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閉塞空間のリスクアセスメント

資料出所:The RoSPA Occupational Safety and Health Journal
2005年1月号 p.20−24
(仮訳 国際安全衛生センター)



  閉塞空間におけるリスクを評価する際に実施すべき代表的なリスクアセスメントについて、主なハザードに的を絞り、安全衛生リスク管理にどんな対策を取りうるかを説明しながら述べていく。その他のハザードが特定される場合にも、この記事の中で述べられているものと同じリスクアセスメント手順に従えば良い。(ピーター・エリス)

  HSEによると、英国の全産業において閉塞空間内で、毎年平均15人の労働者が死亡している。この死亡者数には、閉塞空間内で災害に遭った人々を救出しようとした人々も含まれている。
  更に昨年7月、HSEは、製造業に対し、閉塞空間に入ることは、極めて危険であるという警告を発した。この警告は、ノーフォークの農場で3人の労働者がスラリー液タンク内で窒息死した事故が原因で出されたものである。この3人の死亡は、CO2の形成と酸素欠乏によるもので、1m未満の液体中に倒れ、溺死したものである。
  HSEのジェームズ・バレット製造担当課長は、この災害について、次のようにコメントしている:“優れた管理者がいないため、安全作業システムが実行され、労働者がそのシステムに従うというようなことが行われていない。労働者に対しては、注意深い教育訓練及びこの作業に関する有資格管理者の監督が必要である。上級クラスの管理者は、いつも正しい作業手順が実施されているかどうかということの確認を定期的にチェックしなければならない。何も実施しないことは、非常に良くないことで、死亡者は減らないだろう。”

安全衛生法令の一般条項

  1974年労働安全衛生法(Health and Safety at Work etc Act 1974 (HSW Act))では、合理的に可能な範囲で、労働者の安全衛生確保を図ることを事業者の責務としている。労働安全衛生法により、事業者に課せられたこの責務は、1999年安全衛生作業管理規則(Management of Health and Safety at Work Regulations 1999 (MHSWR))の各条項にて補完規定されている。特に3条では、全ての危険有害な作業・・・例えば閉塞空間内での作業・・・に対しては、リスクアセスメントを実施することが全ての事業者に求められている。
  このリスクアセスメントの目的としては、事業者の職場のハザード特定の際に役に立つようにと、ハザードによるリスクを見積り、評価し、そして合理的に可能な限り、ハザードを削減するか、あるいはリスクを最小限にコントロールするためには、どんな対策を実施するべきかを決定するということにある。

特別な安全衛生法令

  閉塞空間内での作業に対しては、特別規則、つまり1997年閉塞空間規則(Confined Spaces Regulations 1997)がある。この規則では、そもそも人々が閉塞空間内に入らないようにすることを事業者に求めている。しかし、これが不可能な場合には、事業者は次のことを実施しなければならない:

  • 閉塞空間内に入るというリスクの評価を実施し、作業の安全システムを構築すること;
  • 閉塞空間内に入ることが許可される労働者は有資格で、且つ適切で十分な訓練を受けている者に限定されること;
  • 作業開始前に、閉塞空間内での空気が、安全に呼吸できるものであることを確認すること;
  • 閉塞空間内に入る前に、救助計画が確実に作成されていることを確認すること・・・救助者が閉塞空間内に入らなければならない時に、救助者が危険にさらされてはならない。

  この1997規則では、閉塞空間を、囲まれた空間となるような場所として定義づけている。この場所としては、囲まれた空間・・・貯蔵タンク、バット槽、閉鎖された排水管、サイロ、ピット、溝、パイプ、下水管、炉のチャンバ、上部が開放している部屋、送気管、井戸、あるいはその他同様な空間を含む・・・に伴う合理的に予見可能な特定されたリスクがある場所とされている。

特定されたハザード:
酸素欠乏あるいは毒性のヒューム、ガス、蒸気の存在
 

酸素不足は色々な状況により発生する。例えば、鋼製タンク内に錆が形成される場合等。これにより、窒息状態になる。毒性ガスの形成により、意識を失ったり、傷害及び死に到る。

危害を被るおそれのある人は誰か?
閉塞空間内で作業する人々

推奨管理対策

  • 閉塞空間内に入る前に、空気中の有害ガスの有無及び酸素濃度が十分であるかどうかについて測定して確認しなければならないこと。
  • 空気の測定は、有資格者により、正しい較正がされている適切なガス検知器を用いて実施すること。
  • 一定の状況下では、閉塞空間内での作業中に呼吸する空気が安全な状態にあるということを確認するために、継続的な空気のモニタリングが必要となる場合があること。
  • 閉塞空間内で換気を良くするために、開口部を増やすこと。
  • 閉塞空間内の労働者に適切で、新鮮な空気の供給を確保するため、換気装置が必要となる場合があること。
  • 酸素欠乏状態にある場合、あるいは有害ガスが空気中に存在する場合には、空気呼吸器のような呼吸用保護具が利用できるようになっていなければならないこと。
  • 閉塞空間内で作業する人々全員に、何をどのように安全に実施するかについて、適切な教育訓練が実施されていなければならないこと。
特定されたハザード:
火災あるいは爆発
 

例えば、可燃性蒸気の存在及び酸素過多の場合、火災/爆発が閉塞空間内で発生するおそれがある。

危害を被るおそれのある人は誰か?
閉塞空間内で作業する人々

推奨管理対策

  • リスクアセスメントを活用し、閉塞空間内での火災あるいは爆発のリスクを低減するために必要な管理対策を決定すること。
  • 閉塞空間内に入る前に有資格者により、閉塞空間内の可燃性ガスあるいは爆発性ガスの有無を確認すること。
  • 可燃性あるいは爆発性のおそれのあるような残留物を換気、パージ及び除去することにより、閉塞空間内を安全な状態にしなければならないこと。
  • ガス、ヒュームあるいは蒸気が配管作業中などに閉塞空間内に入る可能性がある場合には物理的に隔離しなければならないこと。
  • 可燃性ガス、あるいは爆発性ガスが存在する場合は、火花の出ない工具及び防爆構造の照明器具が必要であること。
  • 閉塞空間内で作業する人々全員に、何を実施し、そして、どのように安全に実施するかについて、適切な教育訓練が実施されていなければならないこと。
特定されたハザード:
液体あるいは流動する固体
 

液体あるいは流動する固体は突然、空間を埋め尽くし、溺死あるいは窒息死を引き起こす可能性がある。この流動する固体には、砂、穀物、小麦粉、砂糖あるいは同様な物質がある。

危害を被るおそれのある人は誰か?
閉塞空間内にいる人々

推奨管理対策

  • 閉塞空間内に作業者がいる場合、その中に固体あるいは液体が確実に流れ込まないようにするためには、“作業許可システム”が実行されていなければならないこと。
  • 人々が、タンク内、ピット内及びその他の容器内に転落しないように、作業の安全システムが樹立されていなければならないこと。
  • 作業者がタンク内及び容器内にいる場合、タンク、容器等は液体あるいは流動固体が確実に流入しないようにするためにそれらの開閉装置がフェ−ル・セーフ構造になっていなければならないこと。
  • タンク内等に作業者が入る前に、タンク内あるいは容器内の空気が呼吸するのに安全であることを確かめるため、作業環境測定を実施しなければならないこと。
  • 労働者がタンク内あるいは容器内部にいる間、適切な換気がされていなければならないこと。
  • 閉塞空間内の人々と外部の人々との間に、確実な連絡手段がなければならないこと。
  • 労働者がタンク内あるいは容器内に入らなければならない場合、有資格者が労働者を監視しなければならないこと。
  • タンク内に入る人々は、安全ハーネス及びそれに取り付けられた救命索を装着しなければならないこと。
  • 全てのタンク及び容器類は、保全を定期的に実施し、安全な作動状態にしておかなければならないこと。
  • 保全記録は保存し、安全衛生モニタリング及び安全衛生巡視時に利用できるようにしておかなければならないこと。
  • 閉塞空間内で作業する人々全員に、何をどのように安全に実施するかについて、適切な教育訓練が実施されていなければならないこと。
特定されたハザード:
暑熱状態

暑熱状態は体温を危険な状態に上昇させ、意識を失う原因となるおそれがある。

危害を被るおそれのある人は誰か?
閉塞空間内に居る人々

推奨管理対策

  • 閉塞空間内がオーバーヒートとならないように、内部の人々と外部の人々との間に効果的な連絡手段があること。
  • 放射熱へのばく露を低減するため、ファンあるいはエアコンの使用並びに物理的な隔壁の使用等により、工学的管理方法で温度調節を行うこと。
  • 暑い閉塞空間内での作業は連続した作業時間を制限しなければならない場合があること。このことは、作業許可システムの実施によって達成可能であること。
  • 労働者は定期的な休憩を取れるようにし、涼しい環境下での施設で休憩できるようにしなければならないこと。
  • 労働者は、暑い状況下では、汗が沢山出るので、脱水症状にならないように冷たい水分を取るようにしなければならないこと。
  • 例えば、個人用冷却システム(personal cooling system)を備えた保護衣を労働者に提供することを考える必要性もあること。
  • 労働者は暑い作業状況に順応するように努めなければならないこと。
  • 熱ストレスを感じ易い労働者を特定し、他の作業に転換させるか、あるいは暑い作業環境下での労働時間をそれに準じて少なくしなければならないこと。
  • 暑い閉塞空間内で作業する労働者の健康を、定期的にモニターして、確実に悪化しないようにしなければならないこと。
  • 閉塞空間内で作業する人々全員に、何をどのように安全に実施するかについて、適切な教育訓練が実施されていなければならないこと。
特定されたハザード:
監視、教育、情報あるいは訓練の欠如

監視、教育、情報あるいは訓練が適切に実施されていない場合、傷害、疾病、時には死に到る可能性がある。

危害を被るおそれのある人は誰か?
閉塞空間内で働く人々

推奨管理対策

  • 監督者は、作業段階に応じた必要な対策について安全チェックを確実に実施する責任が与えられていなければならず、閉塞空間内での作業遂行中、現場に留まっていなければならない場合があること。
  • 監督者は、それぞれの任務に応じて必要な経験と資格を有し、閉塞空間内での作業者の安全衛生確保を図らなければならないこと。
  • 労働者は、密閉区間内に入る前に、実施する作業について十分な経験を有していなければならないこと。
  • 作業の安全システムの全要素が実施されるという“作業許可システム”が、人々が閉塞空間内に入ったり、中で作業したりする前に実施されるようにしなければならないこと。
    作業許可システムの基本的な特徴としては、次のようなものである:
    @ 特別な業務を認定する人々及び(且つ、その認定権限を制限する)必要な対策を特定する責任者を明確に特定しておくこと。
    A 作業に請負業者が含まれることの確認規定があること。
    B   許可発行にかかる教育訓練
    C 作業システムが計画通りであることを確認するモニタリング及び監査
  • 緊急時、空気呼吸器、命綱、及び消火器といった、備え付けの救出器具を使用できる適切な教育訓練修了者がいなければならないこと。
  • 閉塞空間内で作業に従事する人々全員に、適切な教育訓練を受け、安全な方法で作業が確実に遂行されるようにすること。
特定されたハザード:
緊急状態

閉塞空間内の作業時に不具合が生じた場合、労働者は、重大で切迫した危険にさらされるおそれがある。

危害を被るおそれのある人は誰か?
閉塞空間内で作業する人々及び救助活動を実施する人々

推奨管理対策

  • 効果的な救助計画の設定により、緊急時には警告を発し、救助活動が実施されなければならないこと。
  • 適切なコミュニケーション手段により、閉塞空間内部の人々と外部の人々とのコミュニケーションが取ることができ、緊急時の救助の際にこれが重要となること。
  • ハーネスに取り付けられた命綱は、閉塞空間外に取り付け箇所がなければならないこと。
  • 地方の緊急サービス機関は、事故についての認識を持つことが必要である。閉塞空間内にいる人々の救助に駆けつけた際、閉塞空間に係わる危険の情報提供が成されなければならないこと。
  • 労働者がその内部に入る前に、閉塞空間への出入口は、緊急時に脱出できる十分な大きさがあることを確実にチェックしなければならないこと。閉塞空間への出入口は、労働者が機器等を装備した状態で容易に通り抜けられるような十分大きい出入口でなければならないこと。
  • 緊急救助実施中、近接する作業を停止しなければならない場合があること。
  • 閉塞空間内で作業する人々全員に、何をどのように安全に実施するかについて、適切な教育訓練が実施されていなければならないこと。
特定されたハザード:
傷害あるいは急性中毒等

閉塞空間内で作業する人々には、様々な傷害及び疾病が発生するおそれがある。

危害を被るおそれのある人は誰か?
閉塞空間内に入る全ての人々

推奨管理対策

  • 救急救助者は、HSEの認定訓練コースの修了証を所有していなければならないこと。
  • 救急救助者が、作業現場から遠くにいるような場合、事業者は、具合の悪い、あるいは傷害を被った労働者が医療関係者あるいは看護師の助けが必要な場合、現場でいかなる役目もを果たす者を指名することができること。指名された者は、救急治療を行ってはならないが、救命救急の手順について特に訓練を受けている場合には、例外扱いとなる。これに、指名される者は、基礎的な緊急救助コースに参加しておかなければならないこと。
  • 指名された人は、資格を持った救助者の代わりとなることはできないが、この者がいない時にのみ、代行することができること。
  • 通常の救急箱の他に、特別ハザード用の器具、あるいはその他の物が救急箱の中や近くに常備されていることが必要な場合があるが、救急救助者はこの使用方法について特別に訓練されている場合にのみ使用することができること。
  • その他の補助的な器具としては、災害発生時の移送手段に関連する次のようなものがある;毛布;エプロン及びその他の適切な保護具及びはさみ。このような器具は、救急箱の近くに置かれていなければならないこと。
  • 適切な救出用機器の準備状況は、特定された発生する可能性のある緊急状態によって異なること。この種の機器を救出者が使用する際には、正しく操作できる訓練が重要となること。
  • 全ての傷害は、災害記録簿に記録しておかなければならないこと。
  • 労働者が傷害を被った場合、1979年社会保険(請求及び支払)規則(Social Security (Claims and Payments) Regulations 1979)により、災害記録簿に記録することが法的要件となっていることを労働者に通知しなければならないこと。
  • 特別法の定めるところにより、各種労働災害は、報告、記録、災害調査を実施することとなっていること。
    以下にこのことについて簡単に記述することとする。
  • RIDDOR1995(Reporting of Injuries, Diseases and Dangerous Occurences Regulations 1995)により、職場で発生する特定の災害は、責任ある者により、報告することが求められていること。
  • 一般的にRIDDORでは、報告が必要な災害を、最も早い方法により、監督当局に通報することが求められている:通常は、電話により行い、その後、様式F2508あるいは、F2508Aにより、発生後、10日以内に文書で報告すること。報告の必要な災害は、現在はE-mailで報告することも出来る。www.hse.gov.uk
  • 上記に関する情報は、地方安全衛生監督当局の必要に応じて利用される。
  • 閉塞空間内で作業する人々全員に、何をどのように安全に実施するかについて、適切な教育訓練が実施されていなければならないこと。

追加情報

閉塞空間内で作業する他の詳細情報は HSEのウェブサイト www.hse.gov.uk/confinedspace/index.htm で利用可能である。