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エルゴノミクスを生かし職場の過労を緩和

資料出所:National Safety Council発行
「Today's Supervisor」 2001年8月号 p.10-11
(訳 国際安全衛生センター)

クリントン政権が提案した事業場における新しいエルゴノミクス規則を議会が否決したからといって、労働者と企業はそうした警告を無視すべきだということにはならない。「提案が否決された以上、何の対策を行う必要もないと判断する会社がでるのは間違いありませんが、大半の企業は事業場でのエルゴノミクスの有効性を理解し、引き続きエルゴノミクス・プログラムを実行し、維持していくと確信しています」と語るのは、ノースカロライナ・エルゴノミクス・リソース・センターのアニタ・ゴーリンガー所長である。

労働安全衛生庁(OSHA)によると、毎年約180万人の労働者が、よく知られる手根管症候群などの業務関連の筋骨格系障害(MSD)にかかっている。このうち60万人が、労働時間を損失している。

エルゴノミクス規則は、事業者に対し、反復的負荷傷害についての情報を労働者に提供し、問題発生のリスクのある状況を改善するよう義務づけるものだった。規則案をめぐる議論のおかげで、かつてはほとんど知られていなかったエルゴノミクスという科学が産業界の流行語になり、多くの企業に自主的な改善を強いることになった。

MSDとはなにか?

MSDの兆候と症状を知ることが、問題是正への第1歩である。筋骨格系障害が発生する可能性があるのは、労働者の作業の大部分が、重量物に手を伸ばし、腰を曲げて持ち上げる動作、継続的な筋力の行使、振動機器を使用する作業、反復動作などで占められる場合である。

OSHAによると、労働者に握力の低下、動作範囲の縮小、筋力の低下、日常業務の遂行能力の低下があらわれる場合がある。

症状として多いのは、関節の痛み、手や足のうずき、またはしびれ、上肢と下肢の急激な、または刺すような痛み、膨張または腫れ、硬直、腰または首の痛み、指やつま先の白色化、または手首、肩、前腕もしくはひざの痛みである。

筋骨格系障害には、時間的経過とともに発症する蓄積外傷性障害が含まれる。手根管症候群、腱炎、テニスひじは、いずれもこの分類に入る。腰部傷害、筋肉の捻挫などの急性外傷もMSDである。「不快感や疲労は、個人的なものであれ業務関連のものであれ、生産性を低下させるだけでなく、放置しておくと悪化する場合もあります」と事務用品大手のスリーエムは指摘する。

エルゴノミクス的な問題の解決

「エルゴノミクスは、1個の完成品ではなく問題解決へのアプローチです」と語るのは、オハイオ州オックスフォードにあるマイアミ大学エルゴノミクス研究センターのマービン・デイノフ氏である。エルゴノミクス的問題解決のプロセスでは、作業要件、労働者の身体的および心理的特性、労働者が使用する工具を考慮に入れる。「エルゴノミクス的問題を解決するには、これらの要素が最良の形で合致するような解決策を探る必要があります」とデイノフ氏はいう。

加えてゴーリンガー氏は「多くの事業者はエルゴノミクスを、労働者への補償と医療コストを減らし、生産性と業務効率を上げ、労働者のモラルを高め、健康を改善し、離職率を減らすといった効果を持つ事業戦略として活用しています」という。

OSHAの概算では、労働者1人当たり250ドル未満で、大半の事業場はエルゴノミクス的に健全な場に改善できる。以下は、労働者を快適にし、事業場を安全にするために役立つヒントである。

コンピューター使用者

  • さまざまな高さに調節でき、腰を支えられる椅子を使用する。
  • キーボードとマウスは、ひじを身体に近づけて床に対してとほぼ垂直にできるような位置にする。手首は、ほぼ真っ直ぐに伸ばすべきである。
  • 作業でスクリーンを連続して見る場合は、モニターを身体の正面に据えるべきである。スクリーン上の最上段の文字列が目の高さに位置するようにすべきである。
  • フォントのサイズを拡大する。フォントが小さくなるほど、読み取るために前かがみになる。
  • マウスは軽く持ち、握り締めないようにする。可能な限りキーボードによるコマンド操作を習得する。

配達担当者

  • トラックに荷積みする前に配達計画を立てる。最後に配達するものをトラックの奥に積み、荷物を移動する手間を省く。荷積みのための通路を空けておく。腰を真っ直ぐ伸ばし、下肢を使用して持ち上げる。
  • 荷物庫の扉の間の手摺りを利用して、梃子の効果を高める。
  • 2種類の手押し台車(2輪と4輪)を要求する。これにより各種の荷物の取り扱いのための選択肢が増える。下り坂での配達の際はハンドブレーキを使用する。

製造、組立、または保守

  • 業務に合った工具を使用する(垂直面で使用するためのハンドルが湾曲したプライヤーなど)。また振動と重量を最低限に抑えた工具を使用する。
  • 作業場は、重い工具のための支持物(釣り合い重りや腕の支持物)や、精密な手作業を遂行中に腕を支える物を備えるべきであり、またコードやホースが道具の移動を妨げないようにすべきである。

より詳しいヒントと情報については、ノースカロライナ・エルゴノミクス・リソース・センター(www.ncerc.com)、OSHAオンライン(www.osha.gov)、マイアミ大学の「人的要因およびエルゴノミクスの研究」(www.muohio.edu/psychology/cogsci/ergonomics/)を参照。

(ロア・ポストマン)

この記事の出典[英語]は国際安全衛生センターの図書室でご覧いただけます。