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イギリス高所作業規則(2005年)の解説記事
Working at height

資料出所:The RoSPA Occupational Safety & Health Journal
June 2006 P.32
(仮訳:国際安全衛生センター)

掲載日:2007.03.14

イギリスで2005年から施行された上記規則の解説記事を訳したものである。本ウェブサイトに最近掲載した関連の記事には下記がある。

高所からの墜落は、イギリスの作業場における死亡労働災害の主要な原因であり、また重傷災害の2番目の原因である。2004/05年には、高所からの墜落が、53人の死亡労働災害及び約3,800人の重傷労働災害(後遺症を伴うものも多い)の原因となった。昨年、2005年高所作業規則が発効した。この規則は、負傷につながる墜落のリスクがあるすべての高所作業に適用される。ピーター・エリスが以下に説明する。

2005年高所作業規則(The Work at Height Regulations 2005、WAHR)は、以前の高所作業に関する規則すべてを統合し置き換えたものである。また、この規則により、イギリスで暫定欧州高所作業指令(European Temporary Work at Height Directive、2001/45/EC)が実施されることになった。

1974年労働安全衛生法(HSWA)及び1999年労働安全衛生マネジメント規則(MHSWR)では、事業者に対して一般的な義務、すなわち職場の全従業員の安全衛生を確保すること、「適切かつ十分」なリスクアセスメントを行うこと及びリスクアセスメントの結果を考慮に入れることを課しているが、WAHRではこれに加えて高所作業に関して事業者に特定の義務を課している。

実際、他の者の仕事を管理する者は、自営業者を含めてだれもがWAHRによる義務を有する。これらの「義務を有する者」はその管理下にあるすべての者を保護するために、合理的に実施可能なことをすべて行わなければならない。

規則では、これを行うために、事業者は高所作業を計画するとき、以下の分かりやすい階層に従うべきであると述べている。「義務を有する者」は:

  • 可能であれば高所作業を避けなければならない。
  • 高所作業を避けることができない場合は、墜落を防止するための作業設備を使う、或いはその他の対策をとらなければならない。
  • 墜落のリスクを排除できない場合は、墜落の距離とその影響を最小限にするための作業設備を使うか、その他の対策をとらなければならない。
  • 「義務を有する者」は、合理的に実施可能な範囲で、高所作業が正しく計画され、安全な方法で適切に監督、実施されるようにしなければならない。計画には以下の事項が含まれていなければならない。
  • 作業設備の選択。
  • 作業に関わる者全員が必要な能力を持っていること。そして、訓練中の者を監督するために、必要な能力を有する者が存在すること。
  • 作業者の安全衛生を危険にさらさないような気象条件のときだけ高所作業が行われるようにすること。

高所作業を行う場合、「義務を有する者」は非常事態及び救助についての計画も立てなければならない。イギリス安全衛生庁(Health and Safety Executive、HSE)が作ったWAHRについての指針では、事業者に次の義務を課している。「高所作業が行われる場所は、出入りの方法を含めて安全であり、墜落を防ぐ構造となっていること。ただし仕事の内容、設備、作業環境を考慮した場合、このことによって作業者が安全に仕事を行うことが合理的に実施可能でなくなる場合を除く。」

多くの場合、高所からの墜落は、設備の不具合によるよりも、管理が不十分であった結果として発生する。よくある要因としては次のようなものがある:

  • 問題の認識ができていないこと
  • 安全な作業システムの準備ができていないこと
  • 安全な作業のシステムを守らせていないこと
  • 情報、指示、訓練、監督が不十分なこと
  • 適切な設備・器具を使用していないこと
  • 安全な設備/機器の準備ができていないこと

作業設備

この記事でこれまで述べた対策を実施したあとでも、墜落が起こるリスクを完全に排除することができない場合、事業者は墜落の距離とその影響を最小限にするために、合理的に実施可能なことをすべて行わなければならない。

これは、適切な作業設備を用意することを意味する。規則では、事業者は「個人を守る方策」よりも「全体’的に守る方策」を優先しなければならないと述べている。例えば、「全体的に守る」には、手すりなどの対策があるのに対し、「個人を守る」には安全ベルトなどの対策がある。

高所作業を含む仕事のための作業設備を決める場合、事業者は設備が使われる場所にいるすべての者の作業条件及び安全に対するリスクを考慮に入れなければならない。

すべての安全措置、例えば手すり、足場板、障壁、作業床、足場、安全ネット、エアバッグ及びすべての墜落防止器具は当該規則の附則2〜6に規定されている安全に関する要求事項を満たさなければならない。

手入れが不十分だったり、位置付けや固定の仕方が悪いはしごを使用する作業は、作業中の墜落による労働死傷災害の主な原因のひとつである。手すりのない足場又は作業床の上で安全帯を着用せずに働くこと、壊れやすい屋根の上で働くことも主要な要因である。

はしご

報告されている高所からの墜落うち、約3分の1近くがはしごによるものである。平均して、1年に14人が作業中にはしごから落下して死亡しており、約1,200人が重傷を負っている。WAHRの下では、高所作業を行うとき、はしごの使用が認められるのは、リスクアセスメントの結果、作業のリスクが低くかつ短時間であるとき、又は現場の既存条件が変更できず、かつ他の設備の使用が不可能なときだけである。

その条件には、他の設備を正しく導入するスペースがないこと、又は代替の設備を組み立てるための適当な場所がないなどの敷地条件を含む。

はしごを安全に使うために重要な点は以下の通りである。

  • 高所作業を行わなければならないときには、作業条件及び作業の性質も考慮した上で、リスクアセスメントを行い、何が最適の作業設備であるかを決める。
  • はしごの制限を知る。詳細情報を必要とする場合、事業者は販売業者やメーカーに連絡をとること。
  • はしご使用者が付属品を含めはしごを安全に使用する能力を持つようにすること。
  • はしごが安全な作業順序でメンテナンスされるようにすること。破損したはしごが使われ続けることも多くあるので、使用前のチェックは重要である。特に、「はしごの足」が欠けているとはしごが滑ったり、脚立がぐらついたりするリスクが増大する。

HSEは、はしご製造者団体の支援を受けて、はしご使用に関するリスクの意識を向上させるため、また、はしごの安全な使用方法をアドバイスするため、無料の手引きを作成した。

壊れやすい作業床面

WAHRの下で、「義務を有する者」は、作業者が壊れやすい作業床面を横切ったり、近づいたり、その上や近傍で作業したりしなくとも、適切な人間工学的条件の下で、業務が安全で合理的に実施可能である場合は、作業者にそのようなことをさせてはならない。

壊れやすい作業床面の上で、又はその近傍で作業する必要がある場合、事業者は次のことをしなければならない:

  • 合理的に実施可能である範囲で、リスクを最小にするために、適切に作業床、覆い、手すり等を用意すること。
  • 墜落のリスクが残っている場合、墜落の距離及びその影響を最小にするために、合理的に実施可能なことをすべて行うこと。

また、規則では、もしだれかが壊れやすい作業床面の上又は近傍といった危険作業領域に入る場合は、「義務を有する者」は、できれば標識を使用して彼らが即時にそこにある危険を認識するようにしなければならないことを明示している。

認識させることの義務は、高所作業の他の分野、例えば落下物によるリスクの可能性がある作業場所にも適用される。ただし事業者は落下物による怪我を防止するために、合理的に実施可能なことはすべて行わなければならないことは同様である。事業者はまた、だれであれ他者に危害を及ぼす恐れがある場合、高所から物が投げられたり、捨てられたりしないようにしなければならない。

また、材料/設備はどんな動作をした場合でも、人が負傷しないような方法で保管しておかなければならない。

WAHR第14条により、従業員がなすべきこと:

  • 高所作業に関連して、自分自身又は他人を危険にさらすと思われる安全上の問題や欠陥に気が付いた場合、事業者又は作業指揮者に報告する。
  • 準備された設備・器具を、その使い方に関する訓練、指示に従って正しく使用し、事業者又は作業指揮者が安全衛生義務を全うできるようにする。

点検

事業者は、高所作業が行われる個々の場所について、その場所が使用される前に点検されるようにしなければならない。これには、床面、壁面、既設の手すりの点検も含まれる。これに加えて、当規則の附則第2条〜第6条に定められた物品も点検しなければならない。

他の企業から持ち込まれる又は持ち出される設備については、WAHRに適合するように点検がなされているという表示が添付されなければならない。

建設工事において、人が2m以上落下する可能性のある作業床を使用する場合は、使用前に作業床を点検しなければならない。その点検は使用前7日以内に行わなければならない。

作業床を点検した者は、勤務終了前にその報告書を用意し、点検を命じた者、例えば現場監督にその写しを提出しなければならない。その報告書は、工事が完了するまで現場で保管しなければならない。それらの関係書類は、工事完了後3ヶ月間保管しなければならない。

WAHRは、以前の高所作業に関する規則をまとめ、1つの規則として置き換えたものであるため、その適用範囲は広く、また混乱が生じる可能性がある。

高所作業の専門家集団、アクセス・グループの常務であるスチュアート・キャメロンは次のようにコメントしている:「単純化して見れば、WAHRの要求事項は比較的簡単である。事業者もしくは高所作業を行う従業員又は請負業者の責任者は、その高所作業が適切に計画されること、及び作業者がそれに必要な能力をもっているということを保証しなければならない。さらに、すべてのリスクについてアセスメントが行われ、適切な作業用設備が選択、使用、点検、整備されなければならない。」

「これらはすべて完全に常識であるように聞こえるが、現実には、この業種では高所作業の状況もさまざまであり、従ってその対策も多数あって非常に複雑であり、高所規則を確実に遵守することは、膨大な仕事だということができる。」

「リスクアセスメントの重要性は決して過小評価できない。なぜならそれによって実質的に高所で働く場合のあらゆる局面が決定されるからである。リスクアセスメントによって、存在するリスクに基づき様々な選択肢を組み入れたり、除外したりすることができる。適切に実施されればすべての仕事に対して最も適した解決策を見つけることができる。」

高所作業を行う事業者は、高所作業規則、関連の公認実施準則( ACoP)及び指針を入手し、正しく高所作業が行われるようにするべきである。

高所からの墜落に起因する最近の判例

グロソップ
−スティーブン・モンクスは、開いていた落し戸から3.6m墜落し、下半身麻痺となった。彼が雇用されていたランカシャーケミカルワークス社は、災害発生前には安全に作業を行うための正式な手順が定められておらず、従業員の経験に頼っていたことが判明したため、1974年安全衛生法及び2005年高所作業規則第6条(3)に違反した罪を認めた。会社は罰金4万ポンド及び訴訟費用1万5千ポンドを支払うよう命じられた。
ロンドン
−ジェームス・グライムズは、はしごから足場に乗り移ろうとして4.25m墜落し、死亡した。彼は建設会社、ヘンダーソン・ジェネラル・サービス社の仕事で、建物の外壁を塗装する作業をしていた。
調査を行ったHSEの監督官、サイモン・へスターは次のように述べている:「はしごから足場へ安全に移れるように会社が措置していたら、この死亡災害は容易に防ぐことができただろう。例えば作業床を設置するなど簡単で安価な措置で、グライムズ氏が亡くなって家族と友人が悲しむということは防ぐことができただろう。」
会社は、従業員以外の者の安全を確保する手段をとらなかったことが1974年安全衛生法第3条(1)に違反した罪を認めて、1万8千ポンドの罰金を科せられた。
リンコインシャー
−アレック・クールソンは、脚立から落下して鎖骨を骨折し、また、脳震盪に苦しんだ。
彼を雇用していたケン・リード&サン社は、1999年安全衛生マネジメント規則及び1974年安全衛生法第2条(1)条違反の罪を認め、1万3千ポンドの罰金を科せられた。
ダービシャー
一人の男性が、納屋の壊れやすい屋根を踏み抜いて墜落し、脊髄を損傷した。アレン&ハント・コンストラクション・エンジニア社は1996年建築(安全衛生及び福祉)規則(the Construction(Health, Safety and Welfare))第4条(2)に違反した罪を認め、6千ポンドの罰金を科せられ、また訴訟費用の支払いを命じられた。違反内容は、「屋根から人が墜落することを防止するために、可能であった対策を十分取らなかった」というものである。
カーディフ
−クレイグ・カレンは、屋根を踏み抜いてコンクリート床に約5m落下し、指と肋骨を骨折し、創傷、打撲傷を受けた。これの日は彼が初めてその仕事を行う日であったが、それにもかかわらず、何の安全器具も身につけず、殆ど経験も訓練もなしで屋根に上がった。
アルマック・エンジニアリング(空調)社は、1996年建築(安全衛生及び福祉)規則に違反した罪を認め、1,000ポンドの罰金を科され、また訴訟費用を支払うよう命じられた。
テルフォード
−請負会社であるWCコーフィールド&サン(テルフォード)社の4人の従業員が、建築作業中に足場が崩壊して6.7m墜落し、負傷した。足場が崩壊したとき、作業者は足場の上で、約200kgのコンクリート横木を扱っていた。
WCコーフィールド&サン社はテルフォード・リーキン市協議会の発注の下で地域センターの仕事をしていた。この両者とも、1994年建設(設計及びマネジメント)規則(the Construction(Design & Management))に違反していることが判明した。WCコーフィールド社は1974年安全衛生法第2条(1)違反の罪を認め、合計2万ポンドの罰金を科せられた。
協議会は、作業が始まる前に適切な安全衛生計画を作成して請負業者に提供しなかったこと、及び請負業者に対し安全衛生計画を事前に策定させなかったことで1万ポンドの罰金を科せられた。
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