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世界の安全衛生水準高めることに寄与しよう
Raising global OSH standards

資料出所:The RoSPA Occupational Safety & Health Journal
April 2006
(仮訳:国際安全衛生センター)

掲載日:2006.11.14

編注
安全衛生において世界最高の水準にあるイギリスは、安全衛生の発達が遅れている諸国、地域に対して、その体験を生かした働きかけをして、向上に寄与すべきだとの主張が述べられている。国際間における安全衛生への関心はもっと高くすることが必要との意見は、もっともだと思われる。 文中のブレア首相の発言は、「リスクを恐れすぎていないか─ブレア首相の発言の波紋」で紹介している。
掲載の予定
新しいウィンドウに表示しますEU各国間の労働災害統計の比較
イギリスの安全衛生は世界をリードしており、その模範となるべきだとの表明は、下記資料などで見られるところである。
新しいウィンドウに表示しますA strategy for workplace health and safety in Great Britain to 2010 and beyondPDF[85KB]

記録によれば、1945年以来、戦争で亡くなった人よりもっと多くの人が世界中で毎年、業務上の災害・疾病によって亡くなっている。RoSPA(英国災害防止協会、The Royal Society for the Prevention of Accidents)の労働安全アドバイザー、ロジャー・ビビングスが、英国の団体は世界的規模で、安全衛生管理の基準を上げるためにもっといろいろなことができるはずだという主張を展開する。

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労働・年金大臣として労働安全衛生を担当するハント卿は、「英国の安全衛生に対する取り組みは世界をリードするものだ」と強調しているが、これは全くそのとおりである。労働安全及び交通事故に関する英国の実績は、殆ど並ぶものがない水準である。英国における労働災害防止に関してはまだ多くの欠点があるだろうし、労働衛生に関してもまだやるべきことが残っているだろう。しかし、新興工業国の労働環境に比較すると、私たちは、本当に誇りに思っていいものを持っている。そしてそれは他国と共有できるものである。

ますますグローバル化している経済の中で、真の挑戦として立ち向かわなければならないのは、どのようにして職場における安全衛生を改善するか(特に保護の基準が非常にお粗末であるか又は存在しない国で)ということである。

「持続可能性」とグローバルな経済発展に関する議論の多くは、環境問題や地球温暖化、政治的権利などの問題に焦点を当てたものであって、経済活動によって影響を受ける労働者や公衆を業務に起因するハザードから保護するという観点は殆ど見過ごされてきた。1945年以来、戦争で亡くなった人よりもっと多くの人が世界中で毎年、業務上の災害・疾病によって亡くなっているということは、あまり知られていないが悲しい事実である!

労働者保護の向上を世界規模で促進しようとする国際機関がいろいろあるが、その影響力はまだかなり限られたものである。HSE、RoSPA、IOSHなどの英国の団体は、あまり宣伝はされていないが、ジュネーブのILO、国際労働監督官協会(International Association of Labour Inspectors、IALI)といった国際機関を支援することで、影響力のある活動を行っている。しかし、英国が世界の(特にインド、中国、環太平洋諸国の)安全衛生管理水準を向上させるためにできることはまだまだ多い。

5年前、RoSPAは国際開発省(DfID)と共にこの問題を提起し、英国が資金提供する開発プロジェクトでは、労働安全衛生を目玉とするべきであると提案した。我々は(結果的に成功しなかったが)、安全衛生は規制事項であるという固定概念に基づいた否定的な意見に対抗してこの件を議論し、安全衛生は前向きの影響を与えるもので、英国が誇ることのできるものであり、世界中に普及することを支援できるものであることを主張した。

RoSPAは、HSC/HSEが、英国国内にとどまらず、国際的にもっとずっと強力な役割を演じるために、HSC/HSEにより多くの資金を提供しなければならないと主張し続けている。HSC/HSEには、「安全衛生を文明社会の礎石であるとみなし」て、それで「世界に冠たる労働安全衛生実績を達成する」という「ビジョン」がある。

英国内でもまだなすべきことがたくさん残っていることは確かであるが、例えばHSEのような機関にとって、開発途上国の安全衛生を促進する努力を通じて、「安全衛生は文明社会の礎石である」との認識を広めていくことは、国内のみならず国際的にも重要なことである。この意味で「世界をリードする安全衛生へのアプローチを開発する」ということは相互に関連する二つの意味を持っているのである!

昨年、首相は、公共政策研究所(Public Policy Research Institute、IPPR)のために行った演説の中で、英国は「補償文化(compensation culture)を捨て、首相の言うところの「常識の文化common sense culture」を採用するよう求めた(新しいウィンドウに表示しますwww.number-10.gov.uk/output/Page7563.asp参照)。首相の論旨は、英国及びEUにおける現在の対処はすべてのリスクを排除しようとするものであり、これが競争の激しい世界の中で英国に悲惨な結果をもたらしているというものであった。首相が次のように言っているところがある:「ビジネスの世界で、私たちはリスクを受け入れる覚悟ができているインドと中国に敗北する。」(インドと中国が覚悟しているリスクとは、全てのリスクのことなのか、それとも小さいリスクだけなのかは明らかにされていない)。

RoSPAは、「賢明な安全(sensible safety)」という首相の呼びかけを大いに支持するものである。確かに間違ったアドバイスを受けた企業や個人が、安全衛生の名の下に、過度の対策をとる例が多すぎるように思われる(もちろん安全に関してバランスのよくとれた意思決定は毎日何百万も行われているが、私たちがそれを耳にすることはない。というのは、予防がうまくいっているというのはニュースにならないからだ!)

しかしながら、インドと中国に関して重要な点は、労働安全衛生(交通安全は言うまでもなく)に対してリスクをとるというアプローチが、実際にはまったく経済的に利点となっておらず、実際には非効率性をもたらす大きな原因になっているということである(災害は、企業と社会に対する大きなコストとなり、大規模なリソースの浪費となる)。

もっと懸念すべきことは、中国経済における労働災害及び疾病による厖大な犠牲(その鉱山保安に関する記録は戦慄すべきものである。)は、人道的に見て大きな悲劇だということである。

開発途上国における労働災害は、貧しい者により強く影響し、福祉給付、補償、リハビリテーションがないことも相まって貧困の大きな原因となる。災害が、生産力、家族、発展しつつある社会に及ぼす影響は甚大であるが、それでもなお「持続可能性」の議論において安全成績を良くしようという話は仮にあるにしても極めてまれにしか聞くことができない。

人権

経済発展が持続可能であるかどうか決定する局面においては、労働安全衛生がその出発点となるべきである。労働者にとって持続可能でないものが、消費者にとって、地域社会にとって、国家にとって、はたまた地球にとって持続可能であるということがあり得るだろうか? 安全は、発展の邪魔になるものとしてではなく、発展を可能にするものと捉えるべきであり、経済発展が実現して初めて可能になる「ぜいたく」であると考えてはならない。

業務上のリスクから効果的に保護されることは、総合的な人権問題の中でも主要なものと考える必要がある(安全に生計を立てる権利以上に基本的な権利があるだろうか)。しかし、英国と他のEU加盟国が、安全衛生の最低基準を上げようと運動する強力な経済的理由は他にもある。そうすることによって、国際的な競争において、公平な競争条件が確保されるということである。

例えば、昨秋起こった中国からの繊維製品過剰供給に関する論争で、EUが世界共通の安全衛生基準の採択及び実施を求めていかなければならないという議論は殆ど聞かれなかった。これは1990年代初期にEUの自由市場に向けた情勢の中で、共通の欧州安全衛生基準を策定しようとしたときの熱意(しかしながら、実際には実現にはほど遠かったが!)とは対照的である。

当時の議論はいかにして「ソシアル・ダンピング」を防ぐかということだった。しかし現在、多くの輸入品の価格優位性と労働災害・疾病(例えば、職業性難聴、筋骨格系障害、呼吸器疾患、染料によるがんなど)の関係はどのようなものであろうか?

「公正取引」及び「自由貿易」のいずれの陣営にも、「先進国の常識と安全基準を開発途上国に課そうとするのは、新植民地主義の一形態か、表に表れない形の保護貿易主義のどちらかである」と折に触れて示唆する解説者がいる。

しかし、もっと突っ込んで見てみると、次のような説、即ち「開発途上国はきちんとした安全衛生基準をもつ余裕はなく、防げなかった災害・疾病の犠牲者の骨をもって舗装された長い道を通って初めて将来の繁栄というゴールに到着することができるのだ」は単なる神話に過ぎないということが明らかになる。

現在は、インターネットのおかげでマウスのクリック一つで、200年にわたる工業化の間にヨーロッパが学んだ、いかにして労働者を保護するかという経験を手に入れることができるのである。そして、比較的簡単な安全対策費用は企業の予算内であるというケースが殆どである(アフリカ、インド、及び中国でさえ)。欠けているのはおそらく人権の尊重及び文明社会の労働条件を取り入れようという政治的な意思であろう。

RoSPAは現在発足して89年になるが、私たちはさらに適切な分野を見つけて、労働災害・疾病の低減を支援する役割を果たし続けたいと考えている。私たちはもちろん道路、家庭、海上及びレジャーにおける安全の向上にも焦点を当てているし、学校での安全教育を通しての改善も考えている。

自分自身の安全の優先順位と解決策はそれぞれの国が確立しなければならない。しかしRoSPAとほかの英国の重要な安全衛生団体が、もっと効果的な役割を演じて、英国が成し遂げたことを開発途上国の同僚が学習することを支援するべきであるということは間違いない。また、私たちは、そのような国がお互いに学びあうこと、私たちが人脈を持っている安全衛生対策の全分野における広範囲の専門家から学ぶことも支援すべきである。

例えば、私たちはさまざまな国際的なフォーラムで世界中の安全専門家と会い、緊密に協力している。また海外から派遣された多くの人にトレーニングを行っている。さまざまな国の代表が私たちの種々の会議に参加してくれていることは喜ばしいことである。

前進する

グローバルな安全衛生の現場を見る場合、多くの領域で種々の活動が現在行われていることに留意しておかなければならない。ILOや、IALlやWHOなどの機関は素晴らしい仕事をしている。EUの安全衛生団体には、もっと大きな役割を務めることができる可能性がある。国際的な労働組合にも安全衛生の役割がある。安全衛生水準を向上させようという熱意のある多国籍企業がたくさんある。国際的な開発と貧困の削減に集中している団体が多数存在する(しかし、これらには労働安全衛生の専門知識が不足している)。特定の国(例えば、スカンジナビア諸国)から一方向的に(unilateral)安全衛生支援が行われているという、実に前向きの例がある。そして、多数の専門団体や学術団体による国際的な作業がある。

主要な先進国の強力な支援の下に、これらが幅広い協力として結合されたならば、このような努力がどんなに効果的になるだろうと思う。こういう考えは、完全に世間知らずで、この地球上で現在起こっていることがよく分かっていないと思われるかもしれない。しかし、それは経済発展と社会正義を確保するための幅広い努力の中に組み込まれなければならない目標であるとRoSPAは信じている。

開発途上国の安全衛生分野にどのように関わったらよいかを展望するために、私たちは広範囲の議論を深めていく必要がある。安全衛生を国際的な開発課題に高めるためRoSPAのような団体は何をするべきだろうか? 例えば、次のようなことであろうか:

  • 政府やNGOに運動し、パートナーとなって、それらの様々な援助プログラム、開発プログラムに安全衛生リスク管理を組み込むようにする?
  • 貿易取引において安全衛生にもっと強く焦点を当てるよう運動をする?
  • 情報と専門的知識を提供する?
  • 開発途上国のキーとなる専門家を訓練する?
どのようなことをしようと決定しようとも、この線に沿って新しい努力を傾注する場合、かなりのリソースと、専門知識、本当のインパクトを与えることのできる権限のある地位にある、ビジョンを持った人の指導が必要であるのは明らかである。
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