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ガスおよび化学物質による傷害を防ぐ
Anna Viadero

(資料出所:National Safety Council発行「Today's Supervisor」 2001年9月号 p.10)
(仮訳 国際安全衛生センター)


「有機リン農業はどのような種類のものであろうと、1回の暴露でさえ脳波に異状をきたし、それに付随して記憶喪失、注意力散漫、性欲の喪失、不眠症の症状が現れる危険性がある」と、労働環境医学センター(Center of Occupational and Environmental Medicine)のウェブサイトは警告している。さらに、現在産業界で使われている数千種類の化学物質のいずれかに高レベルで暴露された場合には、皮膚、肺、目の軽い炎症(非浸透性の浅い傷害)から、皮膚や組織の深部に及ぶ修復不能の破壊に至るまで様々な傷害を引き起こす可能性がある。

換言すれば、ガスや化学物質は極めて高度の危険を伴う可能性があるということである。傷害を回避するためには、作業従事者は自分がどのような危険物質を扱っているのかを理解する必要があるばかりでなく、所定の手順に注意深く従わなければならない。

知識と実践

「従業員が傷害を負う原因として、各化学物質に添付される化学物質等安全データシート(MSDS)の推奨作業手順を読んでいない、十分に理解していない、きちんと従わない、さらには取り扱う物質の危険性について適正な訓練を受けていない、適正な保護具を着用していない、といったことが挙げられます」と、テキサコの安全衛生環境部門のジェラルド・コリンズ安全担当主任は指摘する。

化学物質はアルカリ性と酸性に大別できる。ベストの『Safty Directory 1998』によれば、このうちアルカリ性物質の方がより重度の傷害を引き起こす可能性がある。アルカリ性物質には灰汁、石灰、アンモニア製品などがあり、酸性物質には硫黄、酢酸、塩酸などがある。ガスについては明確な分類がしにくい。したがって自分の取り扱うガスとその潜在的副作用について、MSDSで十分に調べる必要がある。

過去においては、大多数のガスおよび化学物質の体の表面への暴露に対し、標準的手順として水で洗い流す方法が採られていた。アメリカ救急医科大学(American College of Emergency Physicians) のブライアン・ハンコック博士(医学博士、FACEP)はガス・化学物質の事故に対してワンパターンに対応してはならないと警告している。扱っている化学物質やガスを知り、それらの物質や個々の問題を踏まえて適正に対処すべきであるという。

現在産業界で使用されている化学物質やガスは多種多様であるにもかかわらず、産業界をはじめ関係者は問題に先制的に対応している。「関係者は強い関心をもって、いろいろな方法でガスや化学物質の事故を防ごうと努力しています。州や地方の規制を遵守したり、事故調査後の指導に対して受容的かつ協力的な態度で応じることも、その例といえます。」と、化学物質安全性調査委員会(Chemical Safety and Hazard Investigation Board : CSB)のボブ・ウェイジャー議会広報担当局長は語る。

労働安全衛生庁(OSHA)の危険・有害性の周知徹底基準(Hazard Communication Standard)(1910.1200)が1987年に議会を通過して以降、企業は従業員に対し、ガス・化学物質の安全性に関する訓練を施すこと、並びに取り扱う物質が変更された場合には適宜再訓練を施すことが義務づけられた。ダウケミカル・ミシガン工場のゲリー・ラチャペル環境衛生安全主任は、「当社ではベーシックオペレーターコースとケミカルオペレーターコースの2つを設けて訓練を行っています。従業員全員を同じ知識レベルに保つことは、危険な物質を安全に取り扱ううえで大きな効果があります」と語る。

MSDSは、業務上取り扱われるすべての危険有害物質について事業者を通じて配布することが義務付けられている。これはウェブサイトwww.msds.pdc.cornell.edu/msdssrch.asp*1でオンラインで閲覧可能である。環境保護庁(EPA)の警告によれば、MSDSは製品の危険有害性をリストアップしているが、製品が事業場内部や他の仕掛かり品に接触した際にそれらの危険有害要因物質が変化するのか、どのように変化するのかについては指摘していない。この点に関してはジョン・ホプキンズ大学出版の『シェパード催奇形成物質カタログ(CTA)』が役立つかもしれない。また監督者は取り扱う物質に関してOSHAの許容暴露限界(PEL)を承知しておくべきであり、また事業者もこれらの物質を十分に理解すべきである。

*1JICOSH註)現在はこちらhttp://msds.pdc.cornell.edu/msdssrch.asp

保護具および作業場

保護具は危険有害物質から身を守る上で有効ではあるが、万全な保護を期待すべきではない。化学物質およびガスを安全に取り扱うことが必ず必要である。「適正な保護具については、MSDSおよび緊急対応ガイドブック(DOT Orange)中に、各化学物質別に詳しく説明されています。」とコリンズ主任は述べる。監督者は、各々の具体的なニーズに基づいて保護具を選ぶとよい。

化学物質安全性調査委員会(Chemical Safety and Hazard Investigation Board)の1999年声明の中でビル・ライリー報道官は、事業場の建設に当たっては事故抑制を目指して適正な措置を講じるべきであると述べた。同報道官はさらに、OSHAなどの組織が定期的に安全性監視点検を実施することの重要性を強調した。ラチャペル主任によれば、事業場全体が安全な労働条件を常に心掛けることが重要である。「我々は従業員同士の交流を通じて安全な行動を奨励、強化するとともに、安全でない行動を目撃したときには改めるよう働きかけています。」と同氏は述べる。

事故への対応

「自分が取り扱っている薬剤について前もって十分な知識を得て準備しておくこと、被爆した場合にどのような症状が起きるか、緊急安全装置がどこにあるか、MSDSがどこに保管されているかを確認しておくことです」とハンコック博士は指摘する。事故が発生した場合、知識が最善かつ最初の防御である。

同博士はさらに救急隊員に危険有害物質とその事故について十分な知識を提供しておくこと、および該当するMSDSを提供しておくことを提言している。ハンコック博士とEPAの両者とも、前もって事業場内にある危険物質に関する情報を最初の緊急通報応答者および地域内の病院に提供するよう助言している。このような対策を事前に講じることにより、救急隊員や病院関係者は事故による傷害に対処する万全な体制を整えることができる。

最後の注意点として、事故が発生しないうちに救急設備を適時点検し、即使用可能な状態にあるか、緊急対応手続きが定められているかを確認する。また事業場内の全員に緊急装置の操作方法を周知徹底させる。

「事業者と従業員が協力することで危険有害物質の安全な取り扱いに向け結束した体制を築くことができます。安全な行動を褒め、危険な行動を改めるようにするといった形で、各個人が責任をもったり訓練や介入を行うことが不可欠です」とラチャペル主任は述べる。

他の情報源

  • Guides to Environmental Risk Management of Chemicals―アメリカ全国安全協会のウェブサイトwww.nsc.org/xroads.htm*2からダウンロード可能。
  • 化学物質の安全性に関する文書はCSBのウェブサイトwww.chemsafety.govで閲覧可能。
  • 連邦情報はwww.epa.govでアクセス可能。
  • OSHAの安全管理基準については、www.osha-slc.gov/SLTC/processsafetymanagementで確認のこと。

*2 JICOSH註)現在はこちらhttp://www.crossroads.nsc.org/chemicals.cfm