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聴力の保護
(ピーター・エリス)

資料出所:The RoSPA Occupational Safety and Health Journal
2005年6月号 p.32

(仮訳 国際安全衛生センター)



職場で危険な騒音レベルにさらされている労働者の聴力保護対策の問題を取り上げる。この記事では、一般の安全衛生法に加えて、現行の職場騒音規則1989(NAWR)で規定している職場騒音のアクション・レベルと提案中である職場騒音規則に重点をおいている。

労働安全衛生法1974では、当然実行できうる限り、事業者がすべての従業員の労働安全衛生及び福祉を保証することを求めている。この法的要件の遵守に必要な対策に、聴力の保護を行うことがある。この法律ではさらに、「関連した法律条項のいかなる具体的要件の遂行する上で、何らかの対策を実施し、ものを支給する代価として、事業者がいずれの従業員に対し、その費用を課すことや負わせてはならない」と規定している。つまり、事業者は従業員に防音保護具の代金を請求してはならない。

労働安全衛生マネジメント規則1999(MHSWR)により、労働者の安全衛生上のリスクを減らすため、事業者に職場でのリスクアセスメントを行うことを求めている。抑制方法には段階があり、防音保護具を含む全ての“個人用保護具”(PPE)はいつでも“最後の手段”であるべきで、騒音レベルを根本から減らすために、工学的対策など、まず別の手段を講ずるべきである。それゆえ、工学上の管理や業務上の安全システムを活用しても、根本から十分にリスクが管理できないのであれば、事業者は個々の労働者に適切なPPEを支給すべきである。

職場騒音規則

  NAWR規則1989では、騒音のリスクリスクアセスメントと管理について、なすべき義務の枠組みを定めている。この規則では3つのアクション・レベルが決められている。第一アクション・レベルは、連続して日常的に騒音にさらされている状態で85デシベル(A)、第二アクション・レベルでは同状態で90デシベル(A)。第3に規定されているアクション・レベルは、140デシベルまたは200パスカルの最高レベルで、銃声や大爆発音など、突然の騒音に関連して発生する。
  さらされる騒音が85デシベル以上の場合、事業者は規則により適切で十分な騒音アセスメントを実施する法的義務がある。人がさけんだり、他の者が2m以内で人の声を聞き取り難いところではどこでも、騒音アセスメントが実施されなければならない。有資格者がそのアセスメントを行うべきである。彼らはどの従業員が、許容し難い騒音レベルにさらされているかを明確にし、どんな対策をとるか決定するために、騒音についての十分な情報を事業者に与えなくてはならない。
  そのアセスメントが関係している作業に、重大な変更があったとき、またそのアセスメントがもはや役立っていないと疑われるときには、騒音アセスメントを再評価しなければならない。規則では、事業者に対し、アセスメントや再評価の適正な記録を保管することを要求している。
  新しいNAWR規則は、2006年2月15日までに承認を受け、施行される。新規則では、現行規則のアクション・レベルをそれぞれ80デシベルと85デシベルに下げている。第一アクション・レベルは80デシベル(A)、最高音量で122パスカル。第二アクション・レベルで85デシベル(A)、最高音量140パスカル。人がさらされる騒音限度を設け、防音保護具をつけた状態で、87デシベル(A)で最高音量200パスカルとしている。
  2004年4月5日から6月25日まで、HSEは、新規則の草稿と解説書についての、正式な専門家会議を実施した。HSEは寄せられた意見を検討中で、2005年5月にはHSCに勧告を提出している。

チェックポイント:防音保護具はいつ支給するか

適切な防音保護具が与えられるべきなのは、

  • 工学的対策や予防システムなど、さらされる騒音に対して、他のすべての管理対策を講じし尽くしたとき。
  • 工学的抑制対策をとり、騒音を減らそうとしたにもかかわらず、騒音測定を含む騒音アセスメントの実施後もなお、労働者がNAWR規則で定められている騒音レベル以上にさらされているとき。
  • 労働者がNAWR規則で定められている騒音レベル以上に、現在もさらされていることを、騒音測定が示したとき。この場合、騒音レベルが根源において許容レベルに下がるまで、直ちに労働者に適切な防音保護具を支給しなければならない。

チェックポイント:適切な防音保護具の選び方

騒音アセスメントと騒音測定は、有資格者が行うこと。そうすることによって危険な騒音レベルにさらされている労働者に対して、適切な防音保護具を支給することができる。労働者が防音保護具をつけたときは、その保護具が十分なしゃ音のできるものでなくてはならない。
  防音保護具が適したものであるかどうか決めるときに、以下のポイントを考慮しよう。

  • NAWR規則で定められている騒音レベル以下に、騒音レベルを適切にしゃ音するものであるべきだが、個々人で過剰な防護になってはいけない。過剰な防護は、作業場での安全警報が聞こえないなど、別の安全衛生上のハザードを引き起こすことになる。
  • 異なったタイプの防音保護具で、どれほど騒音がしゃ音できるかについて、各タイプの保護具の製造元から情報を得ておくこと。
  • “オクターブバンド分析”または“HMLメソッド”(両方法はHSEで採用されている)を使用してのしゃ音の算出は、労働者が装着している状態で、防音保護具が十分に騒音レベルをしゃ音しているかどうかを決定するために行うこと。
  • 上記の手順を実施すれば、各労働者が仕事中に装着するとき、NAWR規則で定められている対策レベル以下まで、十分にしゃ音のできる防音保護具を支給することができる。

適切な防音保護具を選ぶときに考慮すべきその他の要点

  • 防音保護具には、“CE”シンボルマークが入っていること。このマークは通常、ヨーロッパ連合基準に適合しており、最小限の法的基準を満たしていることを示している。さらにHSEが認めた型式と基準のものでなければならない。
  • 仕事の過程で、その人が言葉で連絡をとる必要があるかどうかを見定めること。その労働者が仕事中に、他者と連絡を取り合う必要があるなら、できるだけ、防音保護具は言葉の周波数を過剰に下げないものであること。
  • 防音保護具が着け心地がよいかどうか、適切に装着できるかを確認するため、個々人が保護具を選ぶのに参加すること。
  • 着け心地が悪ければ、その人は仕事中ずっと装着したいと思わないと仮定し、防音保護具をつける時間の長さを決めること。

チェックポイント:異なった型式の防音保護具

防音保護具は、与えられた状況に適合する、異なった型式のものがある。それには、

  • 使い捨て耳栓---これは通常、やわらかく、しなやかな素材、やわらかいポリエチレンで包まれている形状のものなどがある。
  • ひも付き耳栓---通常は上記と同じ素材で出来ているが、ひもで一緒につなげてある。このひもは、保護具が耳からはずれ落ち、それが生産工程に入り込むのを防ぐのに役立つ。
  • 再利用できる耳栓---ひもで一緒につなげてあるものか、別個になっている。名称通り、再利用でき、保管ケース付きが多い。
  • バンド付き耳栓---この耳栓も耳の穴にはまるタイプであるが、ヘッドバンドで一緒につながっている耳栓。作業場内の来客者が防音保護を必要とするときなど、一時的に必要なときに役立つ。
  • 耳覆い型(イヤーマフ)---このタイプは、耳全体を覆って、ヘッドバンドで頭を蓋うものである。低、中、高のしゃ音ができるいろいろなタイプの耳覆い型がある。他にも、騒々しい環境での連絡が妨げられないよう、通信装置が内蔵されているタイプもある。また聴力保護と併せてFMラジオ内蔵のタイプもある。

チェックポイント:他のPPEとの同時使用

  • しゃ音が十分できる防音保護具は、各人が装着している他の保護具と同時に使用が可能か、騒音アセスメントの実施者が確認すること。
  • ある種の安全ヘルメットは、耳と保護具の密着を阻害するため、防音保護具の有効性が妨げられる場合があることを、事業者は知っておく必要がある。
  • 安全メガネも防音保護具と一緒に使えて、その効果も持続できることを、事業者は確かめておくこと。例えば、もし労働者が安全メガネを使用するなら、耳覆い型(イヤーマフ)でなく、耳栓をすることを考えるべきである。イヤーマフにはヘッドバンドが付いているので、メガネをかける妨げとなるからである。

チェックポイント:顔にぴったりあうかのテスト

きちんと装着できない防音保護具は、装着者への保護が著しく損われることになる。それ故、次のポイントを考慮すること。

  • 耳覆い型(イヤーマフ)を最初に選んだら、ぴったりあうかテストすること。
  • 十分な効果をあげるためには、それが従業員の顔と頭によくぴったり合うこと。
  • 装着者の肌と防音保護具の耳の密閉が十分になされなければならない。
  • 異なった防音保護具に換えた場合は、何度もぴったりあうかテストすることが必要であろう。
  • いつもぴったり正しく装着できるように、防音保護具は各個人ごとに支給することを薦める。

チェックポイント:防音保護具の取り扱い上の注意

  • 作業に使用する従業員に支給する前に、防音保護具を清潔にし、今後騒音の中で使いやすい状態にしておくこと。
  • 使用中のものと比較して、使っているものがよい状態であるかどうか確かめられるよう、使用しているものと同一型式で未使用の防音保護具を保管しておくこと。。
  • 防音保護具を効果的に洗浄したり、修理するために、スペア部品や洗浄用品をいつも用意しておくこと。
  • 使い捨て耳栓をいつも適宜補充すること。在庫が切れる前に、再注文の方法を確立しておくこと。
  • 防音保護具は、作業場内の適切な場所に保管し、その場所で取り扱うこと。
  • 耳覆い型(イヤーマフ)のヘッドバンド及び耳との密着面の各状態を、使用時に毎回チェックすること。

チェックポイント:防音保護具の使用トレーニングと指導監督

従業員はトレーニングを受け、次のことを理解していること。

  • 防音保護具の正しい装着法と使い方。
  • なぜ仕事ト中いつでも、正しく装着しなければならないのか。
  • 防音保護具領域と指定された場所で、なぜ防音保護具を絶対はずしてはならないのか。
  • なぜその防音保護具が選ばれ、与えられた状況において、その保護具で何を防護できるのか、できないか。
  • 使用する上での、製造者からの解説書、防音保護具のメンテナンスについて。
  • 使用しないとき、防音保護具をどこにどうやって保管するか。

他に考えるべきポイント

  • 防音保護具を続けて正しく使用できるよう、少なくとも年一回、従業員に再教育訓練をすべきである。
  • 防音保護具が正しく、就業時間中ずっと装着できるか監督されているべきである。こうすることによって、防音保護具領域において、装着者は防音保護具を絶対にはずさないであろう。
  • 防音保護具が具合よく、正しく装着できているか、装着者が使用前に自分の保護具をチェックするように、監督者がしむけるべきである。

チェックポイント:防音保護具装着者の義務

  • 防音保護具は、事業者から与えられた知識、指示、教育訓練内容に従って使用すること。
  • 与えられた知識、指示、教育訓練内容を守らず、故意に自分自身や他者を危険にさらしてはならない。
  • 防音保護具を一番よい状態に保ち、使用後は保管すべきところに戻すこと。
  • 自分の防音保護具の紛失や不具合は直属の上司や事業者へ報告すること。
  • 安全衛生規則では、安全衛生に係わる事柄について、事業者に協力してそれに従う義務がある。