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建設工事における倒壊防止対策について
Constructing a Plan against collapse

資料出所:Safety+Health
May 2006

(仮訳 国際安全衛生センター)

掲載日:2007.03.01

建設業の労働者は、墜落・転落や設備の誤作動など、現場で多様な危険に直面している。しかし、致命的な災害は建設物の倒壊から生じることが多い。多くの労働者が不安定な構造物により、死亡したり、下敷きになったり、重傷を負ったりしている。

  • 1月にはケニアで、工事中の5階建てのビルが280人の建設労働者の上に倒壊した。17人が死亡し、100人以上が鉄や瓦礫の下敷きになった。
  • 3月には、ニューヨーク州ブルックリンの建設労働者がコンクリート・スラブの下敷きになって死亡した。

こうした構造上の欠陥を防ぐために、すべての建設会社が構造物の設計計画を作成するようにしなければならない。これは、専門技術者が作成するもので、建築物の設計、使用材料、施工順序についての骨子が含まれたものである。この計画通りに工事が行われていないときには、倒壊の可能性が増大する。

カンザス州オーバーランドパークに拠点を置く、世界規模でエンジニアリング、コンサルティング及び建設を行っているBlack&Veatch社の建設・調達担当副社長リチャード・キング氏は、「構造物の設計計画の順序どおりに工事を行わないことは、重大な過失となる可能性がある。」と語っている。「構造物の設計計画を作成して建設の順序を決めておかなければならない。それはOSHA規則小分類Rの要件である。各材料がどうやって支持されているかを理解することなしに、単に現場に行って材料を組み立てるというわけにはいかない。」

キング氏は、「会社はともすればスケジュール通りに建設を進めるため、またキャッシュフローの改善のため、施工順序を無視したり、行き当たりばったりで材料を組み立てたりすることがある。それらは結果として重大な過失となることが多い。最終的には、構造物に過重な負荷をかけたり、不安定な支柱や欠陥材料を使用したりして、倒壊につながることになる。」とも語っている。

強度と構造

建設現場のイメージ

ミシガン州サウスフィールドのバートン・マロー社安全・防災担当役員ジョン・グライヒマン氏によると、過度の荷重をかけることが建築物倒壊の一般的な原因である。荷重は未完成構造物の上に存在する作業者、建材及び設備によって発生する。これらの荷重は構造物設計技術者が計算することになっている。しかしながら、技術者が工事期間を通じてかかる、すべての荷重を判断するのは難しいことが多い。「多くの建築物、特に学校は完成した建築物として設計されており、各建材が工事中に受ける荷重に耐えるようには設計されていない。」と、グライヒマン氏は語っている。

作業者が、荷重に対して十分な強度がない部分に重い材料を積み上げると、構造物の破壊が起こる。キング氏はまたこう述べている。「工事中の駐車場が過荷重のために倒壊するのを見たことがある。作業者が駐車場の骨格の上に型枠をおいてコンクリートを注入するとする。型枠はコンクリートが十分な強度を得るまでは、荷重を支えられないような設計となっている可能性がある。そうすると単に作業者がその上に乗るのが早すぎたということになる。」

設計強度に到達するまでに時間がかかる材料は、一時的な結合材か支持材に依存しなければならないが、それらは最終構造物ほど安全でなかったり、強度がなかったりする場合が多い。コンクリートの養生が完了する前に作業者が早まって支持材を取り除くことが原因で、多くの死傷災害が発生している。支持材が適切な時間その場所から取り除かれないようにすることが非常に重要である。

Black&Veatch社のエネルギー・建設・調達部門の安全衛生課長であるマーク・プレニ氏は、仮設の支持材、構造物も専門技術者が設計すべきだと語っている。「これらには技術者の承認印が必要である。」

プレニ氏はまた、建築工事に要求されることは各階毎に違うと述べている。建物の違う階では、使う材料が同じだとしても、階毎に違うパラメーターを考慮に入れなければならないということがあるかもしれない。例えば立ち上がり状況、位置決め、既に工事が終わっている部分の安全の保持などである。建築物の設計は工事が始まる前に決定してはいるが、建築物が立ち上がるに連れて作業プロセスは変化するのが普通である。例えば掘削を行うとき、建設業者は隣接する構造物に対する影響を考えなければならない場合がある。一定方向に深く、或いは遠くまで掘りすぎたら、近くの構造物の安定性を危険にさらしてしまう可能性がある。このような状況及び変化も技術者による承認が必要なものである。

建設業者は、環境条件による変化を過小評価するべきでないとキング氏は語っている。例えば、地震の問題は西海岸と中西部の一部で特に重要である。設計プランでは、仮設の支持材や構造物を考えるとき、地震その他の自然現象を考慮に入れなければならない。未完成の構造物が、ハリケーン、地震に見舞われた場合は作業を再開する前に技術者に事後点検してもらうことが重要である。単なる強風の場合でも同様である。

他に建設工事における問題としては、作業の種類に関係するものがある。例えば、取り壊し工事では専門技術者の手による計画が必要である。建設物を解体するときは、不明なことが数多く存在する。古い構造物では環境問題を考えなければならないし、火災があった建築物は強度が落ちているかもしれない。「実際にどのようにして建築物を取り壊すかについては、専門技術者が点検をしたのち、十分な意識をもって意思決定をしなければならない。」と、キング氏は語っている。「一見小さいことでつまらなく見えるものが、とどめの一撃となるかもしれない。」

技術の効果

別の見過ごされている変化として、建設工事に対する技術の影響がある。グライヒマン氏は次のように語っている。「以前、建築物は過剰な設計をされていた。使用材料は、必要以上の強度を持つことが多かったし、設計のための計算は手で行われていた。今、技術者は、コンピューターを使用し、より効率的に、より正確に設計を行っている。建設業者はもはや、過剰な設計をされているから余分の荷重も受け入れられるだろうと当てにすることはできない。

「昔よりはずっと慎重にならなければいけない。」とグライヒマン氏は言っている。

2番目の技術的事項は材料が変わっていることである。グラスファイバーのような、新しくて費用対効果に優れた材料が、現在、構造用鋼に代わって使用されるようになっている。鉄鋼とコンクリートの価格が上昇しているため、「必ずしも従来使われていた材料と同じ強度を持つわけではない、他の材料が使われるといった状況が起こることになるだろう」。

コミュニケーションが要求される

建設工事のプロセスは常に変化するものであるという性質を考えると、作業者と技術者がコミュニケーションをよくすることは重要である。「建設業者は工事経験だけに基づいて意思決定をするべきでない。」とキング氏は述べている。「専門家と相談することが必要だ。私たちは現場に監督者を置いている。工事の間、当社を代表し、かつ建築業者を見守る人間である。彼らの唯一の目的はコミュニケーション、即ち設計についての質問に答えることだ。それは不可欠のプロセスである。災害率ゼロを達成するための唯一の方法がコミュニケーションである。人々は質問しなければならない。これは危険な仕事なのだ。」

作業者もまたハザードを洗い出すことによって、コミュニケーションに重要な役割を果たす。材料は、設計仕様に基づいて配置されなければならない。「従業員には、材料や現場の作業手順に関するどんな問題でも、また、発生するかもしれないどんなハザードに関しても事業者に通知する責任がある。」とキング氏は語っている。「職長は、総職長、監督者、及び技術者とコミュニケーションをとる必要がある。」

コミュニケーションのイメージ

安全を展開する過程で作業者も参加させることは、最初から建設現場の全員参加を目指すための早道である。プレニ氏は、彼の会社では建設作業チームも参加して各種計画を策定すると述べている。一緒に設計と作業ルールを検討し、それを実行する前に全員が計画を承認してサインする。こういうコミュニケーションによって、技術者が作業者のやり方を非常によく理解できるようになるということがよくある。

「作業者が建築物の屋上に材料を持ち上げるのにクレーンを使用しないということを、技術者が理解していることは重要なことである。彼らは、建築物の屋上にホイストを取り付け、それで吊り上げるのだ。」と、プレニ氏は言う。「それは技術者が考え及ばない方法で構造物を積み込むということを示す良い例である。技術者はその建築物の建設過程でのホイストについては一度も考えなかったかもしれない。」

まだ建設現場に行ったことがない若い技術者にとって、このコミュニケーションは特に重要である。建設業者の経験は、情報共有のプロセスで非常に貴重なものである。「構造物の倒壊をなくすためには、たぶんこの要素が最重要だと思う。」と、キング氏は述べている。

倒壊に備える

建築物が倒壊する場合に備えて、建設チームは非常時対応計画を用意しておかなければならない。プレニ氏は、どんな現場でも(冷却塔であろうと、発電所又は水処理施設であろうと)構造要因による倒壊に備えなければならないと言っている。その準備の一つとして消防署など外部の緊急サービスとのコミュニケーションをとっておくこともその一つである。これには新しいことをやらなければならない場合がある。「というのは、大きな構造物は大都市の外に作られることが多く、例えばニューヨーク市の中心部に石炭火力発電所は造られない。離れた場所にある。」と、プレニ氏は語っている。

キング氏によると、Black&Veatch社の対応計画の中には、地方の消防署が、倒壊やその他の非常時に対応できるようにする設備を提供し、その訓練を行うことも含まれているという。同社は最近、会社のオレゴン州の現場で、緊急救助要員及び作業者を対象として高所での救出作業の訓練を行った。この種の緊急事態対応手順が、しばしば見過ごされている(特に比較的小規模の現場の作業チームからは)とキング氏は語っている。「だれもそのことを考えていない。最近の鉱山災害のときに緊急対応準備がどれだけお粗末だったか注目してほしい。鉱山は屋外の構造物の場合と何も違わない。だれか、どこかの機関が入って救助をしなければならないのだ。それは事業者、ゼネコンにかかってくる問題であるし、また彼らが非常時に役に立つようにどんな計画を策定しているかということにかかってくる。それはどんな建設工事でも重要な要素である。」