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42. 労働者の災害補償



 事業者は、事業の運営中に労働者が業務に起因して、負傷し、疾病にかかり、又は死亡することを防止するために最大の努力を行うことが必要です。
 しかし、不幸にして労働者が労働災害に遭遇し、業務上の負傷や疾病を被った場合には、労働者がそのために労働ができない期間の賃金の補償、医療のために必要な経費等について、事業者に補償する義務のあることが労働基準法に規定されています。
 一方、日本においては、政府が管掌する労働者災害補償保険(以下「労災保険」という)制度があり、事業者から徴収した保険料を原資として業務上の災害に関する各種の補償を事業者に肩代わりして給付するとともに、労働基準法において事業者の責任とはなっていないが、業務に密接な関係を有する通勤災害についても給付することになっています。
 さらに、この労災保険制度では、保険給付にどまらず、労働者やその遺族に対し、社会復帰の促進、被災者の援護等福祉の増進を図るための制度も付帯的に運用しています。
(労働基準法、労働基準法施行規則、労働者災害補償保険法、労働者災害補償保険法施行令、労働者災害補償保険法施行規則、労働者災害補償保険特別支給金支給規則)

1. 労働基準法等との関係(労働基準法第84条、労災保険法第12条の5,6)
a. 使用者(事業者)は、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という)に基づいて補償が行われた場合には、補償の責任を免除されます。
b. 使用者は、労働基準法に規定された補償を行った場合には、その価額の限度において民法による損害賠償の責任を免除されます。
c. 保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができません。
d. 租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として課すことができません。
2. 保険給付の種類(労災保険法第7 条)
労災保険法では、次のものに保険給付が行われます。
a. 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡に関する保険給付
b. 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡に関する保険給付
c. 二次健康診断等給付
3. 給付の対象となる者(労災保険法第1,32〜36条、同施行規則第46条の16〜18)
労働災害の補償の対象となる者は、労働基準法では事業者に雇用される労働者ですが、労災保険法においては、この他に特別に加入した次の者も給付の対象となっています。
a. 常時300 人以下の労働者を使用する事業主(一般に中小事業主という。なお、金融業、保険業、不動産業、小売業、サービス業については、50人以下、卸売業については100 人以下)
b. a の事業主の行う事業に従事する者
c. 次の事業を労働者を使用しないで行うことを常態とする者
· 自動車を使用して旅客、貨物を運送する事業
· 建築その他の工作物の建設、改造、修理、解体等の事業
· 漁船による水産動植物の採取、捕獲の事業
· 林業の事業
· 医薬品の配置、販売の事業
· 再生利用の目的となる廃棄物の収集、運搬、選別、解体等の事業
d. c の事業主の行う事業に従事する者
e. 次の作業に従事する者
· 農業(機械を使用する作業、酸素欠乏危険作業、農薬散布の作業等を行うものに限る)
· 家内労働者(プレス機械を使用する作業、有機溶剤を使用する作業、鉛化合物を使用する陶磁器の製造等の作業、織機等を使用する作業、木工機械を使用して仏壇等の製造を行う作業等)
f. 労働組合の常勤役員が行う集会、団体交渉等の労働組合の作業
g. 介護に関する業務であって、入浴、排泄、食事等の世話及び機能訓練等に係るもの
h. 海外派遣者
4. 保険給付の種類と概要
a. 業務上の災害に対する給付
· 療養補償給付(労働基準法では療養補償という。以下同じ)
                (労災保険法第13条、労働基準法第75条)
    労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合には、療養に必要な費用(手術費、薬剤費、看護費等)を給付します。
· 休業補償給付(休業補償) (労災保険法第14条、労働基準法第76条)
     労働者が療養のため労働することができない場合には、第4 日目から療養中基礎日額の60/100の休業補償を給付します。
(注) 1 休業3 日目までは、労働基準法の規定により、事業主が支払う義務がある。
2 基礎日額は、概ね労働基準法の規定による平均賃金(日額)
· 障害補償給付(障害補償) (労災保険法第15条、労働基準法第77条)
     負傷し又は疾病にかかった労働者の身体に障害が残った場合には、障害等級に応じ、障害補償年金(第1 級〜7 級)又は障害補償一時金(第8 級〜14級)を給付します。
(障害等級と補償日数)
等級  1 2 3 4 5 6 7 8 13 14
日数 313 277 245 213 184 156 131 503 101 56
障害の状態(例)
障害等級 1 級 両眼が失明した者、両上肢を肘関節以上で失ったもの 等
2 級  一眼が失明し他眼の視力が0.02以下になったもの、両上肢を手首関節以上で失ったもの 等
3 級  一眼が失明し他眼の視力が0.06以下になったもの、十指を失ったもの 等
14 級  上肢の露出面に手掌面大の醜痕を残すもの、一手の小指の用を廢したもの 等
· 遺族補償給付(遺族補償) (労災保険法第16条、労働基準法第79条)
労働者が死亡した場合には、遺族に対して遺族補償年金又は遺族補償一時金を給付します。
年金 受給者が1人の場合 基礎日額の153 日分
 2人の場合  基礎日額の201 日分
        
3人の場合 基礎日額の223 日分
4人以上の場合 基礎日額の245 日分
一時金 1,000 日分 (遺族の状況により減額の場合がある)
· 葬祭料(葬祭料) (労災保険法第17条、労働基準法第79条)
葬祭を行う者に対して、315,000 円に基礎日額の30日分を加えた額を給付します。
    (60日分に満たないときは、60日分)
· 傷病補償年金 (労災保険法第12条の8,18,19 条)
業務上負傷し、疾病にかかった労働者が、療養の開始後1 年6 月経過した日において、負傷又は疾病が治っていないとき、或いは障害の程度が規定された等級に該当するときには、障害の状態が続いている間、障害等級に応じた傷病補償年金を給付します。(障害等級、障害の状態、給付年額は、障害補償年金の1 〜3 級にほぼ同じ)
    なお,傷病補償年金を給付された場合には、労働基準法に規定されている打切補償を支払ったもの見做します。
· 介護補償給付(労災保険法第19条の2)
    介護補償給付は、障害等級が1 級で神経系統又は胸腹部臓器に著しい障害を残し常時介護を要する状態或いは障害等級が2 級で神経系統又は胸腹部臓器に著しい障害を残し随時介護を要する状態の者に対して月を単位として給付します。
    給付額は、その月の介護のために支出された費用の額(最大108,300 円)
b. 通勤災害に対する給付の種類と給付の額(労災保険法第21条)
   通勤災害に対する給付の種類は、次のおりであり、給付の額は業務上災害と同じです。
  ・ 療養給付 ・ 休業給付 ・ 障害給付 ・ 遺族給付 ・ 葬祭給付
  ・ 傷病年金 ・ 介護給付
c. 二次健康診断等に対する給付(労災保険法第26〜28条)
   労働者が、労働安全衛生法第66条第1 項による健康診断を受けた場合に血圧検査、血液検査その他業務上の事由による脳疾患及び心臓疾患の発生にかかわる検査で要した費用について給付します。
5.労働福祉事業(労災保険法第29条)
労災保険では、上記のように業務災害、通勤災害に対する各種の給付のほか、労働者及びその遺族の福祉の増進を図るため、次のような事業も行っています。
a. 療養施設、リハビリテーションの施設の設置、運営、業務災害及び通勤災害を被った労働者の円滑な社会復帰を促進するために必要な事業
b. 被災労働者の療養生活の援護、被災労働者の受ける介護の援護等の事業 等
  この労働福祉事業の一環として、特別支給金の制度があります。(労働者災害補償保険特別支給金支給規則)
  この特別支給金は、業務災害、通勤災害に対しての支給されるもので、次の種類があります。(支給規則第 2条)
  ・ 休業特別支給金 ・ 障害特別支給金 ・ 遺族特別支給金 
  ・ 傷病特別支給金 ・ 障害特別年金  ・ 障害特別一時金
  ・ 遺族特別年金  ・ 遺族特別一時金 ・ 傷病特別年金
支給額は、例えば休業特別支給金については基礎日額の20/100が支給されますので、休業補償給付又は休業給付(通勤災害の場合)の60/100と併せて80/100支給されることになります。
6. 労働保険料
  労災保険による各種の給付及び特別支給金等の原資は、事業者から徴収する労働保険料が充てられます。(労働保険の保険料の徴収等に関する法律)
  この労働保険料は、労災保険と雇用保険(失業者の手当て等の支払いに関する保険)の原資として併せて徴収されるものですが、労災保険に関するものは全額事業者の負担となっています。
  なお、労災保険に関する保険率は、業種の危険度、過去の給付状況等によって異なっており、一例を挙げると次のようになっています。(保険料は、保険率×その事業場の労働者に支払うの賃金の総額となる)
木材伐出業  134/1000 ……… 保険率の最高
水力発電施設、ずい道新設事業 134/1000

金属鉱業、石炭鉱業等 89/1000

採石業  72/1000

海面漁業 59/1000

港湾荷役業 38/1000

道路新設事業  33/1000

窯業又は土石製品製造業 26/1000 ……… 製造業で最高の保険率
木材又は木製品製造業 23/1000

船舶製造又は修理業 22/1000

農業又は海面以外の漁業 11/1000

その他の事業 6/1000 ……… 保険率の最低
(注) 建設業で有期の事業については、請負金額に一定の労務比率(例えば、水力発電施設、ずい道新設事業については20% )を乗じて算出する。
7. 支給制限(労災保険法第12条2 の2)
労災保険は、次の場合には支給の制限が行われます。
a. 労働者が、故意に負傷、疾病、障害もしくは死亡又はその直接の原因となった事故を発生させたとき (給付の全部)
b. 労働者が故意の犯罪行為もしくは重大な過失により、又は正当な理由がないのに療養の指示に従わないことにより、負傷、疾病、障害もしくは死亡又はその直接の原因となった事故を発生させたとき
   または、負傷、疾病、障害の程度を増進させ、若しくはその回復を妨げたとき (給付の全部又は一部)
8. 費用徴収(労災保険法第12条3,第31条)
政府は、次の場合には、給付に要した費用の全部又は一部の徴収を行います。
a. 偽りその他不正の手段で保険給付を受けたとき(受給者から)
b. a の不正受給に関し、事業主が虚偽の報告又は証明をしたとき(事業主と受給者が連帯して)
c. 業務災害が、事業主の故意又は重大な過失により発生したとき(事業主から)

(以上で、このシリーズは一旦終りとします。)