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非居住用建物のアスベストの管理
Managing asbestos

資料出所:The RoSPA Occupational Safety & Health Journal
September 2005
(仮訳:国際安全衛生センター)


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 非居住用建物におけるアスベストの管理を効果的に行い、ばく露のリスクを合理的に可能な範囲でできるだけ低くするために行う安全上の点検について、ピーター・エリスが述べる。この記事は、非居住用建物のアスベスト管理に関して一般的なアドバイスを提供するものであり、具体的な事項については、正式の法的要求事項、公認実施基準(Approved Codes of Practice , ACoPS)、指針、及び英国や欧州の基準を参照されることをお勧めする。

アスベストが最も多く使われているのは、1950年代から1980年代の間に建築、又は改築された建物である。大部分のアスベストは、配管やボイラーの断熱材、耐火材、アスベストセメント板の形態で建物や船舶に使われている。 英国中の建物には、極めて多量のアスベストがまだ存在している。現在、50万以上の非居住用の建物に、アスベストが何らかの形で存在していると推測されている。しかし、建物を建築、改築する際にアスベストを使用することは、現在では違法である。

 アスベストの主な種類としては次の3つがある:

  •  クロシドライト (Crocidolite)「青石綿」
  •  アモサイト (Amosite)「茶石綿」
  •  クリソタイル (Chrysotile)「白石綿」

    アスベストが健康に対して危険なのは、人間がこれに手を加えるときだけである。これは繊維が肺に吸入され、肺を傷つけて疾病の原因となる可能性があるからである。肺に吸入された場合、上記のアスベストのすべてのタイプが危険であると考えられているが、青石綿、茶石綿は白石綿よりも危険であると言われている。

  アスベストダストへのばく露によって引き起こされる主な疾病は、次のとおりである。
  •  肺の障害
  •  肺がん
  •  石綿肺
  •  中皮腫

    アスベストの除去をする労働者は、上記の疾病にかかる潜在的なリスクに直面している。そのほかに、建物の改装、修理又はメンテナンスを行う労働者もこれらの疾病にかかるリスクがある。英国では毎年少なくとも3,500人が過去に受けたアスベストばく露のため死亡していると推定されている。この数は、今後8〜10年の間、上昇し続けると予想されている。

法律

1974年労働安全衛生法(HSWA)は、事業者が合理的に可能な範囲で、職場におけるすべての従業員の健康、安全、及び福祉を確保するよう要求している1999年労働安全衛生マネジメント規則(Management of Health and Safety at Work Regulations , MHSWR)は、労働者の安全衛生に対するリスクを低減させるために、事業者が職場のリスクアセスメントを行うことを要求している。対策には階層があるが、個人保護具(PPE)や呼吸保護具(RPE)は常に、危険有害物質にばく露されるリスクから身を守るための「最終手段」とみなすべきである。

非居住用の建物でアスベストを管理する義務は2004年5月21日に発効した。2002年アスベスト管理規則(Control of Asbestos at Work Regulations CAW)第4条では、「義務を有する者」は、アスベストによるリスクを管理するか、そのリスクを管理する人に協力するという法的義務を持っている。「義務を有する者」とは、アスベストが使われている可能性のある非居住用の建物を所有しているか、占有しているか、管理しているか、又はそれに責任を持っている者である。したがって、「義務を有する者」は従業員を保護する義務があり、また合理的に実行可能な範囲において、自らの行為、不作為で影響を受ける可能性のある他のすべての人を保護する義務があるのである。「義務を有する者」は、その建物にアスベストがあるかどうか、また存在が疑われるかを判断するため、適切かつ十分なリスクアセスメントが行われるようにしなければならない。リスクアセスメントではアスベストの状態を考慮に入れ、その情報を記録して容易に閲覧することができるようにしておかなければならない。

またアスベスト繊維へのばく露に対する必要な対策を決めるにあたっては、以下のチェックを行っておくことが必要である。

  • チェックポイント:アスベストの存在を確認
  • 「義務を有する者」は建物の図面やその他関連情報を調べ、過去に建物の中でアスベストが使われたか、その場所はどこかを確かめねばならない。
  • アスベストを含有している可能性のある材料を特定するために、建物内外を検査しなければならない。
  • 検査に当たっては、アスベスト含有材料(ACMs)がどこにあるかの情報を持っていそうな者、例えば、建築士、従業員、安全代表などと相談する必要がある場合もあるかもしれない。
  • ACMsは存在していないという有力な証拠を示す情報が得られた場合、この事実を記録し、なぜそのような結論に達したかを説明できれば十分である。
  • ACMsが存在していることを示唆する有力な証拠がない場合でも、「義務を有する者」は常に、特定された材料がアスベストを含むという前提に立つべきである。
  • アスベストを含まないことが明白な材料とは、ガラス、ドアや床板などの木材、レンガ、及び石材である。
  • チェックポイント:調査及び/又はサンプリングによるアスベストの特定
  • メンテナンス作業の計画がまったくない場合、そして/又は、建物が小さい場合はACMsが存在しているかどうか結論を出すために、「義務を有する者」が自分で検査を行うのが適切であるかもしれない。
  • より大きい建物の場合、又はメンテナンス作業か改装工事が予定されている場合、ACMsを発見するために、例えば適切な訓練を受けた外部のアスベストコンサルタントを雇って建物の調査を行うのが良いかもしれない。
  • アスベストコンサルタント会社は、「義務を有する者」にその状況下ではどのような調査が最も適当であるかをアドバイスできるだろう。
  • 社外コンサルタントは、その状況で何をするべきか、そして、建物の中でアスベスト・リスクを管理する計画には何が含まれなければならないかをアドバイスしてくれるだろう。
  • アスベスト調査を行う会社と接触するときは、その会社が、そういう仕事について適切に訓練され、経験を有していることを証明するものを見せて貰うようにすべきである。
  • また、外部コンサルタント業者には、HSEガイダンス「ACMsの調査、サンプリング及びリスクアセスメント(MDHS100)」に沿った調査を行うかどうか、また適当な損害賠償保険に入っているかどうかを確認すべきである。
  • 調査では、どんなタイプのACMsが存在しているか、そして建物のどこにあるかを特定しなければならない。
  • 材料のサンプルは、アスベストを含むかどうかを判定するために分析しなければならないことがある。
  • アスベスト含有が疑われる材料のサンプルは、相応の技能を持つ者のみが取り扱うこと。誰がこれを行ってよいかはアスベストコンサルタントがアドバイスできるはずである。
  • 材料サンプルの分析は、英国認定サービス(UK Accreditation Service UKAS)によって認定された組織のみで行うこと。
  • アスベスト調査又はサンプリングがコンサルタント業者によって行われている場合、潜在リスクの最終判断を行う場面では「義務を有する者」も参加しなければならない。なぜなら、建物がどのように使用されているか、どのようにしてアスベストに手を加えることになりそうかを知っているのは「義務を有する者」だからである。
  • チェックポイント:アスベストの使用場所及び使用状況の記録
  • 「義務を有する者」は、建物のどこにアスベスト又はアスベストと疑われるものがあるか、その種類(分かれば)、形態、量、状態を記録しなければならない。
  • その種類、量、及び状態から、もし手を加えられた場合、繊維が空気中に放出される可能性を判断することができるだろう。
  • 建物のどこにACMsがあるかを正確に示すため、図面を用意すること。パソコンのデータベースに入っていれば更新が容易である。
  • ACMsが損傷を受けていないか、例えば表面がほつれていないか、引っか掻かれていないか、はがし取られていないか、表面がむけていないか、損傷していないか、基盤から剥離していないかをチェックすること。
  • また、保護カバーがなくなるか破損して、アスベストのダストや屑が損傷を受けた材料の近くに散らばっていないかどうかもチェックしなければならない。
  • 破損している材料の修理、密封、除去は「免許」を持つ業者のみが行うこと。
  • チェックポイント:アスベストに手を加える可能性の評価
  • 「義務を有する者」は、特定されたACMsが手を加えられる可能性があるかどうかを評価しなければならない。
  • 建物の、いろいろなところにACMがある場合は、手を加えられる可能性とその潜在的なリスクをそれぞれACMについて個別に評価することが必要である。
  • ACMの状態がよく、破損される可能性も少なく、加工を受けたり手を加えられたりすることがないようであれば、通常、それをそのまま残して管理を続けるのがより安全である。
  • ACMsの状態が悪い場合、修理するか、密封するか、閉じ込めるか、除去するかを決めなければならない。アスベスト調査会社、ラボ、又は免許業者が適切なアクションをアドバイスできるだろう。
  • 可能ならACMsには表示を付けるべきである。
  • チェックポイント:リスク管理計画の樹立と実施
  • ACMsに対し、さまざまな手段で手が加えられる可能性について、上記のすべての要素を考慮後したのち、これらのリスクを管理する計画を作成し実行することが必要である。
  • 計画の最も重要な事項は、建物で働く人が偶発的なばく露を受けることのないよう警告を与えることである。
  • この段階で、ACMsを除去するのと、そのまま置いておくのとどちらが安全であるかを判断しなければならない。
  • ACMsを除去することに決めた場合、計画には次のことを含めなければならない:
  •  除去作業の内容と時期、アスベスト作業が行われる場所、アスベストを取り扱う方法、作業者又は付近にいる人を保護しその汚染を除去するために使用される設備の特性、ばく露を防止し又は減少させる対策。
  •  それに加え、アスベスト作業を行う建物には、 作業期間中を通じ、計画の写し保管しておくこと。
  • ACMsをそのまま置いておく場合には、建物の中のその位置を記録しておくことが必要である。
  • 作業許可システムは、アスベスト繊維にばく露されるリスクを管理するための、適切な方法の一つである。
  • ACMsと間違えやすいがACMsでないものについては、注意書きを作ること。
  • チェックポイント:計画の見直し及び検討
  • リスクアセスメントと管理する計画は、いずれかが有効でなくなった場合、又は建物に著しい変化があった場合には、見直さなければならない。
  • 計画で決められたリスク対策は確実に実施され、適切に実行されるようにしなければならない。
  • 状態がよい或いは悪いと判断されたACMsは、その状態が変化していないことを確認するために定期的にモニターすること。
  • チェックポイント:情報提供、教育訓練
  • 「義務を有する者」は、アスベストのばく露を受ける可能性のある者に対し、適切な情報を提供し、教育訓練を行わなければならない。
  • その建物で作業しに来たものはACMsの存在に関する必要な情報を作業開始前に与えること。
  • 材料の所在と状態に関する情報は、それに手を加える可能性のある者やその作業に責任を持つ者すべてに提供されること。
  • ACMsの影響を受けそうな者に対しては、リスクアセスメントから得られた重要な所見、アスベストによる健康リスク、守るべき注意事項、管理限界及びアクションレベルに関して情報を提供すること。
  • 情報提供、教育訓練は、現在の従業員に対するリフレッシュ訓練、新入者に対する受け入れ訓練を含め、一定の間隔で繰り返し行うこと。
  • 情報提供、教育訓練は、作業の種類や事業者が採用する作業方法に著しい変化があった場合、それに合わせるようにすること。
  • 情報提供、教育訓練は、リスクアセスメントで特定されたばく露リスクの程度に応じて行うこと。
  • 詳細な情報
  • 以下の手引きなどが、HSE Books(tel : 01787 881165 , fax : 01787 313995)で入手可能である:
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  • 「アスベスト管理の簡易ガイド A short guide to Managing Asbestos , INDG223(rev3)」
     (小規模でそれほど複雑でない建物用)

  • 「アスベストの総合的管理 A comprehensive guide to managing asbestos , HSG227」
      (大規模で複雑な建物用)

  • アスベストに関する無料HSEリーフレットは、以下からダウンロード可能である:www.hse.gov.uk/pubns/asbindex.htm

  • 以下で詳細情報を見つけることができる
    www.hse.gov.uk/asbestos
    www.ukas.org

  • 論文中で言及した規則は政府刊行物出版局(Stationary_Office)電話:0870 600 5522 で入手できる。