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特別講演会のご案内

インド(ムンバイ市)出張報告

掲載日2008.03.31

出張者

国際安全衛生センター業務管理課 職員

目的

  • 安全衛生情報の収集
  • 現地企業訪問による安全衛生活動の調査

訪問先と日程

平成20年2月27日(水)
日本出国(インド着)
キャセイパシフィック航空 成田発09:15 ムンバイ着20:05
平成20年2月28日(木)
終日:NSC訪問
国際センター研修生6名による安全衛生活動のプレゼンテーション
平成20年2月29日(金)
午前:DGFASRI訪問
午後:Paper products Ltd 訪問
平成20年3月1日(土)
終日:資料整理
平成20年3月2日(日)
終日:資料整理
平成20年3月3日(月)
午前:ACC Concrete Ltd訪問
午後:Technova Ltd訪問
平成20年3月4日(火)
終日:Godrej & Boyce Mfg Co Ltd 訪問
平成20年3月5日(水)
終日:帰国(ムンバイ〜成田)
キャセイパシフィック航空 ムンバイ発:04:10 成田着:20:15

T.訪問事業場等取材

  1. インド全国安全協会
    (National Safety Council)

    住所:98A, Institutional Area, Sector15, CBD Belapur, Navi Mumbai 400 614

    電話:+91-22-2757-9924Fax:+91-22-2757-7351

    インド全国安全協会(以下NSCと記載。)は、Navi Mumbai市(Mumbai市の、新しく計画された双子都市。)に位置し、独立した5階建てのビルである。

    NSCは、1966年に労働省により独立した組織として設立された、公的で非営利、中立的な団体である。

    NSCは、経営者団体、労働組合、NSC本体の3者の51人からなる理事会により運営されている。

    経営者団体と組合はそれぞれ8名、32名はNSC本体から選出される。残りの3名は、理事会によって選出された2名の専門家と前議長である。

    理事会の議長は、政府によって任命され、実務の最高責任者である理事長は、理事会の推薦のもとに政府によって任命される。

    NSCの職員数は、全体で約60人である。これに加えて約150名の外部の(専門的)アドバイザーがいる。

    NSCは、政府との関係はあるが、政府からの予算(補助金等)は入っていない。

    収入は全額自らの活動によって得ている。それは、約6,700に上る賛助会員企業、団体からの会費収入や、中災防と同様に、企業のコンサルティング、安全衛生図書用品の販売等からの収入である。

    賛助会員には、法人組織、各種団体、個人等がいる。

    また、NSCは国際センター研修のインドにおける推薦窓口機関である。1999年度より2007年度までに、国際センターは推薦を受けた57名の研修生を受け入れた。

    訪問日午後からは、国際センター研修生6名による、所属事業場で現在行われている安全衛生活動についてのプレゼンテーションが行われた。

  2. DGFASLI
    (Directorate General Factory Advice Service and Labour Institutes)

    住所:N. S. Mankikar Marg, Sion, Mumbai 400 022

    電話:+91-22-2407-4358Fax:+91-22-2407-1986

    DGFASLI(工場指導局・労働研究所評議会と訳す場合もある。) はムンバイ市に位置し、1945年に労働省によって設立された、その付属機関である。

    DGFASLIは、中央本部及び中央労働研究所(CLI、ムンバイ市)と4つの地方研究所(コルカタ、カンプール、チェンナイ、フリダバード)を有する大規模な組織であり、その業務も多岐にわたっている。

    1. 中央本部の主要業務
      • 中央政府の工場法について統括し、その関連施策について、中央政府及び州政府に対して助言を行う。また、工場法の改定についての提言を行う。
      • 造船・港湾労働者の安全衛生対策を統括する。
        1986年制定の、ドック労働者(安全・衛生・福祉)法を統括し、11の主要港にはドック監督官を置き、その実施に当たる。
    2. 中央労働研究所(CLI)の主要業務

      CLIは、その業務を開始した1961年より今日まで、ヒューマンファクターに関連した産業労働についての研究を行っている。

      そしてその成果による行政、産業界への提言、関連業務担当者や安全衛生専門家に対する教育研修を実施している。

      現在、CLIには、下記の9の研究部門がある。

      1. 産業安全
      2. 産業衛生
      3. 産業医学
      4. 産業生理
      5. 教育研修
      6. 産業心理
      7. 生産性
      8. 重大災害対策
      9. コミュニケーション

      さらに、教育研修用の施設として、産業安全衛生展示館(中災防のOSH squareに相当)、宿泊施設(Hostel)がある。

      2008年度には、59に上る研修プログラムが用意されている。

      私見では、清瀬市にある(独立行政法人)産業安全衛生総合研究所と中災防の安全衛生教育センター、及び中災防OSH squareを併せたような雰囲気を持っている。敷地面積はそれらより広いと思われた。

      産業医学部門のひとつである人間工学研究室と、産業安全衛生展示館(Auditorium)を見学した。

      研究室では、事務所用椅子の人間工学的研究が行われており、研究員氏は、成果を実用化してみせると意気軒昂であった。また展示館は、設備は老朽化していたが、研修のためには充分実用的であった。

      対応してくれた幹部は、「設備が全体的に”ancient”であり、更新が必要である。」と話していたが、実用的には遜色のないものと思われた。 

  3. The Paper Products Ltd

    住所:L. B. S. Marg, Majiwade, P. Box No. 4, Thane 400 601, Maharashtra

    電話:+91-22-2534-3691Fax:+91-22-2534-0599

    Paper Products Ltd社(以下PPLと記載。)は、世界的な(紙及びその他の材料製の)包装(パッケージング)企業である、フィンランドのHuhtamaki社のグループ企業である。本社及び工場は、ムンバイの衛星都市であるThane市にある。

    安全衛生環境課長氏は、昨年の国際センター研修の「労働災害防止活動(ゼロ災活動)」コースに参加した。

    今回の訪問の目的は、当方が行っているゼロ災活動が、どのような形で現地企業に採用されているかを取材することである。

    今回の訪問では、本社事務棟及び本社工場の生産ラインを見学した。

    事務棟内部のレイアウトは、北欧資本が入っていることも関係してか、ヨーロッパ流である。

    すなわち、日本の多くの企業や官庁が採用しているように、大部屋に机を向かい合わせにして隙間なくつなげるのではなく、一般社員の事務所は、大部屋ではあるがセクションごとに背の高い間仕切りで区切ってあり、個室に近い印象である。上級社員の部屋は、本人及び秘書という構成でほぼ個室である。

    工場内の印象は、日本の安全衛生活動に熱心な企業と極めて似通っており、整理整頓が行き届いている。

    PPLでは、ゼロ災活動は、ツールボックスミーティングの一種である「3つの問いかけ安全ミーティング」(Three Question Safety Meeting)を重要視するという形にアレンジされている。

    「3つの問いかけ」とは、

    1. 今日の業務は何か?
    2. 業務上の危険とは何か?
    3. どのようにそれらを防止あるいは抑制するか?

    である。

    「3つの問いかけ安全ミーティング」の全般的な利点は、危険の型と強度の特定に役立ち、危険を知ることができれば、業務を始める前に必要とされる安全対策を講じることができるからである。

    またこの訓練は、作業者に対して達成感を感じさせる。なぜなら、作業者自身によって発せられた提案が、見てすぐに実行され、そのことが業務において安全衛生活動を行うやる気を高めるからである。

    中災防発のゼロ災活動が、海外においてその国の実情に相応しくアレンジされ、普及していく様子を間近に見て、大いに感じ入った。

  4. ACC Concrete Limited
  5. 住所:3rd Floor, Leela Business Park, Opposite Hotel Leela, Andheri-Kurla Road, Andheri (East), Mumbai 400 059

    電話:+91-22-4077-2600Fax:+91-22-4077-2727

    ACCコンクリート社(以下ACCと記載。)は、インド最大のセメント及びコンク リートの製造会社である。従業員は、約9000人を擁し、19のコンクリート製造プラントを保有する。

    ACCは、法的な規制が確立されるよりはるかに早い時代から、環境保護や労働安全衛生対策に自主的に取り組んでいることで知られる企業である。

    安全衛生課長氏は、昨年の国際センター研修の「石綿・粉じん対策」コースを受講した。

    見学した事業場は、ムンバイ市郊外にあるセメント保管・搬出プラントである。

    本事業場で、最も重要なことは、保管されている大量のセメントの粉じん対策である。粉じん対策は、作業者に対する衛生管理対策であると同時に、プラント周辺の環境保護対策ともなるからである。

    セメントは、外部と屋根や仕切り等で区切られている区画に土積みされているが、外側とまったく隔離されているわけではない。そのため、スプリンクラーによって自動的に(かつ規則的に)散水される装置が配備されている。また、タンクローリー車が進入するため、建屋の開口部が大きな面には、合成樹脂製の“すだれ”が下げられ、車の出入りには支障なく、セメントの飛散を防ぐ対策が採られていた。

    訪問当日は、天気がよく、風も吹いていたが、プラント内部及び周辺に粉じんが飛散している様子はまったくなかった。

    また、安全面においても、インドの企業ではまだあまり普及していない、自己発光式の作業着や、作業塔上層階の墜落防止用鉄柵の靴があたる部分に、踏み外し防止用の鉄柵を新たに設けるなど、細かな安全対策が採られていた。

    安全衛生課長氏が国際センターで研修を受けた成果も見られたが、安全衛生対策に優れた企業の印象は、国籍を問わず共通したものになっていくと感じた。

  6. TechNova Imaging Systems (P) Limited
  7. 住所:Plot No. E1/2/3, M.I.D.C., Taloja, Dist. Raigad 410 208

    電話:+91-22-2741-2464Fax:+91-22-2741-0261

    TechNova Imaging Systems社(以下TechNovaと記載。) は、デジタル及びアナログオフセット印刷板や、化学系、インクジェット、レーザー、製図等のメディアの製作企業として世界最大級の企業のひとつである。

    対応してくれた安全とプロジェクト促進課長氏は、2006年に国際センター研修の「機械設備安全管理・点検」コースに参加した。彼は、日本語の名刺を使用しているほどの日本通である。顧客にも日本企業は多いそうである。

    TechNovaは、機械による災害の防止に関して、機械による要因(Machine factor)と人間による要因(Human factor)の二つを重視している。

    Machine factorについては、

    1. 機械の基本設計と製造
    2. 安全装置の状態
    3. 安全地帯の境界設定
    4. 法令規定の遵守
    5. 規則的な検査(1日毎、1月毎、1年毎)
    6. 検査記録等によって管理できる

    とし、Human factorについては、ゼロ災活動的手法を重視している。

    すなわち、

    1. ツールボックスミーティング等の安全促進活動
    2. KYトレーニング
    3. 指差呼称訓練
    4. 安全委員会
    5. ローカル言語で行う安全教育(作業者の中には、標準語・準標準語を理解しない者がいるため)
    6. 警告表示板の設置等

    である。

    本社工場を視察したところ、可動式のホワイトボードで囲まれた、ツールボックスミーティング用のスペースがあらかじめ取られており、KYTに熱心な日本企業の工場内と、変わるところがない。生理整頓もやはりよく行われている。

    また、インドにおいては、このような労働者の自主的活動を促進するためには、労働組合幹部(C.U.O)の理解と協力が不可欠とのことである。

  8. Godrej & Boyce Mfg. Co. Ltd
  9. 住所:Pirojshanagar, Vikhroli, Mumbai 400 079

    電話:+91-22-6796-1700Fax:+91-22-6796-1555

    Godrej & Boyce Mfg. Co. Ltd(以下、Godrejと記載。)は、1897年に設立された総合製造企業である。当初は、錠前のメーカーとして出発したが、その後次々と生産品目数を増やし、2007年度の総売上高は、約1800億円に上る。

    現在の主要生産品は、

    1. 創業以来の伝統生産品である錠前関連品・金庫。今日では、銀行の店舗の中に設置するような、大型特殊金庫もある。
    2. オフィス用及び家庭用家具、家庭用システムキッチン。
    3. 洗濯機、冷蔵庫、クーラー等のいわゆる白物家電。
    4. フォークリフト等の業務用運搬機械。

    などである。

    生産品目の多様性という点では、日本の「ヤマハ」と共通点があるという印象を受けた。

    本社及び本社工場は、Mumbai郊外のVikhroli地区に位置している。

    Godrejの社是は、「家族主義的経営」である。それも並大抵のものではなく、かつての日本企業(松下電器等)が採っていた方針をさらに推し進めたものである。

    広大な本社敷地内には、事務棟と工場等が複数あるが、その周辺に多くの社員住宅が建てられているのである。

    幹部社員の住宅は規模の大きな一戸建てであり、中堅社員の住宅は、低層の集合住宅であるが、社外の一般的な住宅に比べて、はるかに立派なものである。

    その上、敷地内には、社員の子弟が通う学校(小学校から高校)までが設置されている。

    本社・工場の敷地内だけで、生活圏が完結しているのである。

    次に工場の生産ラインを見学したが(錠前工場)、こちらは最新式というわけではないが、多くの安全衛生対策に優れた企業と同様に、整理整頓が行き届いていた。

    Godrejを訪問したのは、出張最終日であったため、工場内にKYTの実施ボードが置かれているのも見慣れた光景になってきた。(手法は、独自に改変されているようだが。)

    安全衛生担当副部長氏は、昨年当センター研修の「建設安全管理」コースを受講している。

    幹部社員とのミーティングの席で、彼は、国際センターの研修内容、及び当方の研修に対する態度を絶賛してくれた。

    彼と幹部社員は、訪問当日がインドの”National Safety Day”に当たったため、労働組合と共同で行われる安全集会の席に案内してくれた。

    それは、若い組合員が寸劇で安全対策の大切さを訴えるものであった。

    組合と経営幹部が対立的でないのも、家族主義的な社風によるところが大きいと感じた。

U.総括

私のインドに対する印象を一言で言えば、「多様性」(diversity)である。

民族、宗教、言語等多くのものが多様性に富んでいる。インド人は、ディベートやプレゼンテーションに強いと言われるが、それはよく理解できる。 なぜなら、インドという国自体が、小さな世界のようなものだからである。

それに対して、日本の特徴は、「均質性」であろう。地域等によって小さな差異はあるが、インドで経験したような強烈な違いを国内で経験することはまずない。

そのため、ゼロ災運動等の小集団活動を有効に行うことは、日本の勤労者にとってはたやすく、インドのような国では困難であるというのが、私の長年の思い込みであった。

しかし、今回の出張によって、私のステレオタイプな考えはたやすく覆された。

今回の出張では、小集団活動に限らず、優れた安全衛生手法は文化の違いを容易に越境できることを身を以って体験することができた。

私に得がたい経験をさせてくれた、多くの方々に感謝する次第である。