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職場での暴力にいかに対処すべきか?

(資料出所:NSC発行「Today's Supervisor」2001年12月号 p.10-11)
(訳 国際安全衛生センター)


モーリーン・コンレイの報告:

2月5日、ナビスター社の元従業員であったウィリアム・ベーカーは、シカゴ郊外に位置するイリノイ州メルローズ・パークにあるナビスター社の工場内に押し入り、AK-47銃を発射した。そして4人を殺害し、4人を負傷させた後自殺した。彼はこの次の日、数年前に会社から部品を盗んだ罪で刑務所に入ることになっていた。

このような悲劇が、新聞の見出しをかざり、職場での暴力に焦点が当てられている。これらの悲劇は、果たして現在の法律や政策が職場での暴力から従業員を適切に護っているのかどうかについて、疑問を投げかけている。しかしながら、法というのは通常は少しずつしか変わらない。その理由のひとつは、職場での暴力に闘うにはどのように対処するのが一番良いかということについて、専門家の意見が一致しないからである。だから、職場での暴力の予防対策は、ますます、安全衛生の専門家に委ねられてきている。


あちこちに怒りが充満:

最近のギャラップ調査で判明したことだが、従業員の10%の人は、同じ職場の同僚の行動に不安を感じ、暴力をふるうのではないかと心配している。5%の人は、過去1年以内の間で、自分の身の安全が同僚の人から脅かされたと感じたことがあると述べており、18%の人は、彼らの職場で実際に起きた脅しや口頭による威嚇事件のことを知っていた。

調査結果で一番驚かされたのは、調査に応じた14%の人が、過去1年以内に同僚に対して殴りつけたいと感じるほどの怒りを覚えたと述べていることである。フルタイムやパートタイムで働く1億3千万人の人の職場で、1800万を越す人々がこれに該当しているのである。コネチカット州のノースヘブンにある職場通信発行社のマーリン社は、労働感謝の祝日にあわせて毎年行っている調査をギャラップ社に委託した。マーリン社のフランク・ケナ社長によれば、調査結果は、"多くの怒りがあちこちに存在している"ことを示しているという。

怒り、ストレス、暴力は、すべて相互関係があると彼はいう。ケナ氏が薦める解決策は、従業員と管理者との間で対話を始めることである。先の調査に応じた人々の内、「75%の人は、自分達の管理者と職場の暴力について話し合ったことはないと言っている」。


政府の役割は何か?

職場での暴力についてのOSHA(労働省安全衛生局)の役割は、限定されている。職場での暴力をカバーする連邦政府の法律は現在存在していない。しかし、OSHAは、安全衛生法の総則に基づき、事件の事例集を発行できるのだが、殆ど発行できないまま、現在に至っている。最近の努力としては、高危険度の産業界に焦点を当てた手引書作成に力を注いできた。これまでに、OSHAは三つの手引書を発行している:健康推進と社会サービス、深夜まで開いている小売店舗、タクシーとハイヤー運転手。

米国産業衛生協会(AIHA)は、OSHAに対し、もっと各種手引書を作成するよう望んでいる。衛生協会はOSHAに対し、連邦基準の必要性とその範囲について関係者と協議を始めるよう、要請している。従業員が職場で暴力による傷害を予防する方法について、OSHAは関係者から意見を求めるべきだと協会はいう。さらに、協会は、安全衛生の専門家に、仲裁プログラムや基準の作成と実態調査研究にもっと積極的に貢献するよう求めている。産業衛生専門家は、会社を手助けして、環境設計、管理方法と行動戦略などを包括する、文書による産業別の暴力予防プログラムを構築するべきである。

衛生協会は、さらに暴力予防に関する調査研究のための資金つくりを継続するよう要求している。この調査研究は、特殊産業界における危険要因の特定;傷害発生率の分析、会社が損害を蒙った時間とコスト;安全管理の効果の評価;仲裁戦略の効果の確認などに焦点をあわせる必要がある。


職場プログラムの見直し:

米国安全技術者協会(American Society of Safety Engineers)は、最近、職場での暴力の認識とその予防方策について、全国の安全専門家と危険管理者の調査を実施した。調査結果によれば、報告された職場暴力事件の数は以前とほぼ同じであったが、従業員は依然不安を感じている。調査結果の結論として、専門家協会は、事業者に対し職場暴力の予防プログラムの見直しを求め、予防プログラムの改善方法を提案している。

第一に、企業の上級経営者は、はっきりと暴力に反対する会社の方針−文書による−を推進する必要があると協会はいう。会社方針は、従業員に配布され、従業員と協議しなければならない。経営者はさらに、苦情受け付け制度や治安とハラスメント対策を保持し、従業員の雇用のやり方を改善していく必要がある。

組織の危険管理者と安全衛生部は、むしろ人事部以上に、攻撃的で暴力的な従業員の行動に対して警告を出すことに、従業員全員をなれさせていかねばならない。経営者はさらに、脅迫行為の実態を知り、暴力をエスカレートさせない技術や、人事査定や懲戒に関する取り扱いといった人間の"人心掌握技術"も磨かねばならない。

安全専門家もまた、職場での暴力の危険度調査を正式に実施し、その結果に基づき行動を起こす必要がある。これらの内部調査は弱点もあるが、職場での暴力行為が起きる可能性を知ることができる。


統計の数字はどうなっているのか?

最近の立法機関と協会の調査によれば、職場での暴力行為の発生は増加しているようである。但し、職場での殺人事件は、実際には、1992年に最初に統計が集められて以来、最も少ない件数となっている。労働省が1999年に作成した、職場での死亡災害全国調査の報告書によれば、1999年には645人が殺害されており、1998年の709人から減少、1994年から1998年間の平均では、921人となっている。

事実、年度毎の職場での殺人事件の数は、毎年報告されるアメリカ労働者200万人の職場の"暴力犠牲者"統計でも減少している。全国犯罪犠牲者調査でも、1992年から1996年間の犯罪犠牲者のうち、150万人は単純な暴力の犠牲者であった。40万人は、悪質な暴力の犠牲者、8万4千人は、強盗の犠牲者、5万1千人は強姦と性的暴力の犠牲者であった。この犠牲者報告書では、上記以外に、毎年600万人の従業員が同僚から仕事中に脅しを受け、1600万の人が各種のハラスメントを受けたと推定している。

1996年の国立安全衛生研究所(NIOSH)冊子によれば、依然として、殺人は、職場での死亡原因の上位2番目にあり、女性にとっては一番高い原因となっている。殺人は、さらに18才以下従業員の死亡原因の中でも一番高い。毎年発生する暴力犯罪の約20%は、勤務中に起こっている。職場での暴力の危険性は、職業によって大きく差がある。一番危険なのは、一般大衆に接する仕事に就く人達であり、酒場、お金の交換、配達、小売、法の執行(警察官等)に係っている人々である。今日まで法制上の取り組みは、このような危険なところで働いている人々に焦点をあわせてきた。もっと一般的な職場での暴力行為を法律で規制することは、さらに複雑なものになる。


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