」

 同氏はまた、適切な経歴をもったトレーナーを見つけることを非常に重視し、これに対しては「これは非常に難しいかもしれないが」とコメントしている。Woodland Grange もRoSPAと同じく、トレーナーに対する最初のインタビューの結果だけに頼っているわけではない。両団体とも、例えば受講者が記入したフィードバックシートの利用などを通じて、トレーナーを継続的に評価している。

 RoSPAとWoodland Grangeは、半日の安全意識コースから、NEBOSHの安全Part2修了までに亘る労働安全の教育訓練を行っている。

 安全衛生に関する教育訓練で、特定のタイプのトレーナーの恩恵を得ている分野もある。例えば建設業の労働者のために基本的な安全の教育訓練を行う場合である。そしてJohn Jacksonは、ひと味違ったそんなトレーナーの例である。同氏は相談の仕事や、大企業の安全衛生部のためには働くことはしない。HSEのために働くことすらしない。建築業関連組合(the Union of Construction and Allied Trades, UCAAT)のために働いているのだ。

 彼の講義室はたいてい、顧客の建設現場のプレハブ小屋である。彼の顧客は実用的なスキルはもっているのだが、恐らく、よりアカデミックなスキルを要求する仕事よりも建設現場を選んだのである。読むことや計算などの基本的なスキルが困難である者もいる。多くは、母国語として英語を理解しない移民である。

 彼らにとっては不幸なことだが(しかし、安全のためには幸運なことに)、研究分野、少なくとも安全意識の研究はこうした人たちのことを視野に入れている。最終的には、すべての建築労働者は、建築現場にはいるためには通行証を必要とするようになるだろう。通行証を得るためには、建築スキル証明制度(the Construction Skills Certification Scheme, CSCS)を満足させなければならない。CSCSカードを取得するための1つの方法が、安全衛生テストである。これは、運転免許試験の筆記部分の受験者に使われるタッチスクリーンを利用して運転センターで行われる。Johnの仕事は、受験者にこのテストの準備をさせることだ。

 Johnは、どんな能力がこの役割に対して重要だと思っているのだろうか?やはり、コミュニケーションと共感は重要だ。しかし、Johnは、これらはトレーナーの経歴から出てくるもので、建設業にはそれが根付いているはずだと堅く信じている。

 UCAATの事務局長であるGeorge Brumwellの言葉に「労働者は自分と同じような労働者に教えられるべきである。」というのがあるが、John Jacksonはこれにぴったりの例だ。作業員として仕事を始め、監督者へと階段を上がっていったのである。そして、右膝の十字靭帯が損傷・断裂して、肉体作業をやめざるを得なくなって初めてUCAATトレーナーになったのである。

 「仕事を知っていることが自分の信頼性を高めている。私は労働者が直面している問題がわかる。彼らのほとんどが学校を出て以来、教室に入るのはCSCS制度がはじめてだ。私はまた彼らの言葉で話すことができる。例えば、『ゴム製アヒル』といえば、タイヤのついた四輪車であり、配管工が『棒とれんが』を呼ぶ時には、建築業者のことを言っているのだ。」

 「選考対象のうち何人かは非常にいい人で、知識も持っているが、読むことに問題がある場合がある。その場合、我々はセンターに、質問と答えの選択肢を読んでくれる人を用意するよう頼む。」とJohnは言っている。Johnに関する限り、受講者へのメッセージは、「我々はあなたの味方ですよ」ということだ。CSCSテストを受ける作業員の90%以上が合格するということは、このアプローチの雄弁な証明書である。

成人教育学

 最近の20年間で、トレーナーは規則を決める先生ではなく、まとめ役であるという考え方が一般的になってきた。「結果を出す教育」で使われている用語は「成人教育学」である。 このアプローチでは、成人が学ぶ場合、その動機づけはニーズと興味から生じると考える。これらのニーズと興味の中心は、生活と仕事である。その教育訓練がこのうちの一つあるいは両方に関係すると参加者が思ったら、動機づけは最も高くなる。そして、一番良い結果は、先生の話を聞くことからではなく、例えば討論、問題解決演習、役割練習という形で提供された経験から得られるのである。

 シミュレーション演習で災害調査者の役割を果たすことは、そのテーマについて受け身で講師の話を聞いているよりずっと有益である。

 受講者を参加させることの重要性は、HSEにより作成された「効果的な安全衛生教育訓練:トレーナー参考資料(Effective Health and Safety Training, a trainer's resource pack)」で、再度強調されている。

 この中では、「受講者は空のコンテナで、これを情報で満たす必要があると見がちである。この見方を取るならば、受講者のまぶたが閉じ、無表情の顔を見ることになるであろう」と警告している。

教育訓練プログラムをつくる

 経験的な学習には1つ大きな欠点がある。それは、今までの講義型学習よりも、教材を終えるのに時間がかかり、また小クラスであることが必要になりがちだということである。場合によっては講義の方がより適切であるものもあるだろう。安全衛生プログラムでは、通常この2つをミックスして行う。

 教育訓練プログラムを作るときに考慮するべき要素についての良い入門資料になるのが、HSEのリーフレット「安全衛生の教育訓練:あなたが知らなければならないこと(Health and Safety Training what you need to know)」である。これはプログラムを作るときの5つのステップを紹介したものである。

 最初のステップは、どんな教育訓練が必要であるかを決めることである。リスクアセスメント、災害データ、現在のスキルと必要なスキルの比較、労働者やその代表との相談、これらはすべて教育訓練のニーズを特定する助けになる。

 次のステップは、教育訓練の優先順位付けである。例えば救急処置という具体的な教育訓練が法律で必要とされている場合もある。また、順位をつける要因として、意識が低いために起きる潜在的な結果の重大さというものもある。結局、あのパイパーアルファー号の大惨事も、作業許可システムの欠陥が有力な原因であった。

 3番目に、教育訓練の方法リソースの選択の問題がある。外部講師を選ぶか、社内で行うかは重要な判断である。外部の教育訓練は、民間の教育訓練団体、コンサルタント、および労働組合が行っている。他には、商工会議所などの事業者団体、「都市とギルド(the City and Guilds)」などの資格授与団体などが行っている。

 一般に、社内では都合出来ない特定の専門知識が要求される場合に外部の教育訓練を依頼するのは意味がある。一つの例はアスベストの管理である。労働衛生の経歴と相俟って、Robin Bloodworthはこの分野で具体的な専門知識をもっており、最近の「アスベスト作業規則(Asbestos at Work Regulations)」の改訂から生ずる影響について講義を行うのに適したトレーナーとなっている。

 もし特定の機器−例えば、自給式呼吸器 Self-Contained Breathing Apparatus−についての教育訓練が必要ならば、これらはメーカーが行う場合が多い。

 立派な外部業者に教育訓練をしてもらうことは他にも利点がある。例えば、コースを最新のものにすることについて悩む必要がない。John Phillipsは次のように説明している。「我々には、必要な都度、コースの内容が確実にアップデートされるような品質管理システムがある。」

 外部の教育訓練は確かに利点があるが、場合によっては、社内実施の方が勝る点もある。入社研修、緊急事態の対応、CoSHH(注)有害物質管理規則:Control of Substances Hazardous to Health Regulations)への意識などは、すべてその企業内安全衛生専門家の知識や関係する挿話が役にたつものである。

 4番目のステップは、実際に教育訓練を行うことであり、最後のステップは、教育訓練の効果が実際にあったかどうかをチェックすることだ。受講者からのフィードバック、およびその企業の災害記録が改善されたかどうかモニターすることは、この質問に答えるのに役立つだろう。

経営者の参加

 教育訓練の効果が上がるようにするためには、もう一つの要素が必要だ。John Phillipsが次のように説明する。「教育訓練それ自体は安全衛生成績を改善させるものではない。それは職場で補強される必要がある。教育訓練コースの間、参加者を安全衛生に熱中させることは可能だ。しかし、もしその学習が補強されないと、いったん彼らが職場に戻ったら、それまでの態度と行動に戻ってしまう。この補強における経営者の役割は非常に重要だ。私達は、できるだけ早い機会に上級管理者に教育訓練を行うべきだと主張している。しっかりした安全衛生マネジメントシステムと全レベルでの賛同なしでは、教育訓練活動は、未来永劫続く変化に対して四苦八苦することになろう。」

パートナーシップ - これからの道

 パートナーシップは多くの分野で成功へのカギと見られている。安全も例外ではない。John Jacksonは次のようにコメントしている。「パートナーシップは、未来への鍵である。私達はCSCS制度のCITB(訳注:建設業教育訓練委員会、Construction Industry Training Board)で働いている。私達は、それらがつくる優れたコースを提供している。」

 同じく重要なパートナーシップがある。事業者とのパートナーシップである。「最初は、疑っていた」とJohnは認める。「事業者は、労働組合に安全衛生コースを担当させることについて確信がなかった。なにか隠されたテーマがあるのではないか?」

 そんなことはないと事業者が気づくにはちょっと時間が必要であった。その後事業者は利点があることがわかった。安全衛生が労働者自身の言葉で話されるということである。

 RoSPAとWoodland Grangeも、パートナーシップを大いに信奉している。RoSPAは会社のニーズに合うように手を加えられた教育訓練を提供するためOrangeのような会社とともに仕事をしている。コースの資料に会社のロゴをつけて会社専用にすることさえある。

 John Phillipsは次のように付け加えている。「企業内の安全衛生専門家と一緒に働くこともある。彼らが自分で教育訓練を行うよう、我々が彼らを教育するのだ。」 これは、企業内教育か社外教育かのジレンマを緩和する助けともなる動きである。

 Woodland Grangeでも、Oxford Brooks大学とともに、安全衛生環境のMSCコースを行っている。

 しかし、そのようなパートナーシップの中で最も重要なものはトレーナーと受講者の間のパートナーシップであり、上に述べたものも、このために役立ってこそ意味があるということを記憶しておくことが重要である。