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業務上のストレス

資料出所:NIOSH発行「Safety and Health Topics
(訳 国際安全衛生センター)

原文(英語)はこちら


仕事の性質は非常な早さで変化している。作業ストレスはこれまでにないほど、労働者の健康、ひいては組織の衛生に対する脅威となりつつある。作業ストレスの研究プログラム、およびこのパンフレットのような教材を通じて、各組織にこの脅威を軽減するための知識を提供することはNIOSHの責務である。

このパンフレットは、作業ストレスの原因についての知識を明らかにするとともに、作業ストレスを防止するための手段を説明したものである。



今日の職場におけるストレス


待てば待つほど、デービッドの苦痛は深くなった。彼は何週間もの間、筋肉の痛み、食欲不振、不眠、ひどい疲労感に苦しめられてきた。最初のうちはこうした問題を無視しようとしたが、しだいに気が短く、苛立つようになり、妻からは健康診断を受けた方がいいと勧められた。医師の診療所でどんな診断が出るのかと思いながら、彼はテレサがそばに来て座ったのも気付かなかった。二人はテレサが工場の事務所に勤めている時からよい友達だった。しかしテレサは3年前に顧客サービス販売会社の仕事を得たため、顔を合わせることもなくなった。テレサがデービッドの脇腹をそっとつついたので、二人は昔のように話し始めた。

「君はいい時に出ていったよ。会社の組織が変わってからというもの、誰も安心していられなくなった。以前は自分の仕事をしている限り職があったからね。でも今はもう違う。昔は3人でやっていた仕事を2人でやってほしいと言われる。週に6日間、12時間勤務で働いている。寝ていても機械の唸り声が耳について離れない。休むために病欠の電話を入れる者もいる。みんなやる気がなくなってね。コンサルタントを雇って、仕事の運び方を考え直した方がいいと言っているのさ」と彼は説明する。

それに応えるように彼女も言った。「みんなに会いたかったわ。フライパンを飛び出して、火の中に飛び込んだように、失敗したのかも知れない。新しい職場では、コンピュータが電話をみんなに配分するのだけれど、それが決して止まらないものだから、休み時間もとれないほど。お客様は苦情を言うばっかり。みんなの役に立って、話しを聞いてあげたいと思うのだけれど、ボスのOKを貰わないと、何も約束できないのよ。お客様の文句と会社の方針との間で板挟みになっていつも苦しんでいるわ。仲間も勤務がきつくて、密度が高いから、お互いに話しもできない。みんな小さなボックスの中に入って、時間がくるまでそこで働くわけ。悪いことに、母が病気になってね。有給休暇を取って面倒を見てあげられれば、と思うのだけれど。今日は偏頭痛と高血圧のためにここに来たの。仲間たちも従業員支援カウンセラーのやっかいになったり、ストレス管理のクラスに出たりしている。まあ役に立ちそうね。でもそのうち、仕事のやり方を変えないと行き詰まると思う」


労働者は作業ストレスについてどう言っているのか。

ノースウェスタン・ナショナル生命保険の調査

家族労働研究所の調査

エール大学の調査



米国の事業場におけるストレスの規模

デービッドやテレサの話しは、残念なことだが、珍しいものではない。作業ストレスは米国の事業場では共通の、コストのかかる問題になっており、それに煩わされない労働者はごく少ないほどだ。たとえば、各種の調査では以下のような実態が明らかになっている。
  • 従業員の4分の1は仕事を生活の中で第一のストレス要因だと述べている。

    −ノースウェスタン・ナショナル生命保険

  • 従業員の4分の3は10年前より労働者は仕事上のストレスを多く抱えていると考えている。

    −プリンストン調査研究アソシエーツ

  • 作業上の問題は他の生活上のストレス要因のいずれよりも、健康上の訴えに関連している。金銭的な問題、家族の問題よりも大きいほどだ。

    −セントポール火災海上保険

幸いなことに、作業ストレスに関する研究は近年、著しい進歩を見せている。しかし関心の向上にかかわらず、作業ストレスの原因、影響、防止については混乱が残っている。このパンフレットは作業ストレスについての現在の知識、その対策について説明している。


作業ストレスとは何か


作業ストレスとは、仕事の要件が労働者の能力、体力や知力、必要性などにマッチしない場合に生じる有害な肉体的、精神的な反応と定義されている。作業ストレスは健康に悪く、負傷や病気の原因にもなることがある。

作業ストレスの概念は挑戦的な課題(チャレンジ)と混同されがちだが、両者の概念は同じではない。チャレンジはわれわれを心理的、肉体的に元気づけ、新しい技能を学び、仕事をマスターする気持ちを起こさせる。チャレンジに応えることができた場合、われわれはリラックスし、満足する。このようにチャレンジは健康的で生産的な仕事の重要な要素である。職業生活の上におけるチャレンジの重要性は、人々が「少しぐらい緊張した方が仕事は進む」ということに現れている。

しかしデービッドとテレサの状況違う。チャレンジは対応できないほどの仕事上の要求となり、リラックスできずに、疲労がひどくなり、満足感がストレスとなってくる。要するに、病気、負傷、仕事上の失敗の舞台が整っているのである。

作業ストレスは、仕事上の要件が労働者の能力、体力・知力、必要性にマッチしない時に生じる。


作業ストレスの原因は何か

作業ストレスは、労働者と労働条件の相互作用から生まれることは、誰もが知っている。しかし、作業ストレスの主な原因である労働条件の場合とは違って、労働者の性格の重要性については、意見の相違がある。

ある考え方によると、人々の人柄や対応の方法などといった個人的な性格の相違は、ある種の仕事上の条件がストレスを生むかどうかを予想する際に、最も重要だという。言い換えれば、ある人にとって強いストレスを生むものも、他の人には問題ではないことがある。この見方に従えば、ストレスの防止には労働者を中心に考え、彼らがきびしい労働条件に対応できるように、支援するのが大切だということになる。

個人的な相違の重要性を無視することはできないが、科学的証拠によると、ある種の労働条件はほとんどすべての人々にストレスを与える。デービッドやテレサの話に見るように、過度に大きい作業量を要求されたり、相反する期待の間にはさまれたりすることが、そうした条件の好例である。こうした証拠に立てば、労働条件を作業ストレスの主な原因と見る解釈が成立し、その主要な防止対策は作業の設計見直しだということになる。

ミシガン州のある裁判所は1960年、自動車組み立てラインの労働者が、生産ラインのプレッシャーに対応するのは困難だという訴えを支持した。原告の労働者は、遅れないためには同時にいくつかの組み立てをしなければならず、部品を混同することもあった、と言っている。その結果、職長からなんども小言を食った。最終的に彼は心理的に参ってしまったという。

1995年までにほぼ半分近くの州では、作業ストレスに起因する情緒障害および労働不能について、労災補償を認めるようになった。(注:ただし裁判所は通常の労働条件または単なるきびしい作業と見なされるものについての主張を、認めたがらない傾向がある)

- 1995年労働者災害補償年鑑
(1995 Workers Compansation Yearbook)



作業ストレスについてのNIOSHのアプローチ


NIOSHは経験と研究に基づいて、労働条件が作業ストレスの主要な原因になっているとの見方を支持している。しかし個人的な要因も無視できない。NIOSHの見解によると、ストレスの多い労働条件(作業ストレス要因と呼ばれる)との接触が、労働者の安全衛生に直接に影響している。しかし下図に示すように、個人的要因やその他の要因も、この影響を強めたり、弱めたりすることがある。テレサが病気の母親の世話をする必要があるという条件は、ストレスの多い労働条件の影響を強めることがある、個人的または状況的な要因であり、最近しだいに多くなっている。ストレスの多い労働条件の影響緩和に役立つ個人的、状況的要因の例としては、次のものを上げることができる。
  • 職業生活と家庭・個人生活とのバランス
  • 友人や同僚による支援ネットワーク
  • ゆっくりした、明るい展望



ストレスを生む可能性がある作業条件

業務の設計:重い作業量、たまにしかない休憩、長い労働時間、交替勤務、本質的な意義に乏しい、労働者の技能を使わない、管理する意味がほとんどないような大騒ぎや日常的な仕事。
例:デービッドは疲労の極限まで働いている。テレサはコンピュータに縛られており、弾力性も、仕事上の自主性も、休憩もない。
管理スタイル:意志決定に労働者の参加がなく、組織内の意志疎通に欠け、家族的、友好的な政策がない。
例:テレサはすべてについてボスのOKを得なければならない。会社は彼女の家庭での介護の必要性に無関心である。
個人間の関係:社会的環境が貧困で、同僚や監督者のサポートや支援がない。
例:テレサは物理的に孤立しているため、他の労働者と話し合う機会もなく、彼らから支援を得ることもできない。
作業の役割:対立する、または不確実な作業についての期待、大きすぎる責任、多すぎる職務など。
例:テレサはお客様のニーズと会社の期待との両方を満たす、困難な状況に追い込まれる。
キャリアについての関心:雇用の不確実性、成長や前進、昇進のチャンスがないこと、労働者が準備できない急激な変化
例:デービッドの工場では、企業の再編成のため、すべての人々が会社の将来について不安を持ち、今後何が起きるかを心配している。
環境条件:混雑、騒音、空気汚染、エルゴノミクスの問題などの、不快で危険な物理的条件。
例:デービッドは作業中に絶えず騒音に悩まされている。


作業ストレスと健康

作業ストレスは脳の中で警報を出し、脳は身体に防衛行動の準備をさせる。神経系統が目覚め、ホルモンが放出されて感覚が鋭くなり、脈拍は早く、呼吸は深くなり、筋肉が緊張する。この反応(闘争反応または飛翔反応とも呼ばれる)は重要で、われわれに脅威が迫る状況に対する準備体制を作らせる。この反応は予め生物学的にプログラム化されており、すべての人々が、ストレスが家庭内で起きても、職場で起きても、同じような反応を示すのである。

ストレスが短期間に終わり、または稀にしか生じない場合には、リスクはほとんど生じない。しかし、ストレスの多い状況が解決されないと、身体はいつも刺激を受けるな状況に置かれ、それが生物的システムの疲労、消耗の度合いを高める。最終的に疲労と損傷が起き、身体がそれ自身を修復し、防衛する能力が著しく損なわれる危険が生じる。その結果、負傷や病気のリスクがエスカレートする。

過去20年間、作業ストレスと各種の疾患の関係について、研究が進められてきた。不機嫌や不眠、胃痛、頭痛、家族や友人との関係悪化などは、ストレス関連のトラブルの中でも発生しやすい現象で、これまでの調査でも多く取り上げられている。このような作業ストレスの早期的な徴候は気づきやすいのが普通である。しかし慢性疾患に対する作業ストレスの影響は発見しにくい。慢性疾患は時間をかけて進行し、ストレス以外にも多くの要素に左右されるからだ。それでも、ストレスがいくつかの慢性疾患、特に心臓血管疾患、筋骨格系障害、精神障害などに重要な役割を果たしている証拠が集まりつつある。

ストレスのレベルが高いと訴える労働者の医療費は、平均より50%も高い。

− 労働環境医学ジャーナル
(Journal of Occupational and Environmental Medicine)



作業ストレスの危険性を警告する早期の徴候
  • 頭痛
  • 不眠症
  • 集中の困難
  • 怒りっぽい
  • 胃痛
  • 仕事の不満
  • 勤労意欲の減退

作業ストレスと健康:研究が明らかにした問題

心臓血管疾患

多くの調査が、従業員に仕事の進行を任せることのない、心理的にきびしい要求をする仕事は、心臓血管疾患のリスクを高めることを明らかにしている。

筋骨格系障害

NIOSHおよび他の多くの調査によると、作業ストレスは腰部および上肢の筋骨格系障害発生のリスクを高めると広く信じられている。

精神障害

いくつかの調査によると、各種の職種でうつ病や燃えつき症候群などの精神衛生上の問題が発生する率は、作業ストレスのレベルによって異なる場合がある(職種の経済的違い、ライフスタイルの違いも原因になることがある)。

労働災害

さらに多くの調査が必要だが、ストレスの多い労働条件は安全な労働慣行の障害となり、労働災害の引き金になるのではないか、との懸念が高まっている。

自殺、ガン、腫瘍、免疫不全

一部の調査によると、ストレスの多い労働条件とこれらの健康上の問題との間には関係があるという。しかし確実な結論を得るまでにはなお多くの研究が必要である。

-労働安全衛生百科事典
(Encryclopedia of Occupational Safety and Health)



ストレス、健康、生産性

経営者の中には、ストレスの多い労働条件は必要悪であると考える人がいる。つまり現在の経済環境の中では、会社は従業員に圧力を加え、生産性を高め、利益を上げる必要があるという考え方である。しかし研究が進むにつれて、こうした考え方には疑問がでてきた。調査によると、ストレスの多い労働条件は実際に欠勤率を高め、仕事の遅延、労働者の離職率をも高めている。これらはすべて会社の利益率に悪影響を及ぼす要因である。衛生に注意を払っている企業についての最近の調査では、労働者の衛生に配慮した政策は利益も向上させることが分かってきた。それらの企業では労働者の疾病や事故、機能障害の発生率が低く、市場でも強い競争力を持っている。NIOSHの調査では、健康的でストレスの低い作業と高い生産性水準のいずれにおいても、組織的な特徴があるという。これらの特徴とは次のようなものである。
  • 従業員のすぐれた作業実績が認識されている。
  • キャリアを伸ばす機会がある。
  • 個々の労働者を大切にする企業文化がある。
  • 経営陣の行動が組織の価値観と一致している。

ストレスの防止と作業実績

セントポール火災海上保険会社は病院におけるストレス防止プログラムの効果を知るために、いくつかの調査を行った。プログラムの活動としては、(1) 作業ストレスについての従業員および経営者の教育、(2) 組織的なストレス原因を減らすために、病院の政策や手順を変更する、(3) 従業員支援プログラムを策定する、などが挙げられた。

ある調査では、ベット数700ある病院で、防止活動が実施されてから、投薬の誤りが半減した。第2の調査では、ストレス防止活動を実施した22の病院で、治療上のクレームが70%も減少したことが分かった。対照的に、ストレス防止活動を行わなかった22の病院では、クレームは減少しなかった。

− 応用心理学ジャーナル
(Journal of Applied Psychology)


労働統計局のデータによると、ストレス、不安または関連する障害のために休まなければならない労働者は、約20日間の休暇を取っている。

−労働統計局
(Bureau of Labor Statistics)



作業ストレスにはどんな対策があるか

テレサやデービッドの例から、作業ストレスに対する2種類の対策が浮かび上がる。

ストレス管理

テレサの会社は、労働者が困難な作業条件に対応する際の能力を向上させるため、ストレス管理訓練や従業員支援プログラム(EAP:Employee Assistance Program)を提供している。米国の大企業の半分近くが従業員に何らかの種類のストレス管理訓練を実施している。ストレス管理プログラムは従業員にストレスの性質や原因、ストレスの健康への影響、ストレスを減らすための個人的スキルを教えている。たとえば、時間の管理や気持ちをほぐす方法などである。(EAPは労働問題だけでなく家族問題についても、従業員に個人的なカウンセリングを提供している)。ストレス管理訓練は、不安や不眠症などのストレス症候群を迅速に減らすことができる。またこれらのプログラムは費用もかからず、実施も容易である。しかしストレス管理プログラムは大きな二つの欠点を持っている。
  • ストレス症候群に対する効果が長続きしない。
  • それは環境ではなく、労働者を重点とした対策なので、重要なストレス原因を無視することが多い。

組織の改革

ストレス管理訓練やEAPプログラムとは違って、デービッドの会社はコンサルタントに労働条件改善の方法を検討させて、作業ストレスを減らそうとしている。このアプローチは作業ストレスを減らす最も直接的な方法である。その場合、作業の中でストレスの多い部分(過重な作業量、矛盾する期待など)を特定し、その特定されたストレス要因を軽減または解消する方法を考案することになる。このアプローチのメリットは、作業ストレスの根本的原因に直接取り組むことである。しかし管理者たちがこのアプローチを嫌う場合もある。作業のルーチンや生産スケジュールを変更し、または組織構造を改めることが必要になる可能性があるからである。

一般的ルールとして、作業ストレスを軽減する措置は、労働条件を改める組織改革を最優先すべきである。しかし強い意識をもって労働条件を改善しても、すべての労働者のストレスを完全に取り除くことは困難である。このため、組織改革とストレス管理とを組み合わせる方式が、作業ストレスを防止する最も効果的な方法になることが多い。


作業ストレスの防止:総合的なアプローチ

組織改革 + ストレス管理 = 健康的な職場

ストレスによる健康障害を軽減する
充足感を持ち、生産的な労働者
収益性が高く、競争力の強い企業


作業ストレスを防止するための組織改革の方法

  • 作業量を労働者の能力、体力・知力に適合させる
  • 仕事が有意義で、刺激的であり、労働者がその技能を発揮できる機会になるよう、作業を設計する
  • 労働者の役割と責任を明確に決める
  • 労働者の仕事に関係する決定や行動に参加する機会を労働者に与える
  • 意志疎通を改善する―キャリアの成長、将来の雇用見通しについての不確実性を減らす
  • 労働者相互間の交流と対話の機会を提供する
  • 仕事以外の要求や責任とも適合する作業スケジュールを立てる

−米国心理学協会
(American Psychologist)



作業ストレスの防止:何から始めるか

ストレス防止プログラムを立案する場合、標準的なアプローチや、単純なハウツー・マニュアルは存在しない。プログラムの組み立てや適切なソリューションには、組織の規模や複雑さ、利用できる資金や人材、特にその企業が直面する特異なストレスの種類など、いくつもの要素が関係する。たとえば、デービッドの会社の場合、主な問題は過重な作業量であった。

一方、テレサの場合には、顧客とのむずかしい交渉、柔軟性に欠ける作業スケジュールなどに苦しめられていた。作業ストレスを防止するために、一つの普遍的な処方箋を出すことはできないが、企業内のストレス防止プロセスについて、ガイドラインを示すことは可能である。あらゆる状況において、ストレス防止プログラムのプロセスには、問題の特定、介入、評価という3つのステップがある。これらの段階は後に説明する。このプロセスに成功しようと思えば、企業は十分な準備が必要である。少なくとも、ストレス防止プログラムの準備には以下の事項を忘れてはならない。
  • 作業ストレスについて、その原因、費用、管理などを含め、企業全体の認識を深めておく。
  • 最高経営陣のプログラムに対するコミットメントとサポートを確保しておく
  • プログラムのすべての段階で従業員の意見を聞き、参加させる
  • プログラム実施の専門的能力(社内スタッフの専門訓練、作業ストレス・コンサルタントの起用など)を確立する
ストレス防止プログラムを立案する場合に、委員会に労働者や労働者と管理職を一緒に起用すると、非常によい効果を上げることができる。このような幅広い参加を確保しておくと、職場でのエルゴノミクス問題を解決する際に有効であることが、調査で明らかになっている。こうした問題の解決は作業で遭遇する危険性などについて、労働者の現場での知識が必要であるからだ。しかしワーキング・グループを設ける際には、現在の労働法規に合致するようにしなければならない(*)。

(*) 米国労使関係法は、労使のチームまたはグループにおける従業員の参加の形式や構造を制限する場合がある。この法律の下での義務や責任について懸念を持つ事業者は、法律顧問の助けを求めるべきである。


防止のための3つのステップ

勤労意欲の低下、健康や仕事に関する苦情、従業員の頻繁な離職などは、作業ストレスの初期的な徴候である。しかし、特に従業員が職を失うことを恐れている場合には、問題解明の糸口が見つからないこともある。明白なまたは広範囲に広がった徴候がないからといって、作業ストレスについての懸念を無視し、または防止プログラムの重要性を過小評価してはならない。

ステップ1: 問題の特定


企業内にストレス問題の懸念がある場合、その規模や原因を見極める最善の方法は、企業の規模や利用できる資金・人材などに左右されることがある。管理職、労組代表、従業員などによるグループ討議からは貴重な情報が得られる。規模の小さい企業ならば、このようなグループ討議だけでストレス問題を追跡し、解決することができる。しかし企業の規模が大きくなると、グループ討議は多数の従業員からストレスの多い作業条件についての情報を集める、正式調査を立案する資料になる。

データを集める方法がどうであれ、従業員が作業条件をどう認識しているか、ストレス、健康、満足度のレベルをどう判断しているか、についての情報を集める必要がある。先に示したストレスを生みがちな作業条件、警告的な徴候、ストレスの影響などのリストは、どのような情報を集めるかを決定する出発点になるだろう。

また常習的欠勤、病気、離職率、機能の問題などの客観的な尺度を検討すれば、作業ストレスの有無や程度を推測できる。しかしこれらの尺度はせいぜい作業ストレスの概略の指標に過ぎない。

討議、調査、その他の方法から得たデータを要約、分析して、ストレス問題の所在、原因と疑われる作業条件、などを追跡する。たとえば、問題が組織全体にあるのか、それとも一つの部署、特定の作業にあるのかを突き止める。

  • 従業員とグループ討議を実施する
  • 従業員の調査を立案する
  • 作業条件、ストレス、健康、満足度などについての従業員の認識を測定する
  • 客観的なデータを集める
  • データを分析して、問題の所在、ストレスの多い作業を特定する

調査方法の設計、データ分析、その他のストレス防止プログラムの問題は、地域の大学、コンサルティング会社などの専門家の支援が必要である。しかし防止プログラム全体の権限は、企業が持っていなければならない。

ステップ2:対策の立案と実施

作業ストレスの原因が特定され、問題の範囲が明確になったら、次は対策を考え、実施する段階に入る。

中小企業の場合、ストレスの原因を特定する非公式の討議で、そのまま対策としての有効なアイディアを生むことも可能である。だが企業の規模が大きくなると、公式のプロセスが必要になる。特別のチームを作って、ステップ1の分析に基づき、外部専門家の意見を聞いて勧告を作成することが多い。

好ましくない作業環境のような、問題が企業組織全体に広がっていて、企業全体で対策を必要とする場合もある。過度な作業量などの問題は特定の部署に片寄ることが多く、作業方法の改善などの狭い範囲の対策が取られる。問題が一部の従業員に限られていたり、組織改革には問題があったりして、ストレス管理や従業員支援プログラムなど、別の方法による対処が適切である場合もある。対策の中にはすぐに実施できるもの(意志疎通の改善、ストレス管理訓練など)もあるが、実施に時間を要する対策もある(製造工程の再設計など)。

どのような対策でも、それを実施する前には、従業員に内容を知らせ、時期を通知する必要がある。全員集会など、プロセス開始のためのイベントも有効な方法である。

  • 改善を要するストレス要因を特定する。
  • 対策を提案し、優先順位を決める。
  • 計画した対策を従業員に通知する。
  • 対策を実施する。

ステップ3:対策の評価

評価は対策遂行に当たっての重要なステップである。対策が期待したような効果を上げているかどうか、方針の変更が必要かどうか、などを判断するには評価が必要である。

対策の評価をいつ行うか、予め決めておくべきである。組織改革をともなう対策は、短期、長期の両面での評価を行う。短期の評価をたとえば四半期単位で行えば、プログラムの効果を早めに知り、方針変更の必要性を探ることができる。対策の多くは最初の効果が長続きしない。従って、対策が永続的な効果を挙げることができるかどうか、を判断するためには、年間を単位として長期的評価を行うことが望ましい。
評価に際しては、対策の問題特定の段階で集められた、同じ種類の情報(労働条件に関する従業員からの情報、ストレスの認識レベル、健康問題、満足度など)に重点を置くべきである。従業員が問題や対策をどう認識しているかは、ストレスの多い労働条件の最も重要な尺度であることが多く、対策の効果が最も早く現れるところでもある。欠勤率や医療費などの客観的な尺度を加えることも効果がある。

  • 短期と長期の評価を行う。
  • 作業条件、ストレス、健康、満足度などについての従業員の認識を測定する。
  • 客観的尺度を加える。
  • 対策を改善し、ステップ1に戻る。

しかし、このような尺度についての作業ストレス対策の効果はなかなか明確には現れないものであり、効果が表面に出るまでに長い時間を要することもある。
作業ストレスの防止プロセスは評価で終わるわけではない。むしろ作業ストレス防止は、評価のデータを使って、対策をさらに改善し、方針を変更する継続的なプロセスとして、見るべきである。

以下に、一部の企業が職場で取っている作業ストレス防止対策を紹介する。


ストレス防止プログラム
企業が実施している対策の実例

事例1:小規模のサービス企業

ある小規模の公共サービス企業の部長が、スタッフの間で緊張が高まり、士気が落ちているのに気付いた。仕事に対する不満や、頭痛などの健康面での悪い徴候も増えてきた。部内でストレスが問題化していると思った部長は、部内の各セクションの従業員全員と話し合いの機会を持ち、状況をさらに調べることを決めた。この会合は自由討議とし、従業員は自由に職場でのストレスの程度や原因、そして問題を解決するための対策などについての意見を述べることができた。

会合で集めた情報を元に、さらに中間管理職との協議の結果、部長はかなり深刻な問題が存在し、迅速な対策が必要であることを覚った。しかし部長は作業ストレスの分野については不慣れであったため、地域の大学で作業ストレスや組織行動を専門に教えている教官に相談することにした。

従業員との会合で得た情報を再検討した結果、部長と教官は、作業ストレス、その原因、影響、防止についての意識を高めるため、部内のすべての従業員と管理職を対象に、非公式の講座を開くことにした。また問題のある作業条件やストレスに関連する健康上の訴えをもっと明確にすることが必要だとの考えで一致した。教官は従業員や管理職との話し合いで得た情報を元に、調査を計画した。また匿名でのアンケートを実施し、従業員から日ごろ悩んでいる問題について、正直にものが言えるようにした。このような調査の結果は部長と共に分析され、解釈された。

調査データの分析から、次の3つの作業条件が従業員のストレスの訴えに関連していることが分かった。
  • 非現実的な作業の締め切り
  • 監督者のサポート不足
  • 業務上の決定に従業員が参加していない
これらの問題を指摘された部長は、是正措置を立案し、優先順位を決めて実施することにした。たとえば、(1) 非現実的な作業の締め切りを減らすために、作業のスケジュール作りに従業員を参加させる、(2) 従業員と管理職との話し合いを頻繁に行い、両者がいま進行中の問題について、共通した意識を持てるようにする、などである。

事例2:大手製造企業

特にストレスの徴候が社内に広がっていると考えたわけではないが、ある企業の社内医療責任者が、積極的にストレス防止プログラムを確立した方が有益であろうと考えた。最初のステップとして、彼はこのアイディアを経営陣や労組幹部に持ちかけた。全員が賛成して、社内に労使によるプログラム策定チームが生まれることになった。チームには労組代表、医療・従業員支援部門、人事部、外部の人材コンサルタントなどが参加した。コンサルタント会社はプログラムの設計、実施、評価についての専門的助言を提供した。チームやプログラムの資金は会社が負担し、会社はこの計画をサポートすることを明らかにした。チームは2部からなるプログラムを作成した。第1部はストレスを生む可能性のある経営慣行や労働条件を中心としたもので、第2部は個人の健康と福祉に重点を置くものであった。

経営慣行や労働条件に関するプログラムを実施するために、チームはコンサルタント会社の協力を求めながら、会社がこれまでに行っていた従業員の意見調査に、作業ストレスに関する新しい質問を加えることにした。チームはこの調査データを使って、ストレスの生じやすい労働条件を明らかにし、作業グループや組織レベルでの改善を提案した。従業員の健康、福祉については、12週に及ぶ訓練コースが設けられた。このコースで、従業員や管理職は作業ストレスの共通の原因や影響、それに気持ちをくつろがせる方法や正しい健康維持の方法など、自己防衛の対策を学んだ。訓練は作業時間、それ以外の時間にわたって行われた。

チームはさらに四半期ごとに作業条件やストレスの徴候についての調査を実施し、この2部からなるプログラムの効果を綿密に追跡している。


これらの事例は実際の状況を適応させたものである。作業ストレス対策の事例については、Conditions of work Digest, Vol. 11/2, pp.139-275を参照。この資料は下記から入手できる。

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(Tel: 301-638-3152)

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