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職場での争いをなくせ

(NSC発行「Today's Supervisor」 2002年2月号 p.4-7)
(訳 国際安全衛生センター)


スーザン・メイヤーの報告:

ひとつの部屋に二人の人間が働いていると、時には争いが起きるのは避けられません。その争いは、深刻なものなのか、ささいな争いなのか;その結果得るところがあるものなのか、全く意味のない争いなのか;うまく処理したのか、まずい処理をしたのかといったものに分かれる。しかし、争いというものは、形態はいろいろ違うが、どこでも必ず起きるものだと、デラウエアー州のウィルミントンに住んでいる心理学者ステファン・デジュ−リオ博士はいう。

組織内で起こる争いの形態は、職場環境と経営者の管理スタイルに左右されることが多い。ストレスの高い職場環境や、いつ失職するかわからないような職場環境では、争いは一段と増えることになる。「争いの根底には、恐れがあるのです。自分の守備範囲を失うのではないか、他人にうまく利用されるのではないかといった種類の恐れなのです」と、カリフォルニア州ベイカビルにあるアセスメント・リソーシス社の心理学者であるブルース・サンダース氏はいう。「もしあなたが、事業規模縮小とかリストラ中といった不安定な状況の中にいるとしたら、もっと多くの争いが起こっても不思議ではありません。」

しかし、そのような状況下での争いは、積極的な力になる可能性もある。「我々はよく争いを否定的に考えるが、それが組織を前進させ、変化を促し、前向きの解決策に向かわせる積極的なものにもなるのです」と、サンダース氏はいう。監督者は、意思疎通を良くし、人の話をよく聞く技能を駆使することによって、否定的な争いを減らし、前向きな職場環境をつくりあげるよう、手助けができるのです。


従業員を驚かせる経営手法

前向きな職場環境をつくり上げる最初のステップのひとつは、従業員のニーズと心配事によく耳をすませることである。サンダース氏は、これを"従業員を驚かせる経営手法"と呼ぶ。この"驚かせる手法"には、従業員やそれ以外の人々が何を考えているのかを調査する監督者も関係する。細かい質問をし、その答えによく耳を傾けよう。同じ部の従業員だけでなく、顧客、業者、他部門の従業員とも話しあうのがよい。

上記の経営手法をとることによって、組織を破滅させるような争いの芽を早く見つけることができ、監督者が重大な問題に取り組み続ける助けになる。例えば、従業員のミーティングはチームとしての目的を決めていますか? 従業員が新しい意見や反対意見を、偏見をもたずオープンマインドで聞くという前向きのレベルに達した論争をしていますか? それとも、彼らは仕事をやり終えることにより関心があり、意見の違いは生産性向上の障害と思われていませんか? 極端な質問になりますが、あなたの職場は、いつも従業員の意見が合わず、言い争い、お互いが非協力的で、足を引っ張り合っているような、大変ストレスの多い悪い環境になっていませんか? 

カリフォルニア州メンロパークにある、カリフォルニア州心理学協会から"ストレスのたまらない気持ちの良い職場賞(Psychologically Healthy Workplace Award)"を最近受賞した、OMIX社の共同創立者で心理学者でもあるサンデイ・リリー氏によれば、この従業員を驚かす経営手法は、従業員との意思疎通をはかるための開かれた道を保持するのに効力がある。

「従業員との定期的な接触で彼らのいうことをよく聞くことによって、私は、彼らが何を感じているのか、そして何を必要としているのかということに非常に敏感になるのです」とリリー氏はいう。「従業員が、あなたのことを知り、あなたを信頼することができ、問題がまだ小さく解決が容易なうちに、あなたと一緒になって問題を解決することになる。」


人の話をうまく聞き出す能力を発揮する

「管理職にあるものが実施に生かせる最も重要な能力のひとつは、アクテイブ・リスニングである」とサンダース氏が強調する。このアクテイブ・リスニングによって、本当に従業員ひとりひとりを理解し、彼らの意見や心配事を尊重し、彼らに建設的な行動を起こさせることができるのです。

「リスニングとは、争いを減少させる最初のステップのひとつである」とデジューリオ博士は同意する。「従業員は、もしあなたが本当に自分の話を聞くために時間をとるとわかれば、自分はより高い評価を受け、評価されていると感じるでしょう。逆に彼らが評価されていないと感じれば、より多くの恨み、怒り、争いを招くことになるでしょう。」

従業員の話を聞くということは、彼らに不満や心配事を話させるという機会を与えるにすぎない場合もあるとサンダース氏は付け加える。良い聞き手になるには、従業員の話を聞き、そしてあなたが問題を正しく理解しているのかどうかを確認するため、何が話されたかを整理し、まとめることが必要となる。そして次に、問題に対する経営陣の考え方を聞く用意があるかどうかを従業員に尋ねましょう。問題に対する両方の考えを確認した後は、それら問題に対して優先順位をつけ、両者が合意できる解決方法をまとめるのがよい。その際、下記のことを自問する。これは、自分が直接関与する必要がある問題なのかどうか? それとも従業員に権限を与え、彼らの間で解決方法を見つけさせる方がより適切ではないのか?

「一個たりとも問題を無視してはいけません」とデジューリオ博士はいう。「無視すると結局最後には、その問題はあなたに襲いかかり、かみつくことになるのです。そしてさらに、問題はより大きくなり、解決がより難しくなるのです。」

人の話をよく聞く能力を使うほかに、監督者はさらに、どのように従業員と意思疎通をはかり、メッセージを発信するかを考える必要がある。「職場においては、経営陣はメッセージの内容には深い関心を示すが、意思疎通をはかる過程には関心を払わないことが多い」とデジューリオ博士はいう。「経営陣が、メッセージを受け取る従業員の心の動揺を考慮しないで、指示を出すことがよくあります。」

例えば、もしあなたが従業員に対して悪いニュースを伝えなければならないときには、彼らひとりひとりに自ら丁寧にやさしく伝える方が、部内通知用のe-mailを使って伝えるより、はるかに効果があるのです。「我々の仕事には、人間の感情に訴える要素が間違いなく存在するのです」とデジューリオ博士はいう。「従業員は、単なる機械ではありません。彼らは、監督者が自分達の感情をも尊重しているのかどうか知りたいのです。」


積極性を強調する

監督者は、ある問題について、従業員に対する話の仕方によってもまた、その効果に差が出てくる。例をあげれば、消極的な行動に焦点をあわすのではなく、なるべく具体的で積極的な行動への変化について話し合いましょう。例えば、「あなたはいつも遅刻する。どうして一度でも時間通りに来られないのか?」といわないで、次のようにいいましょう。「あなたが時間通りに来てくれると本当にうれしい。毎日そうしてくれるとありがたい。」

さらに、従業員が仕事をうまくやったときには、必ず積極的に支持すること。「彼らの給料を上げたり、彼らの業績を認定するのに、年一回の業績評価と給料査定の時期まで待つ必要はありません。もしくは、彼らの業績を認定するのがよい」と、リリー氏はいう。「我々は、その価値があると感じたときは必ず、彼らの業績を認定しています。さらに、我々は定期的に従業員との個人的面接時間をつくって、どのように自分の能力を伸ばしていきたいのかについて彼らと話し合い、彼らが抱えている問題についても話し合っています。」


あなたの管理スタイルは?

最近、あなたは自分の管理スタイルをながめてみたことがありますか? あなたは重い棒で管理していますか? 柔らかい棒ですか? あなたは人の意見を聞く方ですか? それとも、問題に対する従業員の意見を聞かないで、指示書を渡すほうですか? 争い処理の専門家は、その中間の方法を薦めている。威圧か支配で従業員を管理している監督者は、短期間ではそのやり方が効力を発揮することもあるが、長期間ではさらに多くの問題を抱えることになるでしょう。多くの成果を上げる監督者は、自分の考えをはっきりいうタイプの人でかつ、従業員に敬意を払い、必要に応じて妥協し、協力する人間である。従業員との協力を最大限までに取り付け、積極的に意思疎通をはかることによって、OMIX社は、従業員が自分達は尊重されているのだと思う、前向きな職場環境をつくり上げることができたとリリー氏はいう。「恐れと非難を利用する監督者は、結局優秀な従業員を失うことになる」と述べ、さらに「我々は、会社組織の職位階級をできるだけ少なくするよう努力した。何故なら、職位階級制度では、問題が起きると個人を非難する方向になりがちだからである。個人を非難するのではなく、問題に焦点をあわせ、解決策を見つけることを強調している。」

職位階級の代わりに、OMIX社の従業員は全員、同じ目標に向かって働くひとつのチームの一員とみなされるひとつの円形モデルの中で働いていますと、リリー氏はいう。そのモデルの中にはプロジェクト責任者はいるが、彼は権力者でなく、仲間の力を調整し、同じ目標に向けさせるよう手助けする立場と見なされている。

もし、協力とかチームワークという言葉が、あなたの会社でなじみのない言葉であるなら、よりよいグループ能力を高める方法を、段階を踏んで実行したいと思うでしょう。「もし、あなたが従業員に、みんなが一緒に働き、協力する機会を与えれば、よりた易く、自分達の問題や課題を自分達で解決することができるようになるでしょう」とサンダース氏はいう。

よいチームをつくり上げる能力は、グループで働く機会を与えることで促進される。そうすることで、彼らは他の仲間とより効率よく働く方法を覚える。まずは、少し小さめの仕事をひとつのグループに与えることから始めよう。それから、より大きなプロジェクトをつくり上げさせましょう。あなたは、さらにチームづくりの研究会の開催を提案したいと考えるかもしれない。チームを組むことで目標達成しようとするやり方は、ネブラスカ州オマハにあるACIワールドワイド社の会社文化にとって不可欠のものである。「我々の会社の従業員は、共通の目標に向かって、それぞれの部内につくられたいくつかのチームとして一緒に働く」とACI社の従業員教育担当の部長であるノルマ・ホルトメーヤー氏はいう。「いくつかの部では、自分達のところの仕事をやる前段階の他部門に頼らざるをえないので、従業員は仕事を完成させるには、誰とも一緒に協力しなければならないことはよく承知している。」

ACI社の従業員は、チームづくりのクラスに参加しており、そこで彼らはお互い相互に効率よく係りあうやり方を覚える。彼らは、他人の仕事のスタイルやペースを受け入れる方法、考え方に食い違いがある中で仕事をする方法、その中で問題を解決する方法を教え込まれる。「従業員は、自分以外の人を外部の顧客として扱うように教えられる」とホルトメーヤー氏は述べ、さらに「つまり、自分以外の人に対して協力し、他人を手助けし、丁寧に、タイミングよく対応することを教えられる」

あなたの組織で、グループで働く方式を採用しようとする前に、まず従業員の個性とグループの機能を、じっくりと調査する必要があると、デジューリオ博士はいう。どんな職場環境でもすべて、グループで働くのが適切であるとは限らないし、従業員の中には、グループでうまく働けない人もいる。"あなたは、これらの要因を考慮する必要があり、さもないと、非生産的な結果をもたらしかねない"と彼は忠告する。


職場での争いが個人的なものになった時

時には、従業員の争いが個人的で、執念深いものになる可能性がある。もし、それが監督者であるあなたに向けられた時には、まず一歩下がって、争いの原因をよく把握する必要がある。下記を自問しょう。その争いはあなたの問題ですか? それとも彼らの問題ですか? 向きを変えることができるものですか?

あなたがとるべき最初の防御線は、あなた自身に降りかかった状況を外部に知らしめることです。第三者を引き込むことで、あなたの権限を薄めることができる。問題に取り組む前に、あなたは、よいアドバイスを期待して人事部の管理職と状況について話し合い、問題を客観的に理解したいと思うかもしれない。そして十分準備をととのえてから、自らその従業員と会い、問題の解決をはかりましょう。もし、これがうまくいかず、従業員のあなたへの攻撃がより個人的になり、敵意の満ちたものになった時には、第三者を引き込む時期である。争いが暴力を伴うものになることはまれであるが、そんな状況になったときには、広く公開するのがよいと、サンダース氏はいう。

争いを全く避けることは不可能ではあるが、管理することは可能である。争いを抑制し、従業員に前向きな職場環境を育てる能力を身につけさせるよう、手助けできるのは、それは監督者次第です。