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新アスベスト法における事業者の責務
New asbestos duty

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2003年5月号 p.62

(仮訳 国際安全衛生センター)


 新たに改定された2002年職場のアスベスト管理規則(Control of Asbestos at Work Regulations 2002)には職場建物におけるアスベスト材によって引き起こされるリスクを管理する義務が含められている。法廷弁護士 Adam Heppinstall (アダム・ヘピンストール)はこの規則の主な改正点について考察している。

 労働安全衛生に携わっている人たちは、一世紀を超えて粉塵の吸入による危険性をよく理解している。英国安全衛生庁(HSE)によれば、英国では1年間約3,000人以上の人が、過去にアスベストに暴露された結果による疾病が原因で死亡している。この数字は2010年には10,000人にまで上昇するのではないかと予想されている。

 下記は2002年職場のアスベスト管理規則についての懸念事項を説明している。これは新しい規則であるが、その内容の多くは1987年(1992,1994、1996、1998年にそれぞれ改訂)の同規則を見直し、整備したものである。

 しかしながら本規則のもっとも重要な変更箇所は規則4である。規則4は「非居住建築物におけるアスベストの管理義務(Duty to manage asbestos in non-dmestic premises)」で、2004年5月21日から発効する。規則4はアスベストの存在または存在の可能性を評価し、アスベストから発生するリスクを決定し、そのリスクを管理するのに適切な対策を立て、維持し、見直しをするために、非居住建築物での管理義務を課している。この規則はEC指令98/24EC−化学物質指令(Chemical Agents Directive)をイギリスで実施したものの一部である。しかしながらこの規則は指令の最低要件以上のものである。

 この規則の諮問期間中、HSEは規則4を含む提案はアスベスト関連疾病を減らすための総合的な戦略に重要な貢献をすると述べた。これからの50年間に4,700人以上の人命が助かると見積もっている。

事業者責務を課せられている人(duty holder)

 規則4は以下に定義される責任者(the duty holder)に適用される。 
(a) 請負、借用契約によって、建物または建物の出入り手段の保全または修理に関し、程度の如何に拘わらず、責任があるすべての人 
(b) 請負、借用契約にはよらないが、非居住建築物の一部または出入りの手段について、範囲の如何に関わらず管理している人

 したがって、個々の関係建物において、例えば、占拠者が修理や保全の責任を分担する場合のように、数人の責任者(duty holder)がおかれることもある。2人以上の場合は、その修繕や保全の責任の程度にしたがって、個々の相対的寄与率が決められる。規則によって影響を受ける人は:
非居住建築物に今現在所有権をもち、法令によって初めて責任者(duty holder)になる人
将来そのような建物の所有権を持つ人

 HSEのガイダンスによれば、影響を受ける可能性がある当事者に含まれるのは下記のとおり。
売り手と買い手
地主
借家人(2次借家人)
運営代理人
設備管理人
検査人
建築家
投資家(資金提供者)

 該当する非居住建築物とは下記をさす:
工場、工業所、事務所、店舗、ホテル、レストラン、クラブ、パブ、病院、診療所、
医師の診療室、保育所、スポーツ設備、教会や村のホール

適確で十分な査定

 規則4(3)はアスベストが事業所に存在するか存在しそうであるかどうかの適確で十分な査定を求めている。建物の建設計画、関係情報、事業所の建築年数を考慮に入れなければならない、そして合理的に接近できる部分の検査を行わなければならない。

 検査の結論は記録しなければならない。規則4(8)、4(9)によれば、アスベストが存在しているか存在している可能性があると検査で示されたところでは、責任者(duty holder)はアスベスト物資のリスクの測定とその建物の該当部分とそのリスクを管理する手段を特定化する文書の作成を確実に実施しなければならない。その手段とはアスベストやアスベストを含んでいる材料(asbestos-containing materials:ACMs)の状況をモニターする方法、ACMを保存し、必要ならとり除く方法、そしてその場所と状況を、そこに触れたりする可能性のある人や緊急サービスに知らせる方法を含めなければならない。

 規則4(6)と4(10)は査定の有効期限がすぎたり、または施設内で重大な変更があった場合、即座に評価や計画の見直しを要求している。また規則4(10)は責任者(duty holder)に計画で特定されている対策を実施及び記録することを要求している。規則順守方法の公認実施準則がHSEより発行されている。

 ビル管理者にとっての実務面での影響は実に明白である。それらは衝撃的なものである。HSEの予測では、この法令を実施する50年間のコストは15億ポンドになるであろうとしている。しかし、産業界はこれから10年間で800億ポンドにものぼるとみている。したがって資産ポートフォリオを持っている人は、以下のことを行わなければならない。
新しい法的義務を知っておくこと。
それらの義務に対応する新しいシステム、手続きを確立しておくこと。
将来の法的な義務を予想して、それに対する計画を立て、適格な法的助言を受けて、
可能であれば必要な保険をかけること。

ベンチマークの策定

 調査と評価は重要である。規則4(4)は状況にたいして妥当と思われるステップを含めた評価を求めている。HSEのガイダンスではベンチマークを設定することになりそうである。HSEは、責任者(duty holder)が必要な資格をもち、認定基準を満たし、訓練をうけた検査員を雇い、指針に基づきACMに関する作業が実行されることを期待している。検査員には保険をかける必要があり、その費用は検査費用に明確に影響を与える。

 規則で要求されている義務の違反は労働安全衛生法(Health and Safety at Work Act)の33(1)(c)に対する違反である。また規則28は事業者の責任における防衛手段として、「デュー・デリジェンス(due diligence:調査)」について規定している。では、計画を立てはじめましょう


*HSEのアスベストに関するウェブサイトはこちら、参考文献に関してはこちらをご覧下さい。
*関連記事 HSEが新しいアスベスト・ガイダンスを発行