このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。

電話オペレーターのストレス
Phone Lines

資料出所:The RoSPA Occupational Safety and Health Journal
2004年12月号 p.18
(仮訳 国際安全衛生センター)



 多くの労働者の生活を惨めにするさまざまなストレスについて書いてきたニック・クックのこのシリーズでは、最後にコールセンター労働者が感じるストレスを取り上げる。

「この患者が死んだら、どうする気だ?」イヤホンから聞こえてくる声が、ナオミ・ブラウンに迫った。「あの薬が必要なんだ。今、すぐに!」ナオミは、コンピューター画面に目をやった。病院からの注文は確かに受け付けられており、午前九時の第一便で配達されているはずだ。道が渋滞しているとしても、十一時には届いていなければならない。何か、行き違いがあったのだ
 「ご連絡ありがとうございます。状況を調べて、すぐにご連絡いたします」とナオミ。
「そうしてくれ!」と、相手が怒鳴る。「もし患者が死んだら、私は患者の家族にあんたたちを訴えるようにすすめるぞ。新聞にも告発させる。<無能な企業に殺された>って見出しが、あんたたちにはぴったりだ!」
  ナオミは丁重に電話を切ると、いきさつをラインマネージャーに報告した。「ありがたいことに、こういう電話はめったにありません。でも、そういう電話を受けても、私個人への非難だとは思わないようにしています。相手が非難しているのは会社であって私ではありませんから。自分にそう言い聞かせながら、自分にできることに全力を尽くすようにしています」
  しかし、もっとひどい言葉でののしられることも少なくはない。コールセンターのオペレーターが、それをいちいち個人攻撃と捉えていたら、ひどいストレスになるだろう。
  だが、コールセンターのオペレーターのストレスがこのような電話だけならまだいい方で、多くの場合、こんな電話はあまたあるストレスのひとつでしかない。イギリス安全衛生庁(Health and Safety Exective:HSE)は、7つのストレス要因を特定しているが、これはコールセンターのストレスの原因を特定するうえでも大いに役に立つ。まず一つ目のストレス要因である<文化>についてみてみよう。

文化

  コールセンターの評判は決してかんばしいものではない。マスコミからは<電子タコ部屋>と呼ばれ、その名にふさわしい恐ろしいエピソードも数多く伝えられている。
  たとえば、あるマネージャーは「・・・コールセンターでは、勤続18ヶ月以上の部下は持ちたくありませんね。その頃には、みんな燃え尽きていますから・・・」と言っていたとか、コールセンターの上司は部下たちに、何度もトイレに行くならオムツをつけろと脅している、といったエピソードだ。
  これは、コールセンターの企業文化がひどくお粗末であることを物語っている。HSEと地方自治体(Local Authority)の共同出版物では、このような文化の是正こそが「仕事上のストレスを管理する秘訣」であり、マネージャーとオペレーターとの間の双方向のコミュニケーションや、スタッフに関係のあることがらはスタッフの意見を聞きながら決定する、といったことも建設的な企業文化にとっては重要だとしている。
 嬉しいことに、企業がこの提案に真剣に取り組み始めている様子も見受けられる。その一例が、自らを「業務のアウトソーシング企業」と呼ぶヴェルテックス社(Vertex)だ。業務のアウトソーシング企業とはつまり、リトルウッズ社に電話をしても、ウエストミンスター市議会政策サービス部門に電話をしても、公衆電話で緊急電話番号999にダイヤルしても、応対するのはヴェルテックスの社員、ということだ。しかしこれらの組織は、インヴァネス(Inverness)からカーディフ(Cardiff)にいたるまで、全国9,000人のヴェルテックス社員がサービスを提供する組織のごく一部でしかない。
  当然ながら、これほどの大企業であれば、良い企業文化を持つことは非常に重要だ。そしてそれを誰よりもわかっているのが、同社の安全衛生アドバイザー、ヴィンセント・クラニーだ。彼は「正直で公正であることがわが社の理念ですが、この理念に一番大切なのが<社員の参加>です」と語る。
  建設的で効果的な企業文化とは、トップが号令をかけ、会社全体に浸透したものでなければならない。そのような文化があってはじめて、HSEが挙げるその他6つのストレス要因に取り組む風土が生まれるのだ。

要求

  ユニゾン社(Unizon)の上席ナショナル・オフィサー、ソル・ミードは、コールセンターの仕事を、ローマのガレー船をこぐ奴隷の生活になぞらえる。「オペレーターたちは奴隷、スーパーバイザーは、奴隷がきちんと仕事をしているか甲板を見てまわる船長ですよ」
  しかし電子的パフォーマンス監視システム(Electronic Performance Monitoring: EMP)のおかげで、コールセンターのスーパーバイザーは、歩き回らずともコンピューター画面で部下を監視することができる。この監視方法は、大きく2つに分けることができる。
 ひとつめは量的監視だ。スーパーバイザーがコンピューターのキーを叩けば、それぞれのオペレーターが一件の電話を処理する時間や、前の電話で生じた問題を処理してから次の電話を受けるまでの間隔、仕事場から離れていた時間(トイレ休憩など)、一回のシフトで受けた電話の本数などが、たちどころにわかるようになっている。
  しかし、それだけではない。「昨年はカナダで、もっと進んだ監視システムを見ましたよ」と、ソル・ミードは語る。「通常のデータはもちろんのこと、質問に答えるためにオペレーターが画面に呼び出した資料まで監視していました。コンピューターは、資料の複雑度から、その電話の問い合わせ内容の複雑さを判断し、これもまた、オペレーターの仕事を計測する目安のひとつとなるのです」
  ナオミ・ブラウンの場合、量的監視はさして大きなストレスになっていない。「そういう監視は私の目には見えませんし、たいていはセンター全体の仕事を評価する目的で使われているだけですから。それでも、一本の電話の処理に20分以上かかれば、スーパーバイザーが様子を見にきますけどね」
  しかし、誰もがみな彼女のように幸運なわけではない。たとえ煩わしくはないにしても、このような監視システムが作成するデータはその後、パフォーマンス向上のために利用されることもある。
「このデータが示す各オペレーターの生産性に基づいて、オペレーターがランク付けされる場合もあるんです」と、ソル・ミードは語る。「データをそのように使えば、監視システムはオペレーターたちをこれまで以上に働かせるムチとなってしまいます。また、このデータが目標設定に利用されることもありますが、設定された目標にしばられて、一本の電話にじゅうぶんな時間をかけられなければ、やはりストレスは強くなります」
  このデータを使って設定されるもうひとつの目標は、一人のオペレーターが勤務時間中に電話を受ける時間のパーセンテージだ。60から70パーセントが最高だ、という専門家もいるが、事業者のなかには目標を80パーセントに設定する者もいる。
  「ストレスを軽減するには、妥当な目標を設定するこが大切です」と、ソル・ミードは語る。「目標設定のプロセスにオペレーター自らが参加することが大切です。オペレーターやその代表者たちの意見は、必ず聞かなければいけません」
  個人の監視は個別に行われるが、チームやコールセンター全体の業務状況は、全員に見えるように掲示されることが多い。電子掲示板には常に、応対を待っている電話の本数が表示され、電話を切ってから次の電話をとるまでの間隔の平均値や、応対する前に切られてしまった電話の本数も掲示される。特に、応対する前に切られた電話の本数は問題だ。なかなか電話がつながらなければ、電話をかけてきた顧客は待ちくたびれて電話を切ってしまう。つまり、顧客を逃がしたことになるのだ。
  もちろん、問題となるのは一時間に処理する電話の本数だけではない。一本一本の電話をプロフェッショナルな態度で処理することも大切だ。そこで登場するのが、二つ目の監視タイプである質的監視だ。質的監視は、オペレーターの応対内容の質をチェックするもので、スーパーバイザーは電話でのやりとりを傍聴し、その内容を録音する。録音されたやりとりは、研修などの建設的な目的で利用される場合もあるが、オペレーターがあらかじめ決められたセリフできちんと応対しているかをチェックするために利用されることもある。
  だが時には、この監視が事業者にとって役立つ場合もある。「口汚くののしるお客様が、そのオペレーターに対する苦情を訴えてきた場合、その録音内容を聞けば、誰が何を言ったのかが正確にわかります」と、ソル・ミードは言う。
  量的監視と質的監視。これは、生産性と質という二つのゴールを達成するうえで非常に重要だ、と事業者たちは主張する。しかしソル・ミードは「絶えず監視されていると、常に肩越しに覗き込まれているようで憂鬱になるものです」と、語る。
  また、どの程度の管理を行うかの判断が、100%コールセンターに委ねられていない場合もある。ヴィンセント・クラニーは、「監視を要求してくる顧客もいれば、目標を設定してくる顧客もいます。契約を継続するためには、そういった条件ものむしかありません」と語る。
 しかしそれは、必ずしも大きな問題ではない、と彼は言う。「とにかくオペレーターたちに積極的に関与してもらうことが大切です。ですから、監視方法や目標の達成方法を決めるときには、彼らにも必ず意見を言ってもらいます」
  この手法が成功していること、特に目標設定において成功していることは、2001年にヴェルテックス社が実施した調査でも確認されている。「みな、仕事量が一番のストレス要因、という結果が出るだろうと思っていましたが、実際には、仕事量がストレスとなるケースはごくわずかでした」と、ヴィンセントは語る。
  とは言っても、必ずしもそうとは言い切れない。HSEの調査では、仕事量も主要なストレスのひとつとなっている。監視システムを利用して過度に野心的な目標を設定すれば、このストレスはさらに高まることになる。
  そしてこのような監視は、HSEが特定した三つ目のストレス要素<裁量の欠如>も助長することになる。

裁量

  「仕事をいつ、どのように行うかについての裁量権がなく、仕事内容が変わるときもその決定に関与できないとしたら、それは大きなストレスになります」と、ソル・ミードは語る。「退屈な仕事や反復的な仕事の場合は、特にそうです」
  ナオミ・ブラウンも同じ意見だ。「私がストレスを感じるのは、管理が厳しすぎる点です。休憩時間はきっちり時間が決まっていて、朝に15分、午後に15分、そして昼食に30分です。休憩をとる時間も決まっていますし、休憩から戻るのが2分以上遅れたら、それは記録に残ります。そしてそれが何回も続いたら、スーパーバイザーに呼び出されるんです。つまり、決められた休憩時間以外トイレには行くな、ということなんです。休憩以外で仕事場から離れれば、無断の離席となり、文書で事情を説明しなければいけません」
  しかし他の点ではナオミは恵まれている。電話の応対方法にある程度の裁量が与えられ、他の多くのオペレーターたちのように、電話応対中に使う文言を一言一句決められているわけではない。
  また、仕事を処理する方法についてもある程度の裁量が認められている。「私は電話で受けた注文に優先順位をつけています。うちの配達車は次々と倉庫を出て行きますが、各配達車が倉庫を出る時間は決まっています。私には、注文に優先順位をつけ、その注文を適切な配達便に割り振る権限が与えられています」
  そこで、彼女は言葉を切った。「でも、もう少し責任を持たせてもらえるといいんですけど。たとえば、遅れた配達をどう処理するかの判断は、マネージャーが下すことになっています。でも、命にかかわるような逼迫した状況のときや、相手が大口のお得意様のときは、注文品をタクシーで届けてもいいんじゃないでしょうか」
 ナオミにはひとつ、たいへんありがたく思っていることがある。それは、彼女の会社がまだ、自動電話着信分配システム(Automated Call Distribution: ACD)を採用していない点だ。ACDを導入すれば、オペレーターにとっては業務上の拘束がいっそう厳しいものになるからだ。このACDは、コンピューターが着信電話を自動的にオペレーターに割り振るシステムで、電話は、画面上に自動的に現れる。つまり、オペレーターは、次の電話の受話器を自分の手でとる、という自由さえ奪われてしまうのだ。
  電話応対用台本、監視システム、ACDは、目標を今まで以上に押し上げ、オペレーターたちの仕事のすべてを管理するツールとして、多くのコールセンターが採用している。このような管理と厳しい目標が組み合わされば、ストレスレベルは確実に上昇する。
  これはHSEレポート169に発表された調査でも証明されている。この調査のなかで、オペレーターたちは主要なストレス要因として、応対時のセリフが厳密に定められ、仕事が厳しく監視され、自分のスキルを十二分に発揮できないことを挙げている。

人間関係

  HSEが挙げる4つ目のストレス要因は、人間関係だ。上司や同僚、顧客たちと良好な人間関係を築ければ、それはストレスを防ぐ大きな手段となる。一方、そのような人間関係がうまく作れない場合、他の要因で生まれたストレスはさらに増幅してしまう。
  ナオミ・ブラウンの場合、顧客のきつい言葉はさほど気にならない(例外もあるにはあるが)。彼女の場合、相手は一般の人ではないし、1,500人ほどいる顧客とは長年のあいだに良好な関係を作り上げてきた。顧客は主に病院や医療センターで、ナオミの上司に頻繁に届く感謝の手紙は、彼らが彼女の仕事に敬意を払ってくれていることを示している。
  会社側もまた、彼女に感謝の意を表し、このあいだはその月の最優秀社員として表彰してくれた。「たとえ賞品が25ポンドの商品券であっても、表彰されるってことは気分がいいものですよ」と、彼女は語る。
  円滑な人間関係を築くスキルと企業文化。この二つは良好な人間関係を作るうえで非常に重要だ。また、ナオミの会社のコールセンターが比較的小規模なことも、プラス要因だ。同僚は7人しかいないうえ、全員が同じ部屋で、ひとつのテーブルに2人ずつ、4つのテーブルで働いている。HSEレポート169によると、規模の小さなコールセンター(オペレーターが50人未満)は、大規模なセンターよりストレスが低いという。
  ヴィンセント・クラニーにとっても、社内での人間関係づくりは、大きな課題だ。ヴェルテックス社のコールセンターの規模はさまざまで、2,000人以上のオペレーターがいるところもあれば、オペレーターがひとり自宅で電話を受けているところもある。また、受ける電話の内容は、複雑な請求書関係の質問から、住所の問い合わせまで多岐にわたるため、当然、かけてくる相手の層も幅広いい。
  しかし、ひとつはっきりしていることは、相手が口汚くののしり始めたら、オペレーターは電話を切る権利がある、ということだ。しかしもちろん、例外もある、とクラニーは指摘する。
  「酔っ払いが、ひき逃げにあった、と携帯電話で救急番号の999に電話をしてきたとしたら、その口調は決して丁寧とは言えないでしょう。でもそのような状況なら、電話を切るべきではありません」
  そのような電話を受ける可能性のあるオペレーターにとっての一番の解決策は、困った客の扱い方についての研修を受けておくことだ。
  ヴェルテックス社は、対人関係も重視しているが、ここでも、良好な人間関係の構築には研修が不可欠と考えられている。たとえばマネージャーは、オペレーターがストレスを感じていることを察知する方法を研修で学ばされる。
  しかしどんなにコールセンター内の人間関係が良好でも、その人間関係は、HSEが挙げる5つ目のストレス要因によってその真価が問われることになる。

変化

  コールセンターで働くオペレーターたちにとって一番重要なことは<変化>だ。技術は移り変わり、仕事内容は変化し、目標は絶えず再設定されていく。シフトのパターンが突然変わることもあれば、ホットデスキング(職場で複数の人たちが一つの机やコンピューターを共有するシステム)を求められることもあるし、合併や買収で、自分の働く会社が突然変わってしまうこともある。
  また、多くの企業が仕事をインドなど人件費が安い国に移しているため、将来も不安定だ(とは言っても、最近の調査結果によれば、英国のコールセンター業界はまだ拡大を続けている)。
  「プレッシャーは高まると思いますよ」とソル・ミードは言う。「変化は加速の一途をたどっていますから。たとえばカナダの場合、監視システムはますます高度化し、オペレーターにとってはより煩わしいものになってきています」
  さまざまな顧客の窓口業務を代行するヴェルテックス社は、変化のスピードや頻度を自社で完全にコントロールすることができない。契約のキャンセルも、変更も、締結も顧客の胸元三寸で決まるため、ヴェルテックス社自身がスタッフへの影響を緩和するのは至難の業なのだ。
  しかしヴィンセント・クラニーはなんとかそれをやり遂げたい、と考えている。「私たちは現在、仕事のパターンの変化や、オフィス環境の変化、新しい機器の導入、といったさまざまな変化を管理する基準作りをしています。この基準には、するべきことのチェックリストも含まれます。するべきことのなかには、労働者との協議や、研修、手順の適切な検査、そしてユーザーの視点で見たその変化についての意見、なども含まれます。このシステム作りでは、最初からストレスを排除する、ということが大原則です」
 そのようなシステムを作る際には、スタッフたちに自分の職務を理解させ、満足感を持たせることも考えなければならない。この<職務>こそが、HSEが特定する6つめのストレス要因だ。

職務

  「わが社の電話オペレーターたちの場合、朝出勤してきた時には自分のその日の仕事がすっかりわかっています」と、ヴィンセント・クラニーは語る。「曖昧さはゼロです。すべて、研修で教えてありますからね」
  だからヴェルテックス社のストレス調査では、仕事量がストレスとなることは少ない、という結果が出たのである。しかし、すべてのコールセンターがそのような積極的なアプローチをとっているわけではない。職務が不明確かだったり、矛盾していたりすれば、それは大きなストレス要因になる。
  LAC94/1(改訂)には、職務の矛盾についての具体的な例がいくつか紹介されている。たとえば、一本の電話の処理時間を短く設定しすぎた場合、オペレーターたちは質の高い応対ができないと感じ、それがストレスになるという。
  また企業のなかには、オペレーターに営業をさせようとするところもある。つまり、電話をかけてきた人に、オペレーターが新製品を紹介するのだ。これも、多くのオペレーターたちにとってはストレスだ。なぜなら、彼らの多くは、自分は営業をするためにオペレーターになったわけではない、と考えるからだ。
  しかしこれまでに紹介したストレス要因の大半は、7番目のストレス要因に適切に対処することで、解消または緩和することができる。

サポート、研修、個々のストレス要素

  サポートについて言えば、ナオミ・ブラウンは非常に幸運だ。彼女は上司や同僚だけでなく、大半の顧客とも極めて良好な関係を保っており、彼らから支持されていることは、会社からの功労賞や顧客からの感謝の手紙、同僚との夜の飲み会、とさまざまな形で証明されている。
  おそらく、彼女のコールセンターの規模が小さいことも、プラス要因となっているのだろう。しかしなかにはスタッフが自宅で仕事をしているような極端に小規模なセンターもある。その場合の問題は孤立感だ。したがってマネージャーたちは、在宅勤務者たちと定期的に連絡をとり、精神的サポートを提供する必要がある。
  一方、大規模なセンターでも、サポートが欠如する場合はある。仕事のプレッシャーが大きいせいで、オペレーターたちが互いに孤立してしまうのだ。また、ホットデスキングのせいで、チームの仲間同士が離れ離れになってしまうこともある。
  ヴィンセント・クラニーは、ヴェルテックス社の企業文化の基本は誠実さだ、と語るが、その誠実さは、新入社員が仕事につく前から始まるという。「私たちは仕事の性質を偽りません。オペレーター職への応募者には、実際に、一時間ほどオペレーターの仕事ぶりを見てもらっています。そうすれば、仕事の実態も欠点もよくわかりますからね。隠しごとをする気はありません。実態を見て応募をやめる人もいますが、この方法を採用してから、離職率は劇的に下がりました。数週間あるいは数ヶ月で仕事に幻滅し、退職してしまう、といった社員が大幅に減ったんです。過剰な期待した後でその夢が破れたら、誰だって辞めたくなりますからね」
  経営管理側のサポートでストレスを軽減できるもうひとつの分野についても、ソル・ミードは指摘している。「マネージャーたちが、もっと柔軟に勤務パターンに対応すれば、ストレスは大幅に軽減するはずです。事業者側と労働者側の代表が話し合い、労働時間に制約がある人たちをうまくカバーし、支援する勤務体制を考え出せば、ストレスはずっと小さくなります。労働者の数が多ければ、働きたい時間が全員同じにはならないでしょうから、柔軟な勤務体制も可能なはずです」
  そして彼はこうも付け加えた。「けれど、分割シフトは絶対に避けたほうがいい。あれは最低ですから」
  サポートに関して言えば、なんといっても一番重要なのは研修だ。管理者向けの研修で一番大事なのは、円滑な人間関係を作るスキルと、部下のストレスに気づく能力の育成だ。また、オペレーターたちも、仕事をうまくこなす能力を開発する研修が必要だ。研修は、就業時間内の特別研修で行わなければならず、研修のための時間のやりくりをオペレーターたちに任せてはいけない。
  また、サポートは精神的サポートだけとは限らない。ヴェルテックス社は、最新の機器をそろえ、清潔できちんと空調管理がされた、エルゴノミクス上からだにやさしい職場を用意している。オペレーターたちはアコースティックショック(ヘッドホンを使いすぎたために起こる聴覚障害)防止用に、音を掻き消す自動ノイズリミッターを使っているうえ、DSE評価も、オンラインで入手できるようになっている。
  仕事場では、のどを守るために飲み物を飲むことも許されている。「紅茶やコーヒーなど、カフェインを含む飲み物は避けるように助言しています」と、ヴィンセントは語る。「一番いいのは水なので、水はすぐに飲めるようにしてあります」
  ヴェルテックスのような企業は、今後のこの業界が進む方向性を示し始めているが、ソル・ミードは、これらのことを適切に実行することが重要だと語る。「先日、南東地方で開催されたユニゾン・コールセンターの代表者会議に出席したのですが、だれもが‘ストレスは高くなる一方だし、仕事への満足度も低下している’、とぼやいていました。だから、どのセンターも、スタッフの補充には苦慮しています」
  このエピソードもまた、コールセンターはいまだに「電子的タコ部屋」のイメージを払拭できていない、と指摘するロバートソン・クーパーの調査やインカム・データーサービス(Income Data Survice)の調査結果が事実であることを物語っている。

資料

1.『Tackling work related stress A manager’s guide to improving and maintaining employee health and well being』、12ページ。HS(G) 218 ISBN 07176 2050 6 2001年イギリス安全衛生庁発行

2.『Advice regarding call centre working practices』、20ページ、Local Authority Circular 94/1(改訂)、2001年12月発行。Local Authority Unit, HSE, Rose Court, 2 Southwark Bridge Road London SE1 9HSで入手可能。電話番号:020-7717−6442

3.『Psychosocial risk factors in call centres: An evaluation of work design and wellbeing』、Research Report 169、2003年HSE刊、ISBN 0 7176 2774 8


  「コールセンターのストレス管理は、単なる対症療法ではいけません。
仕事が始まる前にストレスを予測し、それを<排除する>ことが肝心です」
ヴィンセント・クラニー、ヴェルテックス社、社内HS&Eアドバイザー

 

表1. コールセンターのストレス要因

ストレスが生じるのは、以下のストレス要因にうまく対処できない場合である

  • 文化
    あなたの会社には、ストレス対策がありますか?
    あなたの会社は、ストレスが生じてから対処するのではなく、事前にストレスを防止しようとしていますか?
  • 要求
    かかってくる電話が多く、時間が足りない、と感じますか?
  • 裁量
    会社はあなたの意見を聞いてくれますか? たとえば、あなたの仕事内容を決めるときや、新技術や新しい仕事を導入するといった変化が生じたとき。
    管理や監視は過剰ですか? たとえば、電話と電話のあいだに“気持ちを切り替え”る余裕のない自動電話分配システムの利用など。
    電話応対時のセリフが厳密に決められていますか?
  • 人間関係
    顧客から罵倒されることがありますか?
    同僚は非協力的ですか?
    監督者は意地悪ですか?
  • 変化
    仕事上の変化(新しい仕事など)
    技術上の変化(新しいコンピューター監視システムなど)
    目標の変化(一回の勤務中に受ける電話の本数など)
  • 職務
    自分の職務をはっきり理解していますか?
    適切な研修を受けましたか?
    職務上の矛盾はありますか? たとえば:
    かかってきた電話一本一本に、質の高い応対をする時間がない
    プロモーションや製品やサービスの紹介もするよう求められている

ヴェルテックス(vertex)
顧客管理

仕事上のストレスチェックリスト

ヴェルテックスの管理体制と文化
満足している
懸念事項
企業目的が明確にわかる  
 
チーム内のコミュニケーションが良好  
 
社員の意見を十分に聞いてくれる(特に、仕事などが変わるとき)
経営管理側は良質なサポートを提供し、スタッフ側は適切な業績と成長を見せている
 
 
意思決定と計画  
 
スタッフがアイディアを出す機会がある(特に、自分の仕事の計画や会社についてのアイディア)  
 
会社でのスタッフの職務  
 
ヴェルテックスの目標とリンクした明確な個人目標  
 
文書化されたP&Dプロセスが用意されている


 職務説明書には、仕事、責任、能力が明確に定義されている    
仕事の多様性が考慮されている    
スタッフは有能で、自分のスキルを有効に使っている    
能力が維持されていることを裏付ける個人的成長が明らかである    
安全衛生手順に従い、作業活動のリスクあせすめんとが入手できる    
仕事量/仕事のスピード    
スタッフは野心的だが妥当な目標を設定している    
仕事のペースは達成可能な範囲内である    
職場での人間関係    
マネージャーや同僚と良好な人間関係を保っている    
苦情処理制度など、人間関係の葛藤や、いじめ、人種的・性的いやがらせに対処する有効なシステムがある    
苦情があれば、適切な調査が行われる    
ワークスケジュール    
勤務時間は事前に計画され、同意が得られている    
ワークスケジュールは融通がきく    
労働環境    
全般的な労働環境    
騒音、照明のレベル    
温度    
スペース    
そのほか気づいた点:    

 


ヴェルテックスの、ストレス解消戦略

  • 第一次管理
    仕事を始める前に、まずはストレス排除を念頭に仕事を計画する
  • 第二次管理
    ストレスの調査(リスクを特定)
    リスクに優先順位をつけて対応
    それぞれのストレスについて調査
  • 第三管理
    ストレスを感じている労働者のリハビリ
    研修担当マネージャーにもストレスの兆候を認識させる

有益な出版物

  『電話を切らずに待つ(Holding the Line)』:コールセンターを働きやすい職場にするためのガイドブック。発行はユニゾン・コミュニケーション、1 Mabledon Place, London WC1H 9AJ、電話:0800 5 97 97 50。コールセンターのストレス解消について書かれた明快で包括的なガイドブック。