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BAuAから見たドイツの安全衛生概況(2008年2月現在)

掲載日2008.03.31

2008年2月、当センター職員がBAuA(Dortmund)等を訪問しドイツの安全衛生について概況を聞いたので、以下にご紹介いたします。

なお、この調査に当たりましてはJETROデュッセルドルフ事務所のブリーフィングサービスによるご協力をいただいており、その情報も含まれております。

ドイツは16の州からなる連邦制(Bundeslander)の共和国で、労働安全衛生研究所(BAuA - Bundesanstalt für Arbeitsschutz und Arbeitsmedizin) はその連邦政府の労働社会省の機関である。

ドルトムント(約400名)、ベルリン(約120名)、ドレスデン(約45名)、ヘムニッツ(20−25名)にそれぞれ施設を有し、職員数約600名である。また、ドルトムントの本部には規模の大きい安全衛生を啓発するための展示館(略称DASA)が付置されており、学校等によく利用されている。理事長はIsabel Rothe氏。

機能的には、法令関係(規格関係、化学物質・器械安全関係等)、研究、ILO・WHO等とのネットワーキング、相談援助・研修等、広報・情報(機関紙: BAuA actuell)及び展示館(DASA: “人、仕事、技術”)がある。

2006年の年間予算は47.3百万ユーロであるが、財源は政府予算であり、労災保険ではない。内訳は、それぞれ、人件費26.9、展示館5.1、研究4.5、IT 1.5、INQA 1.2、職業病対策モデルプログラム1.0 各百万ユーロとなっている。INQAは“Initiative Neue Qualität der Arbeit” の略称で、各界が連携して労働の新たな質を追及しているプログラムである。

最近の新たな課題のひとつとしてはナノマテリアルへの取り組みを模索しており、日本の対応にも興味をもっている。そのほか、MSD(筋骨格系障害)やpsycho-socialな問題が課題であるとのことである。自殺もあり、タブー視されているような側面もあるが、仕事と生活の均衡(work-life balance)が重要である。

ドイツの経済・雇用状況は、失業率でみると2007年11月現在で西部ドイツで6.7%、東部ドイツで13.4%と東西の差が著しいほか、バイエルン州等では4%台となっているなど、南部では好況となっていることが覗える。また、旧東欧圏からのこういった地域では旧東欧圏等からの外国人労働者が相当数流入してきているようである。

日本企業との関係では、従来デュッセルドルフ等北ドイツの工業地帯に関係企業が多かったが、現在でもそうではあるものの、近年は生産拠点というよりは販売拠点化や、地元企業の買収による部品の調達などが進んでいる傾向にある由である。

BAuA戦略

10年間の戦略で、4つのフレームワーク、10個の目的、45のフォーカルポイントから成り立っている。

これに呼応して、2007-2010の実施プログラム及び研究プログラムがある。また、毎年の事業レベルの計画がある。

フレームワークは次の4種である。

  • アウトソーシングその他の新たな労働形態の変化
  • 人的資源をキーとしてcompetitiveな要件としての安全衛生
  • 就業形態、職場環境、生活様式等の個人行動などのすべてのレベル、分野での新予防戦略
  • 規制緩和等、新たな実施戦略

BAuAの任務は、職業的なリスクを見定めて評価し、改善策を開発、実施、点検し、予防的な考え方とアクションを普及させることである。

10の目的は次の通り。

  1. 能力とエンプロイアビリティーの維持促進
  2. 職業性障害・疾病の予防における改善
  3. 中小企業及び一定の産業における効果的・経済的な予防アプローチの開発・実施
  4. 安全で健康な労働システムの促進
  5. 有害物及び生物因子へのリスクがある作業の改善
  6. 安全が確認された化学物質の比率拡大
  7. 安全衛生に配慮した製品の比率拡大
  8. 危険な製品群の比率抑制
  9. 労働安全衛生に関する助言、情報、能力付与の領域拡大
  10. 労働安全衛生に対するポジティヴ・イメージの普及

2007-2010のテーマは、年齢、ハイリスクグループ、心身の健康、MSD、化学物質、循環器障害、主として中小企業と自営業者に対するgood practice、システムのデザイン、ナノマテリアル、化学物質と製品についてのリスクアセスメントの思想の普及等に関するものである。

ドイツの安全衛生は連邦制であることと二元的であることが特徴です。

それは、法令の制定・施行及び監督を行う中央(連邦政府)・地方(州政府)の行政庁と労災保険(DGUV)組合(BG)が労災保険の運営とともに自律的に行う指導促進的な業務とが並行しているところにある。

BGは業種ごとにかつて35あったが、現在は20であり、将来的には9に統合することが目指されているが、事情は地方ごとに異なるとのことである。また、農業、公務セクターとの統合も図られている。

フランスも地方と中央、労働監督を担う労働行政と補償と予防活動を担う社会保障行政のデュアルシステムであるが、保険の運用がドイツでは伝統的に労災保険組合(BG - Berufsgenossenschaft)であるが、フランスでは政府管掌となっているところが異なる(フランスのページをご参照ください)。

安全衛生法令に関しては、ドイツの地方(州)と中央(連邦政府)の関係は並立的で、州はできる範囲のことに責任があり、連邦は必要なことについて責任を有することになっている。州も連邦も立法することができ、連邦法が優位であるが、州は独自の法令を定めることもできる。

労働監督は州単位であり、法令の遵守、事業者に対する助言、災害調査、法の執行、労災保険事業との協力、労働者への助言を行っている。

州の例としてはwww.arbeitsschutz.nrw.deなど、また、平行して lafa と略称される地方の専門機関の例がwww.lafa-duesseldorf.nrw.deにある。

一方、労災保険側では、医療、リハビリテーション、年金等の補償業務と、企業のサーベイランス、州との経験交流、災害調査、企業に対する助言、研修及び予防活動を行っている。司法警察権は監督官のみが有しており、BGの事業にはないが、労働災害防止規則は作ることができ、必要な州の認可を得て、これに基づいて技術的な指導が行われる。

また、EUとの関係は、理事会指令89/391/EEC (12 June 1989 on the introduction of measures to encourage improvements in the safety and health of workers at work) をドイツ国内法に取り入れることとなっている。

ドイツの安全衛生は1820年に遡るといい、児童労働によって健康な兵士の供給が損なわれていることから歩みだしたとのことであり、古くからのシステムをもっている。

このため、不透明、非現実的な法令もあり、また二元的でもあるなどの問題があり、関係者間でドイツ安全衛生共同戦略(GDA)というものも作られている。

統計

労働力(2005): 38,823,000

労働災害(2005): 1,029, 520千人率(フルタイム): 28

死亡(2005): 863

通勤災害(2005): 187,830 (死亡 572)

新規年金受給者(2005): 23,886 (フルタイムの人の千人率 0.7)

職業病: 62,569 (届出)、受理件数: 16,519

−上位3位は、皮膚疾患、難聴、腰痛等

生産損失推定(2005): 380億ユーロ、総収入(gross national income)の1.7%

生産性損失推定(2005): 660億ユーロ(総付加価値 - gross value added)、総収入(gross national income)の3.0%