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厳寒からの生還:凍傷防止戦術

(資料出所:NSC発行「Today's Supervisor」2001年12月号 p.4-7)
(訳 国際安全衛生センター)


エリン・フィグの報告:

もし、寒さに打勝つには、単に数枚の上着を重ね着すればよいとあなたがお考えでしたら、考え直してください。厳寒の中を生き延びるための有効な戦術には、寒さから体を護る衣類と装備に関する知識と、それぞれの仕事にあった各種の方策とともに寒冷に関する医学的専門知識が必要となる。

アトランタにある疾病対策予防センター (CDC) の疾病統計センターによれば、アメリカでは年間平均723人の方が、体温の低下が原因で亡くなっている。体温の低下による死亡の殆どは、寒い気候−アラスカ州の死亡率は通常、国の平均より10倍高い−のところで発生しているが、比較的温暖な州でも、同じ原因による死亡事故が起きている。

気温の低いところで働く人は、震えがおき、自分の体がこごえてきたとわかっても、状況の過酷さに気がつかないことがある。「作業者が、暴風雨の中で仕事をする時には、自分がどのように感じているかを具体的に示すよりも、客観的に周りの状況を判定できる別の人が周りにいることが助けになる」と米国赤十字シカゴ事務所安全衛生部のプログラム・サービス部長のユージニア・ブルー氏はいう。

ミネソタ州のある田舎の川辺で、洪水で生じたごみの清掃に呼びだされた、あるベテランの消防署員の例を取り上げよう。彼は、体の体温低下を防ぐ衣類を身につけておらず、他の消防士とは半マイルも離れたところで作業を行っていた。彼の片方のゴムブーツに水が入ってきた。彼の靴下は、ずぶ濡れになった。それによる不快を無視して、彼は働き続けた。彼の体温が急激に低下していき、彼の体は震えだした。手首に巻きつけたベルトが彼の動きを邪魔し、さらに疲労、混乱、思考能力低下といった、より重大な体温低下症状を示しだした。もしも、さらに水の中で立ち続け、医療手当てを受けなかったとしたら、恐らく彼は昏睡状態に陥り、死亡する結果となったかもしれない。


危険を察知する:

しかし、早期に察知し、すぐに手当てをすることで、症状の回復も可能になる。体温低下症状の始まりは、体が震え、しびれ、疲労、運動能力の低下、不明瞭な話し方、皮膚が青ざめ、腫れ上がり、そして理性が失われるといった危険な状態の早期徴候は示すが、多くの場合、はっきりと表に現われない。このような状況は、体温が95°F(35°C)以下になると起きる。「もし、従業員がひどい体温低下にみまわれ、体が震え、意識がなくなる恐れがあるような場合には、すぐに病院に運び込むのが一番」とブリュー氏はいう。「しかし、それは従業員に20分の休憩を与える以上に、事業者にとっては費用の面では高いものになる。そこで、我々は、安全衛生の講義で、予防することの大事さを強調しています」。

ノースウエスト州で起きた最も悲惨な体温低下と凍傷患者の治療に呼ばれた経験があるオレゴン州の内科医、カメロン・バング博士は、嵐の最中に街路に立ってニュースをレポートするテレビ記者のことを思い起こした。「その若い女性レポーターの両足がずぶ濡れになりながらも、仕事に果たすために立ち続けた。彼女は、一日中、一晩中働き続け、彼女はブーツの履き替えもしなかった」と、彼はいう。「彼女は、長期間寒いところに曝された時に起こる、血管のけいれんであるレイノー症候を示していた」。もしも、もっと寒いところだったら、そのレポーターは、恐らく、体の細胞組織のまわりにある体液が凍ることによって起こる凍傷に罹っていたと思われる。

従業員に対して、よりよい装備と衣類を与え、さらに彼らに教育を施すことによって、凍傷患者を減らすことが出来る。「このやり方は、アラスカパイプライン会社では非常に効果があった」と、1980年代には非常に高かった作業員の凍傷率を減少させるために、会社に招かれた専門家の一人であるバング博士はいう。多くの作業者が、きつすぎるブーツを履いたり、靴下を余分に履いたりする間違いが、彼らの足を圧迫させる原因であった。バング博士によれば、人が一番軽視するところは、頭と首である。「あなたの体温の約80%は、頭から失われるのです。もし、あなたの頭が冷えてくると、足に送る血液循環が止まります。帽子か、はだ着を頭にかぶせると、あなたの足はずっと温かく感じるでしょう。私は、作業場で寒い気候での安全について講義をしていて、いつも作業者には少しルーズなブーツを履き、帽子をかぶるよう指導しています」。


寒さとの戦い:

寒い気候に打勝つ闘いの半分は、適切な衣類を身につけることです。「体を乾いた状態に保ち、暖かくさせる方法を見つけることで、ひどい寒さに耐える力が向上します」と、会社や他の産業に対して環境安全対策と生存プログラムを供給しているコロラド州にあるエンビロ・テック・インターナショナルの創立者であるランデイ・グレック氏はいう。「もし、凍え死ぬほど寒いとなれば、仕事どころではなくなります」。

基本的対策とは別に、作業者はそれぞれ違った材質ででき、違った目的のいくつかの衣類を重ね着することをグレク氏は薦める。下着は、湿気(発汗)を外に引き出すポリプロピレンのような材料でできたものがよい。

下着の上には、あまり重たくなくて体を保温するウールかシンスレート(合成繊維商品で保温性に優れている)のような材質のものがよい。一番外側の上着は、風と水を防ぐ機能をもち、防水加工がされているのがよい。電力会社の従業員は、火災の危険を避けるために、身につける衣類にもいろいろ制限がある。

身につける衣類以外に、作業者には、暖かい避難所へのアクセスとともに、休憩と食事の時間を用意する必要がある。そうすることで、1998年にニューヨーク州を襲った氷の嵐の中で、一日に17時間も外で働くといった過酷な作業もやり遂げることができたのである。ニューヨーク州の電力会社の架線作業責任者であるボブ・ファレル氏は、今でも、その時の作業を思い出すと彼の体に悪寒が走る。30年に及ぶ彼の経歴の中で、零下25度から30度の気温下で電気を復旧させるその作業は、人を凍えさせた氷と雨とともに、最も過酷なものだったと後世にいい伝えられるものであった。彼の部下達は、カナダとの国境に近いピッツバーグという町の電気を2週間で復旧させるという困難な仕事に直面した。「ひとつの農場の電気を復旧させるためには、ひと組の作業者達が一日中フルに作業する必要があった」と彼はいう。「作業開始の初日に、我々は全員、寒さには十分気をつけろと指示された。連中は、その困難な仕事を、外の寒さに耐え忍んで約3時間続けて働くことでやり遂げた」。

危険な天候にもかかわらず、ファレル氏の記憶では、誰一人凍傷に罹らなかったという。それは、経験深い架線作業者である彼の部下達が極寒の天候に慣れていたお陰だと彼は考えている。「もし、寒く感じたら、彼らは、車(暖房された避難所)に戻って暖をとり、いつでも自由に暖かい飲み物をとることが出来た」。

暖かい飲み物の補充とカロリー補給は、作業者が、寒さから回復する力を得る手助けとなる。多くの安全衛生の専門家は、体内の水分維持のためには、アルコールの入っていない飲み物を十分取るように薦めるが、アルコールは薦めない(アルコールを体内で消化するために急激に体温が失われる)。しかし、冬の過酷な寒さの程度によるが、屋外にいる時間を監視することで、寒さによるストレス症状を防ぐことができる。一年のうち寒さのピークとなる冬の期間で零下50度の低温下では、作業者が屋外におれるのはせいぜい15分から1時間である。「作業者は、呼吸が十分とれる限りは、通常一回に1時間から2時間位は屋外で作業ができる」と、アラスカ州フェアバンクス(北極圏の150マイル北)にあるノース・スター・トーイング社の社長のデール・リキシ−氏はいう。

この会社の従業員の典型的な一日は、従業員に忍耐を要求する過酷な障害物コースといえる。彼らは、霧氷が深い道路に立ち向かい、北極の風の寒さと闘い、車両の下にもぐり、溝から車両を引き出すことが要求される。特別な訓練が要求されるわけではないが、彼らは、身体を良い状態に保ち、その土地の地形に精通し、同じような気候での経験を踏んでいなければならない。例え、熟練の作業者でも、緊急事態や事故に備える応急対策を練っておく必要がある。このような極寒の気候では、彼らが路上での緊急事態に対応する際、自分の車も故障を起こす危険がある。極寒地で懸引を業とする会社の多くは、従業員の車が故障したり、従業員が急に病気になったりする場合のために、彼らのトラックには、双方向無線機、暖房機、毛布と非常用備品などを装備している。そうすることで、従業員は、救助を待つ間も体を暖かくしておくことができる。

従業員がどれだけ多くの教育や生存するための訓練を受けたにしても、緊急の連絡ラインをいつも開いておくことが、同様に重要となる。監督者は、緊急事態発生の連絡を受けることで、適切な行動をとることができる。「もし、従業員が、気分が悪くなったら、すぐに監督者のところに行き、"交替休憩をとってもよいか"と聞くこともできるし、"自分のトラックでしばらく休みたい"と申し入れることもできる」と米国赤十字のブルー氏はいう。「休憩は、一日の作業予定に組み込む必要があり、昼食をとるためだけのものではない」。

心臓血管の病気、糖尿病、高血圧といった病気をもっていると、寒さによる症状をさらに悪化させる危険性がある。加齢、健康状態と投薬治療などにより、暴風雨に対する抵抗力が弱まっている可能性もある。事前によく準備することが、自然が与える厳しい状況に対して最もよい防御となる。従業員に防御服を着させ、非常用備品を供給し、連絡システムを確立することで、あなたが責任を負っている従業員の生命を護ることはいうに及ばず、従業員の安全衛生を護るという長い道のりを歩むことができるのです。


極寒の中で働く作業者を護る方策

  • 寒くて、体が濡れ、強風が吹く状況に対応できる適切な防御服を供給すること。さもなければ、作業者に自分でそれらを購入するよう要請すること。
  • 寒さに関係する病気の徴候と寒さを防御する方法について従業員に十分教育をすること。
  • 風を考慮した体感相当温度が20°F(-7°C)以下の場合、長期間屋外で働く従業員に対しては、暖房を施した非難場所を設置すること。
  • 従業員には、休憩をとることを許可すること。
  • 一日の最も暖かい時間帯に屋外作業を予定すること。
  • 屋外での作業の際の連絡システムを確立すること。