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高所における救助作業を現実のものにする

資料出所:Safety Management (BSC)
June 2006
(仮訳 国際安全衛生センター)

掲載日:2007.02.13
日本でも高所からの墜落は、死亡労働災害の主要な原因であるが、英国では2005年高所作業規則(The Work at Height Regulations 2005: WAHR)が制定された。本記事では、この規則では高所作業について適切に計画されることが求められているが、この「計画」について見落とされがちな点として、緊急時及び救助に関する計画を含めることなどを指摘し、高所からの救助活動も含めて高所作業担当者の仕事であるという。

過去一年間、高所作業規則は予想以上の注目を受けた。しかし、見落としがちな部分が二つある。それは救助計画の作成と狭隘空間での作業における墜落防止という二つの要求事項である。以下この記事で、高所安全教育を行うTAGの技術課長であるデーヴ・マーチャント博士が内容を説明する。

高層ビルイメージ

高所作業規則では多くのことが要求されるが、読者がたぶんすでに実施されていることが大部分である。求められていることは、高所作業のリスクアセスメントを行うこと、従業員が仕事に見合った能力を持つようにすること、承認を受け、かつよくメンテナンスされた設備を使用すること、マニュアルに従うこと、できるだけ安全に作業すること、いくらかの書類を処理すること、これらにかかる費用を心配しすぎないことなどである。というのも、安全は世界で一番大事なものだからである。

これで間違っているものはなにもない。そして、もしあなたがここ25年間労働安全衛生法を無視してきたのでなければ、既に9割はできているだろう。しかし高所作業規則(WAHR)には、あなたの責任を完全に変えてしまう、見逃しやすい条文(第4条第2項)が忍び込んでいるのだ。

第4条第1項は次のとおりである。すべての事業者は、高所作業について以下のとおりしなければならない:(a)適切に計画されていること。(b)適切に監督されていること。(c)合理的に実行可能な範囲で安全な方法で行われていること…そして第4条第2項は次の点を付け加えている:第1項の「計画」については、緊急時及び救助に関する計画を含むものとする。

一見したところでは、これは些細に見えるかもしれない。あなたはすでに仕事についてリスクアセスメントを行い、計画を立てているので、あと数分をかけて、緊急時と救助について検討すればよい。多分、あなたは労働者に携帯電話を与え、1人でなく2人を派遣すればよいと考えるだろう。しかしながら、高所作業規則の最後にある附則を見ると、第4条第2項の真の意味が明らかになる。附則5は、墜落に対する個人保護具(PPE)を使用する者すべてに適用されるものであるが、その言っているところは次のとおりである:「PPEを使用するときは、それを使用する者及び十分な数の動員可能な者が、救助手順を含むPPEの使用方法に関し、適切なトレーニングを受けておかなければならない。

これは、だれかがハーネスを身につけるか、安全帯をアイボルトに連結するか、ビルの側面を懸垂下降するか、又は縦抗に降ろされるかするとすぐに、周りの人間は、彼らを救助できるよう訓練されなければならないことを意味する。電話で助けを呼ぶだけではなく、作業者を降ろしたり、上げたり、外に出したりして安全な状態にすることができるようにするためである。それも失敗したり、危険を冒したりしない、完全に計画され十分に訓練された救助手順を使っての救助である。

ハーネスで宙吊りにされたことがトラウマとなるリスクを考えると、救助は即座に行わなければならない。分単位の遅れで死亡するかもしれないのである。それだけでなく、だれ(使用している者と十分な数の動員可能な人間)が訓練を受けているかも重要だ。PPEを使用している者はだれもが訓練を受けており、救助を行える者が現場に十分存在しているようにしなければならない。もし、計画で作業者一人を安全に救助するために、4人の懸垂下降者と10万ポンドのクレーンが必要だということになっているのなら、クレーンと5人の作業者が現場に到着してからでないと作業を始めることはできないということである。

現在、この点が問題となる点であり、いつもこの規則が守られない理由でもある。救助には金がかかり、統計的にまれなことであり、仕事を早めるものではないからである。顧客はそのクレーンの代金を払ってはくれない。それはあなたの経費(オーバーヘッド)である(天井(オーバーヘッド)クレーンにかけただじゃれのつもりである)。こういうお役所流からはできれば逃れたいと思うだろう。

問題は、高所作業規則が発効してからは高所からの救助があなたの仕事になったということである。あなたを助けてくれる人はだれもいない。NHS(国民健康サービス)は、そのスタッフが危険を冒すことを許さないから、高所や狭隘空間では働かない。消防・救急サービスは献身的なレスキュー隊を持っているが、その数は極めて少ない。また、最前線で働く通常の消防士は、基本的な高所作業の技能と装備しか持っておらず、困難に陥った労働者(より高度なテクニックを使用している)に近づくことができない場合も多い。だから高所作業の緊急時対応と救助は、あなたの職務計画の中にある問題だということを忘れてはならない。頼りになるのは自分だけという事実は、決して避けて通ることができない。

そのことはわかった。救助が自分の仕事であるということは納得した。しかし、50人の屋根葺き職人にナイフを口でくわえて懸垂下降の訓練をさせるということは、虎と格闘するよりも大変なことだ。私たちは、分別を働かせて以下のことを認識しなければならない。

  • 救助はあなたの日常の仕事でない。従って救助は実行しやすく、覚えるのは簡単で、忘れにくいものでなければならない。
  • どんな現場であろうと、そこにいるのが誰であろうと、問題が何であろうと通用するものでなければならない。
  • 費用面(訓練と「追加の」作業者と設備に関する)は、ひとつの要素になるだろう。
高所作業のイメージ

他のものと同様に、新しいスキルを得るには2つのやり方があって、我々は折衷案を考えることになるのだが、一つは基礎的な性能しかない装備を利用できるように、トレーニングや実習に多額の金をかけるか、もう一つは高性能の装備を買ってトレーニングを減らすかである。例えて言えば地図を読む方法を学ぶか、GPSを備え付けるかということである。幸いなことに、近年、トレーニング業界及び装備業界は、再三同じ質問を受けて、どのような顧客にも対応できるよう、選択肢を広げてきた。

いくつかの例を見る前に、YBK(You're bloody kidding!)を覚えておくことが重要である。これは、1点ハーネスを装着した救助者が、屋根の上でせっせと働いているときに、どすんという音を聞くとする。そして、「3点ハーネスを装着して、ナイフをもって、血を流して悲鳴をあげている同僚に向かって15階の屋上から懸垂下降をして、からみついているネットを切ってくれ。全部100パーセント間違いなくやるか、死ぬかだぞ。」と頼まれるとする。救助作業者が、どんなにその怪我をしている者と仲が良くても、この時点で「ご冗談でしょ(You're bloody kidding!?!?)?!」と言うだろう。

救助は成功しなければならない。したがって、救助作業者は、技術に自信があって、それが安全であることを確信していなければならない。その者が、既に懸垂下降で給料を貰っている者でなかったら、懸垂下降をさせてはならない。さもないと、あなたは、きっとこの3つの単語(訳注:You're bloody kidding!?!?、ご冗談でしょ)を聞くことになるだろう。

トレーニングが最良の選択肢である者もいる。なぜならその者はスキルの大部分を既に持っているからである。企業のロープアクセス作業者は、絶対に必要な能力として救助の訓練を受けており、同僚を救助するのに自分自身のPPEを利用して行うことができる。通常、専用の器具は、長いロープと数個の滑車だけである。仕事と救助で同じテクニックを使用するので、その技能は落ちない。

一方、狭隘空間で働く労働者は、同僚を救助するのに、そこに入るのに使ったウィンチを利用して行うよう教えられている。こういう業種では、救助が既に「仕事の一部」であり、トレーニング中心のやり方が高価な「おもちゃ」を買うよりはるかに優れている。通常、職業上クライミングを行う者やロープアクセス労働者にとって、救助活動は数年に1日トレーニングと実習を行えば済むものである。

屋根、アンテナ、足場、架台、高所作業車(MEWPs)など、もっと普通の場所で働いている労働者には、使うのが簡単で、信頼性が高く、また忘れにくいものが必要である。望まれることは、救助者が安全で、いつもやっている仕事をしさえすれば良く、そして理想的には1人の人間が他の助けなしで同僚を救助することができるということだ(そうすれば、私たちは10人の部隊ではなく、2人のチームで働くことができる)。

第1の選択肢は、しばしば見落とされることであるが、仕事のやり方を変えることである。屋根のへりで墜落防止器具を使用すると、滑った場合は危険な救助作業が必要になる。移動制限器具(restraint means)を使用することによって、最悪でも短いロープを使ってその者をへりから引き寄せるだけでよい。それでもまだ救助のことを考慮して、労働者を訓練する必要はあるが、それは些細なことだ。

とび職人に対しては、全員に懸垂下降の訓練をするか、構造物のあらゆる部分に到達できる高所作業車を現場に置くかである。タワークレーンは人間が乗る設備ではないかもしれないが、災害発生の後で屋上から負傷した労働者を降ろすことはできる。重要なことはその「計画」が実効性のあるものでなければならないことである。従って現場に運転者が常駐していなければならないことになる。運転者が昼食をとるなら、みんな昼食をとらなければならない。

クレーンのイメージ

大きい建設現場か土木工事であれば、この「集合的な設備(collective equipment)」による方法はうまくいくが、屋根や電柱の上で作業する二人のチームでは、それは控えめに言っても非実用的である。ここで、私たちは、ロープとフックに戻らなければならない。しかしやり方は別である。

今日の救助道具が通常ウィンチに頼っているので、救助作業者は、同僚のいるところまで懸垂下降するよりは、安全な地点からロープやフックを巻き上げるか、または巻き下げることができる。考え方はこれ以上ないぐらい簡単だ。負傷者をウィンチにつないで、屋根まで巻き上げるか地面に降ろす。

持ち上げるほうが、ちょっとだけ負担が大きいだろうが、あなたが地上240メートルの地点にいるとしてもうまく行く。そのときの状況によって決めればよい。救助ポール(rescue pole、遠方からカラビナに接続することができる器具)を使えば、救助作業者はウィンチにつなげるために懸垂下降する必要がない。ウィンチ・救助ポール法(Winch-and-rescue-pole, WARP)は、非常に簡単に使用でき、訓練時間も数時間しかかからない。技能が低下することも殆どなく(消火器を使うのと同じくらい簡単である)、従ってまた2人のチームに戻ることができる。通常、工数とトレーニング時間の節約で、WARPキットの費用を相殺することができる。

WARPキットに使われるウィンチは、従来は滑車装置(block-and-tackle)を利用した仕組みであったが、近代的なキットは定速下降器(摩天楼の側壁を懸垂して降りる曲芸師によって使用されるものと同じ器具)を使用する。従って、負傷者を「落とす」ことは、実際には不可能である。ほったらかしにしても歩く速度で下降していくのである。持ち上げることも可能ではあるが、定速下降器はロープ−滑車システムに対して決定的な利点がある。救助作業者は自分たちを救うことができるのである。

例えばタワークレーンや高所作業車の上にいたとき、とんでもないことが起こったとする。竜巻が起こった、油圧が詰まった、はしごが壊れた、野生のアナグマに足首をかじられた...。救助キット一式が隣にある。だからそれを自分のハーネスにつなぎ、なにか十分な強度があるものに留めて、飛び降りる。さあ、正直言って飛び降りることは・・・おもしろそうだ・・・。しかし、数秒後にはふわりと地面に降りて、かすり傷もなしに歩き去ることができる。高所作業規則に従っただけではなく、救助のためにだれかに指一本動かして貰う必要さえなかった。

救助は、難しいものである必要はない。高所作業ができる者ならだれでも、正しい器具さえ使えば、同僚を救助することができる。すでに「やるべきことのリスト」には入っているかもしれないが、火の用心を考えるのと同じように、救助のことを考えてほしい。避難口を考え、出火しないように努め、消化器・スプリンクラーを設置する。そして30年間煙の臭いを嗅ぐことすらないのである。高所からの救助は法の下であなたの責任であるが、屋根の上に救助用具一式があるのを見るのは、ニワトリの歯を見るよりも珍しい。あなたはまさに今、消火器を見つめているでしょう。