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国民健康サービス(NHS)の暴力対策 (ニック・クック)
Conflict resolution

資料出所:The RoSPA Occupational Safety & Health Journal
September 2005
(仮訳:国際安全衛生センター)


 

 「これまで、制服は私を保護してくれるものと考えていましたが、現在は標的です。」これは、救急サービスに従事している救急救命士の言葉である。そう言うのももっともだ。救急救命士と医療従事者は、仕事を遂行しようとするとき、常に一般大衆からの暴力に直面しているのだ。「標的」という言葉が単なる比喩でないときもあった。スタッフがエア・ライフルで撃たれた出来事があったのである。

いまや都心部は、金曜・土曜の夜となると、暴力の場と化す。昨年、救急スタッフであるジュリー・アレンとクリス・アレンはクリーブランドのソーナビーで呼び出しを受けてかけつけたときに襲撃された。ナイトクラブの戸口で一人の男が倒れていた。だがその男を助ける以前に、彼らは、クラブの中で起こっていたけんかを止めさせるために警察を呼ばなければならなかった。その後一人の男が彼らの車の前に跳びだしてきた。その男はジュリーの頭をフロントウィンドウに叩きつけ、それから患者を助けるために後部座席にいた彼女の夫を攻撃した。この男を拘束するのに5人の警官が必要だった。ジュリーとクリスは、手と首の怪我のため1ヶ月以上仕事を休まなければならなかった。

暴力の脅威は、外での仕事が多い医療従事者に限られるわけではない。病棟もいつも安全だとは限らない。2003年に医療従事者であるマメイド・チャトゥンは、西ロンドンのスプリングフィールド病院で統合失調症の患者に刺殺された。病院は後に、安全衛生法に対する重大な違反で有罪とされ、中央刑事裁判所(Old Bailey:(訳注1))から28,000ポンドの罰金を課された。

また別のケースではアルコール問題を抱える患者が、看護師マリア・ギャラガーの顔を殴り、頬骨を骨折させた。同看護師は次のようにコメントしている:「私はその患者が潜在的に危険なことを知っていました。その男は看護師にはげしく突っかかったことが何度もあって、私はそのことを書面で上司に報告していたのです。」

これらのエピソードを裏付ける嘆かわしい統計がある。2003年度を通じて、NHS(国民健康サービス)全体で11,600件の暴力、暴言があったことがスタッフから報告されている。最近のデータでもさしたる改善はみられない。

多くの医療従事者を代表しているUNIZON(訳注2)の健康部門の長であるカレン・ジェニングスは「暴力とハラスメントの件数が、まだ容認できないぐらいに多いことは、非常に憂慮すべきことです。」とコメントしている。

NHSも非常に懸念している。現在の暴力の件数は単にスタッフを危険にさらすだけでなく、患者の看護にも影響を与える。NHS不正対策・セキュリティ管理サービス(CFMS)のそれぞれの議長と最高責任者であるビル・ダーリングとジム・ジーは次のような共同声明を出した。:「少数の無責任で反社会的な者のせいで、治療の水準が落ちることは容認できない。」

2003年に、CFMSの対暴力キャンペーンの最初のステップとして、セキュリティ管理サービス(SMS)が結成された。そのディレクターはアレックス・ネーグルである。彼は暴力対策が重要課題であると考え、次のように述べている;「SMSはNHSの全てのセキュリティに対して責任がありますが、まず窃盗も含めた暴力を最重要テーマとすべきです。」

その優先順位どおり、SMSは暴力防止に向けて、全体的アプローチで先駆的な取り組みを行っている。それは単にNHSのみならず、一般大衆を相手にするすべての組織で効果的なアプローチだということが証明されるかもしれない。

 

キャンペーン計画

最初のステップは、管理組織を構築することであった。単なる管理組織だけではない。効果的な組織とするためには、最善のものをNHSに与える必要があったそれは、基準、ガイダンス、教育訓練に関する共通の枠組みを提供することである。この枠組は、地域ごとの問題を解決するために、やり方は違っても、その地域で適用できるようなものでなければならない。すなわち「全国的な枠組みの中での柔軟性のあるアプローチ」である。

それは、まさにNHSの規模と多様性から必要になるアプローチである。単一組織では北ヨーロッパ最大となる130万人の従業員を抱えるNHSは、驚くほどの多様なサービスをこれまた驚くほどの広い範囲で実施しているからである。例えば、救急車係員と救急救命士は、スラム街で敵意に直面するかも知れないし、医師、看護師、受付係は、多忙で何が起こるかわからない救急外来で働いており、また一般開業医は診療所で一人で働くこともあるだろうし、往診をすることもあるだろう。

 

リーダーシップ

1つの点では、セキュリティは、他の分野の安全性と変わるところがない。それは成功するためにはトップからのサポートが必要だという点である。最初にNHS全体に行き渡ることが必要な管理体系の要素の1つが、このサポートであった。

アレックス・ネーグルは次のように説明している:「われわれは今、個々の医療機関の役員会に、セキュリティ管理ディレクター(SMD)を入れることを要求しています。これは法的要求事項です。SMDの役割は、役員会がすべてのセキュリティ問題に力を持つようにすることです。また、今後役員会には、組織が取り組んでいる暴力又はセキュリティ管理全般の進捗について、サポートし、挑戦し、また精査するために、非常勤のSMDも加えることになるでしょう。」

個々の医療機関にとってもうひとつ重要なことは、地域セキュリティ管理専門家(LSMS)の役割である。SMDと同じく、LSMSの任命も現在は法的要求事項である。しかし、適切な地域セキュリティ専門家とはなんだろうか?

LSMSは適当なスタッフ、例えばその医療機関の安全衛生部門の担当者といったような人でしょう。その人がセキュリティのすべての面で、第一線から専門意見を発信することになります。」とアレックス・ネーグルは語っている。「LSMSに任命される人は、組織内部、即ち役員会、地区管理者、全従業員などに影響力を持つ人であることが理想です。だれを任命するかはそれぞれの医療機関に任せています。今いる人の仕事に付け加えてもいいし、そのために新しく人を雇ってもよいのです。結局は、その医療機関が何が必要だと感じているかによります。」

SMDLSMSを任命することは、医療機関のセキュリティ管理組織にとって最も重要である。また、すべての従業員の役割も同様に重要である。結局のところ、ある部署のセキュリティに関するリスクを洗い出して対策することに一番助けになるのは、そこで働いている人だからである。

 

教育訓練

今までNHSスタッフに対するセキュリティ訓練は、その場その場の対応であった。個々の医療機関で対処していた。教育訓練そのものは組織内で行うか、又は外部業者に依頼していた。教育訓練の内容を評価したり、効果を測定したりするということは、殆ど行われなかった。

これは教育訓練が悪いということを言っているわけではない。実のところ、アレックス・ネーグルも認めているが、SMSが最初にしたことの一つは、現在のベストプラクティスを探し、それを利用することであった。しかし、教育訓練が全NHSで均一な方法でされていたわけではなかった。共通の標準がなかったのである。

明らかに共通のカリキュラムと共通の基準が必要であったが、それは中央のコントロールというアプローチではじめて可能となるものである。そのアプローチはSMSが提供した。

アレックス・ネーグルは語る:「私達はセキュリティ管理マニュアルを作り、SMDLSMSがこれを利用できるようにしました。また彼らのための基礎コースも開発しました。この内容はNHSにおけるセキュリティ管理です。成績の良い受講者は、インセンティブとして、正規の資格を得るのに重要な認定を受けることができるようにしました。ポーツマス大学はわれわれがレディングとコベントリのセンターで行っているコースに対して認定を与えてくれています。」

セキュリティ訓練の対象は、LSMSなど具体的なセキュリティ担当に任命されたものだけではない。「全従業員に訓練をするつもりです。この一般訓練は争いを解決することを中心に行います。爆発しそうな状況にどのように対処して暴力に発展する前に和らげるかという事です。私達はすでに全国的なカリキュラムを導入しています。リスクが高いと思われる分野、すなわちメンタルヘルスと救急サービスについては特別な教育訓練を開発済みです。」

教育訓練をこのように標準化することにはいくつかの利点がある。第一にリソースに焦点が当たる。次に、誰もが同じ講義に基づき同じ標準に従って働くことになる。3番目に、コースが改善(その分野での発展によって、或いは何らかの出来事や調査を通じて得られた経験に基づいて)されたときには、これらが全NHSに自動的に広まる。

NHSにおける暴力予防策:一般的行動

  • セキュリティ重視のカルチャー
    意識向上、事故報告の促進
  • 抑止
    暴力をふるったものに対し、 その結果を強調するために広報を活用する。
  • 予防
    ベストプラクティスの利用。過去の出来事や暴力防止の技術的事項から得られうものを含む。
  • 把握
    簡単明瞭なフォームで従業員に継続的に報告させ、傾向をつかむ。
  • 調査
    暴力を振るったものは確実に責任が問われるようにする。
    再発防止に役立つように、教訓を活用する。
  • 処罰
    手続、規定、民事、刑事訴訟など
  • 補償
    犠牲者に適切に補償を行うために、民事・刑事の司法システムを通じて追求する。
  • NHSのセキュリティ戦略をサポートする教育訓練の指針
  • LSMSのための基礎的教育訓練
    NHS全体に対してSMSが提供しているLSMSのための標準コース。このコースはポーツマス大学の認定を受けており、正規資格を得るときに単位としてカウントすることができる。このコースをサポートするためにSMSはセキュリティ管理マニュアルも作成した。
  • 紛争解決のための教育訓練
    この訓練は、紛争に巻き込まれる可能性のあるすべての従業員に対するもので、そのような状況を和らげるためのテクニックが含まれている。リスクがより高いと思われる分野(例えば救急サービスやメンタルヘルス)で働くものに対しては、このコースの特別なバリエーションを実施する。
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    パートナーシップ

    SMSは単体では機能しない。パートナーと動くときに意義が出る。例えば、紛争を解決するコースは王立看護大学(Royal college of Nursing)、英国医学協会(British Medical Association)、及びUNISONと連携して開発されたものである。

    アレックス・ネーグルが説明するように、パートナーシップの概念は教育訓練の問題に限定されるわけではない:「たぶん、私たちのスタッフを傷つけたり、攻撃したりする人たちは、地域でも人を傷つけているのだと思います。もし私達が広いコミュニティとネットワークを設立できたら、自分だけで対処するのではなく、共同して問題に取り組むことができると思います。」

    今、形成しつつあるパートナーシップで最も重要なものの1つはおそらく警察とのものである。「私達は覚書をつくるべく話し合い中です。単に暴力関係のみならず、セキュリティ管理全般について、何を警察に期待できるかを明確化するよう努めています。」

    いくつかの医療機関は、2003年のSMSの結成以前に、すでにこのことを目指して動いていた。その例としては、救急・事故部門を自分たちのセキュリティルームだけでなく、その地区の警察署とカメラでつないでいたというものがある。

    SMSはNHSの内部・外部の利害関係を含めた、完全に包括的なアプローチを目指している。従業員代表(例えば組合の代表)、HSEのような監督当局は深くかかわっている。HSEに関しては、パートナーシップは2005年3月に共同文書によって形成された(参考文献1)。この協定では協力の基本的枠組みの概要を示したものである。 現在は一般情報の交換、関心分野での連携、相互の連絡に限定されている。

    SMSはまた、救急・事故部門を再設計するために、内務省(Home Office)と共同作業を行っている。このプロジェクトの背景にあるのは、NHSの根本思想である「予防は治療に勝る」という考えである。

    アレックス・ネーグルは次のように語っている。「元の設計では見えない部分がありました。表示がお粗末だったので、みな一般用入り口から出なく、救急救命士の入口から入ってきました。それでCCTV(closed-circuit television、監視カメラ)を追加設置しました。また、一般の人が入ってはならない領域に迷い込むのを予防するために、出入制限の仕組みも設置しました。トイレは、警備システムで出入りする人を把握できるような場所に設置するようにしました。また、飾りのためだけの目的で置かれていて、人が隠れる場所になるようなものはすべて取り払いました。私たちの行った変更は簡単なものですが、結果は大きく違うはずです。」

     

    リスクを評価する

    これまで説明したSMSの組織と戦略は、現在NHSを通じて広く行われている。それでは、新しい組織はどのように暴力のリスクへの対策として使われているのだろうか?答えはすべての安全衛生専門家にとってお馴染みのものである。それはリスクアセスメントから始まる。

    さて、どのようなリスクアセスメントでも、その最初のステップはハザードを特定することである。2番目のステップはそのハザードから起こるリスク(危害を受ける可能性)を評価することである。リスクの程度がはっきりしたら、対策をとるためのリスクの優先順位を決めることができるようになる。NHSのセキュリティについて、初回のアセスメントを行った結果、SMSは直ちに暴力を最優先時効とすることを決定した。

    問題の性質と大きさのデータを集めるために、スタッフは、これまでは恐らく「仕事の一部」と考えられていた、ちょっとした暴言や身体的な暴力を含め、、すべての出来事を報告するよう求められている。NHS SMSの出版物「一人じゃない(Not Alone)(参考文献2)」は、起こったことを報告することの重要性を強調している。個々の出来事から学んだ教訓は、リスク管理を改善するため利用され、必要なら、加害者に対して行動を起こすこともできる。出来事を公表し、再発防止策を公表することは 、他の者への抑止力にもなる。前向きに広報を行うことはよいセキュリティカルチャーを培うことに役立つ。出来事を報告した結果として、だれかが実際に何か行動を起こしているのを見れば、スタッフの士気は鼓舞されるだろう。

    同じ原則が、告訴についても当てはまる。キャンペーン開始以来、告訴は8倍になった。保険給付金は2倍である。 成功した告訴を公表することは、犯罪予備軍に明確なメッセージを発信する。また被害者への補償という結果につながるかもしれない。このプロセスのキープレーヤーはSMSの法的保護部門(Legal Protection Unit , LPU)である。アレックス・ネーグルは語る。「NHSに対し、首尾一貫した法的アドバイスを提供するために、この部を立ち上げました。例えば、もし医療機関が問題を抱えていれば、この部門が適切な行動を助言できます。刑事告発又は反社会的行動規則(Anti-social behaviour order , ASBO)に関して、警察と協力する選択肢もあります。私達はもっともっと反社会的行動規則を利用するようにして行きます。それは決着が早くて、かつ厳しい制裁に裏付けられています。反社会的行動規則の違反者は即時逮捕が可能な犯罪です。別のオプションとしては、加害者に対して訴えを起こさせることもあります。この方法で合意したときは、私たちが費用の50%を負担し、医療機関が残りの50%を負担します。」

     

    新しい攻撃

    UNISONは法的にプロセスをさらに一歩進めるよう努めている。組合は、スコットランドで最近導入された新しい法律のような、医療関係者とソーシャルワーカーを保護するための具体的な法律を要求している。組合の主張は、そういう法律ができれば、これらの公務員に対する攻撃は容認できないという考えが補強されるだろう、ちょうど同じ方法で、警察官を攻撃することは容認できないという考えが補強されたように、というものである。

    アレックス・ネーグルは賛成しない。「既存の枠組で軽微なものから傷害致死、殺人といったひどいものまで、全部の攻撃が適切にカバーされていると思います。重要だと思うのは、NHSのスタッフが巻き込まれた出来事が、適切に調査されるようになっていることです。そうであれば、その後で私たちが問題を警察や公訴局に、又は自分たちの法的保護部に持ち込むことができます。どちらの方法ででも、私達は加害者を法廷に引き出し、適切に裁判を受けさせて、判決を下されるようにします。」

    NHSのセキュリティ管理のプロセス
    (「NHSのセキュリティ管理の専門的方法」の適用)
  • 問題を特定すること
    │リスクを評価すること
    │継続的なリスクアセスメントと再アセスメントプロセス
  • 紛争解決のための教育訓練
    │明確に周知された目的と目標
  • 実施のために効果的な組織を作ること
    │・方針を調整し運営を支持する中央組織
    │・教育訓練サービス
    │・地区セキュリティ管理専門家
    │・各トラスト団体のセキュリティ 担当ディレクター
    │・各医療機関にサポートを提供し、カルチャーを促進する地域専門スタッフ
  • 行動を起こす
    │一般的なアクション及び優先度の高いアクション、例えば優先課題とされた暴力への取り組み
  • 改善を広める
      例 NHSのセキュリティ管理戦略の公表
         新しい教育訓練を広める
         明確な法的枠組みを実施する(法的保護部のサポートを受ける)
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    予防

    事件の報告、調査は重要ではあるが、本質的には事後対応である。リスクアセスメントは、リスクを予知すべきである。すなわち誰がリスクに曝されているか、誰がリスクを引き起こしそうか、またどこでリスクが起こりそうかを特定することである。既に集めたデータ、例えば個人、場所、暴力のリスクが高くなる時間帯などが特定されたデータを、参照することもこれらに入るかもしれない。リスクアセスメントでは、適切な対策が実施できるよう、これらすべてのファクターが考慮される。この分野に関する非常に具体的なガイダンスとアドバイスが「一人じゃない(参考文献2)」に書かれている。

    これらすべてにおいてLSMS役割は重要である。第一に、地区セキュリティ管理専門家と協調関係を作ることが期待される。それにより告発が成功した例や、スタッフを保護するためのその新しい方法を新聞発表することができる。

    技術的なことにも出番がある。アレックス・ネーグルが例を挙げる。「現在、単独作業者について新しい警報装置の試験をしています。それは、地域で一人で働く介護労働者のことを第一に考えて設計したものです。例えば、往診する看護師や開業医のような人です。この装置(Connection2と呼ばれる英国の会社が製造するアイデンティコンという装置)は、コールセンターと接続されています。昨年、私達は23の医療機関でトライアルを実施してうまく行きました。これはIDカード入れのようにも見えますが、実際は携帯電話のように作動します。もし介護者が不安を感じたらカードの裏側のボタンを押せばコールセンターに警報を出します。
      状況がエスカレートして例えば暴言が図れ、介護者が身の危険を感じたら赤い警報ボタンを押せばよいのです。コールセンターが聞き取りを開始して状況を録音します。必要なら介護者を助けるため、コールセンターから警察を呼ぶこともできます。結果がどうあれ、録音は法廷での貴重な証拠となります。 」

    その機器には、警察が介護者を見つけやすくするために、追跡システム(GPSと似ているが、それほど正確ではない)が用いられている。同様なシステムが病院内で単独作業をする医療従事者のために検討されている。この場合、警報装置は、病院自身のセキュリティスタッフを呼び出すために使われる。

    単独作業者の保護を目的とした機器には、他にも固定ボタンを利用した(病院内で使用するための)内部警報システム、警察署とつながった固定パニックボタン、及び攻撃者の耳を聞こえなくし、注意を逸らせて作業者が逃げれる機会を作る「金切り声」アラームなどがある。「一人じゃない(参考文献2)」には適切な単独作業者用機器を選ぶためのガイダンスがある。

    いくら強調してもし過ぎることがないのは、これらの機器は問題解決の一部でしかないということである。それらはセキュリティ管理の包括的アプローチの一部分に過ぎない。アレックス・ネーグルは次のように語っている。「明確にしなければならないのは、これらの機器で作業者が絶対安全になるわけではないことです。適切なリスクアセスメントの結果に基づいて指示されるとき以外には、これらを支給してはなりません。また、スタッフがこれらを使えるよう訓練し、これらが使われたときには組織が反応できるようにする、適切な管理システムが存在していることが必要です。」

     

    安全な未来?

    NHS内のセキュリティのための新しい体制は、確かによく考えられている。過去最大のNHS教育訓練プログラムと文書化された指針によって支えられている。セキュリティ重視カルチャーへ向けた、NHSの最初の一歩は踏み出された。あと批判があるとすればシステム自体の問題よりも、リソースが十分割り当てられているかという点になろう。


     

    略語集
    NHSの暴力と戦いに関する略語ガイド
  • CFSMS(Counter Fraud and Security Management Service、不正対策及びセキュリティ管理サービス)
    NHS内にある特別な健康管理局である。NHSのサービスを実施する上での不正とセキュリティの管理に関係する方針及び運営を担当する。
  • SMS(Security Management Service、セキュリティ管理サービス)
    CFSMSの一部である。SMSは、NHS内のセキュリティの管理に関係する方針及び運営全般を担当する。SMSはこの分野を専門に担当するべく2003年に創立された。
  • LSMS(Local Security Management Specialist、地区セキュリティ管理専門家)
    これは新しい役職である。LSMSは、通常、医療機関内のその地区のスタッフである。その役割はその地区で専門的なアドバイスを提供する、セキュリティを主導する、事件の調査及び報告(例えばRIDDORで要求されるような)である。LSMSはこの役割のために適切な教育訓練を受ける。教育訓練は認定されていて、学位を受けるための単位計算に含めることができる。
  • SMD(Security Management Director、セキュリティ管理ディレクター)
    医療機関ごとにセキュリティ管理ディレクターを任命することが要求されているということは、他の安全衛生と同じく、トップのリーダーシップが重要であるという認識があるからである。ここの機関の中では、すべての面でセキュリティを主導するのがセキュリティ管理ディレクターの仕事である。
  • LPU(Legal Protection Unit、法的保護部)
    この部はSMSの一部である。個々の法律スタッフは、暴力事件の加害者に対して取るべき適切な法的措置をNHSにアドバイスする。場合によってはLPUが実際自ら告訴を行う。
  • 参考文献
  •  「HSEとNHS不正対策・セキュリティ管理サービスの間で締結された協定書」
       HSE及びNHS SMS編2005年3月発行。 
       HSEとNHS SMS間の協力合意の基本的事項を概説。
  •  ひとりじゃない Not Alone :「NHSにおける単独作業者を保護するためのガイダンス」。
       発行者:NHS SMS。2005年3月発行。
       単独作業者に対するリスクをできるだけ小さくしようとする医療機関及びその従業者へのガイダンスを提供している。
  • 訳注
  •  Old Bailey
    http://www.chuo-u.ac.jp/chuo-u/law/2003_04_j.html に書き記述あり。
    ロンドンには二つの大きな裁判所がある。The Royal Courts of Justice(王立裁判所)とCentral Criminal Court、通称Old Bailey(中央裁判所)である。
  •  UNISON
    厚生労働省HP http://wwwhakusyo.mhlw.go.jp/wpdocs/hpyj199401/b0056.html に次の記述あり。
    さらに、93年7月1日に全国公務員組合(NUPE)、国家地方公務員組合(NALGO)及び国営医療職員組合連合(COHSE)の3組合が合併して新労組ユニゾン(UNISON)を結成した。同組合は、組合員数140万人を擁するイギリス最大の労組となった。同労組は、95年に役員選挙を行う予定であり、それまでは、前NALGOの書記長だったアレン・ジェンキンズ氏が初代委員長を務めている。


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