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高齢化問題
Age concern

資料出所:The RoSPA Occupational Safety & Health Journal
July 2006 P.43
(仮訳:国際安全衛生センター)

掲載日:2007.04.04

政府による年金支給開始年齢変更の影響から、労働者は退職時期の延期を余儀なくされている。RoSPAの労働安全アドバイザー、ロジャー・ビビングスが、安全衛生と高齢化する労働人口について高まる議論を解説する。

雇用および職業訓練における年齢差別を禁ずる法令である「雇用均等(年齢)規則2006(The Employment Equality (Age) Regulations 2006)」が昨年10月に施行された。この規則は、民間、公的機関に働く老若男女すべての労働人口を対象としている。客観的にみて不当でない限り、今後事業者は、年齢によって従業員の採用、訓練、昇進、または退職を決定できなくなる。

年齢差別禁止法は、事業者が継続就労を希望する高齢労働者を不正に解雇したり、非常に高齢に見えるという理由で年老いた就業希望者を故意に雇用しないことを防ぐために提議された。

この問題について多くの関心が寄せられているが、高齢者の雇用が安全衛生専門家に投げかける潜在的な問題の大きさを測るための明確なガイダンスは、不思議なことにそれほど多くは存在していない。

私はこの問題について、2004年12月のParting Shotsに寄稿した(参照PDF[83KB])。その後、安全衛生研究所(HSL)は、高齢と安全衛生への理解に役立つ「年齢、健康状態と雇用適性に関する真実と誤解、(Facts and misconceptions about age, health status and employability)」と題する報告書(2005年5月)(オンラインで入手可)を発行した。

HSLの同報告書では、高齢労働者の安全衛生問題のために事業者が講じるべき対策に関する実用的な勧告を多数紹介しているが、まだかなり多くの疑問への回答が得られていない。

高齢労働者の安全衛生に関しもっとも多く提示される問題は、以下のようなことである。

行動面での安全

高齢(そして考え方によっては思慮分別のある)労働者は、ハザードを避ける傾向があるため災害を被りにくい。そのため、高齢労働者を雇用することが安全対策には適切であることが多いと示唆されている。一方で、加齢が進むにつれ、(警戒力、集中力、視力、聴力、反応時間などの)認知力が衰えてくるため、転倒や墜落などによる災害を被る可能性が高まるということも多く示唆されている。

農業では、高齢労働者が農業機械による災害に巻き込まれる可能性が高いことが明らかになっており、道路の安全に関しては、安全と高齢運転者をテーマとする論争が加熱している。(RoSPAアワードに申請している主要公益企業体などの)多くの企業では、自社の行動上の安全実績が優れていることの理由を、全就業者に占める高齢者の割合が高いこと、および高齢者は若年労働者の一般の規範から外れた危険行動を抑える、といった抑制効果にあるとしている。

一点留意すべきことは、高齢労働者は安全文化を好ましい状態に維持する上で役立っている反面、好ましくない習慣も同様に身に付いている可能性もあるということである。

このような状況において、「安全環境調査」や「行動安全観察プログラム」などから得られる証拠は何を示唆しているのであろうか。高齢であることは、安全でないことまたは災害を被りやすいこととは明らかに異なる。また、高レベルの集中力と一貫した操作応答が必要とされるシステムでは、若年労働者も操作能力の低下や注意散漫という問題を免れないことが明らかになっている。

筋骨格系障害

加齢による身体機能の低下により、高齢労働者は腱鞘炎、手根管症候群、五十肩、腰痛などの筋骨格系障害や、脊椎炎などの変形性症状を発症しやすくなるということが多く示唆されている。

加齢により、人間は誰でも身体のうずきや痛みがきつくなる傾向があるが、このような傾向があるために、エルゴノミクスおよびマニュアルハンドリングのリスクアセスメントの結果が変わるとでも言うのであろうか。企業の中でも、とりわけ、慣習法による法的責任に歯止めを掛けたいと望む企業が、このようなリスクアセスメントの結果を利用して、健康や、仕事することへの心構えや十分な体力の要件を非常に厳しくした基準を設定することで、高齢労働者の多くを除外するようなことがあれば、それは由々しきことである。

仕事は、個人個人のニーズに適応させる必要があるが、単に高齢であるという理由で身体能力を要求される仕事から人為的に排除された高齢労働者は、雇用審判所において、不当な年齢差別を受けているという強い言い分を主張することができるだろう。

疲労

先述したことを考慮に入れると、常識では高齢労働者は、極度に激しい体力を要求する仕事には対応しにくいことが示唆される。一般的に、加齢につれて、人間の体力とスタミナは低下し、頻繁に休養する必要が高まる。交替勤務のストレスへも対応しきれなく(あるいはおそらくは、対応する気力がなく)なる。多くの高齢労働者が、長時間の立ち仕事が原因となる諸問題を抱えている。このことが雇用の障壁となってはならないが、職種によっては、適応することはそれほど容易なことではない。

すべり、つまずき、転倒

現在、HSEの重要な優先取り組み課題となっている。とりわけ家庭内や公共の場で高齢者が遭遇する転倒は、重大な問題であり、NHSにとっては大きな負担となっている。骨粗しょう症は多くの高齢女性にとって特別の問題となっているが、労働人口全体に及ぼす骨粗しょう症の影響の程度を示す確かなデータはあるのだろうか。また、たとえばあわただしく走り回りがちな若年者と比べた際に、高齢者のほうが‘足元が不安定である’という考えは正しいのであろうか。

すべり、つまずき、転倒のリスクアセスメントを実施するにあたり、労働人口中、転倒による傷害者に占める高齢者数が実際に突出しているということが、信頼に足るかを確認するために災害データを見る必要がある。

´1日24時間、365日の安全確保´という考え方から、職場外における高齢労働者の転倒防止策について、事業者が考察できることは多い。たとえば、高齢従業員の安全と健康を守るための適切な運動プログラムの奨励などが、事業者に必要とされている。高齢労働者に太極拳をさせることはささいで風変わりなことかもしれないが、運動により高齢者が健康に動き続けることができるという確実な記録がある。

既往症

多くの高齢労働者が、加齢にかかわるさまざまな健康障害を患っている。これらの健康障害はどの程度深刻なものなのであろうか。(HSEと雇用年金省[DWP]が現在大いに奨励している)リハビリテーションのための新しい取り組みは、どの程度有効に働くのであろうか。老人性難聴や危険性の高い騒音レベルへのばく露等の特定問題を考慮し、職場における騒音保護基準は現在さらに厳しくなっているが、保護基準の遵守は、高齢労働者にとりなおさら重要になってきており、聴力が低下した彼らにとって、残されたわずかな聴力を維持することは非常に大切なことである。振動障害についても同様のことが指摘されている。多くの高齢労働者は、振動工具や振動機器の使用により、末梢循環障害が悪化している。

有害物質

(発がん物質などの)長い潜伏期間後、健康へ悪影響を及ぼす有害物質への暴露に関し、病気が発症するまでは長く生きることのできない高齢労働者向きの薬剤管理基準を、緩和するべきだと示唆しようとする声も過去にはあった。これは過去に、電離放射線の照射線量抑制あるいは出産適齢期を過ぎた女性のテラトゲン(催奇形性物質)へのばく露抑制との関連で示唆されてきたものである。この考えは、一般的には倫理にもとるとして度外視されてきた。若年労働者のためのリスク管理基準を確実に高くすべきという原則は、19世紀初頭に採用された。21世紀にはこれとは逆のことが高齢労働者に対し採用されるのであれば、皮肉としかいいようがない。

ストレス

ストレスは、業務上疾病による労働損失日数増加の原因としては第一のものであるが、高齢労働者がストレスを被りやすいという証拠があるとすれば、どのような証拠であろうか。HSEの「ストレス管理基準(Stress Management Standards)」では、作業関連および非作業関連のストレスには関連性があることが認められている。高齢労働者のほうが回復力に富んでいるという証拠があるのだろうか。あるいは、高齢労働者は大きなプレッシャーに耐えられるということなのか。たとえば、比較的に機敏でも頑健でもないが、配属先を転々としている高齢労働者の、1)暴力へのリスク管理と 2)個人の安全確保などの問題、はどのようになっているのか。またここでも繰り返すが、ステレオタイプを思い描くのではなく、労働者を一人ひとり別個の人間として対応することが賢明である。

仕事と生活のバランス

人間の寿命が延びるにつれ、近親者や扶養家族の健康が損なわれたとき、多くの高齢労働者(とりわけ女性)が、過酷な介護をになう立場におかれるようになる。介護負担の増加は疲労やストレスの原因となり、その増加が安全衛生管理に及ぼす影響はどのようなもので、事業者はその問題にどう対応すべきなのだろうか。従業員が介護をすることになったからという理由で、事業者がその従業員を差別してはいけないことは明らかである。介護する従業員の問題に事業者が対応しやすいように、英国介護者協会などの組織が非常に有益な勧告を提示している(www.carersuk.orgを参照)。

雇用前健康診断

新しい従業員に、雇用前健康診断の受診を奨励する事業者が増加している。雇用前健診の目的は、1)既往症の検査、2)すでに規定されている、仕事への心構えや十分な体力の基準に対する診断結果の検討、3)後発する健康障害で、将来作業関連の障害とされる可能性のあるものの判定基準を制定することである。

高齢労働者の健康診断には公正で客観的な方法を採用する必要がある。たとえば高所作業、生産設備の駆動、機械操作など、安全が大きく影響する仕事に対し、組織が非常に高い健康基準を設定すれば、多くの高齢就労希望者を不要に除外してしまうことになりかねない。

以上は、高齢労働者と安全衛生の問題について同僚と討議する中で取り上げたトピックのほんの一部である。健康専門家だけではなく、安全衛生を扱う開業医師の間でも知識と経験を共有すれば有益であり、高齢労働者の安全衛生に向けられている懸念が真実であるか否かを立証できるようにもなる。ジェンダーや人種と同様に、高齢も一般化して考えてはならない。

高齢者差別問題の討議を進めるためにさまざまな組織がどのようにこの問題に対処してきたか、そのケーススタディをわかりやすく示せれば有効活用できると、RoSPAでは考えている。読者からのご意見やケーススタディの紹介は、電子メールで rbibbings@rospa.com までお願いします。
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