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ILO
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表1. WISEの6つの基本原則 |
1. 現地の慣行のうえに築き上げる。 2. 成果に焦点を合わせる。 3. 労働条件と他の経営目標とを結合する。 4. 実地学習を活用する。 5. 経験交流を促す。 6. 労働者の参加を促進する。 |
労働安全衛生マネジメントシステムは、WISEが開発、採用した参加型の研修方式と一体となった形で運用することが期待されている。行動チェックリスト、グループ活動による効果、現地の好事例を示した写真集などの参加型研修資材を労働安全衛生マネジメントシステムで活用し、職場のリスクを正確に評価できる。WISEや同様の活動で確立された参加型の方式は、農業、多国籍企業、建設現場、学校、病院、ごく小規模の企業など、各種の業種に適用され、幅広い有効性が確認された。とくに興味深いのは、労働安全衛生マネジメントシステムと参加型方式には、職場段階での行動中心の自助努力を大切にするという共通点があることである。
労働安全衛生情報の効果的共有によって、安全衛生改善への現地の取り組みが前進している。ILOとフィンランド開発庁(FINNIDA)によるアジア労働安全衛生プロジェクトは、多数の職場が実際に利用できる情報ネットワークを強化している。アジアの多くの国が、普及キャンペーンと全国的な安全週間活動に取り組んでいる。アジアの近隣諸国間をはじめとする国際的な協力プログラムは、成功経験を交換し合い、今後の実際の活動方向を探る良い機会となっている。
ILOが真剣に検討しているのは、安全衛生改善に向けた職場段階での取り組みをいかに実質的に支援し、具体的な成果を後押しするかという点である。この目的達成のため、安全衛生改善でのILOの幅広い経験に基づく労働安全衛生マネジメントシステムは、各国で新しい強力な手段になるだろう。
アジアの安全衛生改善を目指す労働安全衛生マネジメントシステムとWISE方式
WISEの主要な技術的分野(フィリピンで3,000以上の改善を実施)
技術的分野 |
立案件数 |
実行済みまたは実行中 |
実行予定 |
---|---|---|---|
物の貯蔵と取り扱い |
409 |
364(89%) |
45(11%) |
作業場の設計 |
167 |
134(80%) |
33(20%) |
製造用機械の安全性 |
166 |
142(86%) |
24(14%) |
危険物質の制御 |
116 |
98(84%) |
18(16%) |
照明 |
260 |
225(87%) |
35(13%) |
福利厚生施設 |
239 |
196(82%) |
43(18%) |
土地・建物 |
482 |
373(77%) |
109(23%) |
労働組織 |
185 |
150(81%) |
35(19%) |
環境保護 |
46 |
43(93%) |
3(7%) |
合計 |
2070 |
1725(83%) |
345(17%) |
WISEでは、研修プログラムは参加者の行動に直結するように慎重に考案されている。研修コース成功のカギは、参加者の積極的参加を促すための安全衛生研修ツールを活用することである。研修プログラムでは、教官が技術的指導を行う前に、まず行動チェックリストをもって工場を訪問し、現地のすぐれた実践例や必要な改善点を把握する。行動チェックリストの項目は、労働現場の多様なニーズを反映させている。表2は、そうした行動チェック項目の例で、金属産業向けに考案されたものである。行動チェックリストは、膨大かつ完璧なチェック項目を示すためではなく、基本的な行動ポイントを絞ることに目的があるのを忘れてはならない。研修参加者に対しては、行動チェック項目に縛られず、自身の経験に基づいて改善案を提案するよう促す。伝統的な教室での講義に代わる、現場重視のこうした研修プログラムは、参加者の自主的行動意欲を高めることが証明されている。上述のとおり、行動チェックリストと並んで、(1)改善の手がかりとしての現地の模範例、(2)分かりやすい図をつけた単純な改善規則、(3)グループ活動の成果としての視野の拡大、有益な合意達成、チーム構築などの具体的提起と研修ツールが重要な役割を果たしている。
特筆すべきは、多数の改善例が低コストで実行され、しかも現地の基本的ニーズに応えたことである。タイ保健省の労働衛生研修実証センター(Occupational Health Trainnig and Demonstration Centre)が実施したWISE方式のプロジェクトで、多くの改善が低コスト(ほとんど20ドル以下)で実現できることが証明された。安価で、現地で可能な解決策は、明らかに改善コストの壁を打破し、労働現場に大きな効果を及ぼした。途上国でも先進国でも、法律による安全衛生基準と現地の実態の間に大きな格差があることがしばしば指摘されてきた。低コストの改善戦略は、多数の職場でこの格差を埋めてきた。実のところ、低コストで考案された現地の取り組みは、法定最低基準の順守にとどまらず、既存の基準を超えて、拡大し変化する現地のニーズに応えることを目的としている。
WISEの成果の持続可能性と効果は、フィリピンとタイで検証された。フィリピンのセブ島では、WISE研修コースの成果をフォローアップし、その持続可能性を調査した。コースには20の企業が参加し、108件の改善案が提案された。コース期間中とその直後の短期間に、61件の改善が実行された。さらに1年間のフォローアップの結果、43件の改善が実行され、新たに10件の改善が加わった。中断されたのは12件で、進行中は18件だった。またフィリピンでは、現地で考案された改善策のエルゴノミクス的効果を、筋電図記録法を用いて実地検証した。専門家が直接関与せずに現地で考案された改善策は、筋肉の緊張緩和に有効であることが、いくつかの改善事例で証明された。タイでは、労働社会福祉省の労働安全衛生センターが、小規模の金属加工工場を対象に、WISE方式で多数のエルゴノミクス的研修コースを実施した。3年間のフォローアップの結果、労働による負傷件数が減少したことが労災補償基金への報告で明らかになった。
WISEは、アフリカ、中南米諸国でも参加型のエルゴノミクス的対策で重要な役割を果たし、多数の成功事例を生み出した。こうした成功例では共通して、安全衛生行動チェックリスト、現地の模範例集、簡潔な改善指針、グループ効果の活用など、参加型研修ツールの重要性が指摘されている。WISEはエルゴノミクス的対策の面で新たな発展をとげ、対象範囲も拡大している。フィリピンでは、参加型ツールを改良した産業別WISEプログラムが考案され、衣料、金属、食品加工、木材加工業で実施されている。環境の全体的保護も、WISEの研修プログラムに統合されている。またフィリピンでは、WISEの具体的経験から学び、病院の廃棄物管理を目的とする参加型プログラムが開発、実施された。とくに興味深いのは、現地の経験と資源に依拠した参加型のエルゴノミクス的ツールを適用すれば、社会的、経済的、文化的背景が異なるさまざまな国、地域、業種で、一様に労働条件の改善を推進できたことである。