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労働災害判例の注目点
Case notes

資料出所:The RoSPA Occupational Safety and Health Journal
2003年10月号 p.12
(仮訳 国際安全衛生センター)



 複数の裁判所からの判例情報の収集を通じロバート・マクマード(Robert Mackmurdo)は次のことを指摘する。大半の判例が扱う災害の原因は「旧態依然とした作業リスクによる」ものである一方で、複数の裁判所は「新しい作業形態」に対応しようとしているように思われ、特に、異なる企業間や、企業と個人間で責任を分担させることにしり込みしているようには見えない。

派遣労働者の死亡災害

 派遣事業者より派遣の道路建設作業者の死亡災害を受け、リスクアセスメントや就労時間管理などの安全面にかかわる責任に対し、企業間の協力の必要性が注目されている。
 サイモン・バートン(26)は昨年、ベッドフォードシアでの高速自動車道A6の路面標識作業中の災害で亡くなった。複数の車両に轢かれたことが致死原因であるとして、バートンの災害状況に関し、企業3社が法律違反を認めた。
 ルートン刑事裁判所にて、バートンを雇用した人材派遣業パーテンプ社(英国ウェストミッドランズ州コヴェントリー市)は、「1998年労働時間規則(Working Times Regulations 1998)」違反の過失を認め、30,000ポンドの罰金を科せられ、経費27,350ポンドの費用支払いを命ぜられた。
 ラファージ・レッドランド・アグリゲート社(レスタシャー州レスター市)も、「1974年労働安全衛生法(Health and Safety at Work, etc. Act 1974):HSW法」の第3(1)条違反で有罪となり、175,000ポンドの罰金を科せられ、経費52,750ポンドの費用支払いを命ぜられた。3社目のタウム社(ヘンリーオンテームズ)も同法違反となったものの、無資産のため罰金は科されなかった。
 イギリス安全衛生庁(HSE)の主席監督官フィリップ・ポインターは、次のように語っている。「道路や自動車専用道路での作業中に死亡する作業員数が増加している。疲労によりさらに高いリスクを招くことのないようにするなど、企業はこの種の作業員を保護するための対策をさらに強化しなければならない。自動車道を徒歩で横断しない、または横断には車両を使用するなどの予防措置を作業者に対し徹底させるなど、簡単なステップをいくつか経ることで、バートンの災害は防ぐことができた。この事例により、作業者の労働時間を厳格に管理し、記録を的確に残すことの重要性がクローズアップされた。」


労働安全衛生(HSW)法第7条 起訴

 従業員が経費7,000ポンドの費用支払いを科せられた判例は、自分たち自身と他人の労働安全衛生上のリスクを回避して作業できるように、訓練実施と知識活用が必要であることをすべての事業主と作業者に痛感させた。
 この判例では、害虫防除会社勤務の従業員が、HSW法の第7条違反で有罪となり、3,000ポンドの罰金を科せられ、経費2,040.75ポンドの費用支払いを命ぜられた。裁判官らの判決では、2001年9月に起きた農薬事件において同従業員が自分自身または他人への安全衛生上の適切な配慮を怠ったため、その作業中の行動や怠慢により、彼らに悪影響を及ぼした可能性があるとした。
 また同従業員は、「1985年食品及び環境保護法(Food and Environment Protection Act (FEPA) 1985)」の第16(12)(ii) 条違反として2,000ポンドの罰金も科せられた。これは、燐化アルミニウムを含有するタルネックスという農薬を、同農薬使用時の許可条件に従わずに使用したためとしている。
 同従業員キートリーは、個人の庭でモグラ駆除のために燐化アルミニウム含有のペレット薬剤を、使用時の許可条件に従わずに居住家屋から3メートル以内で使用した。キートリーは使い残した同薬剤を、安全な保管及び使用上の取り扱い説明書を家屋所有者にわたさないで、同個人宅に放置した。これは、燐化アルミニウムは、適切な取扱法を学び、特別の訓練を受けた担当者に限り使用できるとする法的規制に抵触する。
 HSEのゲリー・シールは次のように語っている。「裁判官が、燐化アルミニウムの重大な危険性を考慮したため、罰金が高額になったと思われる。最も重要なことは、職業として認定された人間だけにその使用が限定されている農薬を使用する際は、必ず使用条件に従うこと、また他人の安全衛生に十分配慮する。このように危険な製品は、一般の人々や訓練を受けていない人が触れないようにしなければならない。」


カーニバル広場の遊具の故障

 3人の若者の傷害により、若者たちの信頼を得るべきはずの事業経営者と企業の側にある潜在的な責任に焦点が当たった。
 遊具の操作員ギルバート・フィンドレイ・ジュニア(グラスゴー在住)は、HSW法違反としてティーズサイド刑事裁判所で有罪判決を受け、1,000ポンドの罰金を科せられた。その違反は次のような災害をひきおこした。すなわち2000年8月、ハートリプールのカーニバル会場でフィンドレイの操作するアルチメイト・バズという遊具に乗った3人の若者は、遊具が作動中に土台から外れる事故で傷害を負ったのである。フィンドレイの経済状態を考慮し、罰金は低額に抑えられ、訴追手続きの経費17,000ポンドは不問に付された。
 さらに、遊具点検技師のブライアン・ブラック(ウェストロジアン在住)もHSW法違反を認めた。ブラックもその責任部分で1,000ポンドの罰金を科せられた。彼は事故の数週間前にこの遊具の乗車許可証を発行していたが、検察当局により、その許可証内容は「明らかに」瑕疵であると断定された。

不十分な訓練

 完全に予防可能であった災害により、以下の2企業は訓練実施責任の不履行のつけが高くつくことを学んだ。
 ノリッジ刑事裁判所から、バジェンズ社は20,000ポンド、また運送請負業ジスト社は30,000ポンドの罰金をそれぞれ科せられた。これは、2003年3月、同2社がHSW法違反を認めたクローマー治安判事裁判所での差し戻審理であった。この判例で扱われたのは、サイモン・エアーズ(当時33)が背中に重傷を負い、車椅子生活を余儀なくされた事故である。
 この災害では、運送請負業ジスト社の搬送車両の後部リフトプロテクターから430kgものケージがバジェンズ・スーパーマーケットの従業員であったエアーズの上に落下した。
 HSEの調査では、エアーズは自分の職責について事業主から十分な教育を受けていず、また、ジスト社の車両運転者は搬送車両後部リフトの安全使用上の十分な教育を受けていなかった。自分の担当作業のリスクアセスメントで指摘された安全管理対策をエアーズが知らされていたら、彼はリフトから十分離れた場所に立っていたことであろう。
 またエアーズは120万ポンド(ジスト社85%、バジェンズ社15%の割合)の損害賠償も受けた。
ジスト社のスティーブ・ハリングは、「エアーズとそのご家族のことは片時も忘れることができません。非常にひどい災害を起こしてしまったことを心よりお詫び申し上げます」と語った。


打ち砕かれた足

 鉄鋼労働組合(ISTC)出席の訴訟において、安全管理手順の不備による被害者の賠償金として総額100,000ポンドの支払いが、高等裁判所から命じられた。
 デズモンド・ピアソン(50)は1997年、ジェームズ・フェアリー製鋼所(ロザラム)勤務中に、積み上げられた重い鋼片のひとつが片足の上に落ち重傷を負った。鋼片の衝撃で足は砕かれてしまった。彼は現在、絶え間ない足の痛み、歩行の制限、将来、足を切断しなければならない可能性の恐怖にさいなまれている。
 彼の弁護士は、完全に予防できたくだんの災害につき、次のように語っている。「この件は安全管理手順の不備という基本的なミスが原因で起きた災害である。あの鋼片の大きさを考えると、あの程度の手順では、とてもではないが十分とはいえません」

サイロ内での酸素欠乏事故

 リスクアセスメントが不備であったがために、死亡を招き、その代償として高額の罰金が科せられた。
 ゲイリー・スミス(34)は2001年5月、急に倒れこみそのまま亡くなった。死亡した原因は、勤務先のリース・インペリアル・ドック(エジンバラ)にある穀物サイロ内で、酸素欠乏空気を数分間呼吸したことによるものであったと見られている。
 エジンバラ地方裁判所にてフォース・ポーツ社は、HSW法違反を認め、同裁判所からスミス死亡災害により200,000ポンドの罰金を科せられた。
 スミスは発酵した穀物を収容した閉塞されたサイロ内に入り、捕虫器を取り付けようとしていた。この作業をスミスが実施するにあたり、事業者は本質的なリスクについて十分に評価することを怠り、またスミスは適切な訓練を受けていなかった。災害発生後、同サイロ内の空気をサンプリング調査した結果、酸素含有率は16%にすぎず、これは標準レベルから5%も低いものであった。
 1997年閉塞空間規則 (Confined Spaces Regulations 1997)に規定されている責務がある事業者は、規定事項に従うため安全作業を確立しなければならない。マイリー・スティーブン判事は責務履行怠慢を非難し、「合理的に実施可能な範囲で、従業員は自分の安全衛生を確保する制度をその事業者に確立してもらう権利を持っている」と主張した。

意識不明

 アバディーン地方裁判所にてPGS社(ノルウェーの石油会社)傘下の英国ダイスにある生産現場で、HSW法の第2条違反として9,000ポンドの罰金を科せられた。この訴追は、2001年7月、同社従業員のニール・ワットが作業場で不活性ガスを吸入して意識不明になった事故によるものである。
 ワットとその同僚はシェトランドから100マイルほど離れたペトロジャール・ホイナベン地区施設のバルブの作業を行っていた。両者とも治療のためラーウィックまでヘリコプターで搬送されたが、ほどなく作業現場にもどることができた。
 調査の結果、両者がバルブ取り外し作業を始める前にバルブの減圧と排気の事前準備を実施していたが、バルブ取り外しができる安全なタイミングを判断する際の圧力点検に不備があったことが判明した。
 PGS社によって用意された言明には次のように記されている。「当社は北海油田現場の全拠点の安全管理には自信がある。この事故では当社の業務に過失があったことを認め、事故直後に当社の管理手順を見直し、改善して、リスクを最小限にすることで、同様の事故の再発防止を講じている。」


介護施設の管理責任者に罰金

 ビーコンズフィールド介護施設での安全管理計画の完成不備に対し、15,000ポンド超の罰金と経費支払いが同施設に科せられた後、同施設の経営者はさらに同計画中止を命じたとして、罰金22,000ポンド超を別に科された。
 バイオレット・フリス(84)が亡くなった原因となったのは、その数週間前に同施設で彼女が就寝中に負った足のやけどによる感染症である。フリスは足の感覚がなくなっていたため、カバーをかけていない電気ヒーターで足にやけどを負っていることがわからなかった。
 施設スタッフは、電気ヒーターに足が触れないようにするためのスライド式カバーをフリスのベッドに取り付けていなかった。
 さらなる事実は、この事故の前に実施したリスクアセスメントにより、同様の危険があることが判明し、ベッドの脇にカバーを取り付ける計画が始まっていたにもかかわらず、すべての部屋のベッドにカバーを取り付け終わる前に、経営者がこの計画を中止していた。
 施設経営者、ビピン・ビハーガニは、2001年2月7日の事故によるフリスの致死にかかわる同施設のHSW法違反の当事者としてレディング刑事裁判所から有罪判決を受けた。彼は7,500ポンドの罰金を科せられ、経費15,000ポンドの費用支払いを命ぜられた。昨年には、ビハーガニの経営するホワイトフィールド介護施設が10,000ポンドの罰金を科せられ、経費5,570ポンドの費用支払いを命ぜられている。
 HSEのスティーブン・ハートレイは、「この判例が、高齢者や無防備な入所者に対する十分な配慮を老人ホームは怠ってはならないとの教訓となってくれることを期待している。」と語っている。


長期間安全対策を怠ったNHSトラスト病院

 病院側のぐずぐずした態度と根拠のない「医学的所見」を理由に、レナード・ゴロキン検視官(マンチェスター)は、NHSトラスト病院を企業故殺(corporate manslaughter)の罪に問うべきであると提言した。
 ウィゼンショー病院で昨年起きた、患者のバルコニーからの墜落事故に対し、南マンチェスター大学病院NHSトラストが何も対策を講じていないことに同検視官は怒りを表明した。この事故は、末期患者が十分な高さがなくもろい手すりを倒し、バルコニーから3メートル下の地面に墜落したというものである。病院側の医学的所見では、事故の数分後に患者は亡くなっているが、この事故が死亡の直接原因ではないとみなされた。
 同検視官は、死因は特定できないと判定している。その中で彼は、彼が疑義を表明した医学的所見を別にしても、特にバルコニー使用者に対する明確な危険に対し何の対策も講じなかったというトラスト側の行為を考えると、この件は企業側の故殺という範疇に入ると確信している。
 同検視官は、「何もされないままこのようなことが数年も続いていたとは、全くあきれたことである。」と語っている。


作業機器の故障

 コルス製鉄会社は、カマーゼン刑事裁判所での差し戻し審判決において、100,000ポンドの罰金を科せられ、経費10,000ポンドの費用支払いを命ぜられた。同社はすでにニース治安判事裁判所に対し、2001年2月、ポートタルボットの製鉄プラントにおいてマイケル・デイビーズが負傷し、片足を失った事故にかかわる主要なHSW法違反を認めていた。
 この事故は、ロボット運転式の瓦礫搬送車のセンサーの汚れが酷くなって機能しなくなり、同車両が止まってしまい、デイビーズが清掃しようとした際に起きたものである。清掃中に車両は動き出し、デイビーズの足を巻き込んでしまった。緊急停止スイッチを押したが、作動しなかった。
 調査では、保守整備の不備のために車両がひどく故障していたことが明らかになった。車両装置の清掃にかかわる安全作業規準は作成されていなかった。
 ジェラルド・プライス判事はこの判決について、「この種の事件の判決には懲罰とする程度の抑止効果の意味が反映されている。コルス社は以前にも、安全衛生規則違反として2つの事件で起訴されているので、本件を別個扱いしたくないのである。」と語っている。
 同社はHSW法(Health and Safety at Work Act 1974)第2(1)条および1998年作業機器提供・使用規則(the Provision and Use of Work Eqiuipment Regulations (PUWER) 1998)第5(1)条及び第18(1)条違反を認めた。
 PUWER第5(1)条 は、作業で使用する機器の適切性についての規定している。この規則では、すべての事業者は作業機器がその使用目的または、提供目的に適合して製造、採用されていることを確認しなければならないことを規定している。
 PUWER第18(1)条 は、管理制度についての規則を定めている。この規則では、合理的に実施可能な範囲で、すべての事業者は作業機器のあらゆる管理制度が安全であることを確認しなければならないことを規定している。


排気ガスに暴露

 ノース・タインサイド、ウォールズエンドの公営住宅でロナルド・ウェイファー(71)は、危うく命を落とすところであった。当局認可請負業者が壁の穿孔作業中、中空の壁内に隠れていたガス管に孔をあけた。数日間排気ガスに曝された挙句倒れたウェイファーは娘に助けられ、ようやく一命をとりとめた。
 ミラー・パチンソン社はウェイファーの住む公営住宅における作業がHSW法違反であることを認め、ノース・タインサイド治安判事裁判所から7,500ポンドの罰金を科せられ、経費4,156ポンドの費用・賠償金支払いを命ぜられた。
 同社の従業員は適切な点検もせず、ウェイファーに断りもしないまま穿孔作業を始め、決められた安全手順に従わなかった。皮肉なことには、同社はウェイファーに書面で安全点検を実施済みである旨を通知していた。
 この作業に関係した専門工2名が、HSW法違反の罪を認めた。HSEのゲリー・ルッターは、同事故について次のように語っている。「この過失でウェイファーは危うく死ぬところであった。両専門工とも事故後に解雇されている。同社では、安全点検シートが適切に記入されていないことに誰も気づかないほど、同社の安全手順は不備だらけなことがわかった。」

不十分なアスベスト管理手順

 HSEは、2001年11月、ロンドンのグリニッジ発電所で、作業員がアスベスト被曝した作業事故に対し、シーボード電気工事社の有罪を勝ち取った。
 当社(ウェストサセックス、クローリー)は、シーボード社、バルホー・ビーティ社、及びABB社で構成する共同企業体で、PFI契約でロンドンの地下鉄への配電事業に携わっている。同社は、1987年職場のアスベスト管理規則(The Control of Asbestos at Work Regulations 1998(CAW規則))第8(1)(a) 条違反の罪を認め、5,000ポンドの罰金を科せられた。同社の違反は、その従業員がアスベスト被曝しないよう予防することを怠ったというものである。
 また同社は、アルストム社の技術者を安全衛生上の危険にさらしたとしてHSW法第3(1) 条違反でも有罪となり、20,000ポンドの罰金を科せられ、経費4,941ポンドの費用支払いを命ぜられた。
 事故時には、シーボード電気工事社がグリニッジ発電所を運用し、アルストム電力建設会社は現場でガスタービン交流発電機の定期メンテナンス作業を実施していた。いくつか修理をした後、一台の交流発電機とガスタービンの連結装置を再び取り付ける際に不具合が見つかった。シーボード電気工事社はバックアップ用の交流発電機からパーツを取り外し、改修した交流発電機の方に取り付けた。
 アルストム社が補修を終わらせるために、シーボード電気工事社が雇用した作業員は、交流発電機の断熱材層の一部を取り外したが、その際その断熱材はアスベストではないと誤って知らされていた。別の交流発電機に対して実施したアスベスト調査に基づくデータを誤って伝えられたのだった。この結果、作業員とアルストム社の技術者はかなりの量の白石綿と大量の茶石綿と青石綿に暴露された。
 HSEはその従業員がアスベストに暴露しないよう予防することを怠ったとして、シーボード電気工事社の安全手順を不適切と特定した。また裁判所は、同社が別の交流発電機のアスベスト調査結果に依存したことを不適切な行為と認めた。


墜落死に75,000ポンドの罰金支払命令

 英国の大手鉄骨メーカーであるウイリアム・ヘアー社(ランカシャー、ベリー)は、1998年4月、大英帝国戦争博物館(ロンドン)の建設工事中、作業員2名の高所からの墜落事故の過失に対し、総額75,000ポンドの罰金を科せられた。そのうち1名は死亡している。
 同社は従業員の安全確保を怠ったとして、HSW法第2(1) 条違反でロンドン治安判事裁判所から有罪を言い渡された。同社はロンドンの中央刑事裁判所で有罪判決を受け、総額75,000ポンドの罰金を科せられ、経費9,162.80ポンドの費用支払いを命ぜられた。
 同社の従業員であった鉄骨組立工ブライアン・ナイツは新しく増設した鉄骨構造の上から、構造の外側の地面に墜落し、死亡した。もう一人の鉄骨組立工リチャード・バートラムはナイツと同じ事故で墜落したが、下方の装飾を施した床面に落ち、重傷を負わなかった。
 両作業員は、地上13メートルにある2本のスチール製水平梁の上に置かれた木製の足場の上に立っていた。彼らは足場の上にあった梯子を持ってきて、数日前に溝形鋼をボルト止めし固定した場所である支柱の上に、その梯子をかけようとしていた。すると木製の足場がバランスを崩し、二人は墜落した。
 ここで導入されていた明らかに不安全な作業システムについて、HSEのアレック・ファーガソンは次のように語った。「大英帝国戦争博物館の足場組み立て作業の方法については、溝形鋼の安全な建設を保障するだけの緻密な手順は確立されていなかった。そのため現場では即席に足場が組まれていた。この実に悲惨な事故により、鉄骨建設などのリスクの高いすべての作業には最大限緻密な計画と準備が必要であることがクローズアップされた。もし同社が作業の安全制度を規定し、適切に監督していれば、この事故は防げたはずである。」


脳に傷害を負った生徒

 現在22歳になるリチャード・ドーズは、11歳の小学生時代、通っていたエルタム・グリーン学校(ロンドン)の入り口上に組まれていた足場から金属製の物体が落下してきて頭蓋骨を骨折し、脳に重傷を負った。
 ドーズは期待以上に快復したものの、この簡単で防ぐことのできた事故により彼の人生は大きく変わってしまった。
 ロンドンの最高裁判所は学校を経営する地方当局(ロンドンのグリニッジ自治区)及び2つの工事請負会社(アズテック・ルーフィング社とロンドン・ホイスト社)に対し、ドーズに1,900,000ポンドの損害賠償金を支払うことを命じた。