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アメリカ政府におけるエルゴノミクス傷害
(Ergonomic Injuries)の予防対策について

OSHAの包括的プランは、
目標とするガイドラインとその厳重な実施を強く主張する


(資料出所:Job Safety and Health Quarterly(JSHQ) Vol.13 No.3 Spring 2002 p.19-22)
(仮訳:国際安全衛生センター)

原文(英語)はこちら

 アメリカの労働安全衛生庁(OSHA)がこのほど発表したエルゴノミクスに関する計画(ergonomics plan)は、包括的かつ実用的な施策によるエルゴノミクス傷害の大巾な減少をめざしている。「計画を実施すれば、すぐにでも傷害の発生件数は減るでしょう」と労働安全衛生庁行政官ジョン・L・ヘンショーは語る。この計画は産業別ガイドライン、厳しい監督、きめ細かな指導援助、調査の実施で構成され、ヒスパニック系などの移民労働者の保護に力を入れているのが特徴である。

 「筋骨格系障害は重大な傷害です。我々は職業性傷害による痛みや苦しみを和らげることに専心しています。今回の計画は非常に包括的で、即効性が期待できる最善の施策をとっています。」とヘンショーは語っている。

 「一刻も早くエルゴノミクス傷害の発生件数を減らすことで労働者たちを支援していきたい。それが我々のめざすところです。」と労働長官エレイン・L・チャオは述べている。「すでに却下された旧計画と比べると、この新しい計画は画期的な進歩をとげています。エルゴノミクス傷害が発生する前に、それを予防することによって現在危険にさらされているより多数の労働者を守ろうとしているからです。」

 今回の計画を作成するにあたり、組織労働者、労働者、医療専門家、経営者など幅広い利害関係者から意見が寄せられた。労働省は昨年一年間にわたって三つの大きなテーマに即した公開討論会をアメリカ各地で開いてきた。そして数多くの利害関係者と相次いで面談し、数百にもおよぶ意見書を集め、百人にのぼる人々の証言を求めてきた。労働安全衛生庁はそれらの意見や助言を慎重に分析評価した上で、さまざまな代案について模索してきた。


ガイドライン

 「労働安全衛生庁はさまざまな利害関係者と調整を重ねたうえで、予防と柔軟性と実効性を確実にする産業別および職業別ガイドラインの設置を目指していきます。」とヘンショーは語っている。「われわれはこの目標にむかって邁進し、年内にガイドラインを作成したいと考えています。」

  最も迅速かつ如実に効果が現れる産業および職業から着手するというのがヘンショーの意向である。そこで、労働安全衛生庁はエルゴノミクス傷害と密接な関係にある産業や職業のなかから、すでに有効な戦略が見つかっているものに絞り、そこからとりかかっていく心づもりである。「現実に即した解決法は実体験からうまれる」という言葉をヘンショーは心に留めている。

  こうした方法をとれば、事業者や労働者が自分たちの職場に合わせて勧告や優良規範を微調整するだけの融通性が残せるとヘンショーは確信している。「あらゆる場所に適合する方法などないことはわかっています。しかし、柔軟に対処することで傷害は減らせます。」


厳しい監督の実施

  労働省(DOL)は、法規制に基づく監督の強化を含む、エルゴノミクスに関する実行計画を作成した。同省は重大なエルゴノミクス傷害が発生する業界に特に力を入れ、計画の実行をめざしていく意向である。労働安全衛生庁(OSHA)及び労働省(DOL)の代理人は、労働安全衛生法の一般義務原則(General Duty Clause)での経験を生かし、実行計画を策定していく。

  労働安全衛生庁は今回はじめて、エルゴノミクスに関する規則違反の指摘を目標に実施戦略をたてたことになる。そして、「労働安全衛生庁はエルゴノミクスに造詣の深い特別チームを編成し、労働省の代理人及び選ばれた専門家たちと緊密に協力しながら、違反者を厳重に取り締まっていきます。」とヘンショーは語っている。


きめ細かな指導援助

労働安全衛生庁のプランは、職場のエルゴノミクスに取り組む労働者や企業側(とくに中小企業)を支援していくものである。労働安全衛生庁は企業側に、有効なエルゴノミクスプログラムを作成させるために、産業別、職業別に策定されたガイドラインにそって助言を与えたり、教育を行っていく予定である。

 また、労働安全衛生庁はエルゴノミクスに関する豊富な情報をウェブサイトにのせ、企業のエルゴノミクスに関する資料や研修の開発を支援する。そして、全米各地にある12カ所の教育センターで、エルゴノミクス研修が利用できるようにする。新計画は、エルゴノミクス傷害率の高い業界で多くの人が働くヒスパニック系などの移民労働者の保護に特に力を注いでいる。

 OSHAは又、エルゴノミクスについて模範的又は新規なアプローチをもつ作業場の業績にハイライトをあてた新しい表彰プログラムを開発することを計画している。


このプランの目標
エルゴノミクスに係る危険有害因子を減少させる
負傷及び疾病の程度を低減する
適応性の確保と革新の促進
筋骨格系障害の予防に関し事業者を援助する

成功の証明:休業を必要とするエルゴノミクス関連傷害の低下

ソース:労働省統計局


  最後に、労働安全衛生庁は、エルゴノミクスに関する危険有害要因とその低減方法に関するトレーニングを受けた担当官を任命していく。そして、プランの実行や被災者の保護を担当する十名のエルゴノミクスコーディネーター(ergonomics coordinators)を各地に派遣する。


調査の実施

  新しい計画に一連の重要な調査がもりこまれている理由についてヘンショーは、「最も有効な科学的データを活用したかったからです。」と語っている。「全米科学アカデミーから入手した情報と労働安全衛生庁のエルゴノミクスに関するフォーラムで得た情報の間にはかなりの隔たりがあることがはっきりしました。」 そこで労働安全衛生庁は、全米各地から召集した幅広い分野の専門家たちによって構成される諮問委員会を設け、エルゴノミクスと科学的に有効と思われる防止技術のズレを埋める方法について助言を求めていく方針である。委員会は国立労働安全衛生研究所(NIOSH)と協力しながら、労働安全衛生庁がその問題に関する最新の研究成果を現場で展開させていく推進役になれるよう後押ししていく。

  「新しい計画はエルゴノミクスに対する職場の意識をできるだけ早く高めていけるように企画されています。労働統計局(BLS)のデータによると、筋骨格系障害は減少傾向をたどりはじめています。政府に命令されなくても、エルゴノミクスに関するリスクをとりのぞこうと取り組んでいる事業者はすでに何千人もいます。われわれはこうした経営者たちと協力しあいながら、これからも職場の安全と健康の改善につとめていくつもりです。われわれは、労働者の安全と健康を損なう違反者を追及していきます。」とヘンショーは語っている。

  旧政権時代のエルゴノミクスルール(ergonomics rule)が議会で否決されてからわずか一年で新しい計画が発表された。旧政権時代のエルゴノミクスに関するルールは負担が大きすぎたうえにわかりにくく、不評であった。 詳細な情報が必要な場合は労働安全衛生庁のウェブサイト、www.osha.gov.までアクセスください。

OSHAのプラン
産業別及び職種別ガイドライン
施行
援助
調査


Q and A

エルゴノミクス傷害とはどのようなものですか?
   エルゴノミクス傷害を説明するのに「筋骨格系障害」あるいはMSDsという言葉がよく使われます。「筋骨格系障害」とは筋骨格系に発生する負傷および疾病を意味します。しかし、これが「筋骨格系障害」であるという明確な定義はありません。

  「エルゴノミクス傷害というものを労働安全衛生庁がどのように定義づけるべきか」について、最近開催されたエルゴノミクスに関するフォーラムでもさまざまな論議が繰り返されてきましたが、定義は情況によって変わります。労働安全衛生庁が特定の業種を想定して「エルゴノミクス傷害に関するガイダンス」をつくると、そのガイダンスには特定の職場に存在する一部の危険だけが掲載されることになり、定義そのものを狭めてしまう可能性があります。労働安全衛生庁は、ガイダンスを作成する作業の一環として、利害関係者たちと綿密な協議を続けながら「エルゴノミクス傷害」の定義を明確化していきます。

すべての「筋骨格系障害」は職業が原因で発生したものですか?
  そうではありません。「筋骨格系障害」は職場以外でも発生します。特定の「筋骨格系障害」が職業上発生したものかどうかを判断するには、精密な健康診断を行って、患者の生活歴や病歴を詳しく分析する必要があります。そのうえで、「筋骨格系障害」の発生を促したと思われる要因を就業中と休業中の両面から探っていきます。

労働安全衛生庁のガイドラインによって、「筋骨格系障害」と思われる負傷と疾病はどれくらい低減するのでしょうか?
  「筋骨格系障害」の基準が明確化されていないにもかかわらず、「筋骨格系障害」と思われる損傷と疾病はこの十年間で着実に減ってきています。労働安全衛生庁が作成した「精肉業に関するガイドライン」と業界の自主的努力が功を奏し、精肉業界の「筋骨格系障害」発生率は減少してきています。国の調査によると手根管傷害による休業日数は1992年から1999年の間に39パーセント減少しています。また、捻挫による休業日数は39パーセント、背部の傷害による休業日数は45パーセント、それぞれ低減しています。

 精肉業界においては、業界向けに作成されたガイドラインとその実施に尽力した労働安全衛生庁の努力が実を結び、手根管傷害による休業日数は1992年から1999年の間に47パーセントも劇的に減少しています。同時に捻挫による休業日数は61パーセント、背部の傷害による休業日数も64パーセント減少しています。労働安全衛生庁は、産業別、職業別のガイドラインを策定することで負傷や疾病の発生件数をさらに減らせると期待しています。

ガイドラインとはどういうものですか?基準(standard)との違いは?
  ガイドラインは事業者が業務上の危険有害要因を認識し、コントロールする手助けをします。ガイドラインに沿って業務を行うかはどうかは各職場の自主性に委ねられており、遵守しなかったからといって労働安全衛生法の一般義務条項(General Duty Clause)への違反にはなりません。労働安全衛生庁のガイドラインは、事業者がそれぞれの職場にひそむエルゴノミクスの危険有害要因を認識し、それらをコントロールするのに適した実行手段を与えます。

  ガイドラインは基準よりも融通性があります。ガイドラインはすぐに策定することもできますし、科学の発展にともない新事実が明らかになれば、容易に修正もできます。ガイドラインによって、事業者は柔軟性にかける一律的な解決策を強要されることなく、業界や施設固有の問題に対処していくために、それぞれの職場に合った革新的なプログラムを採用しやすくなります。

労働安全衛生庁の産業別ガイドラインが策定されていない場合、その業界に属する事業者はどうしたらよいのでしょうか?
  産業別ガイドラインが策定されていなかったとしても、事業者であるあなたが職場にエルゴノミクス的危険有害要因を含む、重大な危険が存在することを認識している以上、職場から遠ざける義務があります。労働安全衛生庁は、労働安全衛生法の一般義務条項(General Duty Clause)に基づいて事業者を召喚したり、必要と思われる場合は実施計画の一環として「エルゴノミクス的危険有害要因」警告文書(ergonomic hazard letters)を渡します。労働安全衛生庁は、事業者がエルゴノミクス的危険有害要因やそれに起因する筋骨格系障害の低減に有効な対策や手段を実行するように奨励しています。最近ではエルゴノミクス的危険有害要因に対処していくための効果的な方法について、労働安全衛生庁や国立労働安全衛生研究所、そしてさまざまな産業や労働組織が膨大な情報を提供していますし、労働安全衛生庁はこうした情報を有意義に活用するように事業者に呼びかけています。

労働安全衛生庁の実施計画が意味するところは何か?
 労働安全衛生庁はエルゴノミクス的危険有害要因に基づく立ち入り検査を行い、労働安全衛生法の一般義務条項(General Duty Clause)に則って召喚したり、エルゴノミクス的危険有害要因を警告する文書を発送していきます。労働安全衛生庁は警告文書を受領した事業者が職場環境の改善につとめているかを確認するために、文書の通知から12ケ月以内に立ち入り検査もしくは調査を行う予定です。

  現在にいたるまで労働安全衛生庁は、筋骨格系障害に関する問題を苦情や照会、そして対象を絞った立ち入り検査を通じて精査してきました。労働安全衛生庁は従来どおり立ち入り検査の調査結果を評価し、一般義務条項(General Duty Clause)に基づいて召喚したり、必要に応じて「エルゴノミクス的危険有害要因」を警告する文書を発送していきます。労働者から苦情が寄せられた場合も労働安全衛生庁は同様の対応をとります。

  また、労働安全衛生庁は、介護ビジネス業界に老人ホーム(Nursing home)の立ち入り検査と入所者の介護に起因するエルゴノミクス的危険有害要因と取り組むよう、国レベルのプログラムの実施を強く働きかけています。

  労働安全衛生庁はエルゴノミクス的危険有害要因とその低減に取り組むのに適した人材を集め、彼らを特別にトレーニングし、計画の実施と受傷者の援助を担当するエルゴノミクスコーディネーター(ergonomic coordinator)を育成し、地域ごとに十名配属する予定です。


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