38. じん肺と健康管理
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日本においては、長期間粉じんを吸入することによる「じん肺」で療養する必要がある労働者が多く発生していたことから、適正な健康管理及び予防等必要な措置を講ずるこを目的として「じん肺法」が1960年に制定されました。
その後、労働安全衛生法に基づく「粉じん障害防止規則(1979)」が制定され、予防についてはこの規則によることになりました。(じん肺法、じん肺法施行規則)
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1. じん肺の管理区分(法第4 条)
じん肺健康診断の結果により、労働者の健康管理区分を次のように区分します。
管理区分 |
健康診断の結果 |
管理 1 |
じん肺の所見がないと認められるもの |
管理 2 |
X線写真の像が第 1型で、じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるもの |
管理 3 |
a. |
X線写真の像が第 2型で、じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるもの |
b. |
X線写真の像が第 3型又は第 4型(大陰影の大きさが片側の肺の1/3 以下のものに限る)で、じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるもの |
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管理 4 |
a. |
X線写真の像が第 4型(大陰影の大きさが片側の肺の1/3 を超えるものに限る)と認められるもの |
b. |
X線写真の像が第1 型~第 4型(大陰影の大きさが片側の肺の1/3 以下のものに限る)で、じん肺による著しい肺機能の障害があると認められるもの |
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(注) |
第 1型 |
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両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が少数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの |
第 2型 |
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両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が多数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの |
第 3型 |
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両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が極めて多数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの |
第 4型 |
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大陰影があると認められるもの |
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2. じん肺健康診断
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a. |
就業時健康診断(法第7 条)
新たに常時粉じん作業に従事することになった労働者 |
b. |
定期健康診断(法第 8条)
常時粉じん作業に従事する労働者等に対しては、次の周期で健康診断を実施することが必要です。 |
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(a) |
常時粉じん作業に従事する労働者は、3 年以内ごとに |
(b) |
常時粉じん作業に従事する労働者でじん肺管理区分が管理2 又は管理3 である者は、1
年以内ごとに |
(c) |
常時粉じん作業に従事した労働者で、現在は粉じん作業以外に従事している者のうち、じん肺管理区分が管理2
である者は、3 年以内ごとに |
(d) |
常時粉じん作業に従事した労働者で、現在は粉じん作業以外に従事している者のうち、じん肺管理区分が管理3
である者は、1 年以内ごとに |
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c. |
定期外健康診断(法第7 条、則第11条)
定期健康診断のほか、次の場合には、随時の健康診断を実施することが必要です。
(a) |
常時粉じん作業に従事する労働者が、労働安全衛生法による定期健康診断又は特殊健康診断の結果、じん肺の所見があり、又はじん肺にかかっている疑いがあると診断されたとき(管理区分が管理2
~管理4 であると決定された者を除く) |
(b) |
合併症により1 年を超えて療養のため休業した労働者が、医師から休業の必要がないと診断されたとき |
(c) |
合併症により1 年を超えて療養のため休業した労働者が、医師から療養の必要がないと診断されたとき |
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d. |
離職時健康診断(法第9 条の2,則第12条)
常時粉じん作業に従事している労働者が、離職するときには、健康診断を実施することが必要です。
(a) |
常時粉じん作業に従事している労働者で従事期間が1 年を超えるもの |
(b) |
常時粉じん作業に従事している労働者で管理区分が管理2 又は管理3 であるもの 従事期間が6
月を超えるもの |
(c) |
常時粉じん作業に従事した労働者で、現在は粉じん作業以外に従事している者のうち、じん肺管理区分が管理2
又は管理3 であるもの
従事期間が6 月を超えるもの |
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e. |
労働安全衛生法による健康診断との関係(法第10条)
じん肺健康診断を行った場合には、その限度において労働安全衛生法による定期又は特殊健康診断を省略することができます。
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3. じん肺管理区分の決定手続き等(法第13~20条、則第20~25条)
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じん肺の健康診断から管理区分の決定までの手順は、次のようになります。 |
a. |
じん肺健康診断の結果、じん肺の所見がないと診断された者は、管理区分 1とする。 |
b. |
じん肺健康診断の結果、じん肺の所見があると診断された者は、
(a) |
X線写真、じん肺健康診断の結果を証明書面等を都道府県労働局長に提出する。 |
(b) |
都道府県労働局長は、地方じん肺診査医の診断、審査により管理区分を決定する。 |
(c) |
都道府県労働局長は、決定した管理区分を事業者に通知する。 |
(d) |
事業者は、労働者に決定した管理区分を通知する。 |
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c. |
常時粉じん作業に従事する労働者又は常時粉じん作業に従事した労働者は、何時でも都道府県労働局長に管理区分の決定を申請できる。 |
d. |
事業者は、常時粉じん作業に従事する労働者又は常時粉じん作業に従事した労働者について、何時でも都道府県労働局長に管理区分の決定を申請できる。 |
e. |
都道府県労働局長の決定に不服がある場合
(a) |
都道府県労働局長の管理区分の決定結果について不服がある者は、行政不服審査法に基づいて厚生労働大臣に審査請求ができる。 |
(b) |
厚生労働大臣は、中央じん肺診査医の診断、審査により管理区分を決定する。 |
(c) |
決定の結果の通知は、(3)-b-(c),(d) と同様に行います。 |
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f. |
厚生労働大臣の決定に不服がある場合
厚生労働大臣の決定に不服がある場合には、裁判所に処分取り消しの訴訟を行うことができます。
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4. じん肺管理区分の決定後の健康管理の措置(法第20条の2,~21条、則第26~28条) |
管理区分が2 以上の者に関しては、次のような措置を行います。 |
a. |
粉じんへの暴露の低減
事業者は、管理区分2 及び管理区分3 のa の労働者について、就業場所の変更、粉じん作業に従事する時間の短縮等の措置を行います。 |
b. |
作業場所の変更等
(a) |
都道府県労働局長は、管理区分3 のa の労働者について粉じん作業以外の作業に常時従事させることを勧告できます。 |
(b) |
事業者は、都道府県労働局長の勧告を受けたとき、又は管理区分3 のb の労働者については、粉じん作業以外の作業に常時従事させるよう努めます。 |
(c) |
事業者は、作業場所の変更を行ったときには、都道府県労働局長に報告します。 |
(d) |
都道府県労働局長は、管理区分3 のb の労働者について、粉じん作業以外の作業に常時従事させるよう指示できます。 |
(e) |
事業者は、労働者を粉じん作業以外の作業に従事させるさせるための教育訓練を実施します。 |
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c. |
療養
管理区分4 と決定された者及び合併症にかかっていると認められる者については、療養させるこが必要です。 |
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5. 転換手当の支給(法第22条、則第37条) |
労働者が常時粉じん作業に従事しなくなったときには、事業者は7 日以内にその者に対して、転換手当として次の日数に相当する平均賃金を支払うことが必要です。 |
a. |
(4)-b-(a) に該当する労働者又は管理区分3 のb の労働者 30日分 |
b. |
(4)-b-(d) に該当する労働者 60日分
なお、転換手当を標準とした租税その他の公課、転換手当を受ける権利の譲り渡し、担保、差押えは禁止されています。 |
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6. 国の援助等(法第32条~35条、則第34~37条) |
国は、じん肺の防止等に関して次のようなことを実施します。 |
a. |
技術的援助
国は、事業者に対して、粉じん濃度の測定、粉じんの発散源の防止・抑制、じん肺健康診断その他健康管理等について必要な技術的援助を行うこと。 |
b. |
対策指導委員の配置
予防に関する技術的な援助を行わせるため、都道府県労働局に衛生工学についての学識経験者である粉じん対策指導委員(非常勤)を配置すること。 |
c. |
職業紹介等
管理区分3 の労働者が、その事業場で粉じん作業以外の作業に転換できない時には、国は職業紹介、職業訓練に関し適切な措置がとれるよう努めること。 |
d. |
施設の整備等
国は、じん肺にかかった労働者の生活の安定を図るため、就労の機会を与える施設及び労働能力の回復を図るための施設の整備等に努めること。 |
e. |
国の権限(法第41条~43条)
法律の適正な施行について労働基準監督官等に一定の権限を与えること。 |
f. |
労働者の申告(法第43条の2 )
労働者は、事業場にこの法律に基づく違反があった場合には、労働基準監督官等に申告ができます。
なお、事業者は、申告したことに対して不利益な取扱をすることは禁じられています。
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(次回は、労働基準法と安全衛生を予定)
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