このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。
国際安全衛生センタートップ国別情報(目次) > イギリス1974年労働安全衛生法

イギリス1974年労働安全衛生法
(Health and Safety at Work Act 1974)



英国安全衛生法について
 −解説 −

 英国の労働安全衛生法(Health and Safety at Work etc. Act)は、日本の労働安全衛生法が出来た2年後の1974年に制定された。この法律の制定に先立ち、安全衛生を所掌する労働大臣に任命された7名の委員からなる委員会(委員長の名前をとってローベンス委員会と呼ばれる。)が、英国の当時の安全衛生問題(主として行政面)について討議を重ね、報告書(ローベンス報告)を提出した。英国の労働安全衛生法はこの報告をもとに制定されたもので、従ってその内容を理解するためにはローベンス報告を参照することが有用である。
  ローベンス報告は19章からなる詳細なものであるが、いくつかの主張を紹介すると次のとおりである。

1. 法律や監督による安全衛生向上への疑問。法律がたくさんあり過ぎ、本来の目的達成にとって逆効果とさえ言える。また世の中の進歩につれて次々に新しい法律をつくり、時代遅れとなった法律を改訂しなければならない。
2. 労働安全衛生行政が細分化(当時の英国では関係5省庁、7監督機関)され過ぎていることの問題。
3. これらの問題意識から、法律・監督中心から自主対応への移行及び行政機関の統一の提言

 この報告書の提言を受けて出来たものが上記の労働安全衛生法であり、またこれと同時に行政一元化の使命をもって発足したのが安全衛生庁(Health and Safety Executive, HSE)である。HSEは安全衛生行政を行う約4,000名の職員からなり、工場、建設現場、鉱山、農場等をカバーしている。(商店、ホテルなどは地方自治体の担当となっている。)

 安全衛生法は4章84条から成り、第1章は労働安全衛生・福利厚生(訳注:原語はwelfareであり、健康・幸福・快適などの訳語が示されている。ここで使用されているのは就労に関係して限定的に使われており、「福利厚生」と訳しておく。)、危険物質と大気中への排出物の管理、第2章は雇用医療諮問サービス、第3章は建築物、第4章は雑則を定めている。本法は特定の危険な業種ではなく、「すべての雇用」に適用される。またわが国の安全衛生法と同じく、事業者と労働者のみの義務を定めたものではなく、職場で使用するものの製造者、設計者、輸入者などが含まれる。第3条によれば事業者が使用する労働者だけでなく、近隣の住人、来訪者なども保護すべき対象であり、この点は日本の安全衛生法と異なるところである。

 安全衛生法では、基本的なことだけが定められており、具体的事項は規則(Regulations)や実施準則(Code of Practice)にゆだねられている。規則については労働安全衛生管理規則が基本的なもので、最新版は1999年に改訂されたものである。これはEUの枠組み指令の取り入れを目指すとともにマネジメントシステムの考え方を中心に据え、それまでの諸規則を体系的にかつ時代にあったものに統一したものと言える。

 安全衛生法の条文をみると、「合理的に実施可能な範囲で、so far as reasonably practicable」という表現が出てくるが、これは時間的、経済的な費用と、対象となる危険とを、社会通念も加味して比較して考えるもので、日本の安全衛生法には出てこない概念であると言える。
法令がこのような規定であると、なにをもって合理的というかが問題となるが、この点をカバーするのが実施準則である。実施準則は業界団体や企業など、だれでも作ることができ、社内標準でも実施準則となり得るが、これを一定の水準に保つためには、しかるべき機関がこれの妥当性を認定する必要がある。労働安全衛生を所管する行政委員会ともいうべきHSCが認定したものは「公認実施準則、Approved Code of Practice、ACOP」と呼ばれ、これを遵守しているかどうかは、裁判の結果にも影響するといわれている。

訳注
HSC(Health and Safety Commission)は安全衛生委員会
  HSE(Health and Safety Executive)は安全衛生庁
health and safety, health or safety 等は基本的に「安全衛生」
Great Britainは「大ブリテン島」、the United Kingdomは「連合王国」
とした。