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単独作業
(解説:ピーター・エリス)

資料出所:The RoSPA Occupational Safety and Health Journal
「OS&H」|2004年1月号 p.24
(仮訳 国際安全衛生センター)



 様々な職場におけるリスクアセスメントのシリーズの一環として、ピーター・エリスが単独作業のリスクアセスメントの際に行うべき標準的なプロセスについて説明する。人々が単独で働く場合の主なハザードを示しながら、単独作業者その他の安全と健康に対するリスクをコントロールするための対策について解説する。

 単独で働く人々とは、さまざまな状況下で、近接もしくは直接の監督を受けることなく働く人々である。事業者は、従業員の職場での健康、安全及び福祉を確保する責任があり、また仕事の影響を受ける人々、すなわち、事業者と契約を結ぶ可能性のある請負業者や自営業の人々の健康と安全を守る責任がある。従って、単独で働く人々へのリスクを評価し、必要に応じてリスクを回避したりコントロールするための対策を講じることは事業者の責任である。

 単独で働く人々へのリスクアセスメントをする前に、果たして、従業員が単独で安全に働くことに適しているかどうかを確認する必要がある。従って従業員が単独で働くことに問題が生じるような健康状態でないことをチェックすることが重要であり、そのような状態であれば、必要に応じて医師の診断を要することとなる。

  ハザードの特定:不当な嫌がらせと脅し

 一般の人々と接する単独で働く人々は、身体的に、また言葉で、不当な嫌がらせや脅しを受けることがある。

被災者は誰か

 清掃人、警備員、賃貸料集金人、郵便集配人、ソーシャルワーカー、ホームヘルパー、訪問看護師、疫病予防職員、運転者等のすべての単独で働く人々であり、その職場は、ガソリンスタンド、キオスク、小売店、ゲームセンター、催事会場等のさまざまな場所である。

推奨する管理対策

単独で働く人々は、その職業的判断力を使って、潜在的に危険な状況下で自分が健康と安全面でリスクにさらされないようにすること。
身体的な、また、言葉の上での不当な嫌がらせの事実を記録する全社的なシステムを構築すること。
不当な嫌がらせや暴力沙汰に巻き込まれた単独で働く人々への対策方針を構築すること。
不当な嫌がらせに遭い、その結果としてストレスに苦しむ単独で働く人々へのカウンセリング施設を用意すること。
単独で働く人々に、カウンセリングの催しに出席する非番日を有給で与えること。
潜在的に攻撃的な人物のファイルを作成し、それに適切なマークを付けて、攻撃的な人物の氏名・住所リストと呼応するシステムを構築すること。データの機密性保護のために、このリストは手書きとすること。
氏名・住所リストは定期的に更新し、新登録者名・住所を追記し、不要となった古いものを抹消すること。
事業主はすべての単独で働く人々に、リストを補完し、更新するよう指示し、事務管理所を出て一般の顧客を訪問する前に、必ずファイルをチェックすることが重要であることを通達すること。
単独で働く人々が暴力沙汰に遭遇した際には、携帯警報器を使用すること。この警報器は、一時的に相手の気をそらせ、その隙にその場を逃れることができるものとする。
単独で働く人々が携帯電話の一桁の番号を押すだけで、事務管理所に通じるようなシステムを検討すること。これにより、単独で働く人々が派遣された場所へ援護を送る体制が整う。
在・不在表に行き先を必ず書かせること、及びそれを適宜訂正させることは、実行可能な範囲で、不可欠である。これにより、事務管理者が単独で働く人々の居場所を常に把握しておくことができる。
常に事務管理所と連絡が取り合えるように、双方向通信システムを単独で働く人々に供与するのも適切と考えられる。
顧客がアルコールや薬物に影響されている疑いがあり、それが理由で不当な嫌がらせや暴力沙汰を受けるような場合には、単独で働く人々はそのような人物と接触しないこと。
単独で働く人々はすべて、上記の管理対策において、適切な情報、指示及び訓練を受けなければならない。

  ハザードの特定:就労時の運転

日常の仕事の一環で運転をする単独で働く人々は、交通事故に遭遇する可能性がある。
単独で働く人々の車両が、故障する可能性がある。

被災者は誰か

 仕事のために車両を使用する、すべての単独で働く人々。

推奨する管理対策

単独で働く人々はすべて、自動車保険に加入すること。それにより、社交目的、家庭・娯楽目的、仕事目的、(事務管理所と主要な派遣場所間の)通勤目的での運転に起因する事故が保障されるようにすること。
単独で働く人々の運転免許証、MOT(車検)証明書及び自動車保険証書を確認する会社規則を定めること。
英国の道路交通法規を常に遵守すること。
運転者はすべて、健康面で運転に支障がないという宣誓書に署名すること。
道路交通法規に基づき、運転者は良好な日中の明るさの中で20.5 m 離れた場所から車両ナンバープレートを読み取れること。
アルコールや処方薬でない薬物を服用して車両を運転しないこと。
処方薬の場合でも、安全運転に何らかの支障がある可能性がある場合には、運転はせず、その他の移動手段を講じること。
運転者の気分が優れない時には、運転をさせないこと。
運転中は、手で持つもの、ハンドフリーのものにかかわらず、携帯電話及びその種の通信機器は使用しないこと。
運転中は、携帯電話をかけることも受けることもしないこと。
運転中は、すべての通信機器の電源は切っておくこと。
運転者の携帯電話は「運転中は携帯電話の受発信が出来ない」旨のメッセージ機能を搭載していること。
同僚にも指示をし、単独で働く人々の携帯電話に電話をする場合には、電話にメッセージを残し、単独で働く人々が安全な場所に駐車した後にかけ直せるようにすること。
単独で働く人々が受信メッセージをチェックできるのは、安全な場所に駐車した時に限定すること。
携帯電話が通じないような場所でも連絡が取り合えるように、双方向の無線機器を単独で働く人々に提供することを考慮すること。
単独で働く人々は、運転時の疲れによる危険性について知らされていること。
単独で働く人々は、疲れを感じた際には、定期的に車を停止して休息を取ること。
事業者は、単独で働く人々が運転する時間量、運転する時間帯、移動する距離に特別に注意を払うこと。
駐車位置、緊急時の処置、認知等の安全基準に関する安全運転教育を行うことを推奨する。
単独で働く人々はすべて、上記の管理対策において、適切な情報、指示及び訓練を受けなければならない。

  ハザードの特定:ディスプレイ機器(DSE)

 事業者は、テレワーカー(単独で働く人々)が使うDSEは安全であって、ユーザーの健康を害さないものであることを確認する義務がある。

被災者は誰か

 主に在宅で働くテレワーカー

推奨する管理対策

事業者はすべての従業員に対して、「1992年安全衛生(ディスプレイ機器)規則(Health and Safety (Display Screen Equipment) Regulations 1992)(DSE規則)」を遵守させること。
椅子、照明、保護機器等の、ワークステーションのエルゴノミクス及び安全上の必要事項を考慮すること。
その職場において、個々のテレワーカーが必要とする機器を査定するために、DSE規則に従ったチェックリストをテレワーカーは作成すること。
テレワーカーへの研修は、コンピューターを利用した研修パッケージや、研修担当者からの対面式の講習としてもよい。
テレワーカーの日常業務は、テレワーカーが十分な休憩が取れるように管理者が監視すること。
テレワーカーはDSE規則に従い、定期的に休憩を取ること。
テレワーカーは職場において他の従業員と同じ待遇が受けられるように、管理者組織から定期的な支援を受けること。
単独で働く人々はすべて、上記の管理対策において、適切な情報、指示及び訓練を受けなければならない。

  ハザードの特定:身体的損傷

 単独で働く人々は傷害を受けるリスクが高い傾向にある。

被災者は誰か

 すべての単独で働く人々。

推奨する管理対策

現行指針では、販売、配達、検査またはそれ以外の危険度の低い仕事に従事する単独で働く人々に対しては、その事務管理所に救急医療設備を用意することで十分であると言っている。
他の従業員で、仕事場所が遠隔地であったり、救急医療設備から離れていたり、また、危険な工具や機器を使用したりする場合は、携行救急医療キットをその従業員に持たせること。
外部から定期的に電話連絡をすることにより、単独で働く人々の状態を確認することができる。また、これは、単独で働く人々へのリスクを低減する手段の一例でもある。
すべての傷害は、災害記録簿に記録し、その記録簿は、建物の本部に保管すること。救急医療箱の隣に保管するのもよい考えである。
従業員は、傷害を被った時には、「1979年社会保障(請求及び支払い)規則(Social Security (Claims and Payment) Regulations 1979)」に従って、記録をつけるという法的要件について知らされていること。
注:この規則は先月変更された。災害記録簿に関する規則は英国労働年金省が改正し、新形式の災害記録簿を作成する責務はHSEに移譲された。災害記録に関しては、すべての事業者は「データ保護法(Data Protection Act)」の規定を遵守しなければならない。災害記録簿に関する新規則は、HSE Booksにて入手可能である。(ISBN 0 7176 2603 2 価格5.58ポンド(付加価値税(VAT)含む))
特定の法的要求により、さまざまな職場事故を報告、記録し、かつ、事故調査を行うこと。これらを以下に簡潔に述べる。
責任者は、「1995年負傷・疾病・危険事態報告規則(Reporting of Injuries, Diseases and Dangerous Occurences Regulations 1995 (RIDDOR))」に基づいて、職場で起こった特定の災害について報告すること。
ごく一般的にいえば、この規則は、安全衛生取締当局に報告すべき災害については、通常電話などによる最も迅速な方法で報告し、それから10日以内に書式F2508又はF2508Aに沿い書面にて報告されなければならないと定めている。現在は、報告すべき災害は、電子メールでも報告することができる。
救急員は、 HSE公認の訓練コースで発行された証明書を持っていること。この資格により、救急員は、「1981年安全衛生(救急)規則(Health and Safety (First-Aid) Regulations 1981)」に規定の、救急員または「指名された者(Appointed Person)」としての処置を行うことができる。
この「指名された者」は、緊急の応急処置以外のいかなる応急処置もしてはならない。そして、この指名された者は、応急処置手順について、特別に訓練されている場合のみそれを行うことができる。指名された者は、基本的な応急処置のコースに出席すべきである。
指名された者は、十分な資格を持つ救急員の代わりとなるものではなく、救急員の不在時等を補完するのみである。
作業場での特別なハザードに対処するためには、通常の救急箱の中身に加えて、補足的な救急器具が必要となる場合もあるが、このような場合にも、救急員がそれらの使用に関して特別の訓練を受けていること。
補足的な器具類には、負傷者を運ぶ手段となるもの、毛布、エプロン及びその他の適切な保護器具、はさみといったようなものが含まれる。そのような器具が必要と思われる場所では、救急箱の近くにそのような器具が保管されていること。
単独で働く人々はすべて、上記の管理対策において、適切な情報、指示及び訓練を受けなければならない。


  ハザードの特定:マニュアル・ハンドリング

 重量物のマニュアル・ハンドリングにより大きな傷害を、特に腰に、被ることがある。

被災者は誰か

 手で重量物を取り扱う、すべての単独で働く人々。

推奨する管理対策
「1992年マニュアル・ハンドリング規則(Manual Handling Operation Regulations 1992)」は、重量物の持ち上げや移動を行うことにより傷害の潜在的な可能性に自分自身や従業員をさらす可能性のある事業者はすべて、少なくともそのリスクをコントロールするか、可能であればハザードそのものを排除するために、その業務のリスクアセスメントを実施することを要求している。
かさばった、不格好な、重い、そして扱いにくい物を取り扱う場合、次の管理方法を遵守すること。
(a) なによりもまず、重量物を動かさないですむようにすること。
(b) 移動を支援する機械を使って、移動過程をオートメーション化もしくは機械化すること。
(c) 情報、教育訓練を従業員に与えて、適切な最低レベルまでマニュアル・ハンドリングによるリスクを低減すること。
(d) 作業手順が安全な方法でなされているか、確認すること。
(e) 荷を持ち上げる時には、できるだけ体に近づけて荷を持ち上げるようにすること。
(f) 荷を運ぶ時には体をひねらずに、足を動かすようにすること。
(g) 腰の高さで荷を持ち、前かがみにならないようにすること。
(h) 個人、特に男女(とりわけ妊婦)の体力の差を考慮すること。
(i) 従業員や学生に適切な、荷を持ち上げて運ぶ方法についての情報、教育訓練を与えること。
単独で働く人々はすべて、上記の管理対策において、適切な情報を与えられ、教育訓練を受けなければならない。


  ハザードの特定:作業用機器

 さまざまな作業用機器。

被災者は誰か

 すべての単独で働く人々。

推奨する管理対策

単独で働く人々に供与される作業用機器は、「1998年作業用機器の使用規則(Provision and Use of Work Equipment Regulations 1998)(PUWER)」に準拠していることを事業者は確認すること。
単独で働く人々に供与される作業用機器は、その仕事に適切なものであることを事業者は確認すること。
作業用機器は仕事が安全になされるために正しく制御できるようになっていること。例えば、制御方法は機器上の適切な場所に明示されていること。
作業用機器の使用方法については適切な情報提供と訓練がなされること。また、その機器が単独で働く人々やその他の人々に危害を与えないように定期的に点検すること。
リスクアセスメントで必要と認定された場合には、適切な個人用保護具(PPE)を提供すること。
単独で働く人々はすべて、上記の管理対策において、適切な情報、教育訓練を受けなければならない。


  ハザードの特定:訓練と監督の不足

不明確な状況下で、管理、指導、支援の役目を負う監督業務が不十分な場合には、特に安全衛生面の訓練が重要である。
十分な監督業務があれば、従業員は作業に伴うリスクを理解でき、必要な安全対策が講じられることになる。

被災者は誰か

 訓練と監督が不十分であれば、単独で働く人々及びその近隣で働く人々に悪影響が及ぶ可能性がある。

推奨する管理対策

単独で働く人々は、訓練を通じて危険と、その安全対策を経験し熟知しておくこと。
事業者は単独で働く場合にできる事とできない事の境界を設けておくこと。
事業者は、従業員にとって初めてのことであったり、異常なことであったり、あるいは訓練外のことであったりする状況が発生しても、従業員が、いつ作業を停止し、監督者のアドバイスを得るかを判断し、その状況に対処できる能力があることを確認すること。
潜在的に危険な人々といかに関わるかを従業員に教育することを通して、潜在的に危険な状況を、それが手に余るような事態になる前に、いかに回避するかを例証していくようにすること。
監督者は不確実な状況下での行動指針を用意すること。
監督業務として仕事について進捗と質のチェックを実施すること。
定期的に現場や家庭を訪問し、単独で働く人々と安全衛生について話し合うこと。
電話や無線で、単独で働く人々と監督者間の連絡を定期的にとること。
ある特定の合図が単独で働く人々から定期的に送られてこない場合には、自動的に警告連絡をする装置を考慮すること。
上記以外にも、緊急事態発生時に警告音を発するなどの装置も考慮すること。この装置は、手動か、あるいは従業員の動きが何もない際には自動のいずれかの方法で操作されるものであること。
単独で働く人々が事務管理所に戻ったことを必ず確認すること。
単独で働く人々はすべて、上記の管理対策において、適切な情報、教育訓練を受けなければならない。