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バック・トゥー・ザ・フロア
−現場へ帰れ−

資料出所:The RoSPA Occupational Safety and Health Journal
「OS&H」|2003年3月号 p.46
(仮訳 国際安全衛生センター)



 HSEのベストセラー(期待するほど有名ではないが)であるガイダンス「成功する安全衛生管理(Successful Health and Safety Management)」(HSG 65)は、職場の安全衛生巡視に定期的に参加することでリーダーシップを示す上級管理者の事例を強調している。役員の安全衛生責任に関するHSEのガイダンスも、安全衛生に関するトップのリーダーシップを展開し、役員会レベルで「安全衛生チャンピオン」を任命するよう主張している。その一方(ちょっとおかしなことだが)、日常的な安全衛生管理の問題になった場合、役員が定期的に現場に帰り、なにが行われているか或いは行われていないかを把握することの必要性は強調していない。以下、RoSPAの労働安全アドバイザーRoger Bibbingsが、役員はそうすべきだと主張する。。

 HSG65の第3章で、HSEは次のように述べている:「管理者、特に上級管理者が、自ら実例を示して指揮すれば、安全衛生目標の意義と重要さを強力に伝えることができる。同様に、否定的な行動で、前向きな安全衛生カルチャーの発展をぶちこわしにすることも出来る。部下は、上司がなにが大事だと思っているかをすぐに察して、それに合うように行動するものだ。自分の熱意をうまく伝える方法は、定期的に安全衛生巡視をすることだ。これは詳細なチェックではなくて、経営側の熱意と関心を示す方法であり、また良いやり方・悪いやり方の例を見出す方法である。これは全現場・全工程を順々に行うような計画でもよいし、全体の安全衛生活動の中で、その時点の優先事項に集中してもよい。....」

 安全衛生をまじめに受け止めている役員−こんなことは常識ではないかと思われるかもしれない。安全衛生活動の場に身を置けば、優れたやり方を見て褒めることもできるし、同時に会社が言っていることと現場の実情の違いがどこにあるかも実感できる。

 理屈はそのとおりだが、実際にはどうか? 確かに上級管理者や役員が、安全衛生の基礎にまで到達するために安全衛生巡視・チェックに参加したり、独自に職場訪問(事前予告付きだろうが抜き打ちだろうが)をしたりということはどれぐらい広がっているのだろうか? 上級管理者や役員がすでにこのようなやり方で安全衛生管理を支援しているところでは、ほかのアプローチとしてはどんなものがあるのだろうか? この分野で優れた−また劣った−やり方の特徴はなんだろうか? 役員がチェックや、極端に言えば監査においてでも真に効果的な役割を演じるためにはどんな障害があるのだろうか? 誠心誠意をつくしても、彼らが実際に有害無益となってしまう場合があるのだろうか?

 RoSPAは、役員が定期的にチェックや巡視に参加する回数が少ないだけでなく、セレモニー的になってしまうことがありうると考えている(もっと調査を行って証明しなければならないが)。安全衛生専門家に先導して貰い、自分でも(また労働者や他の人間も)、付き合って顔を出しているのだと思っている傾向がある。これが重要でないとは言わないが、やはり二次的な役割である。仕事の工程やハザード、仕組みを知らないことを暴露してしまい、労働者に対して権威を失墜してしまうことを恐れているのかもしれない。デリケートな問題について、ライン管理者の前で労働者に圧力をかけすぎて、自分たちが退去してから困惑や摩擦が表面化することを、純粋に望んでいないだけかもしれない。

 あるいは、彼らは実際には自分たちの専門知識の限界に気づいておらず、自分が思いこんでいることを、チームの他のメンバーに押しつけてしまう危険をおかしているのかもしれない。例えば、検討されているテーマについて十分専門的な把握をしないで解決策を指示してしまうようなことである。

 もちろん、安全チームの他のメンバーは、「役員の無知と過度の熱心さから困難が生ずるかもしれないが、そのような上級管理者がそこにいるというだけで安全衛生管理に価値を与えるのだから、マイナスを補ってあまりある」という見方をするだろう。多くの役員がスタッフから離れていることを考えれば、「現場に帰る(出来るだけ現実的なやり方で)」は、単に安全衛生の理由からのみならず、経営者であり続けるためにも非常に重要なことである。

 結局のところ、多少皮肉に聞こえるかもしれないが、多くの上級管理者(特にサービス業では)は、会計や経営の系統であるか、ビジネススクールに行く前には手を汚したことのない人たちだ。たたき上げの人の場合でも、技術・スキル・システムは変わってしまっていて、今その事業場の人が実際働いているやり方を再習得する必要がある。この観点からすると安全衛生巡視は、上級管理者が比較的インフォーマルな形で、またその動機についてあれこれ答えにくい質問をされることなしに、出かけていって歩き回ることのできる、都合のいいやり方だといえるだろう。

 真に重要なことは、上級管理者がその役割を果たせるよう、能力を身につけることである。多忙かもしれないが、安全衛生管理の本質についてなんらかの教育訓練と説明を受けることが非常に重要である。それは必ずしも、法律や彼らの責任についてである必要はなく、また「安全衛生と経営の事例」に関して檄を飛ばすことでなくともよい。ハザードやリスク、対策、基準、先取り型及び事後対応型のモニタリング、好事例などに関する基本的な説明であればよい。

 基本を把握したら、旧態依然とした「物理的条件」の検査といった落とし穴を避けて、焦点を決めてアプローチを行うことの必要性を理解し、皆が考えていることや心配していることを知るために皆と対話することに集中することが重要だ。純粋に安全問題に絞ったものにしようという誘惑をすてて、目標をもったやり方で具体的な健康問題に集中するようにしなければならない。「目と耳と鼻の穴を開けて、口は堅く結ぶ」という旧式の監督者の姿勢をとることはやめなければならない。基準以下の状況・作業方法・事象を見つけた場合は、ある程度深く質問して、なぜそのようになっているかの理由を突き止めるよう努めるということにすべきだろう。

 理論的には、職場巡視に実際かかる時間と同じぐらいの時間を、委員会室で他のメンバーと一緒にとるべきだろう。このときに巡視の目的や最近の事故、優先事項などを検討する。現場に行ったら、管理者は、自分たちがいるために自由な議論の流れがさまたげられることのないように細心の注意も必要である。

 幸いなことに今日の平等社会、特にフラット組織の下では、上級管理者に帽子をとってぺこぺこする時代はおおかた過去のものになっている。実際問題、労働者が今ほんとうに起こっていることをはっきりと遠慮なく言うことを恐れるようであれば、それこそその組織は大きな問題を抱えていることになる。特に安全衛生の分野では、悪い知らせを持ってきた者は罰するのではなく、真剣に耳を傾けるべきなのだ(時には困ったことになるとしても)。そしてもちろん、役員は巡視にあとの検討会や結果に対する措置にはフルに参加する必要がある。

 そのようなカルチャーがない場合に、上級管理者が抜き打ちで現場を訪問したりチェックしたりすることは、いい機会として労働者に歓迎されるどころか、非常に脅迫的なものと見られるだろう。実際、もし労働者が事前にかぎつけた場合は、整理整頓に走り回り、表面的には正常な印象を与え、その活動の目的を完全にだめにしてしまうだろう。

 上級管理者がこのように精査をするのが実際、その正当な役割かどうかについては議論があろう。対照的には、安全衛生の優先課題に対する取り組みがどうなっているか、直接の報告を召集し、進捗を監視する方法もあるからだ。

 この意味で、役員や上級管理者が職場の巡視(又は災害・事故調査といったプロセス)に参加することでどのぐらいの価値がでてくるかということは、その組織の全体の管理スタイル、中でも意志決定やコミュニケーションのやり方に大きく依存している。このレベルに上級管理者を参加させるやり方として、完全に正しいとか完全に間違っているというものがないのは明らかである。標準的なリーダーシップの決め手と言われるものはある。断固としていて自分の意思をはっきり言うこと、批判でなく大いに褒めて応援すること、理解と忍耐を示すこと、それとなにより聞くことである。

 DASH(Director Action on Safety and Health安全衛生に対する役員の行動)を進める一部としてRoSPAは、なにが可能かを知る(単に役員や上級管理者の「安全衛生巡視」の実践をもっと広めるだけでなく、優れた成績をあげている事業所が、この分野でどのようにお互いから学ぶことができるかを見る)ためにこれらの問題をもっと深く掘り下げたいと考えている。もし、いいアプローチを開発したところが、その成果をもっと広く使えるようにすれば、他社の役員がそれを見習うだけでなく、たくさんの仕組みを開発し過ぎるというリスクも少なくなるだろう。

コメントを歓迎します:E-mail rbibbings@rospa.com