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集中砲火を浴びながら

資料出所:The RoSPA Occupational Safety and Health Journal
「OS&H」|2004年4月号 p.20
(仮訳 国際安全衛生センター)



 「訓練された殺人者」を想像してみよう。彼は精神を病み、不満を持ち、荒んだ生活を送り、周りの人は自分を恐れて、いなくなってしまえばいいと思いながら目をそむけていると恨んでいる。実際、私たちの多くが、旧軍人という姿をしたこのような人たちに出くわすことは大いにありそうなことなのである。我が軍隊のなかで、メンタルヘルスの問題にどのように取り組まれているか、Elizabeth Gatesが報告する。

 2003年6月に、「メンタルヘルス財団最新情報(Mental Health Foundation (MHF) Update)」誌(第4巻第19号)は、戦闘から帰還した兵士のメンタルヘルスを調査し、自殺率が高いことを確認した。この報告によれば、最初の湾岸戦争から帰還した兵士の自殺は、戦闘で死亡した者の5倍となっており、メンタルヘルスの状態が悪化していることを示している。

 もう一つの緊急課題は、結果として社会的排除をもたらしているホームレス問題である。実際、「メンタルヘルス財団最新情報」誌の同1号では、ホームレスの4人に1人が退役軍人(女性兵士の場合はもっと少ないが)で、その41%が刑務所に入ったことがあると述べている。

 ホームレスに対するチャリティ団体「クライシス」(Crisis)のスポークスマンであるNaomi Fullerは、その成り行きを次のように説明している。「除隊する独身者は家と雇用を同時に失うことになる。直ぐ住居が必要だということを示せなければ、地方自治体を通じて住居を得ることはできません。それまでの経歴の中で資金を貯めることは困難である。それで、施設に収容されるということになりがちである」。

 「危機」は彼らの具体的な問題点も認識している。「ホームレス退役軍人の70%が身体的又は精神的な問題に苦しんでおり、約4分の1がうつ、ストレス、神経症に苦しみ、また4分の1がアルコール依存である」。

 軍医総監に対する精神医学担当防衛コンサルタントアドバイザー、Frank McManus空軍大佐は次のように警告している。「この人たちを世話することは社会にとってもメリットのあることである。この人たちは効率的に暴力を用いる能力を磨いて来た。この人たちを放っておいて、街なかで荒んだ生活を送らせることは潜在的に非常に問題である」。

 この状況に愕然として、メンタルヘルス財団(MHF)は昨年、この人たちに対する現在のやり方の根本的な欠陥について共同で取り組もうという働きかけを防衛省と国民健康保健サービス(National Health Service:NHS)に行った。しかし、これら両組織とも、リソースは既に使われ過ぎの状態であり、MHFの表現によると、たらい回しで終わってしまった。このように公的部門が妨げになる時には、ケアに真空地帯が生じてしまう。そうなると通常、非営利法人が登場する。このような状況下で、旧軍人を対象とするチャリティ団体が独自のノウハウを開発してきた。

 例えば、Lloyd Parnellは、英国在郷軍人会(Royal British Legion)に支援して貰った。12年の間、Lloyd Parnellは英国兵站部隊(Royal Logistic Corps)の工兵部隊(Royal Pioneer Corps)に在籍し、 ボツワナ、フォークランド諸島、北アイルランド、およびペルシャ湾で勤務した。 結局、負担の重さから、軍を去らなければならなかったが、たまたまこの時期が彼を育ててくれた祖母の死と重なった。突然、彼は職を失い、ホームレスとなって悲しんでいた。

 彼は語っている。「私は今までで最悪の状態になっていた。民間人として生活できるようにするだけでも十分大変なのに、祖母と家をいっぺんに失ってうちのめされていた。どうしたらいいかわからなかった」。

 彼の故郷であるIpswichから、ロンドンまで野宿しながら歩いた。その時は「悪循環」であった。それから6ヶ月の間、彼は住所も銀行口座もなかったので、国の援助を受けることができなかった。ホームレスだったので仕事をしたりしなかったりだった。同時に、彼は心的外傷後ストレス障害(Post-Traumatic Stress Disorder: PTSD)になってしまった。

 それから、彼は2人の息子の近くにいられるように、Ipswichに戻った。依然としてホームレスだったが、市民相談局に相談したところ、直ちに英国在郷軍人会と連絡をとってくれた。このチャリティ団体は、アパートを見つけてくれ、内装を手伝ってくれ、必要な家具とユーティリティを用意してくれた。「軍人会は素晴らしい。6年振りに自分の場所ができた。息子たちに訪ねて来させることもできるし、ちゃんとした住所があるということで、まともな仕事を得る可能性もある。軍人会がしてくれたことにはいくら感謝しても足らない」と彼は言っている。

 チャリティ団体である「闘いのストレス」(Combat Stress)は、PTSDを含む戦闘関連の慢性的心理障害の事例を専門に扱っている。その会長であるToby Elliott提督は、「社会は、恐ろしいからということで判断するべきではない」と警告している。「悪夢を振り払うための自己治療として酒やドラッグに頼ることで、問題が起こるかもしれない。しかし私たちが世話する人の大部分は自制心をもっていて、それは同じ状況の民間人より優れていることもあるぐらいである」。

 彼はこの人たちを助けるのは社会にとっても価値のあることだと主張している。防衛省は、第1ステップとして軍務の間に心理的な障害を受けた兵士に対してケアを行うことが義務だと認識したようである。例えば、Frank McManus空軍大佐は、防衛省に道義的な責任があると確信している。

 同大佐は語る。「不安やゆううつな気分を抱えた18歳の兵士がクリスマスの間、孤独に、自己危害(self-harming)を行うような状態でバラックに住んでいるという事態は好ましくない。彼は武器を入手することができるし、或いは仕事で戦車や飛行機の保全作業をするかもしれない。これは、18歳の部外者が不安やゆううつな気分を抱えているというよりも、我々にとっての意味は大きい。従って、『マネジメント』の責任は重い」。

 メンタルヘルス問題には軍隊経歴以前に原因があるものもあるが、だからといって入隊が自動的に防止されるわけではない。この結果、DPS(軍医総監に対する精神医学担当防衛コンサルタントアドバイザー)は新兵募集に密接に関係することになった。McManus空軍大佐は次のようにコメントしている。「志願者が多いので選択の余地はかなりある。私たちが求めるのは、戦闘から平和維持の役割に迅速に切り替えられるような柔軟性がある円満な人間だ。概して英国軍は、人道的役割を遂行するよう求められることが多くなり、兵士たち自身もマイホーム主義の人間なのだ」。

 募集の際に不採用となる条件は次のようなものである。精神疾患(統合失調症や躁うつ病など); 自損行為;最近行われた薬剤の過量摂取(応募前3年間に薬剤過量摂取のないこと)。しかしながらグレイゾーンはある。「例えば、応募者の家族に統合失調症の者がいたかもしれない。そして応募者の発症する危険が10%あるかもしれない。そのような場合は是々非々で判断することになる」。

 彼は続ける。「募集担当者は志願申込書が『真実』であることを頼りに仕事をする。申込書の中に特に気になることがない限り、病歴の照会のために志願者のホームドクターに接触することはしない。一般に、私たちは病気だという証拠はないという立場からアプローチしている。自分から問題を認めない限り、ほとんどの人が適当であると見なされる」。

 書類選考では限界があるということは分かっていて、採用担当者は割り切って処理することが多い。「例えば、私たちは、壊れてしまった家庭から来た志願者はPTSDになりやすいということを知っている。 しかし、この基準を使うと過度に多くの者を閉め出すことになる。同様に、ときどき気晴らし用にドラッグを使う者もいる。不合格とするためのすべての要素を様式に入れれば、大部分のものにちょっとした欠陥が見つかる」。

 チャリティ団体「闘いのストレス」のToby Elliott氏も同意見である。「例えば、第2次世界大戦のときに使用された心理試験は、大勢の人をふるい落とすのに使われたが、採用した人間が少なすぎて、十分な配置ができないという結果に終わった。しかし、新兵の中にも、幼児虐待を受けたものは数多くいますが、こういう問題があった者の多くが軍隊で立派な経歴をつくりつつある。こういう人たちを差別して機会を奪うようなことがあれば、それは全く許せないと思う」。

 初期の訓練段階で、自発的に除隊を求めるか、又は軍が除隊を勧告することがあるかもしれない。Toby Elliottは、一般論として次のようにコメントしている。「現在の新兵募集手続及び初期の訓練で、メンタルヘルス問題を起こすような人、軍隊の厳しさに耐えるだけのタフさがない人の大部分はふるい落とすことができる」。

 しかし、Frank McManus空軍大佐は次にように語っている。「初期のふるい落としの後は、やめさせないことに重点が移る。軍隊の精神医学は、産業精神医学である。そしてDPSの要諦は、精神的に戦闘に適した人間をできるだけ募集して、そしてこれは一層重要であるが、彼らを維持しておくことである。結果として、1995年の(軍隊の人事管理部門に関連する)「戦略的防衛展望」以来、メンタルヘルス事例を軍内部で管理するよう、大きく前進したのである」。
 「私たちは年間約6000件の新しい案件を処理する。そして、DPSは、たいてい、統合失調症や他の重大な精神病などをもった若い人への精神医学サービスを行っている」。

 「しかし、私たち適応障害(adjustment disorder)も担当する。これらは急性で軍務に関係するものである。軍務におけるストレッサーは、戦闘、非戦闘を問わず「業務」、人間関係、家族、金銭などである」 (McManus空軍大佐)。 彼は軍隊モデルがストレスマネジメントの模範的なものだと信じている。「もし兵士がストレスのせいで役目を果たしていなければ、民間より早くこれを任務から外す。兵士と『ライン管理者』(軍隊の指揮命令系統で彼の上官)との関係は民間よりずっと密で、深いものである。また、ライン管理者も同僚もみんながものごとに注意するという暗黙の責任を持っている」。

 「軍隊のライン管理者は、アルコールの匂いをさせながら、或いはだらしない格好で、また遅れて勤務に入るといった兆候に注意するよう、民間の管理者よりもよく訓練されている。その結果、GMPs(軍付属全般担当医師)へ、そして私たちへ差し向けられる率が高くなる」。

 この責任は、「軍隊のすべての人」が共有するものである。そして、もし兵士が勤務に適した状態になければ、そうなるまで、「家」に帰される。これはFrank McManus空軍大佐の見方では、その個人にとっても組織にとってもメリットのあることで、メンタルヘルスという難題に対する以前の態度とは際だった対照をなすものである。

 軍隊の精神科医は、MHFがいう「軍隊生活のマッチョ文化」に従うのが通例であった。しかし、社会において徐々に進みつつある思いやりを反映して、ストレス問題を抱えた兵士(戦闘によるものであると否とにかかわらず)に対する防衛省の取り扱いは、現在、より思いやりのあるものになっている。
訳注)マッチョ(macho)−−−男っぽい、男らしい

 厳密にトラウマに関連するストレスの事例(戦闘又は他の状況から起こるもの)はDPSの業務量の約5%を占めている。McManus空軍大佐は、これについても軍隊のシステムは、十分対応できる、しっかりしたものだと確信している。

 同大佐は「防止」が第一の戦略であるとしている。英国全域の14の各地域メンタルヘルス部門を通じて、DPSは、指揮官、兵士、軍医務官を対象として、管理者に対してはストレス徴候の認識と管理の訓練を、そして全員に対し健康促進と教育とを用意している。例えば、全部隊に対して、人道的任務であろうが戦争であろうが、出動前ブリーフィングとして、予想されること、自分自身及び同僚についてストレスの兆候として特定できることについて説明が行われる。

 しかし、DPSも認識しているように、戦闘状況に対する心理的な反応には範囲がある。McManus空軍大佐は次のように説明する。「世界大戦であったような徴集兵の場合は動機付けが少なく、心構えのできている度合いも低いので、一般には精神的トラウマを受ける率が高いと言われている」。

 「部隊を訓練するのは、その部隊が作戦に対して準備出来ているようにするためである。例として、イラクへの展開前後にモニターされた空軍爆撃旅団のメンタルヘルスは、彼らが『出発する』と告げられたときに改善されたことが分かっている」。

 「しかし、これは自分から行くことを選択したグループで、彼らはすべて志願兵である。選択には一定の範囲があって、エリートグループの兵士が行かないと決めることはない。そのようなことは部隊や同僚を危険にさらすことになり、彼らは、それを望まないからである」。

 「また、バルカン半島での平和維持行動で、民間人に対して行われた残虐行為を待機して見守っていなければならなかった時にも軍の中でメンタルヘルス問題が起った。軍は訓練されたことを行うことを許されなかったし、介入することも許されなかったのである」。

 「雇用主」として軍は個人の事情を許容するという明白な方針を持っているようである。Frank McManus空軍大佐は続ける。「戦闘に行くときでさえ、もし支援部隊の誰かが私的な問題(子供か親が病気であるとか)を抱えていてこれ以上は出来ないと思っている場合、『行かない』ことが認められて英国内で再配置されることもあり得るのである」。

 いったん戦域に入ってもDPSは依然としてはっきりした役割を持っている。McManus空軍大佐は次のように説明する。「第一次湾岸戦争などの以前の戦争では、医師や看護師などのメンタルヘルス担当者(現役であれ、予備役であれ)は戦闘部隊や支援部隊に非常に近いところで活動していた。戦闘ストレスの作用を受けている者(疲れ切った者、混乱している者)を見つけて、休息させたり、食事させたり、誰かと対話させたり、さらには社交の機会さえ与えたのである。この間、彼らは制服で通し、英国に帰ることは許されなかった。でもその結果、彼らは家に戻った人たちより早く、作戦や戦闘前線に戻れる体調に快復したのである」。

 それでも、DPSはこの戦略を見直す必要があった。現代の戦闘では塹壕のある前線はない。例えば最近のイラク戦争では、軍のスピードが早かったので、精神医学支援担当者が物理的についていくことができなかった。従って彼らは指揮スタッフとともに、この移動前線のすぐ後ろの攻撃部隊キャンプに組み込まれていた。

 この位置からは、DPSは依然として、戦争心理に関する指揮レベルでの決定に全般的な助言を与えることができるし、それに加えて、「多少打撃を受けた」個人や部隊の日常的な治療にも貢献できるのである。

 DPSはまた、撤退に先がけて野戦病院で患者の処置にあたる。同空軍大佐は続ける。「イラク戦争以来、国に帰した者は約160名だけであった。これは今も通常の割合でおこっている。心理社会的なヒステリー発作は確かに起っているが、これらの大部分は戦闘によって傷ついたためではない。男女を問わず、家から離れているだけでそれが不都合だと思う人がいるのでしょう」。

 大規模な作戦の後に帰国する兵士に対しては、作戦によるストレスと、彼らが家庭に帰ってから遭遇するかもしれない潜在的な問題について説明が行われる。戦闘に関連した問題が起こることを心配する者には、その地域における支援(軍付属全般担当医師、牧師、ソーシャルワーカーなど)についての助言も与えられる。

 それ以上の外来治療は、コミュニティメンタルヘルスのDPS部門で行われる。 入院治療は、CatterickにあるDuchess of Kent精神病院で行われていたが最近閉鎖された。2004年3月からは、入院治療は、地域ごとに、「世話の違い」(care gap)をなくすため、例えば全国にあるPriority Healthcare診療所のような民間部門を利用して行われる。このオプションは、必要に応じて、士官やその他の階級、海外にいる扶養家族(配偶者と子供)にも利用可能になる予定である。

 Frank McManus空軍大佐は付け加える。「軍隊では、要求すれば助けはある。問題が起こるのは通常、助けを求めることを拒否するか、又は助けなしにやっていけると思うときだけである。そしてその状態は慢性化し、回復がずっと困難になる」。

 Toby Elliottは次のようにコメントする。「他の人たちと一緒に働くことができ、ある程度の生活の質 (quality of life)を確保できるように自分の状況を処理できれば(自分で兆候に気づき、自分自身のやり方を取り入れる)、その人は治っている。そして初期に見つけられれば、それはずっと易しいのである」。

 このプロセスは個人が軍隊にいる間中継続する。

 国内であろうが海外であろうが、兵士、水兵、航空兵のPULLEEMSカテゴリーを評価しようとするときは、精神医学スクリーニングが行われる。これは、年齢、業務、又は特殊活動(例えばボクシング、ダイビング、パラシュート降下など)への選抜に関係するが、このカテゴリー分けの心理学的な要素は次のようなものである。
M - 知的能力 - 「私たちは、知能の低い者に危険な武器を担当してほしくない」。
S - 安定性 - 「精神状態が悪化すればこれは変化するだろう」。

 メンタルヘルスの状態が変化すれば結果としてPULLEEMSカテゴリーも低くなり、除隊ということにさえなるかもしれない。

現在の除隊手続き
軍のソーシャルワーカーとアポイントをとる
ホームドクターとアポイントをとる
行くべき家を手配する −例えば家族と又は地域住宅部と−
その地域の「社会サービス部門」とアポイントをとる
1年間の医学的追跡調査
雇用 −どこで仕事を探したらよいかの助言で、スムーズに行く場合もある
軍隊でしていた仕事を続けることが出来ない場合は、仕事に定着できるように4週間の再訓練の権利が与えられる

 除隊させる理由は通常「気質的な不適合」である。しかし同空軍大佐によると、これは必ずしもキャリアの選択が悪かったとか、当人があまり精神的に強くなかったとか、新兵の募集手続きがよくないとかいうことを意味しているのではない。

 「しかし、兵士が『雇用』されている間に状況が変ってしまうかもしれない。軍隊の外と違って、雇用主に常識的な通知を行って辞めていくということはできないのである。彼らは3年間任務につかなければならないのである。これは若い人にとっては『永久』だと思えるでしょう」。

 「他の雇用主であれば、人の意思に反して引き留めることはできない。多くの場合、もし辞めることが許されるならば、その人のメンタルヘルス問題は消えてなくなるでしょう。そして、DPSも25%の仕事がなくなるでしょう。ただ、その場合、彼らは『気質的に不適合である』として辞めることになり、これはメンタルヘルス問題だと誤解されるでしょう。しかし、実際には、不満分子や戦闘の覚悟のないものもなんでもかんでもが『気質的不適合』ということになるのである」。

 真に精神医学的問題によって除隊する件数は、現在、年間140件に達している。しかし、雇用主として、防衛省は手っ取り早い解決に走ることはできず、強制的に除隊させることはできないし、決定する者もいない。除隊には多くの手続きが必要で、現在では、例えば「戦闘のストレス」(Combat Stress)のようなチャリティ団体へ早期に依頼するといったこともその中に含まれている(以前の体制では、慢性のケースの場合、チャリティ団体の入院治療が受けられるのは除隊後に長い期間が経過したあとという状態であった)。

 チャリティ団体である「クライシス」は、現在の防衛省の方策を称賛している。「1994年には、社会復帰支援やアドバイスを受ける率は低かったが、それから見るとサービスが大幅に向上している」。

 この変化は政府により主導されたものである。Naomi Fullerが続ける。「防衛省は2003年に、退役軍人の組織と密接に協力しながら、『退役軍人のための戦略(Strategy for Veterans)』を公表した。これは包括的国防軍人員戦略(Armed Forces Overarching Personnel Strategy)と政府横断退役軍人構想(cross-government Veterans' Initiative)双方の重要要素となっている。この戦略は、全体的に見て、必要なときに必要な支援を提供することができるよう、よく調整された仕事を用意できるようにしようという方向に動いている」。

 この共同作業の一つの例は「退役軍人行動集団」(Ex-Service Action Group, EASG)である。 ESAGは次の団体で構成されている。Oswald Stoll卿財団(議長)、英国在郷軍人会(Royal British Legion)、SSAFA軍支援会(SSAFA Forces Help)、退役軍人交遊センター(Ex-Services Fellowship Centre)、軍慈愛基金(Army Benevolent Fund)、戦闘のストレス(Combat Stress)、プロジェクト羅針盤(Project Compass)、禁酒プログラム(Alcohol Recovery Programme)、目標点(Home Base)、生涯訓練(Training for Life)、及び副首相室ホームレス局(Office of the Deputy Prime Minister Homelessness Directorate)。その最初の5年報告書は、防衛省出身の退役軍人大臣Ivor Caplin 国会議員により2004年1月に公表された。

 しかしながらToby Elliottは警告する。「組織は、この好機を見逃してはなりません。例えば、NHSを扱う時に、兵士個人に代わって個人の信託を取り扱う個人契約というものは設定が困難である。私たちは、より高いレベルで契約を交渉できるようにして欲しいし、それが政府横断の大臣折衝が私たちのためにできることである」。

 たとえそうであっても、彼が「パートナー」に注意しているように、資金は依然として問題点の一つであり、経済的に苦しい退役軍人のチャリティ団体は、既にしばしば政府部門の仕事を行っている。彼は、これらのチャリティ団体が、それでも英国の一般大衆へ−そして私たちの誠実な支援者に対して−頭を下げて追加支援を頼まなければならないことを指摘している。「例えば、私たちは毎年防衛省から250万ポンドを受け取る。残りの予算−更に年間250万ポンド−は親切な一般大衆からの寄付に頼っているのである」。

 どこを探せばよいかを知っている人にはお金は使うことができている。例えば、政府の「退役軍人戦略」には「退役軍人チャレンジ基金」(Veterans' Challenge Fund)に支援された活動がいくつか含まれている。その一つに、退役軍人に対して、その支援策をもっとよく知って貰おうとするものがあって、防衛省は市民相談局を通じて広報パンフレット「ロンドンのホームレス退役軍人に対する支援」を作成、配布した。これは「退役軍人チャレンジ基金」の資金で可能になったものである。

 VCFが支援したホームレス対策活動には他に次のようなものがある。
Catterickの SPACESプロジェクト〜独身の除隊者のために宿泊施設を見つける。
Colchesterの軍矯正訓練センターの保護施設(SHELTER)プロジェクト〜住宅についてのアドバイスを提供する。 
ODPM、「地域の企業」と共同で行う行動研究プロジェクト(ACTION RESEARCH PROJECT)〜ホームレスの人たちが宿泊施設と雇用を見つけることを支援する。

 さらに防衛省の戦略では、民間の生活へ戻りやすくすることも考えられている。2004年4月にスタートする「三軍早期除隊者に対する方針」(Early Service Leavers' Policy)に明記されているように,防衛省は実地訓練体制、能力開発、そして社会復帰のための質の高いサービスに資金を投入する予定である。これにより、ヘルスケア、治療、リハビリテーションが著しく改善される計画である。

 これは、もし資金の裏付けがあるのならタイムリーなものとなろう。McManus空軍大佐もある程度希望をもっている。その根拠は、2004年初夏にオープンする予定の英国拠点の中核研究機構である。同大佐自身、そのロンドン大学キングズカレッジ国防メンタルヘルス部(University of London Kings' College Department)の開設に密接に関わってきたが、これは軍隊の精神医学がついに正当に尊重されるようになった重要なシグナルであると見ている。そして、現在行われている防衛省と非営利法人や公的部門との協力が将来も続いていって、彼の担当する精神面による除隊者をこれらが切れ目なく受け継いでいくことになると考えている。

 しかし最近は、適切な資格を備えた精神医学のスタッフが減少して、DPSの仕事の妨げとなっている。例えば、かつてDKPH(Kent公爵夫人精神病院)の心理障害担当班は小さなチームで臨床心理学者がリーダーとして活動していた。2002年に、この心理学者がしばらくの間病欠となって、班の運営は「事実上不可能」になった。

 評判の良かった「メンタルヘルス障害に対する早期照会制度」も最近は多少歪みがある。「軍隊の精神科医の数は麻酔医に比べればましかも知れないが、制服を着た精神医学コンサルタントは12人しかおらず、他のポストは民間人である。我々は依然として限度いっぱい働かざるを得ない」(同空軍大佐)。

 「国防医学サービスも軍付属全般担当医師は必要数の約半分で、制服の医師と軍と契約した開業医、代理医師(locum)が共同して行わなければならない。しかし、軍隊医学又は労働衛生の資格を持っていない人もいるので、適切な訓練の不足が現実の問題となっている」。

 最近、防衛省は各種の見直しを行ったが、精神医学スタッフの募集という課題は、給与体系面でも、キャリア開発の面でも対処が十分なされたとはいえない。McManus空軍大佐は説明する。「第2次世界大戦のころ及びその後の数十年には、医学を勉強している者は軍隊の問題について今よりずっと多くの概念を持っていた。なぜなら彼らは直近の軍隊経験を持っていたからである。しかし、今や、軍隊に参加することは一般的にキャリア・パスとして人気がないので、医学生は、軍隊での精神医学の経歴がなぜ重要か、やりがいがあるかを理解できないのである」。

 「政府が軍を尊重しないので一般大衆もそうなる。そして、政治家は私たちを戦争に送る時には、安あがりに戦争して欲しいと希望するのである」。

 もし理想的な環境であればリハビリテーションを受けて軍にとどまれる兵士が、DPS が人員不足、予算不足の状態であるために、精神的問題で除隊しなければならないという結果につながる。さらに悪いことには、除隊がさけられない場合の「安全ネット」が最善でもNHSであるということで、欠陥はここにも現れている。

 例えばPTSDに対する最も効果的な治療は、取り扱いのために、認知行動療法(cognitive behavioural therapy)、集団療法(group therapy)、及び暴露療法(exposure therapy)のような療法であると考えられている。しかし、民間人のPTSD患者(例えば交通事故にあった人とか救急サービス隊員のような)でさえ、NHSによるつぎはぎの心理学的支援しか受けられないのである。

 NHSも認めている。「私たちはメンタルヘルスサービスを行っているが、元軍人のために何か特別ものがあるわけではない。コンサルタントには、ある程度、軍隊という特定の職業に関連するメンタルヘルス問題についての無知や先入観がある。コンサルタントの多くは、元軍人の患者でも、他の患者と同じように治療すればよいと考えている。そして、この理解不足のため、メンタルヘルス問題を持つ軍人も、すでに手一杯のホームドクターサービスを受けて貰えばいいと思われてしまうのである」。

 Toby Elliottは次のようにコメントしている。「NHSの考えは混乱している。それは必ずしもホームドクターやコンサルタントの責任ではない」。

 チャリティ団体「戦闘のストレス」は、医学の教師と共同で、戦闘による心理学的障害に対するトレーニングコースの可能性を検討している。しかし、Toby Elliottは期待していない。「この人たちは医師であることに忙しく、今は更なる専門家コースのために割く時間はないだろう」。

 従って現時点での解決策はやはり「英国在郷軍人会」や「戦闘のストレス」といったチャリティ団体などと共同で早期照会を行うということであろう。 Elliott提督がプライマリー・ケアチームに言うように、これは「少なくとも、有能なSnodgrass海兵のことを心配する必要がなくなり、また彼を診療所の外に出すことはできるだろう」。