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災害事例から学ぶ

資料出所:The RoSPA Occupational Safety and Health Journal
2003年11月号 p.12-16
(仮訳 国際安全衛生センター)



 ロバート・マクマードによる、あらたな事故判例の総括

5,000ポンドずつ罰金を科された管理者2名

 大手自動車メーカーのフォード社は、HSW法(Health and Safety at Work etc. Act 1974)の第2条及び3条違反で有罪となり、300,000ポンドの罰金を科せられ、経費46,688ポンドの費用支払いを命ぜられた。これは2002年8月に同社サザンプトンの運送用バン工場で起きたクリストファー・シュートの死亡事故に対する判決である。シュートは加熱された塗料タンク周りでトラブル処理中に、タンク周りの防護不備のためタンク内に転落して死亡した。
 フォード社とともに同社の法律違反に責任を持つ人々も被告席にいた。請負業フィリップス・サービス(ヨーロッパ)社の管理者ピーター・プレストン、ポール・マッケンジーは、作業時の安全制度をシュートに何も説明しなかった監督不行き届きによる有罪を認めた。HSW法違反として、両者には5,000ポンドずつの罰金が科された。
 両者は一時、故殺(manslaughter)の嫌疑もかけられたが、取り消されている。
 最高法院判事スチュアート・マッキノンは次のように語っている。これは、「明らかに起こらなくてもよい事故であるが、起こるべくして起きた死亡事故である。ここではタンクの上に簡単に接近できたこと、滑りやすい環境、取り外したままで元通りにされていない蓋、あふれ出た泡など、いろいろな悪条件がそろっていた。


ありえない事故でオークション主催者に23,000ポンドの罰金

 ジャズバイオリニストのジョナサン・フィップスは、オークション・ハウスでスタート合図用ピストルを手にとり、引き金を引いたとたん、手の指のひとつを部分的に吹き飛ばされる事故に遭遇した。オークション主催者のアンドリュー・グラントはHSW法違反でウスター刑事裁判所から有罪を言い渡され、5,000ポンドの罰金を科せられ、経費18,443ポンドの費用支払いを命ぜられた。
 同裁判所でフィップスは、ショーケースから空砲のピストルを取り出し、よく考えもせずに引き金を引いたと証言した。ピストルが発砲し、熱いガスの炎でフィップスは指を負傷し、永遠にバイオリンが弾けない手となってしまった。
 オークションハウスの従業員が試験用に同ピストルを発砲し、その後弾丸を抜き取ったと勘違いし、弾丸を込めたままショーケースにもどしていたことが当局の調査により判明した。


梯子は「作業用具」か、はたまた「荷」か

 英国の俳優エリック・サイクス主演の1960年代のサイレント映画「プランク(The Plank)」を鑑賞したことはあるだろうか。もしないのであれば、長く、幅が狭くて重く、可搬型の作業用具)が危険な道具以外の何物でもないということを一度では理解できないとしても、無理はないであろう。もし鑑賞済みであれば、梯子を人間ひとりで持ち上げて運ぶ場合、梯子がプランク(厚板)のように危険な荷となることを理解するのに、わざわざ常識を働かせる必要はない。
 しかしながら、エリック・サイクスは法的権威を後ろ盾にしてはいなかった。「梯子は荷ともなりうる」と常識を使って判定するより、梯子は用具としかなりえないことを法廷で議論した方が費用効果が高いとエディンバラ市議会が判断した理由はこれである。スコットランド最高裁判所(エディンバラ)最高民事裁判所のマキューアン卿の判決意見により、「1992年マニュアル・ハンドリング規則(Manual Handling Operations Regulations 1992)」の規定内容はより明確になった。
 事の発端は、スティーブン・マッキントッシュが1999年3月に梯子を運搬中にひざを負傷した事故に対し、その雇用主であるエディンバラ市議会を相手取り個人的な訴訟を起こしたことであった。原告は、「1992年マニュアル・ハンドリング規則」に規定されている責務に被告が違反していると主張した。同市議会は、梯子は同規則が規定する「荷」となることを否認した。
 スレート工であるマッキントッシュは、モレダン・パーク・グローブ児童センターの屋根の雨漏り修理を行っていたが、その際に50kgの重さのある梯子を使った。作業終了後、梯子を担ぎ、バンにもどり、梯子を積み込もうとした際に梯子の足のひとつが芝生にひっかかった。梯子を抱え直そうとした際にバランスを崩し、マッキントッシュは転倒し、ひざを負傷した。
 マッキントッシュは、この事業者が通常1人で梯子を運ばせていたと主張し、現在は、事業者が「1992年マニュアル・ハンドリング規則」の規定に違反し、梯子を使用する従業員としての自分を保護しなかったとして6桁の個人的な損害賠償金を請求している。雇用主である市議会は、マニュアル・ハンドリング関連のアセスメントの実施や、梯子を安全に取り扱い、運搬し、移動するための効果的な方法の決定などを含む同規則に対し特定の責務を負う必要はないとした。同議会の特定責務は、「作業用器具の使用規則(Work Equipment Regulations)」に準拠するものに限定されるとおそらく同議会は考えている。
 被告側は(結局棄却はされなかったが)訴訟の棄却を求めてマキューアン卿に膨大な量の当局の資料(事前には未報告のものも、中には含まれていた)を示し、さらに「規則のガイダンスの注意書き」やオックスフォード英語辞書まで参考資料として提出した。
 同卿はこの規則、判例法及び当該事故の文脈における「リスク」および「荷」の意味を厳密に調べた。同卿は、「梯子は作業用の道具であるが、荷とはなりえない」とする理由はないと結論した。原告は梯子を梯子として、つまり、そこを人が上り下りするための道具として使用することを終了していた。これは、梯子が道具としては機能していず、荷に転換しており、その時点で道具と荷は相互に両立できないわけではなく、同時に道具兼荷として存在できることを意味した。常識により、梯子は荷であるとされた。
 マキューアン卿の考察では、「荷」という単語には広い意味があるべきだとして、「マニュアル・ハンドリング規則」第2(1)条における「荷」という単語の定義には、「---の意味を含める」を意味する"includes"という語は使われているが、"means(意味する)"という断定的な語は用いられていないと指摘している。つまり定義は制限されていないのである。同卿は、「ここでの重い梯子は荷である。荷ではないと固執するのは常識への侮辱となりうる。梯子を荷であると同時に道具とみなすことに何の問題もないと私は思う。」と述べた。
 リスクの問題に関しては、同卿は「"リスク"にかかわる限り、予想できる可能性を想定しなければならない。50kgの梯子をひとりの人間が運ぶと負傷するだろうことは、明らかに予想できる可能性であるというのが私の見解である。」と語った。


マンホールの保全に対し、州議会を告訴

 ウェールズの行政当局および公益事業企業---及び類似のその他多くの関係者---は、今ではマンホールなどの所有物や器具の状態を正常に保つ適切な責任があることを認めなければならない。最近起こされたある訴訟で示されたことは、欠陥を検出する検査方法を改善しない場合には、多くの企業が膨大な経費を支払うことになるということである。
 1998年10月にサウス・ウェールズのクローズイセイログ・クリケット&ラグビークラブの外で、確実に閉まっていなかったマンホールのカバーを踏みはずし、アラン・ウォールトンが片足を骨折した事故がその試金石となった。踏み込んだ弾みでカバーとフレームの双方が突然バランスを崩したために事故は起きた。
 ウォールトンがハイダー・トルファエン州議会およびハイダー水道会社に対し請求した個人的な損害賠償金およそ4,000ポンドを認められた後、今年初頭に評決は上告されたが、裁断は覆っていない。
 同州議会はこの評決に納得せず、法廷の評決の影響で、マンホールのような器具の安全性を確保するために「不可能な」検査の実施に煩わされるのではないかと感じ、控訴院に上告した。しかし、ヘイル最高法院判事とソープ最高法院判事は判決に背く上告を認めなかった。
 これまでに同州議会は、走行車両による幹線道路検査を実施してきたが、この評決により、検査効率の改善をしない限り、これまでの方法で検査することは愚行であることが示された。特に、「幹線道路管理当局適正実施規準(Code of Good Practice for Highway Authorities)」規定の検査ガイダンスはそのほとんどを必ず見直し、改訂しなければならなくなった。
 同州議会の弁護士ロバート・オリアリーはこれに対し疑問を呈している。「マンホールを物理的に検査しなければならないとしたら、コンクリート舗装の一部がぐらついたら個別にひとつひとつ検査しなければならないのか」。しかしヘイル最高法院判事はこの抗議にも動じず、彼女の裁決を幹線道路保全の標準規定と解釈するべきということではないと語った。負傷者が出た際の自分の責任を正しく認識している限り、既定の規準に従うことを選択しても、それは個々の裁量に任されているとも言いたげであった。
 オリアリー弁護士は、同州議会は"相当な額の法的経費"を負担して原則を擁護したと説明した。白黒つける必要も無かった問題を明るみに出してしまった同州議会の行動に感謝する企業はいない。


駐車場の境界フェンスの不備で地方当局に13,000ポンドの経費請求

 ヒルダ・メイ・グリーン(78)は2001年12月、市中央駐車場の固定されていなかった境界フェンスが強風のため落下し彼女の頭部に当たったため、頭部に負傷した。この事故の後、グリーンは別の原因も重なり死亡した。
 コヴェントリー市議会は、安全衛生法令において必要とみなされる最小限の標準に合わせて金属性フェンスの管理をしていなかったとして有罪を認め、コヴェントリー治安判事裁判所から12,000ポンドの罰金を科せられ、経費1,206ポンドの費用支払いを命ぜられた。
 問題のフェンスは、市中央駐車場自体の再開発の前から存在するほど古いものであった。


痴呆症入所者の死亡に対し2,000ポンドの罰金

 ファイフの高齢者レストホームの入所者、リラ・モーガン(78)が同ホームで熱湯をはったバスタブでやけどを負い、2001年5月に死亡した事故の審理が最近開かれた。検死陪審は、実際には痴呆症のモーガンが、鍵のかけられていない風呂場に誰にも気づかれずに入り込もうとしていたにもかかわらず、彼女が安全にベッドに就寝しているとなぜスタッフが思い込んでいたのかを審問した。
 カーデンデンのサニーブレー・ビラ・ホームを経営するカーデンデン・ヘルスケア社はHSW法の第3条違反を認め、2,000ポンドの罰金を科せられた。


感電死に対し英国ネスレ社と請負業者に275,000ポンドの罰金

 アイルワース刑事裁判所は、1999年の致死事故の原因となった過失につき、食品飲料メーカーの英国ネスレ社に220,000ポンドの罰金を科し、経費30,000ポンドの費用支払いを命じた。この事故は、請負業者の従業員であった電気工アンソニー・アレンがミッドレセックス州ヘイズの英国ネスレ社工場で作業中に感電死したものである。
 請負業者のモノトロニック社(サリー州サットン)は25,000ポンドの罰金を科された。アレンはコーヒーの製造プラントで電気回路から余剰ケーブルを取り外す作業中に感電死した。
 2002年2月にはアクスブリッジ治安判事裁判所にてモノトロニック社がHSW法第2(1)条違反を認めている。一方、2003年3月にはアイルワース刑事裁判所にて英国ネスレ社が同法第3(1)条の違反を認めている。
 SEの主席監督官サマンサ・ピースは次のように語っている。「1999年には感電事故で作業員18名が死亡しているが、その一人がアンソニー・アレンだ。ネスレ社が自社従業員の管理用に導入している制度と同様の就業時の安全制度に請負業者も従わせるかまたは実施させていればアレンの死は防ぐことができたはずである。規模の大小にかかわらず、すべての企業は請負業者が就業時の安全制度を確立し、それに従っていることを確認しなければならない。これは電気工については特に重要なことである。」


イソシアン酸塩への暴露許容限度を超えるリスクに対し10,000ポンドの罰金

 ロックウェル・ソリューションズ社(ダンディー、ウエスターゴーディー工業団地)は、その従業員の健康を適切に保護しなかったとして10,000ポンドの罰金を科せられた。裁判所は同社の従業員が1999年から2001年3月にかけてイソシアン酸塩の濃度が許容限度を超える接着剤の蒸気に暴露されたおそれがあったことを認めた。
 従業員が実施しているラミネート工程の健康に有害な物質への暴露のリスクアセスメントを同社が適切かつ十分には実施していなかったことが判明した。リスクアセスメントが適切に行われていれば、同社の作業システムはこれほどまでに不備ではなかったであろう。同社の作業場における作業システムにはデキャンティング方法も含まれているため、大量の蒸気が放出される可能性があり、またイソシアン酸塩の危険性について十分にトレーニング、指示、情報を受けていない作業員がそのデキャンティングを実施している可能性があった。
 同社従業員の許容限度を超える有害物質への暴露の可能性は、HSEの職員がラミネート装置の使用指導のため、同社を訪れた際に認められた。
 ここで読者は以下の場合であっても法違反となることがあることに留意するべきである。
  • リスクアセスメント実施済み
  • リスクアセスメントに基づく管理措置が実行されている
  • 危険に暴されている作業員はいない
法を遵守するためには、以下が満たされていなければならない。
  • リスクアセスメントが適切、十分であること
  • 管理措置の実行により、安全衛生面のリスクが合理的に実施可能な範囲で最低レベルに抑えられること
 リスクアセスメントと管理措置が不備である場合は、実施方針により、当局が起訴するか、改善命令または使用禁止命令を出すかのいずれかが決定される。


食品会社の間違った作業方法

 ヴェイル・オブ・モーブレイ社は2002年8月に、ヨークシャー州リーミング・バーの同社事業場が爆発火災により壊れた事故で甚大な経済上の損失をこうむった。ブリキ製のパン容器を予熱する際の基準は長年準拠してきたものだが安全とはいえず、これがオーブンの爆発ひいては火災の原因となったと見られている。
 ブリキの容器の焦げ付き防止に塗布するオイルの引火点は摂氏175度だが、オーブンの庫内温度は摂氏220度に達していたようだ。決定的な点火源は調査後も特定されなかったが、バーナーの調整不良とオーブンのひび割れが発火の原因となった可能性がある。
 HSEの訴追官アラン・ウィリアムズは、「アセスメントが実施されていれば引火点より温度が高い場所でオイルを使用するようなことはしなかっただろう。」と語った。
 同社はHSW法第2(2)条に規定の職場における安全作業方法の違反として8,000ポンドの罰金を科せられ、経費23,112ポンドの費用支払いを命ぜられた。


危険な電気機器

 ウェストゲート社(北ウェールズ、ディーサイド)は、ウォータージェット式機器の電源への接続方法が危険であるとして「1989年職場の電気規則(Electricity at Work Regulations 1989)」違反を認めた。この違反により即時の使用禁止命令を受け、この命令に従った同社は、モルド治安判事裁判所から1,000ポンドの罰金を科せられ、経費898ポンドの費用支払いを命ぜられた。
 定期監督時にHSE監督官が気づいたことは、同社でのウォータージェット式機器を電源に接続する方法は、ワイヤを使用してヒューズの定格を変更する方式の家庭用プラグで、しかもプラグのプラスチックが損壊していたことである。アースをとっていないため、同機器の使用者の命にかかわる潜在的な危険性を伴っていた。同社には使用禁止命令が発令された。
 同社はこれ以降、自社の倉庫での電気関連の安全確保のために相当額の投資をしていると語っている。


作業場の輸送安全の不備

 プラスコート・システム社(キングスウィンフォード)は、作業場における重篤な輸送事故による安全衛生法令違反により起訴された。これは2002年5月に、従業員のマイケル・ウェイクマンが後退するトラックに轢かれた事故に対するものである。
 フォークリフト・トラックを運転していたウェイクマンはフォークリフトから降り、路上に落とした貨物を拾い集めていた。このときに、後退するトラックに轢かれ、さらにトラックの後方とフォークリフト間にはさまれ、肋骨・脊柱骨折を含む重傷を負った。
 同社は法違反を認め、ダッドレー治安判事裁判所から6,500ポンドの罰金を科せられ、経費2,539ポンドの費用支払いを命ぜられた。
 同社は事故再発を防止するためのさまざまな対策を講じたと語っている。広報担当者は、「当社は事故発生を衷心よりお詫びいたします。当社は、当社の実践義務事項の最上位に"安全"対策を掲げました」と語った。


偽造免許証帯同で投獄

 アバディーンのネヴィル・ヤングは有効な資格を持たない一方で、偽造免許証を帯同、使用して英国船の一等航海士として勤務していたとして4つの審理に対する有罪判決を受け、ルイス刑事裁判所にて禁固刑に処せられた。ヤングへの判決は、偽造文書使用のそれぞれの起訴に対する9ヶ月間の禁固刑であった。またヤングは無資格にもかかわらず高級船員として航海したとして500ポンドの罰金を科せられた。
 海上保安庁[MCA]のたった一度の検査で、一等航海士の偽造免許証を帯同したヤングが一等航海士になりすまして米国の海域を通商航海中の船に乗船していたことが発見された。英国に帰還した際、ヤングは全世界の航海を許可される英国およびリベリアの一等航海士または船長の偽造免許証のコピーを帯同していたことが検査により明らかになった。ヤングにはそのような資格ひとつもなかった。
 MCA筆頭主席検査官ロジャー・タウナーは、「この件で、複写機を使用して一等航海士免許証を偽造し、事業者や船長に悟られないようにする手口が明らかになった。事業者や船長は一等航海士や船員の(複製でない)オリジナルの免許証を確認する義務を負っているが、事業者や船長には免許証チェックをさらに厳しく実施して、免許証を確認できない者は雇用しないよう勧告している。複製の免許証は一切認めない」と語っている。
 "一等航海士"ヤングを雇用した事業者と船長は幸運だったといえる。彼らはオリジナルの免許証の確認を怠るミスを犯したにもかかわらず、ヤングと同じ被告席に座らずに済んだからだ。


顧客に究極の代償を払わせた“明らかな”危険に対し、200,000ポンドの罰金

 コリン・ジョーンズ(71)が死亡した事故は、クリストファー・ヴォスパー判事によって、「その原因は“明らかに”危険状態であった」と断定された。2002年10月、盲目者登録をしているジョーンズは、英国郵政省のトレメインズ通り郵便局(ブリッジエンド)に小荷物受け取りのため立ち寄った。そこでジョーンズは、後退してきた車両に轢かれ致命傷を負った。
 郵便局のゲートは、局員、一般客、車両の兼用出入り口となっていた。別のゲートもあったが、長年鍵がかけられたままで使われていなかった。車両運転手には、郵便局のゲートからバックで出ないよう通達が出されていたが、効果は無かった。
 この事故でHSW法および「安全衛生管理規則(Management of Health and Safety Regulations)」違反を認めた英国郵政省はカーディフ刑事裁判所から200,000ポンドの罰金を科せられ、経費3,500ポンドの費用支払いを命ぜられた。
 クリストファー・ヴォスパー判事は、「これは、英国郵政省が義務付けられている基準をはるかに下回っていたことを示した判例である。」と語っている。


是正勧告遵守の不履行

 マイク・ウォーターフロント・ウェアハウス社の共同経営者であるアンドリュー・アベリーは、HSW法第33(1)(g)条違反で有罪となり、セントオールバンズ治安判事裁判所から2,000ポンドの罰金を科せられ、経費3,401.70ポンドの費用支払いを命ぜられた。アベリーの会社が改善命令に従わなかったとしてアベリーは起訴された。
 2002年4月に執行された同命令では、2002年5月31日までに同社が「潜水作業規則1997( Diving at Work Regulations 1997 (DWR))」に準拠することが義務付けられた。その後、同命令への準拠開始時期は2002年8月まで延長された。しかし期限延長後でも依然として同命令の規定基準への不適合が見られた。
 同命令では、各潜水作業が行われる時は以下の基準を満たすことを列挙している。
  • 潜水監督者の任命
  • 潜水計画の作成
  • リスクアセスメント計画の作成
  • 緊急時の手順の作成
 公聴会の後、HSE中央潜水担当監督官のゴードン・クラークは、次のように語った。「娯楽としてのダイビング専門業者に対し、諸規則に適切に準拠することが、安全にダイビング業を営む上での重要なキーであることをこの判例が警鐘してくれることを願っている。規則に適切に従うことは、娯楽としてのダイビングの指導を一般客が受ける際に特に重要となる。ダイビングは危険度が高いものの、適切に実施すればリスクを低く抑えることができる活動である。改善命令は、諸規則が的確に守られているかをHSE監督官が確認するためのひとつの手段である。諸命令に従っていない場合は、監督官は起訴する以外、選択肢は残っていない。」
 すべての潜水業者に対し、諸規則に従うことの大切さを警告したこの判例は、監督官が指定した制限期限内に是正勧告を遵守することの重要性をすべての事業者と管理者に知らせる警鐘ともなった。


ネットワークレール・インフラストラクチャー社、レールトラック社の過失の全責任を負う

 ミッドランズでフェンス敷設請負業者が方法を改善することなく線路沿いの130キロボルトもの高圧の地下ケーブルに向けてメタルスパイクを作動させ、危うく死亡事故となりかかった過失でネットワークレール・インフラストラクチャー社とHWマーティンズ社(フェンス敷設請負業者)は、それぞれ16,000ポンドと6,000ポンドの罰金を科せられ、それぞれ経費1,750ポンドの費用支払いを命ぜられた。
 ラッセル・キャメリーは2002年3月、バーミンガム、ハンズワースの鉄道線路内で鉄道フェンス敷設工事に携わり、穴を掘っている最中に使用中のスパイクが高圧の地下ケーブルを切断した。爆発が起き、キャメリーの服が燃え、彼は大やけどを負った。
 同社(当時はレールトラック株式会社)は最近、HSW法違反による過失で起訴された。同社は、レールトラック社が請負の作業員に地下電気設備に関する必要な情報を周知徹底させなかったとして、HSW法違反による過失を認めた。
 HSEのアンソニー・ウッドワード監督官は同社の責任怠慢を、故意や経営上の利益確保によるものとはみなさず、責任能力の欠乏に帰するものと判断した。
 同社がこの4年間に2度も同様の法律違反を犯したことを考慮し、ジャービス裁判官は、特に同社には事故のあった鉄道網の全体図面を見ることのできる専門の"埋設ケーブル工事管理者"がいるため、責任の大半は同社にあるとした。同裁判官は、「同社は起きたことに対して主たる責任を有している。」と見ている。
 HWマーティンズ社(フェンス敷設請負業者)もケーブル埋設箇所につき詳細をその従業員に当然周知させているべきとして起訴され、罰金を科された。同社広報担当は、本判例後は従業員へのトレーニングと電気設備に関する資料の整備に重点的に投資していると語っている。


建機リースに伴う危険 

 「クレーン作業に携わるすべての事業者は、大手建設請負業2社がベッドフォード治安判事裁判所で50,000ポンド超の罰金を科せられた最近の判例に注意を向けるべきである」と主張するHSE建設業部門監督官がいる。
 当判例は、2002年2月4日、高速自動車道A6のクラパム・バイパスでの建設工事におけるジョン・スチュアート(グラスゴー在住)の傷害事故を扱ったものである。クレーンで吊り上げた棒鋼が工事中の橋脚に至る途中に落下し、スチュアートは背中に重傷を負った。彼はいまだに職場復帰できない状態にある。
 エドムンドヌッタル社(カンバリー)とノーウェストホルスト・コンストラクション社(ウォトフォード)は、それぞれが雇用していない作業員のクレーン作業時の安全確保を怠ったとしてHSW法第3(1)条違反の過失を認めた。また両社はクレーンの安全な作業確保のための適正な計画、監督、作業を怠ったとして「1998年楊重機(リフト)安全規則(Lifting Operations and Lifting Equipment Regulations)」第8条違反も認めた。
 両社はそれぞれ25,500ポンドの罰金を科せられ、経費2,393ポンドの支払いを命ぜられた。
 同規則第8条では、次のように規定されている。「すべての事業者はクレーンを使用するすべての作業に対し以下の事項を満たすことを保証しなければならない。
(a) 有資格者が適正に計画すること
(b) 適切に監督すること
(c) 安全に実施すること」
 HSE建設業部門監督官のスティーブン・マンリーは次のように語っている。「クレーンの作業は死亡事故や重傷事故を引き起こす重大な要因となる。作業は適正に計画し、監督して、安全に実施しなければならない。特に重要なことは、どのような荷重であれ、吊り上げ作業に携わるのは有資格者でなければならないということだ。クレーン作業に携わる者は全員、当判例に注目するべきだ。クレーンをリースで使う請負業者は適正な制度と専門知識を現場で確保しなければならない。確保できない場合は、クレーン会社が作業計画の策定と監督の責務を果たすことに合意する「リース契約(contract hire)」を結ぶことを考えなければならない。」


デキャンティング方法(method of decanting−−−沈殿物あるいは沈殿物を撹拌しないように液体を注ぎ出すことによる湿潤固体の機械的脱水方法)