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NSC発行「Safety + Health」2003年12月号

ニュース

環境保護庁(EPA)長官にリーヴィット氏確定

 ワシントン − マイケル・リーヴィット前ユタ知事(Michael Leavitt, former Utah Governor)は、環境保護庁(Environmental Protection Agency: EPA)のトップの座を11月に引き継いだが、これには数ヶ月間を費やした。民主党は、リーヴィット氏を適任とは認めつつも、委員会で指名の確認を遅らせ、上院本会議の投票では議事妨害をちらつかせて、ブッシュ政権の環境政策に抗議した。
 とくに、ヒラリー・ロダム・クリントン上院議員(Hillary Rodham Clinton, Senator、民主党、ニューヨーク州)は、ホワイトハウスが、9月11日の対米テロ後のマンハッタン南部の大気の質に関するEPAのプレスリリースに影響力を行使したことを懸念して、リーヴィット氏の任命に反対した。ホワイトハウスは、土壇場で妥協、懸念事項の大半で歩み寄りを見せ、クリントン上院議員にも、マンハッタン南部の住民がいまだにさらされている健康リスクを調査すると約束した。
 リーヴィット氏は、上院で88対8の圧倒的多数で、EPA長官として確認された。
 新長官の最優先課題は、州政府その他からの提訴に再度直面している新公害発生源再検討(New Source Review)条項の修正である(本誌18頁、「産業特集」参照のこと)。


労組、金属加工用液体をめぐり、労働省を提訴

 デトロイト − 2労働組合は、新しい金属加工用液体基準をめぐる10年間もの請願運動の末、真剣勝負に挑むことを決定した。全米自動車労組(United Auto Workers: UAW)と全米鉄鋼労組(United Steelworkers of America)は、連邦第3巡回控訴院(U.S. Court of Appeals of the Third Circuit)で、エレイン・チャオ労働長官(Elain Chao, Labor Secretary)を訴え、控訴院に対し、金属加工用液体の職業性許容暴露限界の引き下げを労働安全衛生庁(Occupational Safety and Health Administration: OSHA)に強制するよう、要請している。
 労組が提訴に踏みきったのは、「OSHAは、アメリカの労働者を保護するという責任をちっとも果たさなかったからである」と、全米自動車労組のロン・ゲテルフィンガー会長(Ron Gettelfinger, President)。
 「われわれがOSHAに要求しているのは、職務を果たして、アメリカの労働者の安全衛生を守るよう、必要な措置を講じるということである」と、全米鉄鋼労働者組合のリオ・ジェラード会長(Leo Gerard, President)も言う。
 労組によると、年間100万人以上もの労働者が、金属加工用液体に暴露している。金属加工用液体は、自動車、農業機械、飛行機その他の金属製品の製造に広く使われている。これらの液体から吸入したミストは、喘息その他の呼吸器疾患を引き起こす可能性があり、長期の暴露は、慢性的で時には死に至ることもある肺の損傷を引き起こすこともある。
 現行のOSHA基準は、1日8時間の労働で、油を主成分とした金属加工用液体には、1M3当たり5mgを超えた濃度のものに暴露してはならないとしている。しかし、1998年、国立労働安全衛生研究所(National Institute for Occupational Safety and Health: NIOSH)は、5mg基準は、依然として労働者を深刻な健康リスクにさらしていると判断し、閾値を1M3当たり0.5mgまで引き下げるよう勧告しており、労組側は、これを指摘した。
 全米自動車労組が、金属加工用液体の暴露限界を引き下げるよう、OSHAに初めて請願したのは、1993年。同じ年、OSHAは、この種の液体の規制を優先課題と定め、金属加工用液体基準諮問委員会(Metalworking Fluids Standards Advisory Committee)を設置した。1999年には、委員会の過半数は、OSHAに対し、NIOSHの暴露限界を採用するよう勧告した。しかし、2001年、OSHAは、半期規制計画表(semi-annual regulatory agenda)から金属加工用液体基準を取り下げた。


事実チェック
欠勤は、損失をもたらす
従業員の傷病で、損失する年間労働日数は、280万日
企業の給与総額のうち、欠勤に支払われるのは、15%
予定外欠勤は、向こう2年間で同程度もしくは悪化するだろうと考える企業は、83%
出 所:Workforce Management magazine, 2003


調査報告:連邦法規は、便益が費用を上回る

 ワシントン − 過去10年間に公布された連邦法規は、労働安全衛生庁(OSHA)や環境保護庁(EPA)のものも含め、健康や社会便益が、遵法費用をはるかに上回ると、行政管理予算局(Office of Management and Budget)は、新刊報告書で結論した。この所見で、法の遵守はビジネスにとってあまりにも負担であるという常套句は、説得力が減りそうだ。
 当局によると、調査対象の107の主要連邦法規の年間便益を数量化すると、推計総額は1,460億〜2,300億ドル、一方、年間遵法費用の推計総額は、360億〜420億ドルとなる。
 たとえば、新しい大気浄化規則の施行は、遵法費用の5倍〜7倍の便益をもたらす。入院や緊急治療室来診、早死、労働損失日数の減少で、1992年10月〜2002年9月の間には、推計1,200億〜1,930億ドルが節約された。
 反対に、産業界や州政府、自治体は、同期間、環境基準を遵守するために工場や施設を改装するなどといった変更に推計230億〜260億ドルを費やした。
 報告書全文は、www.whitehouse.gov/omb/inforeg/regpolreports_congress.html で閲覧できる。

全体的にみると、OSHA法規の
社会便益は、 18億〜42億ドル
遵法費用は、 11億ドル
  出 所:Office of Management and Budget, 2003



全米安全評議会(NSC)創立90周年:「安全情報のスーパーマーケット」
 全米安全評議会図書館(National Safety Council library)は、書類や切り抜き記事、パンフレット等のファイル棚として始まり、いまや世界一とまではいかないものの、全米一の総合的な安全衛生図書館へと変貌を遂げた。
 全米安全評議会(NSC)は、1913年の創立以来、主要な任務のひとつとして、会員企業へ安全情報を提供してきた。1915年のNSCの目標は、「災害防止という問題全体に関する、ばらばらのデータを統合する」ことであった。資料のなかには、青写真のコピー、安全装置の情報、データ表や会議報告書などがある。これらの資料を整理するため、常勤の司書が雇われた。
 図書館は、どんどん規模が大きくなっていった。一時期は、安全衛生情報を収集・普及するために14人もの人々が図書館で働いたほどである。現在は、コンピューター技術の発展もあって、司書は3人、いずれも図書館・情報科学で修士号を修めた専門家である。これらの司書は毎年、会員企業やNSC職員、一般市民からの情報の照会6,200件をこなしている。照会の大半は、統計や技術情報である。墜落・転落防止も、照会の多いテーマである。時には、珍しい照会を受ける場合もある。
 インドの会員企業からは、eメールで、工場に猿が入り込まないようにする方法を照会してきた。調査の末、当該企業には、窓に網戸または格子を張り、重要な箇所にはフェンスの設置も検討するよう、提案した。
 技術情報に加え、図書館は、会員企業に対し、2ヶ月に一度、アラートサービス注)を提供している。これは、図書館の蔵書に新たに加わったなかから選りすぐった題材を一覧表にまとめたものである。会員企業は、eメールで、または、NSCのウェブサイト、www.nsc.org の会員専用ページで閲覧できる。
 図書館は現在、安全衛生の全分野を網羅する16万点もの図書をそろえている。NSC図書館が「安全情報のスーパーマーケット」と呼ばれる所以である。

出所:全米安全評議会図書館

注)アラートサービス(Alert Service)---あらかじめ利用者の求める情報の主題をキーワードなどで登録しておき、新しい情報が到着する度に合致する情報を選び出し通知するサービス
[類] current awareness / selective dissemination of information


エンジ議員、化学物質等安全データシートに関するOSHAの対応を称賛

 ワシントン − 米国では、上院議員が問題に首を突っ込むと、概して変化が現れてくる。ここ数ヶ月間、上院雇用・安全・訓練小委員会(Senate Subcommittee on Employment, Safety and Training)のマイク・エンジ委員長(Mike Enzi, chairman、共和党、ワイオミング州)は、労働安全衛生庁(OSHA)に対し、化学物質等安全データシート(Material Safety Data Sheets)の質と精度を改善するよう、促してきた。
 エンジ議員は、10月23日、OSHAは努力していると述べた。被災者家族結束の会(Families in Grief Hold Together、アラバマ州フェアホープ市、Fairhope, AL.)の創設者・会長で、OSHAの全米労働安全衛生諮問委員会(National Advisory Committee on Occupational Safety and Health)の市民代表、ロン・ヘイズ(Ron Hayes)氏は、エンジ議員に対し、OSHAは、この問題に迅速に対応していないと苦情を申し立てた。この夏、エンジ議員は、OSHAのジョン・ヘンショー長官(John Henshaw, administrator)と書簡をやりとりして、当局は「この問題に対処するため、重要な措置をとりつつあるようだ」と、当局の努力を認めた。
 一方、OSHAは、10月22日、化学危害情報伝達協会(Society for Chemical Hazard Communication、バージニア州アナンデイル市、Annandale, VA)との戦略同盟を正式に発足させた。この官民同盟は、ハザード・コミュニケーションおよび化学安全について、労働者の理解を深めることを目標とする。


大西洋横断安全計画表へ向け、会議開催

 ギリシア、レムノス島(Lemnos Island, Greece) − この10月、第3回EU・米国労働安全衛生合同会議が開催され、米国、EU諸国から100人を越える参加者が集い、彼らのことばでいう大西洋横断安全計画表(transatlantic safety agenda)を模索した。隔年ごとに開かれるこの会議は、EU、主宰国のギリシアおよび労働安全衛生庁(OSHA)が組織した。
 討議内容は、職場での化学安全、ストレスやストレスと労働の関係、安全衛生協同プログラム、パートナーシップなど多岐にわたった。OSHAのジョン・ヘンショー長官は、政労使代表からなる総勢30名の米国代表団を率いた。
 全米安全評議会(NSC)のリオ・ケアリー行政サービス担当常務理事(Leo Carey, executive director of government services)は、閉会の辞で、各国代表団を前に、安全衛生分野における米欧の共同研究の歴史に言及、今回の会議で作業グループから提出された具体的な提案は、「立法化されれば、大西洋の両岸の労働安全衛生を改善する」と語った。


OSHA様式300改訂版、オンラインで入手可

 ワシントン − 労働安全衛生庁(OSHA)の様式300「Log of Work-related Injuries and Illnesses」改訂版は、当局のウェブサイトで入手できる。希望者には、コピーも配布する。
 OSHAによると、改訂版は、一般から受け付けた提案に応じて、2004年度向けに多くの修正がなされた。修正箇所を一部紹介する。
・ 職業性聴力損失欄が追加された。
・ 「休業日数」欄は、「配転または就業制限」欄の前に来る。
・ より明快な災害率の算出式を採用する。
・ 「事例を分類せよ(Classify the Case)」と題した目立つ欄を設け、書式の4欄のうち、ひとつだけを記入せねばならないことを、事業者がはっきり理解できるようにした。

 様式300改訂版は、www.osha.gov/recordkeeping/new-osha300form1-1-04.pdfで入手できる。