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OECDガイダンス「安全パフォーマンス指標」
(文献紹介)

資料出所:OECD Guidance on Safety Performance Indicators: A Companion to the OECD Guiding Principles for Chemical Accident Prevention, Preparedness and Response, © OECD, 2003
(要約 国際安全衛生センター)
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1.全般

OECD(経済協力開発機構)は、先進30カ国で構成される政府間組織で、加盟国間の自由な意見交換・情報交換を通じて、経済成長、自由貿易、途上国支援に貢献することを目的としている。日本は1964年に加盟しているが、アジアからはほかに韓国が1996年に加盟している。

OECDの活動は主に200以上の委員会で行われているが、ここで紹介する文献もその成果の一つで、化学事故ワーキンググループ(WGCA)が作成したものある。参加した国は次のとおり。

英、仏、独、オランダ、スウェーデン、フィンランド、ポーランド、スロバキア、欧州委員会(EC)米国、カナダ韓国

表紙には「安全パフォーマンス指標についてのOECDガイダンス」というメインタイトルの他に、「化学事故の防止、それに対する準備、対応についてのSPI(安全パフォーマンス指標)プログラム開発に関する、企業・官公庁・コミュニティのためのガイダンス」及び「化学事故防止のためのOECDガイダンスの原則・それに対する準備と対応・2003年第2版、the OECD Guiding Principles for Chemical Accident Prevention, Preparedness and Response (2nd edition, 2003)のための手引き書」という、この文書の性格を表すサブタイトルが付けられており、また「暫定出版(2003年−2004年でテストし2005年に見直す予定)」との注も表紙に記されている。

また、国際的に政府や民間で行われている活動と矛盾しないように、またそれを補完するようにという考えで作られたと述べている。

「指標」とはどんなものか?ということに関しては、この文書では次のように定義している:

「指標」という言葉は、この文書の中では、「直接測定することが困難な『安全』という概念の実態を観察できるようにする方法」という意味で使うこととする。このガイダンスには2つのタイプの指標が含まれている:「活動指標(activities indicators)」及び「結果指標(outcome indicators)」である。

  • 活動指標は、企業がリスク低減のための措置を取っているかどうかを判断するものである。
  • 結果指標は、それらの措置が実際に事故や健康・環境への悪影響の減少につながっているかどうかを測定できるようにするものである。

2.内容

この文書の内容は、別紙1に示す目次の通りである(原文を参照される方のために原文のページ数を示している)。このように4つの付属書を含めて全部で214ページからなる大部のものであるが、文書ではその点について「この文書がカバーする範囲とその分量を見ると、SPIプログラムを実施することは容易なことではないと思われるかもしれない。しかし、個々の企業は、それぞれの状況に応じて役立つ部分だけを使えばよい。さらに、SPIプログラムは、少ないテーマでスタートし、経験を積むに従って拡張するといったように段階的に実施することが可能である」と述べている。

この文書の一つの特徴として、化学施設を操業する企業だけでなく、それを監督指導する立場の官公庁、化学施設を近隣に有するコミュニティをガイダンスの対象としていることが挙げられる。目次から分かるように、それぞれをパートA、パートB、パートCで扱っている。なお、上に「化学施設を操業する企業」と単純化して記述したが正確には「危険有害な化学物質を製造、使用、取り扱い、貯蔵、輸送、廃棄する企業や組織(民営、公営問わず)」となっている。化学事故の防止に関しては企業の責任・役割が一番大きいので、その部分の量が最も多くなっている。

3.このガイダンスの使い方

この文書の利用方法については、「このガイダンスには読者がそのまま流用できるようなプログラムは含まれていない。読者の環境に関係するものを探し、それの環境に適合させる努力を行って初めて効果的に使うことができるのである。SPIプログラムを策定し、有効に実施するにはかなりの思考、計画、時間が必要だということを認識しておくこと。さらにSPIプログラムは一時的なものではなく、常に管理を続けることが必要である」ということを強調している。

SPIプログラムの実施に当たっては次の5つのステップを提唱している。以下ステップ1〜ステップ5を抄訳で紹介する:

ステップ1:安全に関するゴール/目標を決める
SPIプログラムを策定するための最初のステップは化学安全に関する目標及びこのためのインフラを決めることである。
この文書では「ゴール(goals)」とは、その組織が達成しようとしている全般的な結果であり、「目標(objective)」とは、そのゴールを達成することにより期待される成果のレベルであると定義する。
一般的に目標は測定可能なもので表現しなければならない。
ステップ2:ガイダンスを検討して必要な部分を選ぶ
その組織の方針、安全目標、測定すべき重要ポイントを考慮して、具体的対象分野、結果指標、活動指標を選ぶ。

ガイダンスでは、化学安全に関してすべての点をとりあげているので、特定の企業にとっては不要なものも多い。また、SPIプログラム実施のやり方は、各企業がその性格、安全カルチャー、その地域の習慣などを考慮してベストの方法を考えるべきである。例えば始めは少ない指標でスタートし、あとで拡大するなど。

指標としてはその組織の長所と弱点の双方を見ることができなければならない。いい評価ばかりになるものだけでは意味がない。

SPIプログラムは組織内で使うために作られているので、結果指標を使って異なる組織を比較することは趣旨に反する(SPIプログラムは企業同士を比較することもふくめ、広い使い方が可能ではあるが、このためにはガイダンスを改良してそれに適したものにする努力が必要である)。また、成功を外部に宣伝するためのものでもない。

ステップ3:指標を自分たちの事業場に合わせて、定義する
 個々の企業は、自分たちに意味のわかる用語と要素を使用して、選んだ指標を自分たちの手順や基準と合うように変えなければならない。どのような指標を選び、どのように変えるかということは、その企業の戦略的な計画、ゴール、目標から決まってくる。
ガイダンスに適切な指標がなければ、自分たちで追加することも必要である。
要は、ガイダンスを個々の状況に合わせて使うことである。関係者で指標を選んで定義し、周知することが重要である。
ステップ4:個々の指標が測定するものを決め、パフォーマンス指標の物差しを設定する。
その状況に合っていて、容易に適用でき、実態を表すような指標を定義する。

物差しを決める前に個々の指標が何を測るのか決めること。物差しはその組織のために開発すること(そのカルチャー、法律、方針、指標の性質等を考慮する)。

人が変わっても同じように使えるよう、プロセスや物差しを文書化すること。毎年の比較ができるようにすること。

結果指標は定量的測定を伴うような書き方とすること(何%、〜の程度、数値)。容易に測定できる指標もあるが(例えば、作業環境に関する労働者の苦情件数)、結果指標の多くは調査や観察で間接的に測定するしかない(例えば、ある手順を労働者が理解して使っている程度)。

測定はパーセントのように絶対値のもの、1点〜10点で評価するもの、または、悪い(poor)、まずまず(fair)、よい(good)、非常によい(excellent)で評価するものとがある。

ガイダンスでは、活動指標は「はい/いいえ」で答える質問となっている。実際には進捗度を測るシステム(completion scale(完了尺度))が必要となろう。例えば活動指標として「操業の要員配置は常に十分ですか?」があるが、これに対して「はい/いいえ」だけでは役に立つ情報は得られない。要員は十分なときも不十分なときもあるだろうから、要員がどの程度十分であるかを表す指標が必要となる。これによって要員配置が時とともに改善されているかどうかがわかるようになる。

また、「〜のための手順が決まっていますか?」という質問があるが、これも「はい/いいえ」だけでは不十分で、「どれだけその手順が守られていますか?」や「その手順は適切ですか?」ということが重要である。

このように、ガイダンスで提案した指標には、容易に使えて定量的であるものもあるが、複雑で主観的なものもある。実際、調査や労働者の面接、外部専門家の雇用などを行って初めて測定できる指標も多い。

指標を測定する方法を開発する例については付属書T参照。

ステップ5 適切な物差しを指標に適用する
個々の企業/組織は選択した指標に対し物差しをあてて結果の分析と前回評価からの変化を報告書にまとめる。報告書では今後の進捗目標を入れるとともに、必要な勧告を行い、あとでフォローできるようにする。
個々の指標の推移だけでなく、全体的な進捗を見ることが重要である。例えばガイダンスのあるテーマはその組織で他の部分より重要だということがあるだろう。また例えば安全に関して影響の大きい指標が分析に際して強調されるよう「重み」を加えることも必要だろう。

4.企業のためのガイダンス(パートA)

文書はこの部分で次のように述べている:

「パフォーマンスを判定する究極の基準は、化学事故又はニアミスの件数であるが、重大な事故/ニアミスは頻繁におこるものではなく、また、技術的、管理的、人的な失敗が複合して起きるものである。従って、単に事故/ニアミスが減少したことを測定するだけでは、化学安全の向上に対してどんな活動が寄与しているのかよくわからない。さらに、安全対策の結果起こらなかった事故を測定する方法は全くない。従って、この文書は企業がパフォーマンスを測定するための代替方法を開発することを支援するため作られている」。

一般的な結果指標

このあと文書は目次のA1章からA6章まで詳細に、企業が使える結果指標と活動指標の例を列挙している。これは企業を対象としたものだけで70ページ以上に亘るもので、とても全体を紹介することはできないが、どのようなことが書かれているのかの例として、いくつかの部分を以下に挙げる。ただし、文書ではそこに入る前に、エキスパートグループがすべての関係者(企業、官公庁、コミュニティ)にとって使える可能性があるとして考えた一般的な結果指標を紹介している。そして、これらを継続して測定すれば、化学安全の向上を表すことができるし、他の結果指標と一緒に使えば、広い意味での化学安全の状態を示すとともに企業、官公庁、コミュニティが化学安全の向上にどのように貢献できるかを示すことができるとしている。その一般的な結果指標とは次のようなものである:

  1. 危険施設での化学的リスクの減少(これは例えばリスクアセスメント、化学物質の在庫減少、事故の悪影響の低減、化学的プロセスやそこで使う技術の改善、事故の悪影響を受ける領域の減少、輸送の改善などで測定することができる)
  2. 危険施設の安全向上、コミュニティの化学的リスクの減少につながるような、企業、官公庁、コミュニティ間のやりとりや協力の程度
  3. 事故、ニアミスの頻度、重篤度の減少
  4. 化学事故による死傷者数の減少
  5. 化学事故による環境への影響の減少
  6. 化学事故による物損の減少
  7. 化学事故への対応の改善(遅延の減少、効率の改善)
  8. 化学事故で影響を受ける領域(距離)の減少
  9. 化学事故で影響を受ける人間の数の減少(避難など)

各項目ごとにガイダンスが提案する結果指標、活動指標の例

A1章からA6章までの表題を見ると、OSHMSなどで取り上げられている一般的な項目も数多く見られるが、中には化学物質管理に特に関係の深い項目を挙げているものもある。従ってここでは、一般的な項目の例として「A2.1 ハザードの洗い出しとリスクアセスメント」を、化学物質管理に関係の深い項目の例として「A3.5 危険有害物質の貯蔵」を取り上げて、そこで提案されている指標を紹介する。

A2.1ハザードの洗い出しとリスクアセスメント

目標:ハザードの洗い出しとリスクアセスメントの効果的なシステムを開発し実施する。

結果指標
  1. 企業内の施設について適切な方法でのハザードの洗い出しとリスクアセスメントが完了した度合
  2. ある期間中に、リスクアセスメント及びその結果実施された措置によるリスクの低下(例えば、リスクに曝される人間の数、環境への影響、事故の可能性の減少、リスク区域の縮小など)
  3. 未知のリスク(リスクアセスメントで見つからなかった)によるニアミスの程度
  4. 「許容不可」と判定され、「許容可能レベル」まで解決されていないリスクの数
活動指標
  1. ハザードの洗い出しとリスクアセスメントのための体系的な手順があるか?それには次のものが含まれているか?
    • 解析を行うかどうかを決定するための判断基準;
    • ハザードの洗い出しとリスクアセスメントに対する要求事項(文書化);
    • ニアミスや学習からの経験;
    • 非常に洗練され最も効果的な方法の検討;
    • どのようにハザードの洗い出しとリスクアセスメントを行うべきか(リスクレベルに応じ段階的に);
    • ハザードの洗い出しとリスクアセスメントを行う人の役割と責任;
    • 法的要求事項;
    • ハザードの洗い出しとリスクアセスメントのための教育訓練 (計画、操業、設備改造など種々の局面に対するもの);
    • リスクアセスメント報告書に対する要求事項;
    • リスクアセスメントに基づく勧告に対して実施すべき措置
  2. ヒヤリハットの記録は残っているか?
  3. 技術的事項、ヒューマンファクター、その他の観点に対して適切な、ハザードの洗い出しとリスクアセスメントの方法が種々用意されているか?
  4. あるシナリオの場合の健康影響、環境影響が計算できるか?
  5. このようなシナリオが起こってしまった場合の防衛線は十分できているか?
  6. ニアミスの発生確率を計算するために使用できる手順はあるか?
  7. 次のものも含めすべてのハザードとリスクに対して適切な方法が考慮されているか?
    • 安全、健康、環境;
    • 技術的な設備、プロセス、貯蔵施設、電力・水道システム、プロジェクト、改造、実験施設、能力増強等;
    • 通常操業、稼働開始、操業停止、電力・水道のトラブル、他の外部要因、廃棄等
    • ヒューマンファクター(見つかった不安全行動など);
    • その他(例えばドミノ効果)
  8. 内部リスクと外部リスクに対して、合意されている基準があるか?
  9. ハザードの洗い出しとリスクアセスメントを行うための十分なリソース、経験、スキルが確保されているか?
  10. ハザードの洗い出しとリスクアセスメントを行う人についての規定はあるか(リーダー、専門家、管理者、その他の従業員、外部専門家など)?
  11. ハザードの洗い出しとリスクアセスメントを最新状態にしておくための手順はあるか?
  12. ハザードの洗い出しとリスクアセスメントの結果を改善に反映するための手順はあるか?
  13. リスクアセスメントとその結果の解析の必要部分を官公庁やコミュニティが閲覧できるようにする手順はあるか?
A3.5 危険有害物質の貯蔵

目標:危険有害物質を安全に貯蔵することができるようにする。

結果指標
  1. 例えば、貯蔵している危険有害物質の量をベースとした、その施設のリスクレベル
  2. 危険有害物質を含んでいるタンク又は倉庫で第二隔壁(second containment)を持つものの数
  3. 過充填防止システムを持つ危険有害物質用タンクの数
  4. 汚染された消火水を外に出さない設備
  5. フェイルセーフ装置により、装入・払い出しができるタンク/倉庫の数
活動指標(タンク貯蔵・倉庫貯蔵共通)
  1. 以下の基本的要求事項は満足されているか?
    • すべての危険有害物質について必要情報が入手可能;
    • すべての梱包物とタンクに適切な表示がある;
    • 適切な安全対策がなされている
  2. 種々の危険有害物質の貯蔵に関する手順及び次の点に関するしっかりした方針があるか:
    • 高い品質の貯蔵施設を確保している(施設の状態の品質、施設での物質取り扱いの品質);
    • 混ざってはいけない物質を分離している;
    • 一カ所あたりの貯蔵量を制限している;
    • 適切な貯蔵(例えば、嵩の大きい物質及び小口包装の物質の貯蔵高さを制限している);
    • 漏洩防止のための適切な隔壁がある;
    • 適切な防火施設がある
  3. 危険有害物質の量を最少にしようという意欲があるか?
  4. 危険有害物質を装入・払い出しするすべてのエリアに、漏洩防止のための設備があるか?
  5. 火災の可能性があるすべてのエリア、及び汚染された消火水がかかる可能性のあるすべてのエリアは、水を外に出さないよう、かつその水を処理する場所に流すようになっているか?
  6. すべての貯蔵エリアは、事故が他のエリアに波及することがないようなところに位置しているか(「ドミノ効果」)?

5.原文の入手先

 以上、簡単に内容を紹介したが、興味を持つ方は原文をご参照されたい。原文は以下のOECDのホームページから無料で入手することができる。
(新しいウィンドウが開きますwww.oecd.org/env/accidents)