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新しい労働災害報告規則を吟味する

(資料出所:NSC発行「Today's Supervisor」2002年5月号 p.6-9)
(訳 国際安全衛生センター)


ジョン・ディスリン記:

労働安全衛生庁(OSHA)の、労働災害に関する、新しく改訂された事故報告規則は、2002年1月1日に発効した。新しい規則では、OSHAの規制要求に合致するために、従業員の関与が増え、より簡単な書式となり、パソコンの使用を今まで以上に認めている。

多くの安全衛生専門家は、この新しい規則は、改善されていると認めている。イリノイ州アイタスカの全米安全評議会(NSC)の安全衛生主席コンサルタント、ジョー・ケルバス氏は、新しい規則につき、「今までの書式をうまく拡大させ、判りやすくしている。今までの規則には、多数の専門用語があった。新しい規則では、こうした専門用語が除去されている。」といっている。ワシントンのコンサルタント、ウイリアム・アメント氏は、新しい規則は、元来の規則を基に、大幅に本質的な改善を行ったものであることに同意している。

しかしながら、1月1日に施行されなかった重要な二つの部分がある。即ち、仕事に起因する聴力損失と筋骨格系障害の定義及びOSHA記録簿の筋骨格系障害欄を事業者にチェックさせるという要求である。


改善は大いに必要である

ケルバス氏は、もとの規則がほぼ三十年前に作られて以来、多くの改訂が加えられて来たが、それにより、その規則を混乱させたり、その効果を損なうことになった、と説明している。この新規則では、適当な節に対する全ての追加のガイドラインを取り外すことで、古い規則を整理している。

ケルバス氏は、次の点を含め、幾つかの鍵となる変更を指摘している。
  • 理解しやすい書式。
  • 報告完了手続きが簡潔。
  • 最も意義深いのは、災害や疾病による休職日がこれまでの作業日に替わり暦日で計られるようになったという方法の変更である。
ケルバス氏は、作業日ではなく暦日を用いることにより、喪失日の監視がより正確なものになったといっている。新しい規則では、一従業員が喪失した労働日数のみを記録するのではなく、例えば、週末、休日、休暇取得日が含まれるのである。同氏は、新しい記録システムでは、会社が労働損失日数のみに基づき安全プログラムを作成しているならば、会社は、良くはみられないであろうと、付け加えている。

労働安全衛生庁の統計学者ジェームズ・マダックス氏は、新しい報告の様式は、より一貫性のある報告内容になるだろうといっている。同氏は、この新しい規則では、記録に関するルールを明確にし、災害と疾病とを書式301に統一しているのでより使い勝手のよいものになっていると、付け加えている。

ケルバス氏は、作業日ではなく暦日の使用と新しい規則の理解の容易さに加え、その他幾つかの新しい規則が前向きである点を列挙している。
新しい規則のこうした点は、
  • 定義を明確にしている。
  • 職場での災害や疾病の報告に際しての会社執行役員の役割を明確にしている。
  • 会社執行役員が様式300の記録を証明することを要求している。
  • 従業員のプライバシーの対象を拡大している。
  • 注射針や他の鋭利な物体による事故を網羅している、といったことである。

変化を理解する


ケルバス氏は、新しい規則に切り替えることは、難しくはないし、事業者も、どちらかといえば、これに容易に適応し得る、といっている。ケルバス氏は、事業者は、この規則が傷害補償請求や傷害訴訟をよりやり易くするのではないかと、この規則を恐れるのかも知れないが、こうした恐れは、根拠のないものであると私は信じている、という。

ケルバス氏は、もしも新しい規則に何らかの難点があるとすれば、その殆どは、規則が新しいという事実によるものであり、事業者が新しい規則への調整を行うのに時間を必要としているということだ、といっている。同氏は、すべての問題点を解消し得るような規則等ない、と指摘している。同氏は、使い慣らしの期間故、事業者は、何らかの罰金や処罰を受けるような過ちを犯すかも知れない、という。しかしながら、ブッシュ政権と労働安全衛生庁(OSHA)長官、ジョン・ヘンショー氏は、遵守の為の支援と協力関係に信頼を寄せている故、OSHAは、新しい書式を記入する際に過ちを犯す事業者に対して寛容な態度で接するであろう。ヘンショー氏は、OSHAは、事業者を支援するべく、出来る限りのことを行うであろう、といっている。

ヘンショー氏は、「新しい基準を説明するために、我々は、資料を配布し、衛星中継セミナーと会議を開催している。我々のウェブサイトもまた手助けとなる多くの情報を持っている。我々は、各種業界団体の支援を得て、資料を作るべく努力し、小規模事業にも情報が届くよう尽力する。」といっている。

OSHAの尽力に加え、全米安全評議会(NSC)もまた新しい規則に関する説明会を提供している。


変更は、多くの分野を網羅する

新しい記録保持基準には、多くの変更と改善がある。ここで、これらの二、三点に光を当てることとする。

OSHAのマダックス氏は、条文1904・4の区分Cは、記録保持規則の重要部分を占めている、という。この基本的な要求は、事業者は、死亡者数、傷害者数および疾病者数に関する記録を保持した上で個々人の死亡、傷害あるいは疾病が次のいずれによるものかを記録するというものである。即ち、
  • それが作業関連であるのか。
  • 新しい例であるのか。
  • 条文1904・7の記録保持の一般基準の一つあるいは二つ以上に合致するものなのか、あるいは、条文1904・8から1904・12の間に列挙された特定例に当てはまるものなのか、というものである。
条文1904・7の節は、記録保持の一般基準につき述べている。条文1904・8から1904・12までの節は、注射針と鋭利な器物による災害に関する記録保持の基準を列挙している。言い換えれば、OSHA基準の下での医学的見地からの危険性の除去(Medical Removal)、職業上の聴力損失(これは未だ検討中である)を含む場合、職業起因性の結核病の場合、それに職業起因性の筋骨格系障害(これもまた未だ検討中である)に関する場合である。

しかしながら、マダックス氏は、従業員が他の全ての職業起因性の災害を記録するように、全ての筋骨格系障害を記録するべきであると指摘している。

マダックス氏は、「この新しい基準は、事業者の責任を明確にする一方で、事業者にある程度の自由裁量を与えるものである。」といっている。

例えば、事業者は、災害なり疾病が発生した日を含めることを要求されてはいないのである。認定健康管理専門家が、ある従業員に作業に従事しないよう勧告した場合には、事業者は、その健康管理専門家の勧告に従うよう従業員に指示しなければならない。しかしながら、その従業員がその勧告に従おうと従うまいと、休業日数は、記録せねばならない。もしも、二人あるいはそれ以上の医師あるいは健康管理専門家の勧告が異なるならば、事業者は、どちらの勧告が最も権威あるものであるのかを決定することが出来、その勧告に基づきそのケースを記録することが出来るのである。

もしも、医師あるいは健康管理担当者がある従業員に仕事に戻るよう勧告したのに、その従業員がこれに従わない場合、新基準では、事業者は、医師あるいは健康管理専門家がそうした勧告を行った日に、休業日数への算入を終了させねばならないのである。

加えて、新しい基準では、休業日に180暦日(6ヶ月)の上限を設けている。事業者は、180暦日を超える日数の把握を要求されてはいないのである。もしも、傷害が死亡に至るケースより深刻な状態となった場合には、事業者は、業務日誌を更新し、最も深刻な結果を記録することが求められるのである、とマダックス氏はいう。

もう一つの変更は、全ての事故につき、旧規則では6作業日内とされた報告を、7暦日内に行わなければならなくなったことである。

新規則はまた、出張と家庭内作業に関する問題点を説明している。
マダックス氏は、例えば、出張命令をうけた従業員が、ホテルのシャワーで怪我をしたとか、あるいは、出張中、従業員が個人的なわき道旅行をしている間に怪我をしてしまった場合、これらの事故は、業務上として分類されてはいない、という。しかしながら、従業員が、業務に関連して必要なことを実施している間に、災害あるいはより深刻な事態が発生した場合には、これは、記録されなければならないのである。


プライバシーの問題

プライバシーの保護の確立が、恐らく、新規則の最も重要な変更であろう。もしも、プライバシーに関わる懸念があるケースの場合には、様式300に従業員名を記入する必要はない。しかしながら、これらのケースの最新のものまで取り込み、要求ある場合に、政府に情報を提供する為に、事業者は、こうした事故番号と従業員名に関し、別途、秘密の一覧表の管理をしなければならない場合が多い。

マダックス氏は、プライバシー条項は、以下を含む事故に適用し得ると説明している。即ち、
  • 性器あるいは生殖器官に対する災害あるいは疾病。
  • 性的攻撃に起因する災害あるいは疾病。
  • 精神病。
  • HIV感染、肝炎あるいは結核病。
  • 他人の血液あるいは他の感染の可能性がある物質で汚染された注射針による、あるいは、鋭利な物体による切り傷。
  • 本人名が記録に記入されるべきでないことを申し出、要求する従業員。

その他の場合は、プライバシー条項の適用を受けることが出来ない。加えて、マダックス氏は、従業員は、事故報告様式301にアクセスする権利を持っている、と繰り返しいっている。同氏はまた、新規則は、従業員、退職した従業員およびこれら従業員の個人的または公的職員あるいは権限ある代表による事故・疾病記録へのアクセスを制限している点に注目している。更に、全ての事業者は、その従業員に災害や疾病をどう報告することになっているかを知らせなければならない。

マダックス氏は、「新規則ではまた、削除された旧規則につき誤解がある。ある従業員が事故報告様式301の閲覧を要求するに先立ち、記録から個人名を除去するとの条文がなく、その為、多くの従業員は、閲覧要求が出来た筈だと信じながらも、実際には、出来ないでいるのである。」といっている。

マダックス氏は、過渡期期間中、事業者は、旧様式200と101の写しを5年間保存しておくよう要求されている、と説明している。しかしながら、事業者は、様式200と101を更新することは要求されてはいないのである。