序論
1 高い場所からの落下による災害のうち、3分の1はハシゴまたは脚立に関するものであり、毎年平均して、死亡14件と重傷1200件が発生している。これらの傷害の多くが、ハシゴ等の用具の不適切または誤った使用が原因である。この手引きは雇用者のためのものである。
- ハシゴをいつ使用するのか
- 仕事に応じて正しいハシゴの種類を選ぶこと
- 使い方を理解すること
- 使用後の手入れ方法
- 安全上の注意を払うこと
2 仕事場でのハシゴの誤使用は、ハシゴが家庭でどのように使われているかに、垣間見ることができる。すべての作業用具と同様、ハシゴや脚立を使用する者は安全に使用ができるように、十分な知識と訓練が必要である。安全な使用を継続するために、適切な監督も必要である。
3 この手引きは、(建物、施設、車両などに)据え付けのハシゴや、固定したステップ鉄踏み足場などの通路、消防で使用される救急用ハシゴ、屋根ハシゴ、踏み段式腰掛け、倉庫用の可動式階段、仮設あるいは常設の階段には適用できない。
ハシゴをその作業で使用することが適当なのだろうか?
図1a 誤・3点指示をせず、ハシゴからはみ出しての作業
図1b 正・3点指示をしている作業者
図1a  図1b
4 手順の選択過程では、以下の優先順位的な考え方によるべきである。
- できる限り、高い場所での作業を避ける。
- 次に、高い場所からの墜落を防止する。それができないなら、
- 墜落が起きてしまったときの被害を防ぐ。
5 もし高い場所での作業が必要なら、ほかに利用できる作業用具と比べて、ハシゴまたは脚立がもっとも適切な作業用具であるかどうかの正しい判断が必要だ。これらを判断するのに、リスクアセスメントやマネジメントの優先順位的な考え方を用いる。
6 ハシゴまたは脚立を使うのが適切であるかどうかを考えるとき、次の要素を検討する。
これは適切な行動だろうか?
7 ここでは、ハシゴで行う仕事の種類とその期間について説明する。手引きに従ってのみ、以下のようにハシゴまたはた脚立を使うこと。
- 同じ位置においては、最大30分以内
- 軽微な仕事向き−骨折り仕事やきつい仕事での使用は適切ではない。作業者が(バケツのような)10kg以上のものをハシゴや階段で運ぶような作業がある場合、詳細なマニュアル・ハンドリング評価によって、それが妥当であると判断されなければならない。
- ハシゴや脚立の上で、手でつかむものがある場合
- 作業位置での、3点支持(手と足)がなされている場合。ハシゴの上で、少しの時間でも、手でつかむものがない場合、墜落の防止や、結果として墜落してしまう災害を防止するため、ほかの手段が講じられるべきである。脚立上で、実際手でつかめるものがないときは、リスクアセスメントにより、安全か否かについて、それが妥当であると判断されなければならない。(10を参照)
8 ハシゴまたは脚立でしてはいけないこと
- 重量過多−ハシゴで決められた重量を超えて、人やものをハシゴに載せてはいけない。
- ハシゴからのはみ出し作業・作業中はベルトバックル(体の中心)が、ハシゴの縦桟内にいつもあるようにして、両足を同じ踏桟に乗せること。(図1a、1bを参照)
9 脚立で作業する場合、レンガやコンクリートといった固い素材に、横向きになって穴あけをするといったような、横を向いたままでの作業を避け、脚立を正面に向けて作業すべきである。(図2a、2bを参照) 横向きでの作業が避けられないなら、適切な位置に置くなどして、脚立がひっくり返らないようにすべきである。そうでなければ、もっと他の適当な作業用具を使うべきである。
図2a 誤・脚立での横向き作業
図2b 正・脚立の正面向きでの作業
図2a 図2b
10 工具の肩掛けべルトなどを使い、手にものを持ってハシゴを登ることを避ける。
- ハシゴで何かを運ばなければならないとき、片手はハシゴをつかめるように空けておくこと。
- 棚へ物を持ち上げるなどで両手がふさがってしまうとき、脚立を使うには次を考慮すること。
- ・作業位置
- ・脚立に安全な手づかみがどこかにあるかどうか
- ・軽微な作業かどうか(7参照)
- ・横向き作業を避けられるか(9参照)
- ・ハシゴからはみ出して行う作業にならないか(8参照)
- ・足元の支えがしっかりしているか
- ・脚立が固定されているか(16参照)
安全なハシゴと安定器具の選定/購入
11 新しくハシゴを購入する場合、思いつく限り最悪の床面状態(なめらかで濡れている床タイルなど)を考えてみる。製造者は、不安定な(固定されていない)ときに、そのハシゴが使われる、さまざまな床面状態を明示している。状態がより悪いことを想定しながら、不安定なところで使う際に、販売者や製造者が十分適していると保証するハシゴや付帯固定具を購入する。そうでなければ、ハシゴが安全に使用できるよう、ほかの方法をとる。(14〜16参照)
12 HSEとDTIは、労働現場では、等級1の「産業用」またはEN131のハシゴ、脚立の使用を薦めている。ハシゴはその作業に適した大きさであるかを確認する。( 9 及び 22 参照)
ハシゴや脚立を使用するのに安全な場所か?
13 ここでは、ハシゴを使用する場所について述べる。この手引きは、ハシゴ及び脚立の使用のみに適用する。
-
図3堅固な地面、または(板を使用するなどして)荷重が均一にかかる。
- 平らな地面・脚立については、製造者の指示を守る。ハシゴについては、(製造者が他に指示していない場合に)、適した表面上の最大限安全な地面の傾きは以下の通りである。
- ・横向きの傾斜角は16度・ハシゴの踏桟は水平に保つ(図3参照)
- ・後ろ向きの傾斜角は6度(図3参照)
- 最大傾斜角が横向き16度、後ろ向き6度においたハシゴ
(訳者注 図3の左図ハシゴの基部矢印文の訳 “水平にする装置”)
- 汚れがなく固い表面(敷板、敷石、床など)。汚れ(油、コケ、落ち葉くずなど)がなく、(砂や包装素材など)モノの散在がなく、ハシゴの脚部分がしっかり床に固定していること。光っている床は、汚れがなくても滑りやすい。
- 安全の確保がされていること。
14 ハシゴの安全確保のやり方は以下の通りである。
- 適当な位置ででハシゴを結びつける。ハシゴ両側の縦桟が縛られていることを確認(図 4 , 5 , 6 , 7 参照)
- この方法が実用的でないなら、固定してないが安全であるハシゴを使用する。または有効なハシゴ固定具で補強されたハシゴを使用する。(11参照)
- この方法が無理なら、壁になどに動かないように固定する。
- 以上のことが無理であるなら、脚部を固定する。脚部を固定することは、最後にとるべき方法で、他の方法を使用するのが実用的であるなら、この方法は避けるべきである。
図4 ハシゴ上部の縦桟を縛る。(ハシゴ上での作業においてのみ正しい方法であり、昇降時では誤り)
図5 下方の中途で固定する
図6 ハシゴ基部近くで固定する
図7 ハシゴ基部で固定する
15 上下の階への昇降手段として使用するハシゴは、固定する。(図8参照)脚立は、そのような仕様になっていない限り、上下の階への昇降手段として使用すべきではない。
図8 昇降用のハシゴは固定して、安全な手すりを設け、ハシゴから降りる地点から少なくとも1m上まで伸ばしておくこと。
16 仕事上それが可能で便利な場合に、脚立については縛りつけることを検討する。(横向きの作業や、両手を自由にしておく必要があるとき)
17 以下の場所においてのみ、ハシゴや脚立を使用する。
- 車両に衝突されないよう、柵やコーン(円錐標識)で防護した場所
- ドアや窓など他の障害物、(非常口を除く)安全扉や窓などで、押し倒されない場所。これが実行できないなら、ドアの出入り口に人が立って監視する。または作業員に、よいというまで窓を開けてはいけないと伝える。
- 柵やコーンなど使って、歩行者がハシゴの下や近くを、歩かないようしてある場所。最後の手段としては、ハシゴのところに人が立って歩行者の警戒をする。
- ハシゴが75度の適正角度で立て掛けられる場所。角度を測るには、ハシゴによっては縦桟に示されている角度指示器を使うか、1:4ルール(底辺の長さ1に対し、垂直の縦の長さが4になるようにする、図10参照)を活用。
- 脚立の固定装置を十分に開いてかけることが出来る場所。ほかのロック器具も使用できる場所。
18 ハシゴまたは脚立の上で
- 電源を切っている場合または一時的に絶縁体で防護されていない限り、頭上の電線から6m以内を横に動いて作業をしないこと。これが常時行われる作業なら、電線を移動することを検討する。
- 電力の使用が不可欠な作業では、必ず非伝導性のハシゴや脚立を使用すること。
- ガラス窓やプラスティックの樋など、上部の脆いところには、ハシゴを立てかけないこと。他の方法として、効果的な固定器具(広げて使う補助用)棒か、スタンドオフ(ハシゴを離して使用する)器具(図9参照)を使うこともできる。
図9 スタンドオフ器具とハシゴの上で作業できる最大の高さ
図10 正しい1:4での角度でおいたハシゴ(正確に角度を測らないで安全を確保する方法)
図9 図10
ハシゴや脚立の状態は安全かどうか?
19 使う前にハシゴや脚立が、安全な状態にしておくこと。この手引きに従って、以下の場合にのみ、ハシゴや脚立を使用する。
- 目視で欠陥がないこと。作業日毎に使用前のチェックをすること。
- 絶えず詳細に目視検査を行う。製造者の取扱説明書に従うこと。建築現場の足場の一部として使用されている場合でも7日に一度は検査する。
- 作業用に適したものであること。等級1またはEN131のハシゴや脚立を作業現場で使用すること。家庭用(等級3)は通常、事業用としての使用に適していない。
- 製造者の取扱説明書に従って、メンテナンスと保管がなされている。
使用前点検と詳細な目視検査とは何か?
20 どちらの検査とも明らかに目で確認できる欠陥を見つけるということであり、細かい違いがあるだけである。どちらとも社内でできるはずである。(使用前点検は、使用する作業者の研修項目の一つとすること。)細部にわたった目視検査は記録をつける。ハシゴの安定器具や他の付属物は使用前点検を行い、取扱説明書に従って検査する。ハシゴ及び脚立の足部は必ず使用前の点検をしなければならない。ハシゴの脚部がきちんとしていることは、ハシゴが滑る原因を防ぐのに欠かせない。脚立の脚部の欠陥がぐらつかせる原因となる。脚部は、
- 良い状態の保全(緩み、欠損、亀裂、過度の磨耗がなく、安全であるかなど)
- でこぼこしていない −脚部が地面にきちんと固定する
21 ハシゴを軟弱/ぬかるんでいる地面(掘り起こした土、もろい砂や石、汚れている作業場など)から滑らかな固い地面(舗装した床面)へと移動させるときには、その脚部の汚れ(土、埋まった小石や削りくずなどによる)がなく、ハシゴの脚がきちんと固定できるかを点検すること。
ハシゴを使用する作業者は、安全な使用方法を知っているか?
22 このことは、人が直接自分でハシゴを立てて使用する際、いつも重要な点である。ハシゴ使用者は他の項目で扱った使用制限についても理解しているべきである。以下のときに、ハシゴ、脚立、安定する器具を使用することができる。

図11

図12使用者は的確な知識をもつ−安全に使用できる研修と指導を受けている。
- ハシゴや脚立は十分な長さがあること
- ハシゴの場合
- ・ 上から3段の踏桟は使わない(図9参照)
- ・ 昇降に使用するときは、降りる地点よりハシゴ上部が少なくとも1m上にあるように置き、縛りつけること。ほかに、安全なてすりを設置する。(図8参照)
- 脚立の場合
- ・ 脚立に適切な手すりがなければ、上から2段は使用しない。(図11参照)
- ・ 後ろ開き、あるいは両サイド開きの最上部も階段のステップとなる脚立においては、上から3段は使用しない。(図12参照)
- ハシゴや脚立の踏桟/階段が水平になるようにする。これは自分の目で見て判断できる。専用の器具を利用して、ハシゴを水平にすることもできるが、レンガや何か手で持てるものを使ってはいけない。
- 天候条件が悪くない −強風や突風のときにはハシゴを使用しない。(製造者発行の安全作業手引きに従う)
- しっかりした機能的な靴(安全靴や安全ブーツ、運動靴など)を履く。靴底がはがれていたり、靴ひもが長かったりぶらさがってはいけない。ぬかった土やすべるような場所でも大丈夫な靴底の厚さがあること。
- 一般の人や、他の作業員がハシゴをむやみに使用させないようにすること。
- 作業者が健康であること −特定の健康状態や薬を服用している者、アルコールや薬物中毒者はハシゴの使用をしてはならない。もしその疑いがあるなら、産業医に相談せよ。
- ハシゴや脚立を適切に縛りつける方法を理解している。
23 ハシゴや脚立上で、してはいけないこと。
- ハシゴの踏桟/階段に立ったままで、ハシゴを動かすこと。
- ハシゴ底部の踏桟/階段を支えにすること。
- ハシゴの縦桟を滑り降りること。
- パレット、レンガ、リフトトラック、タワー状の建築足場、エレベーター用バケツ、バン、可動昇降する作業足場など、動くものの上に置くこと。
- ハシゴの踏桟の上に立ったままで、ハシゴを伸ばすこと。
訳注:関連する資料として以下他がある。
INDG 403 ハシゴと脚立の安全な使用のためのツールボックスミーテイング用資料
INDG 405ハシゴと脚立の安全な使用のためのポケットカード
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