このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。

安全点検は、職場に刺激を与える

(資料出所:NSC発行「Today's Supervisor」2002年4月号 p.4-7)
(訳 国際安全衛生センター)


スーザン・メイヤーズ記:

フォード自動車会社の目指すところは、すべての従業員が出勤して来た時と同じ状態で、安全に、怪我をすることなく、帰宅につくことだ。会社が二年ほど前から安全を強化して以来、災害率は、30%から40%の低下が見られた。フォード社が新たに採用した“自ら安全行動をとる運動”(Safety eadership Initiative)は、組織のあらゆるレベルでの安全に関し、すべての従業員に責任を持たせようというものである。ミシガン州デアーボーンのフォード社の安全部長クリス・パターソンは、「我々は、全ての不安全な行動や作業環境に対し、情状酌量しないことにして来た。」という。

“自ら安全行動をとる運動”の鍵というべき要素は、監督者の日々の職場点検であり、継続して、安全点検が常に行われている状態とすることである。全ての監督者は、実績評価の一部として算入される一定の安全目標を達成することに責任を負っているのである。


安全検査は、日常の責任事項

安全の専門家は、安全点検が全ての監督者の日常業務の責任事項の一部であるべきことに同意している。イリノイ州ローズモントの「安全と健康のコンサルタント会社」社長ジェフリー・キャンプリンは、「監督者は、定期的に、途絶えることなく、点検を行うことが必要である。」という。

安全点検は、会社全体の安全プログラムのほんの一部に過ぎない、としている限りは、一寸したことでも大きな違いを作り出すようなことになるのである。安全点検は、不安全な作業環境や行動が災害をもたらすこととなる前に、安全を確保する為に行うよう認められていることが本当に行われているかを監視し、不安全な作業環境や行動を見つけ出し、正すという品質管理機能の働きがある。部門レベルで、監督者は、安全の舞台を設定し、従業員の態度や行動を活性化し続けるのである。イリノイ州パーク・リッジの国際倉庫物流協会の社長兼COOジョエル・ホイランド氏は、「監督者が安全な職場を維持する上での鍵であり、もしも監督者が安全について定期的に話しをしたり、行動で示すことがなければ、安全は、レーダー・スクリーンから消えてしまうことになるかもしれない。」という。


点検実施の条件

安全点検を効果的に実施するために、監督者は、適切な道具と人材を持つ必要がある。これには、安全訓練、点検を実施するための時間、不安全作業環境を記録し、追跡するためのコンピューターやデータベースと不安全作業環境を正すための予算や人材が含まれる。メリーランド州アナポリスの安全コンサルタント会社、スター・コンサルタンツの認定産業衛生士、認定安全専門家で社長のポール・エスポシト氏は、「多くの点検過程の問題は、監督者がこうした資源の全てを必ずしも適所に持っていないが為に、同じ問題が繰り返し起こっていながら、適切な改善が決して行われることがないということである。」といっている。

一旦こうした実施諸条件が整ったならば、安全点検に取り掛かり得る。安全の専門家は、監督者が点検を実施する際には、以下の措置を取るよう勧告している。

  • それぞれの職場環境に合わせた記録シートを作る。−−チェック・リストを展開する際の助けとなる労働安全衛生庁のウエッブサイトを参照することができる。このサイトは、いろいろな産業に固有な労働安全衛生庁遵守基準と災害を列挙している。不安全行動は、実際の作業手順書からも編集することができる。
  •  チェック・リストに含まれるべき安全項目につき、その作業区域内の安全要員や安全専門家と相談する。−−エスポシト氏は、チェック・リストを通路・作業場、感電防止、防火、機械防護柵、個人用保護具、危険物質というように幾つかの範疇に分類することを勧めている。これらの範疇には、各分類での点検項目に特定の基準が含まれていなければならない。

  •  安全点検を実施し、その結果を文書化する。−−整頓された作業場、からまっていない電気コード類、適切な照明、その前に物が置かれていない出口と消火器、避難路図示、機械防護柵、危険な場所への立ち入り禁止・その表示、個人用安全衛生保護具、そしてその業種に特有の安全や環境問題についても現場を隈なく歩き、点検しなければならない。ホイランド氏は、「監督者は、両目、両耳、鼻、それに手触りといった全ての感覚を働かせねばならない。川原(職場)の石は、一つ残らずひっくり返して点検する。完全なものにするには、全ての装置や工程の中、上、下、周囲の点検を行わなければならない。不安全な環境は、つい見落としそうな、何気ない状況から生じるものである。

  • 従業員の作業時の実際の行動、態度、安全手順を評価し得るように従業員が就業中に点検を行い、従業員に接し、いろいろと聞いてみることが必要だ。−−監督者は、常時、従業員との開かれた意思疎通回線を維持していなければならない。エスポシト氏は、「従業員は、恐らく、その装置につき、監督者である貴方よりも精通しているのだから、どのような問題に気付いたか、何故こうした問題が起こっていると思うのかを従業員に尋ねるべきである。問題に単にバンド・エイドを貼り付けるのではなく、永続性のある、本当の解決策を講ぜられるよう、問題の原因、即ち問題の根源を把握するべく、努めなければならない。」という。例えば、電気のコンセントがいつも問題となっているならば、ただ単にそれを直す代わりに、それらが巧く作動しない理由に取組むべきであろう。」と説明している。エスポシト氏は、もしもあなたがあまりよく知らない区画や装置を点検するときは、その区画を熟知した従業員に同行してもらい、点検中あなたに付いて、あなたが危険要因を思い出す手伝いをしてもらうのもよい、という。

  • 所見をチェックリストに記録し、完全にノートに書き残す。−−あなたのデータを一層組織的なものとし、まとまりのあるものとする助けとなるソフトウェア・データベース・プログラムの使用を考慮すること。
  •  データを分析し、修正を行う。−−あなたのデータを再検討し、問題の分野を明確にし、最大の危険と災害を示している分野を決定することにより、優先順位をつけること。また、再現性と傾向に着目せねばならない。これにより、一層の訓練を行うとか、あるいは行動上の変更を行うといった、より総合的な改善案を必要とする、組織立った問題点を示すことになるのだ、とエスポシト氏は、付け加えている。

  •  あなたのデータを要約したならば、それを経営陣に提示する用意が出来たことになる。−−特定の問題点、傾向、また、可能な解決方法につき検討する準備を整えること。この時点で、あなたは、組織内の工場長、保守および施設の監督者、安全委員会、また、問題の分野で実際に働く作業員と言った他の人達を参加させることを検討するべきである。「出来る限り、多くの草の根の人々を参加させなさい。」とエスポシト氏はいっている。フォード社のピーターセン氏も「解決方法を展開する上でより多くの人々を関与させるならば、それだけ巧くいくことに繋がる。」と賛意を表明している。ピーターセン氏は、フォード社の監督者は、安全問題と問題分野を討議する定期的な安全フォーラムを開いているという。従業員は、必要情報を提供し、可能な解決方法の展開を助けることでやる気になっている。また、従業員に最新の情報を伝え、彼等の安全プログラムに対する熱意と当事者意識を盛り立てるために、各部門で月々安全スコアーカードが張り出されている。

  • 点検内容を絶え間なく更新する。−−貴方の部門に新しい装置や作業手順が加わった時には、あなたの点検チェックリストを確実に更新しなければならない。また、新しい安全上の事故や問題分野を、それらが見つかり次第、追加せねばならない。
    所見件数が減少している際には、この機会を更に特定の安全問題を深く掘り下げるために用いなければならない、とエスポシト氏は、勧めている。

  • 問題解決のゆくえを追う。−−あなたが同意し得る解決に至ったならば、その解決方法を時期を失することなく実施しなければならない。解決策を実際に実施するのに要する時間を追跡し、その後に解決策の有効性を評価せねばならない。エスポシト氏は、「管理者の言葉は、それが行動を伴わない限り無意味である。」といっている。ピーターセン氏は、「行動を伴う追跡がない限り、管理者は、信頼を失い、安全に対するあなたの会社の取り組み姿勢であることを実証出来なくなってしまう。」と同意している。

監督者による日常の安全点検に加え、フォード社では、安全点検とバランス・システムを提供するために組織内の異なる部門からの者による定期点検も実施している。この点検には、安全専門家、工場長、更に、偏りのない評価が行えるよう工場外の外部安全委員会による点検が含まれる。成功裏に点検を実施する鍵の一つは、適当な研修を行うことであると、ピーターセン氏は、いっている。

全てのフォード社の監督者は、任命されたとき、40時間の安全研修を受けている。この研修は、会社組織上の手順、指導者としてのスキルと技術的な安全問題を網羅している。
より技術的分野で働くことになる監督者は、追加の安全指導を受ける。再教育コースは、毎年行われている。あなたの作業分野の従業員もまた安全研修を受けるべきである。

安全コンサルタント会社のキャンプリン氏は、「貴方は、従業員に安全の恩恵とそれが如何に違いをもたらすものなのかを示す必要がある。従業員は、また、安全手順を遵守しないことの結果を、実際の例を見て知る必要がある。」という。


安全は、チームで努力すべきもの

あなたの安全プログラムに対する従業員の支持を盛り上げるには、従業員の協力を求め、安全に対しても責任を持たせるべきである。例えば、従業員が事故やニアミスに関する書類作成を手助けすること、日常の環境測定と安全評価へ参加すること、安全方針と手順策定のための手助けをすること、また、安全委員会の一員となることを認めるべきである、とピーターセン氏はいう。

ホイランド氏は、「安全は、チームで努力すべきことであり、雇用主と従業員の双方で分かつべき責任である。職場安全の鍵は、監督者により日々補強されるべき雇用主の優先事項でなければならない。従業員もまた、安全で優秀な結果を残すためには自らの役割を果す必要がある。」という。

キャンプリン氏は、安全に対する取り組み姿勢の表明は、トップ・ダウンで始められるべきであるという。「安全は、経営陣が口火を切り、会社全体のカルチャーに具現されるといった趣のものでなければならない。従業員は、安全プログラムの背後には、経営陣がおり、問題点が明確になった安全手順が守られていないとなると必ず動き出すものであると認識すべきである。一旦従業員がこうした考えを信じ込み、経営陣が心底安全に留意していることを知るならば、率先してことに取り組み、貴方の安全プログラムの耳目となるのである。」とキャンプリン氏は主張している。キャンプリン氏は、また、一組織全体に対する安全の利益は、広大なものであり得るというのである。

良好な安全プログラムによって、事故や災害が減り、生産性が改善され、保険料率も低下することになるであろう。キャンプリン氏は、「安全は、採算に合うものである。良好な安全プログラムは、利益率を向上させるばかりでなく、従業員の士気をも改善することになろう。」といっている。