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問題に風を通す

キャレン・ガスパース(Karen Gaspers)

(資料出所:National Safety Council発行「Today's Supervisor」 2002年10月号 p10-11)
(仮訳 国際安全衛生センター)



ろ過式呼吸用保護具を必要とする事業所の10ヶ所につき4ヶ所では、従業員にほとんど、またはまったく訓練を行っていない。これはろ過式呼吸用保護具の使用者とその頻度、理由を調査した米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)/労働統計局の最近の調査結果から判明したことの一つに過ぎない。

その他に明らかになったことは、どれも実に悩まされるものであった。事業者は、どのようなろ過式呼吸用保護具を購入するかを決める際には、エア・サンプリングに基づく場合もあるが、同様にメーカーの販売代理店か、従業員の意見を当てにする場合もあると述べている。またほとんどの事業所では、監督者や従業員に対し、防毒マスクの使用マニュアルではなく自己の判断でろ過式呼吸用保護具の使用を決定することを許可している。

調査の予備データは、「間違った選び方や不適切な使い方、訓練の欠如が非常に多い」というビル・ホフマン氏の意見を裏付けるものとなった。ホフマン氏は、ピッツバーグにあるNIOSHの国立個人用保護具技術研究所(National Personal Protective Technology Laboratory : NPPTL)の物理学者で、このNIOSHの研究所は労働統計局から調査実施を委託されている。

この結果は、その業界の人々にとっては、何の驚きでもなかった。ミネソタ州ショアビューにあるTSI社の製品マネージャーであるジェフ・ウィード氏は「これは以前からずっと問題になっていることなのです」と言う。TSI社はフィットテスト(密着性テスト)の実施とフィットテスト用装置の販売を行っている。

訓練について

報告書に提示された問題点の中で、ウィ−ド氏は訓練の欠如が最大の問題であると見ている。それは、訓練を受けず正しい知識を持っていない従業員ほど、ろ過式呼吸用保護具を顔に装着せず、首にぶら下げたり、保護帽に引っ掛けたままにしがちだからである。「彼らは危険性を理解していません。彼らにとって、危険性は(ろ過式呼吸用保護具を着用する)不快感よりも低いものだと考えているようです」とウィード氏は言う。

ろ過式呼吸用保護具フィットテストで従業員を見てきた経験の中で、ウィード氏はまったく訓練を受けていないろ過式呼吸用保護具使用者をたびたび見かけたという。

「多くの人は、フィットテストにおいて初めてマスクを見るという状況です。それでは試験の本来の目的から外れています。フィットテストは訓練後の最後の試験として考えられなければならないのです」とウィード氏は主張する。

NIOSH/労働統計局の調査によれば、事業所が訓練を行う場合でも、ろ過式呼吸用保護具使用者の訓練の責任は多くの場合監督者に任される。しかし、監督者にも訓練が必要である。ピッツバーグにあるMSAの化学調査分析サービス・マネージャーであるゼイン・フランド氏が指摘するように、この調査では監督者がどこで訓練を受けたかは問われていない。フランド氏はバージニア州フェアファックスにある米国産業衛生協会(American Industrial Hygiene Association : AIHA)の呼吸用保護具委員長を努めている。フランド氏によると、監督者は化学物質等安全データシート(MSDS)に頼っているようだが、それでは不十分だという。

カリフォルニア州リバーモアにあるローランス・リバーモア国立研究所(Lawrence Livermore National Lab)の危機管理部内の化学・生物学安全部門のリーダーであるジム・ジョンソン氏によれば、適切な訓練は監督者と労働者の両方にとって重要であるという。ジョンソン氏はANSI Z88呼吸用保護具委員長を務めている。彼は、監督者と労働者は共に「職場に起こり得る危険性と、なぜろ過式呼吸用保護具を着用するのかを理解する必要があります。そうすればろ過式呼吸用保護具による不快感や制約も受け入れられるのです」と言う。

訓練は適切なろ過式呼吸用保護具を選ぶためにも必要となる。フランド氏は、事業者は一般の労働者が正しいろ過式呼吸用保護具を選ぶものと考えてはならないという。「ただメーカーのパンフレットを渡すだけでは、務めを果たしたことにならないのです」

模範を示す

ろ過式呼吸用保護具の適切な使用を確実なものにしていくためには、監督者がリーダーとなる。ジョンソン氏によると、監督者はルールを実施すべきであり、そのような立場の人間として毅然とした態度を示さなければならないという。

「(監督者は)労働者を見ながら、『さあ、これだ。これを買って君たちを訓練する。必ず着用するように』と言わなければならないのです」とジョンソン氏は言う。ルールの実施には、監督者が模範を示すことで最も効果があがる。彼らは労働者と同様に、作業場では必ずろ過式呼吸用保護具を着用しなければならない。それはまた、現在行っている作業にとって最も適切な、正しいろ過式呼吸用保護具を選ぶことにもつながる。労働者が正しいろ過式呼吸用保護具を持っていれば、もっとろ過式呼吸用保護具を着用するようになり、結果的には監督者が楽になる。適切な選択により、「ろ過式呼吸用保護具が仕事の邪魔にならず、労働者がろ過式呼吸用保護具を顔に装着したまま仕事を続けることができる」とジョンソン氏は説明する。

監督者はそれと同時に、作業中にろ過式呼吸用保護具の着用が義務付けられた労働者に対して、あまり厳しい態度をとらないことも必要である。ろ過式呼吸用保護具を着用することで人の作業効率は25%から50%低下することが調査により判明していると、ジョンソン氏は指摘している。これはろ過式呼吸用保護具の抵抗で、呼吸により多くの労力が必要となるためである。

「ろ過式呼吸用保護具なしで行う場合の作業量やペースが、ろ過式呼吸用保護具を着用すると制限されてしまうのです」とジョンソン氏は言う。監督者はそれに応じた予測を立てなければならない。

ろ過式呼吸用保護具の使用を誤ると、結局すべての労働者が苦しむことになる。「彼らは晩年に表れる職業病という代償を払うということにもなりかねません。ろ過式呼吸用保護具は人体に有害な影響を防いでいるのだということを理解していないのです」とジョンソン氏は述べている。

フランド氏も同様の懸念を抱いている。「使用マニュアルの指導を受けていない、適切な訓練や使用マニュアルの実施を受けていない一般使用者のことを考えると、同情したくなります」と彼は言う。

詳しい情報について

  • 「Respirator Use and Practices(ろ過式呼吸用保護具の使用と実践)」は労働統計局 www.bls.gov/iif/home.htm をご覧下さい。本年(2002年)末にNIOSHより調査データの詳細な分析が発表される予定です。
  • ANSI Z88 呼吸用保護具に関する情報は、米国産業衛生協会(AIHA) www.aiha.org をご覧下さい。
  • ろ過式呼吸用保護具の認証と正しいマスクの選び方の手引きについては、国立個人用保護具技術研究所 www.cdc.gov/niosh/npptl をご覧下さい。