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NSC発行「Safety + Health」2003年3月号

ニュース

OSHA予算3%増、バイリンガル問題が耳目を引く

 ワシントン― 労働安全衛生庁(OSHA)予算は、昨年こそ減額をみたものの、2004会計年度では3%増となる見込み。1,300万ドルの増額で、OSHA予算は合計4億5,000万ドルとなる。
 2月3日、ブッシュ大統領は、10月1日を始点とする2004会計年度の総額2兆2,300億ドルの連邦省庁予算案を発表した。予算案が発効するには、議会の承認が必要。OSHAを所管する労働省の2004会計年度予算は、151億ドルの減額で、計562億ドルとなる予定である。
 OSHAのジョン・ヘンショー長官は、同庁の新年度予算は、ブッシュ政権が「米国の職場における安全衛生の価値を認識している」ことを示すものだと述べた。
 2004会計年度のOSHA予算で最大の配分は、安全衛生監督の実施で1億6,530万ドル、2003会計年度予算案のおよそ420万ドル増となった。OSHAは、2004会計年度には、事業場の監督37,700件を予定しているが、これは、2003年度とほぼ同じ件数である。
 ヘンショー長官は、遵法支援・アウトリーチ(行政サービスを通常の限度を超えて差し伸べようとする)活動予算6,750万ドルのうち、スペイン語その他の非英語を母語とする労働者に対するアウトリーチ活動に220万ドルの予算がついたが、これは、OSHA予算の最重要点であると語った。ヘンショー長官は、この予算の720万ドルの増額で、2000年には11%、2001年には9%の勢いで死亡率が増えているスペイン語系労働者に対するアウトリーチ活動を拡充できると述べた。
 「国が経費を切り詰めているときに、大統領は、予算増を要求したばかりではなく、OSHAの援助をもっとも必要としている人々に対する新しいプログラムに予算を配分したのである」とヘンショー長官。
 遵法支援のその他の新分野としては、小企業への特別アウトリーチ活動、OSHA自主的プログラムやパートナーシップ・プログラムの拡充などがある。
 新年度予算では、また、自動体外式除細動器の職場への配備に関するOSHAガイドラインの効果に関する調査に、百万ドルの予算が盛り込まれている。
 2004会計年度予算案は、議会がまだ2003会計年度予算と苦闘しているときに出てきた。その他の省庁予算と同様、OSHAの2003会計年度予算は、議会が予算額に同意できなかったため、当該年度になっても宙ぶらりんの状態である。各省庁は、絶え間ない予算決議により業務を展開してきた。2003会計年度予算をめぐる折衝は、2月初旬の第108回議会で立ち往生している。
 OSHAの2002会計年度予算は、4億4,400万ドルであった。


事実チェック

労働安全衛生庁(OSHA)の2004会計年度予算案
資料出所:OSHA、2003年

ノースカロライナ州の爆発事故調査、続行

 ノースカロライナ州キンストン― 1月29日、ノースカロライナ州の薬品工場で従業員4人が死亡した爆発事故について、調査の核心は、潜在的原因として、ゴム加工工程での爆発性粉じんの数種類に絞られた。
 米国化学物質安全性調査委員会(U.S. Chemical Safety and Hazard Investigation Board)は、ウェスト・ファーマスーティカル・サービシズ(株)の爆発事故調査で、ゴム加工工程に焦点を絞った。この爆発で27人が負傷、うち数名は重体。工場の従業員数は、255人である。
 本誌印刷開始時点で、調査員らは、1階のゴム加工領域の上部の吊り天井が、換気不十分な空間を作り、爆発性粉じんの蓄積を招いたのではないかと調べている。また、原因不明の小規模な偶発性の爆発が、下の階での大爆発を引き起こしたのではないかと調査している。
 爆発性粉じんを生じうる物質で現場にあったものは、硫黄、ポリマー・パウダーその他の有機加工剤である。工場では、ポリイソプレンやその他の種類の合成ゴムを止め栓(ストッパー)に加工しており、多種多様なゴム加硫剤、抗粘着剤、加工剤を使用していた。
 「微細に粉砕された有機物を使用しているところではどこであれ、粉じんは、油断のならない危険要因である。こうした物質のなかには、火災の危険性は限定されているようにみえても、条件のそろった状態で空中に浮遊すると、致死的な規模で爆発することがある」と、スティーブ・セルク主席調査官は述べた。
 化学物質安全性調査委員会は、化学事故の根本原因を特定して国民に報告する、独立した連邦政府機関である。委員会は、今回の爆発事故の徹底調査を行うが、完了するのに半年から1年はかかるだろうと、キャロリン・メリット同委員会委員長は述べた。「キンストン市のがれきの中から手がかりを見つけて、事故の根本原因を特定し、当該産業における将来の安全性を確保していかなければならない」と、メリット委員長。
 化学物質安全性調査委員会のほか、アルコール・タバコ・小火器局(Bureau of Alcohol, Tobacco and Firearms)、連邦捜査局(FBI)、OSHA、環境保護局(EPA)といった連邦政府機関も、爆発事故の調査にあたっている。

バーモント州知事、州OSHAプログラム経費を精査

 バーモント州モントピーリア― バーモント州知事は、2004会計年度の州予算赤字4千万ドルが予測されることから、経費節減のため、州内の安全衛生事業を連邦政府OSHAへ移管するよう要請する可能性がある。
 バーモント州労働産業省を廃止すると25万ドルの節約になると、ジム・ダグラス知事(共和党)は、ラトランド・ヘラルド紙で述べている。ダグラス知事は、米国北東部で、連邦政府による無料の労働監督サービスを利用していないのは、バーモント州だけであると付け加えた。しかし、バーモント州は、州の労働者向けの相談プログラムと補償はこれまで通り続けるという。
 産業界や労働界のリーダーは、産業界は、懲罰的な連邦制度より非対決型の対等性を好んで州当局との関係を構築してきたが、この関係を消滅させることになるとして、廃止計画をめぐり争っている。また、連邦政府が、バーモント州に同等の資源をつぎ込む見込みがない点も指摘する。

全米安全評議会(NSC)創立90周年:安全カレンダー
 全米安全評議会(NSC)のもっとも古い安全推進事業のひとつに、一般向けの安全カレンダーがある。
 カレンダーは、従業員やその家族に、安全への注意を呼びかける一手段であった。NSCは、会員企業その他に対し、従業員に配布するよう、カレンダーを販売した。
 カレンダー第1号は、1918年のもので、職業安全、家内安全の諸問題を漫画で図解しているのが特徴。1923年には、画家に製作を依頼した絵を使って、安全問題の人間味を強調した。その後、カレンダーは、1950年代以降のノーマン・ロックウェル風の絵にみられるように、次第に家内安全、地域社会の安全に焦点を移すようになった。
 カレンダーの最終号は、1997年のものである。

 安全のリーダーであるNSCの創立90周年を記念して、本誌は、1年間を通じ、NSCの遺産のなかでも重要なものを紹介する。毎月号の90周年記念の囲み記事で紹介する、NSCの安全第一の取り組みにまつわる話題に期待されたい。

写真:全米安全評議会図書館

ウェブサイトで法規へアクセス 

 ワシントン― 労働安全衛生庁(OSHA)や環境保護局(EPA)などの連邦政府機関が発表した法規が、インターネットでアクセスできるようになり、連邦政府の規則作成に参加しやすくなった。
 この政府のウェブサイトでは、コメント公募中でフェデラル・レジスター(官報)に掲載された連邦政府資料へアクセスできる。ユーザーは、法規を吟味し、当局に直接コメントを提出できる。
 ウェブサイトはwww.regulations.gov、行政管理予算局が立ち上げた。


新しい下院法案、小企業の安全をめざす

 ワシントン― 下院小企業委員会は、今会期中、小企業の労働安全を支援する法案を検討している。
 2003年全米小企業規制支援法案(National Small Business Regulatory Assistant Act of 2003)(H.R.(下院)205)は、小企業による連邦法規、州法規の遵守を支援するプログラムを制定する。法案では、既存の小企業開発センターを通じ、秘密厳守で支援する。また、小企業へのアウトリーチ活動を拡大するため、連邦政府機関の間でパートナーシップを結成する。
 バージニア州フェアファクス市の米国産業衛生協会(AIHA)は、労働安全の改善に向けた低コストの方法を提供するすべての活動を支援するとして、同法案を支持している。
 法案をこの1月に下院に提出したのは、ジョン・E・スウィーニー下院議員(共和党、ニューヨーク州)で、法案はその後、小企業委員会に付託された。


NIOSH、化学物質とかすみ目を関係づける

 ワシントン― 国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、印刷物製作に使われる2種類の化学物質と労働者の視覚障害を初めて関連づけたと報じた。
 インクを薄めるための添加剤の成分であるジメチルイソプロパノールアミン(Dimethylisopropanolamine)と、水性インク成分であるジメチルアミノエタノール(Dimethylaminoethanol)が、ラベル印刷工場の従業員らの目のかすみを引き起こした。
 しかし、この問題は、印刷産業に限られるものではない可能性がある。先述の2種類の化学物質は、第3アミンといい、溶剤、化学中間体、触媒、防腐剤、薬剤、除草剤などに広く用いられている。
 この所見は、英国労働環境医学ジャーナル(Occupational and Environment Medicine)(Vol.60、No.1)に掲載された。


通話中のドライバーは”見えていない”

 ワシントン― ドライバーが携帯電話を使う際には、ハンズ・フリー機器を使用するよう義務付けた法律は、肝心な点を見落としているのではないだろうか。
 ソルトレイクシティのユタ大学の調査員らは、携帯電話の使用は、いわゆる「不注意による盲目(Inattention blindness)」、つまり、道路で遭遇する物体が認識できないという状態に陥らせると報告する。これにより、信号の変化に対する反応が遅くなったり、果ては追突事故を引き起こす。ハンズ・フリー機器の使用は、このような不注意を減らすことはなく、調査員らは、手持ち式機器を禁じながら、一方でハンズ・フリー機器は許可するのでは、ドライバーの注意散漫を低減することはないであろうとの結論に達した。
 本調査は、「ドライバーの第1の義務は、全神経を自動車の安全走行に集中させることにあるということを、今一度、強調するものである」と、全米安全評議会(NSC)のアラン・C・マクミラン会長は、声明でこう述べた。
 本調査結果は、携帯電話と車の運転に関する問題を指摘した一連の調査に続くものである。一番新しいところでは、シドニー大学の調査員らが、ハンズ・フリー機器は、ドライバーに誤った安全意識を与えるということを指摘した調査がある(本誌2002年12月号12頁「ニュース(In the News)」欄参照)。
 ユタ大学の調査、「携帯電話の使用は、ドライバーの不注意による盲目を引き起こしかねない(Cell Phone Use Can Lead to Inattention Blindness Behind the Wheel)」は、実験心理学ジャーナル:応用編(Journal of Experimental Psychology: Applied Vol.9、No.1)に掲載された。


EPA、水クレジット・プログラムで水質保全

 ワシントン― クリスティ・ホイットマン環境保護局(EPA)長官によると、EPAの新しい水質取引政策(Water Quality Trading Policy)は、「より経済的かつ迅速に水質を保全する」。
 この政策の下、産業、都市、農業は、定められた水質を維持しなければならない。水質汚染を軽減したものは、クレジットを得る。要件を満たさなかったものは、クレジットを買わねばならない。
 EPAによると、本政策は、法人が水質保全法(Clean Water Act)その他の連邦法規に定める要件を満たすのを支持・奨励し、こうした問題に対処するのに大幅な柔軟性を与える。
注)クレジット――「クリーンウォータークレジット」のこと


コロラド州ラリマー郡、一転して、職場での銃携帯を禁止

 コロラド州フォート・コリンズ― コロラド州ラリマー郡では、職場の暴力防止をめざす新政策で、郡職員の職場での銃携帯を禁ずるが、郡の行政委員らは、もともと反対の立場を支持していた。
 デンバー・ポスト紙によれば、同郡は、事前に上司への報告があれば、銃免許を持っている郡職員には銃器を隠し持つのを許可する方針を検討してきた。同郡は、1,400人の公務員を擁する。
 3人の行政委員は、当初はこの計画の支持を表明していたものの、住民の批判にあい、立場を一変させた。行政委員らは、全員一致で、職場での銃器携帯禁止案に賛成票を投じた。


化学安全、運輸安全の二委員会、調査プロトコル作成で合意

 ワシントン― 米国化学物質安全性調査委員会(U.S. Chemical Safety and Hazard Investigation Board)および全米運輸安全委員会(National Transportation Safety Board)は、有害物質の流出を伴う事故の調査に関し、プロトコルを作成する旨の覚書に調印した。
 本合意では、有害物質が絡んだ運輸関連事故においては全米運輸安全委員会を、化学物質の加工、取り扱い、貯蔵に関わる事故については化学物質安全性調査委員会を、主導的調査機関とする旨、確認している。
 「化学物質安全性調査委員会は、一般的な委員会の運営や調査方法、安全推進に向けた勧告の有効活用に関して、運輸安全委員会との非公式な情報交換により既に恩恵を受けている。しかし、今回の合意は、両者間により公式かつ定期的な接触を確立し、究極的には両者の安全任務の遂行に役立てられるであろう」と化学物質安全性調査委員会のキャロリン・メリット委員長は述べた。


米加、大気保浄化プロジェクト戦略を確約

 ワシントン― 米国とカナダは、国境沿いの大気保全をめざす合同戦略に向け、作業を開始した。
 環境保護局(EPA)によると、各国は、大気汚染の監視・改善や健康への影響調査などを含む、見込みのある大気浄化プロジェクトの特定に向け、米加国境沿いの州や地域政府と共に取り組んでいる。4月には、報告書が出る予定。


議会、産業界、地球温暖化に対応
 ワシントン― 今日に至るまで、地球温暖化は、数多くの議論を生んだが、行動に移されたものはほとんどない。今、政治家や事業家は、地球温暖化ガスの削減に向けた産業界の役割に焦点を当てた計画を掲げて立ち上がろうとしている。
 ジョー・リーバーマン上院議員(民主党、コネチカット州選出)とジョン・マケイン上院議員(民主党、アリゾナ州)が提出した法案は、上限・取引プログラム(cap-and-trade program)を設けて、温暖化ガスを削減する。上限・取引プログラムとは、排出量に上限を設け、その上限を超えて排出する企業には、上限を守っている企業から排出枠を購入させる、市場原理に基づく取引システムである。
 「究極的には、同法案は、エネルギー効率を改善させ、技術進歩を促進させる」とマケイン上院議員。
 1990年の大気浄化法(Clean Air Act)の酸性雨プログラムをモデルにした、気候管理法(Climate Stewardship Act)(S.(上院)139)は、二酸化炭素の排出量を2010年までに2000年レベルまで、また2016年までに1990年レベルまで減らすよう義務付けるものである。
 上院の新聞発表によれば、同法案は、全米の温暖化ガス排出総量の85%を占める発電、運輸(石油精製業者による)、工業および商業経済部門に影響を及ぼす。同法案は、年間1万トンを超える排出量のある企業のみに適用される。
 同法案は、上院環境・公共事業委員会(Senate Committee on Environment and Public Works)に付託されている。
 もうひとつの地球温暖化法案(S.(上院)17)は、民主党が起草・提案している。地球気候保全法(Global Climate Security Act)は、発電所からの二酸化炭素、窒素酸化物、二酸化硫黄や水銀の排出を削減させるため、議会に対し、多種汚染物質法案を通過させるよう要求するものであるが、上限・取引プログラムを求めるものではない。この法案も、上院環境・公共事業委員会に付託されている。
 両法案は、ブッシュ大統領が就任早々、京都議定書への署名を拒否したため、地球温暖化問題でブッシュ政権が残した空隙を埋めようとするものである。どちらかの法案が議会を通過するかどうかは別として、両法案とも、もっと必要とされている対話への口火を切るだろうと、専門家は語る。

産業界は行動する
 しかし産業界は、議会の指図を待つつもりはない。企業13社とシカゴ市は、温暖化ガス排出削減に向けた自主的な上限・取引プログラムである、シカゴ気候取引所(Chicago Climate Exchange)を設立すべく団結した。デュポン、モトローラ、インターナショナル・ペーパー社等は、向こう4年間で排出量を4%削減することを合意した。
 「このイニシアチブに対する民間部門の反応は、ものすごい」と、シカゴ気候取引所のリチャード・L・サンダー会長兼CEO(最高経営責任者)は言う。「気候変動に対する先を見越した取り組みが、一人一人の長期的利益を増進させると、皆信じている」。
 シカゴ気候取引所は、複数の産業にわたる大企業が、温暖化ガス排出量の削減を目指して、規則原理の市場を利用すると自主的に公約した、初の試みである。
キャレン・ガスパース