このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。
国際安全衛生センタートップ国別情報(目次) > イギリスにおける職場騒音管理規則(2005)および職場振動管理規則(2005)の解説

イギリスにおける職場騒音管理規則(2005)
および職場振動管理規則(2005)の解説
Controlling noise and vibration at work

資料出所 : Job Safety Management
February 2006
(仮訳 国際安全衛生センター)

掲載日2006.11.21

編注

騒音および振動に関する新しい規則へ対応するための実際的な解説である。

前半は、騒音管理規則の全般的な解説だが、後半では振動管理規則における健康診断について詳細に述べられている。

これらについての規制の概要、解説書、リーフレット、規則の条文などは、HSEのHPのトピックス別ウエブサイトに掲載されているので、これらを参照頂きたい。

なお、騒音管理規則は、2003年のEU指令(2003/10/EC)によるものだが、EU安全衛生機構からも、騒音に関する多くの資料が発行されており、その一部は下記に翻訳を掲載している。

「事業主は騒音ばく露を低減し、労働者を保護するために実践的な対応策に全力を注ぐべきだ。」(ティム・ワード氏)

2005年職場騒音管理規則(Control of Noise at Work Regulations 2005)が2006年4月に施行される。イギリス安全衛生庁(Health and Safety Executive: HSE)のティム・ワード主席技術監督官(騒音・振動担当)が、事業主が行うべき職場騒音リスクを管理し、新規則を遵守する実際的な枠組みを提示する。

職場騒音ばく露により引き起こされる聴力の損失は、永続的で治療不可能であり、イギリスが現在も抱える重大な問題のひとつである。調査によれば、200万人を超える人々が、有害となる可能性のあるレベルの職場騒音にばく露していることが推測されている。聴力を損失し、民事裁判による損害賠償請求や政府の障害給付制度を通じ給付金を受けている人の数は現在もかなりのスピードで増加の一途をたどっており、産業界、社会、そして言うまでもなく障害を受けた人々が負担する費用は甚大である。

しかし、作業関連の騒音は以下の条件を満たすことができれば完全に回避することができる。

  • 事業主が騒音ばく露低減対策を講じ、労働者に保護対策を提供すること
  • 製造業者が音の発生がより小さな工具や機械を設計すること
  • 労働者が提供された保護対策を利用すること

このような背景を基に、そして労働者に与えられる保護向上への要求の結果として、2006年4月に新しい職場騒音管理規則が施行される。EU指令に従って制定されたこの2005年職場騒音管理規則は、作業環境における騒音管理を審査する、より高度な枠組みを提供するものである。

新規則は現行の1989年職場騒音規則に置き換わるものである。この現行の規則は1986年ヨーロッパ指令に従って作成されたものだが、イギリスにおいて1960年代から実施されていた労働者保護のレベルを基準化したに過ぎなかった。

1986年以降、騒音を抑制する技術の面でも、労働者が作業により被る障害の許容範囲の面でも変化があり、新しい基準を設定し、現代的なリスクマネジメントの手法を適用するにふさわしい時期にきていたのである。

変わりつつある騒音への対応
リスクアセスメントには必ずばく露の推定が含まれていなければならないが、その値が信頼できるものであれば、値を得た方法は重要ではない。

新しい規則について何も聞いたことが無くても、事業主が対応をするべき騒音のばく露レベルが5db下がったことについては、おそらく今後知ることになるだろう。また、新しいばく露の法定制限値についてはすでに聞き及んでいるかもしれない。しかし、事業主やそのコンサルタントが細部にこだわってしまうと、騒音ばく露の正確な推定値を出すことに過大な労力を払って「自分たちが規定値をクリアしているかどうか」を判断し、その後やっと聴力保護に手をつけるという、ありがちな落とし穴にはまってしまう可能性がある。

今こそそのような思考態度を打ち破るべきである。これらの規則は、騒音の計測ではなく、抑制を目的としているのだから! 

また、聴力保護具が問題を解決するという思考は、今後も危険を蓄積させていくだけであり、また聴力保護具の交換コストもかさむ。事業主が注力すべきポイントは、騒音へのばく露を減らして労働者を保護する実際的な対策を打ち出すことであり、それらの対策をいかに優先順位をつけて計画し、実施するかである。

以下が労働者保護、騒音リスクマネジメントおよび規則の遵守についての実際的な枠組みである。

  • リスクアセスメントを実施し、必要な対応策を決定する。
  • それらリスクを生む騒音ばく露を低減するために対策を講じる。
  • 行うべき対応策を検討している期間中に、その他の方法で騒音ばく露を十分に軽減することができない場合には、労働者に聴力保護具を提供する。
  • 騒音が規定値を超えていないことを確認する。
  • 労働者に対して情報提供、指導、研修を行い、労働者自身および労働者の代表らを参加させる。
  • 聴力損失のリスクにさらされている労働者の健康診断を実施する。
リスクアセスメント

「リスクアセスメント」という言葉は、様々な連想を引き起こす。実際的な観点からすると、騒音リスクアセスメントは、非常に単純なもの(「ここでは労働者が騒音にさらされている。騒音を引き起こしているのはその機械だ。さあどうにかしよう。」)から、(かつて無かった新しい状況、あるいは複雑な状況に対応する)より詳細なものにまで多岐にわたる。原則として騒音リスクアセスメントでは、騒音リスクが発生する場所と騒音により悪影響を受ける可能性のある人物の特定、確かな騒音ばく露の推定、そして法律に従うために必要となる作業が特定されなければならない。

リスクアセスメントにおいては、必ずばく露の推定が含まれていなければならないが、どのようにその推定が得られたかは重要ではない。つまり推定が実際の労働状況を反映した信頼できるデータに基づくことが確認できればよいのである。データは事業主の所有する職場で計測してもよいし、他の似たような職場からの情報でも、機械のメーカーからのデータであっても構わない。

繰り返すが、リスクアセスメントで最も重要なのは、労働者を騒音から守るための対策を行動プランの中で特定することなのである。

騒音ばく露低減に向けた対策の実施

騒音管理規則の目的は、労働者が聴力を損なわないようにすることである。そのためには、騒音リスクと騒音ばく露の抑制に重点が置かれなければならない。

騒音職場では、事業主は代替となりうるプロセス、装置、作業から出る騒音が低減されるかおよび労働者が騒音にさらされる時間を短縮する作業方法を必ず見つけなければならない上、同じ業種内での騒音抑制における優良事例や基準に通じている必要がある。また、検討の対象となった対策は全て「合理的に実行可能」な範囲であり、言い換えれば、リスクに釣り合ったものであるべきである。

事業主は、騒音リスク管理を開始するにあたり、リスクアセスメントから得られた情報や行動プランによって、以下のような行動をとることが期待されている。

  • 聴力保護具の提供などにより、差し迫ったリスクに対応する。
  • 抑制可能な騒音、可能な低減、合理的に実行できる対策を特定する。
  • すぐに結果の出る場所はどこか、長い時間をかけ、段階的に実施しなければならない変更は何か、そして各作業場で騒音にさらされている人数はどれくらいか、などを考慮し、対策の優先順位を付け、スケジュールを作成する。
  • 計画の各パートでそれを遂行する責任者を任命する。
  • 騒音抑制への確実な対策の実施を確認する。
  • 対策が成功しているかを確認する。

もちろん、効果のあることが周知の事実であったり、ほとんど調査をせずに適用できる優良事例や、業種ごとの標準的な騒音対策があるならば、これらのプロセスに固執せず、とにかく実施あるのみである。

個人における聴力保護具
2005年職場騒音管理規則に関する事業主のための手引き
イギリス安全衛生庁
2005年職場騒音管理規則に関する
事業主のための手引き

個人における聴力保護具の使用は、やはり聴力損失から労働者を守るひとつの方法であることは間違いない。しかし、周知のように、技術、あるいは組織的な騒音抑制手段の代替として使用されてはならない。

聴力保護に関する様々な法律上の義務は、1989年の規則より拡大した。そのため、今後も事業主は労働者が最も危険にさらされている場所では聴力保護を必ず実施し、リスクが低めの場所においても希望があれば実施しなければならない。また、事業主には聴力保護域を設定し、監督および研修を行って、徹底的かつ適切に実施することが義務付けられている。

騒音に対し適切な聴力保護を実施することが重要だが、労働者に対し防音保護具を適切に、かつ必要な時間に継続して装着するよう奨励することも重要である。HSEの規則に関する新しいガイドラインでは、適切な聴力保護具を選択する方法については簡略化され、労働者らに自分自身を守る動機付けをするという、いわゆるソフト面に重きが置かれている。労働者自らに聴力保護具の選択をさせ、質の高い指導と研修を提供することは、懲戒手続きを理由に労働者に聴力保護具を装着させてきた旧来の方法に比べ、よい結果が出る可能性は高いと思われる。

法定規制値

新しい規則では、騒音ばく露の法定規制値が紛れもなく規定されている。規制値は耳に対して適用されることになり、装着している聴力保護具の効果は考慮の対象となる。イギリス産業界の大部分においては、騒音ばく露低減に必要な対策に関する法律や、適切な聴力保護の項目を遵守しているなら、この法定値に従うことに何ら問題はないはずである。規制値を超える騒音が存在することは、その多くがリスク低減対策の管理の失敗に原因があり、システムや活動プラン点検の重要さが明らかとなる。

産業によっては、この規制値の達成が難しい課題となる場合もあるだろうが、HSEはそのような産業とは意欲的に連携し、労働者に保護を提供しつつ事業を継続する方法を探ってゆくのである。

情報、指導、研修の提供

労働者に情報、指導、研修を提供する重要性についてはすでに触れた。規則は、法律上の義務であると同時に、健全なビジネス感覚を養うものである。労働者とその代表者らが意思決定に参加することは、職場の人間関係を改善する上、労働者が新しい考え方を受け入れやすくなり、騒音ばく露管理を支援するようになる。

何にもまして重要なのは、労働者自らがさらされているリスクや、自らを守る方法、事業主が労働者保護として実施している対策、そして事業主の提供できる支援を理解することである。

騒音抑制手段の調査、開発に関して言えば、労働者は働き方や騒音レベルが高い理由に現場ならではの考え方を持っている場合が多く、往々にしてその現場プロセスを知らない者が考えもしなかった解決策の提案をすることがある。

健康診断

騒音管理プログラムの最後の最も重要な要素は、健康診断である。健康診断では労働者に一般的な問診を行い、結果を通知する。診断記録は保管され、(聴力)損失が発見された場合に医学的資料として提供される。

もちろん健康診断では、聴力に被害を受けている労働者を事業主に通知し、当該労働者の今後の騒音ばく露を管理させる。しかし同様に重要なことは、この健康診断の結果により、事業主は騒音リスク抑制対策(騒音抑制対策や防音保護具の装着)が実際に機能しているかどうかを知ることができるという点だ。リスクにさらされている労働者を対象とした健康診断は、騒音抑制対策が活用されているかどうか、聴力保護具は適切に装着されているかどうか、聴力損失を予防できているかどうか、などの疑問に答えを出してくれる。

まとめ

労働者保護や、作業関連の聴力損失予防に新しい基準を設定した新しい職場騒音管理規則は、2006年4月から施行される。騒音リスク管理に関し事業主に実施すべき対策も示された。ここで強調されるのは事業主が積極的に調査、開発を行い、自社の事業所に適用できる優良事例、業界標準の騒音管理対策を実施するべきだということである。

職場騒音による聴力損失から引き起こされる障害の予防に関し、事業主が最も効果的に貢献できる方法は、以上に示された実際的な枠組みに従うこと、そして細部にとらわれないことである。

  • 規則の全文は、新しいウィンドウに表示しますwww.opsi.gov.uk/si/si2005/20051643.htmに掲載されている。また、HSEの包括的な手引書「Controlling noise at work: The Control of Noise at Work Regulations 2005(職場騒音の管理:2005年職場騒音管理規則、規則の手引き)」L108、ISBN0-7176-6164-4、価格:£13.95は、HSE Books(TEL:01787 881165URL:新しいウィンドウに表示しますwww.hsebooks.com)から販売されている。
2005年職場振動管理規則による健康診断について

新しい騒音管理規則および振動管理規則の下、事業主は労働者の健康が損なわれるリスクがある場合、健康診断を実施する明確な責任を負うようになった。グロブナー・ヘルスの上級産業保健医メリー・ノルティー博士が、企業の実施すべき措置について説明する。

2005年7月6日、2005年職場振動管理規則(Control of Vibration at Work Regulations 2005)が施行された。安全衛生を脅かすリスクの抑制として、手腕振動(hand-arm vibration: HAV)と全身振動(whole-body vibration: WBV)の両方へのばく露に対し、初めて具体的な規則が整えられたのである。また、この規則では以下二つの基準値を導入した。

  • 一日ばく露規制値(exposure limit value: ELV):労働者一人の一日あたり振動ばく露限度量
  • ばく露アクションレベル(exposure action value: EAV):事業主がばく露低減措置を講じなければならない一日あたりの振動ばく露レベル

新しい振動管理規則は一般的な構造を持ち、リスクアセスメント(規則5)、ばく露の排除または抑制(規則6)、健康診断(規則7)、情報、指導、研修の提供(規則8)に対する要件が規定されている。

規則7では、以下のような状況の場合、事業主は労働者に対し適切な健康診断を行う義務があると規定している。

  • 労働者が上限EAVを超えた振動にさらされる恐れが強い場合。
  • リスクアセスメントの結果、労働者が時折上限EAVを超えた振動にさらされる可能性があり、そのばく露の頻度と程度により、労働者の健康を損なう恐れがある場合。
  • 労働者がHAV症候群(hand-arm vibration syndrome: HAVS)と診断された場合。事業主は、診断を受けた全ての労働者の健康診断記録を保管しなければならない。この記録には、以下の情報が含まれる。
    • 労働者の詳細な身元情報
    • これまでの振動へのばく露
    • 作業への適合についての前回の健康診断の結果
    • HAVへのばく露による健康への悪影響に関し、労働者が回答した問診票(記載された詳細が秘密情報ではない場合)
健康診断記録

各個人の健康診断記録は、診断の対象になる限り保存されなければならない。労働者が何らかの理由で企業を辞める場合や、取引がなくなる場合、またはHAVばく露がなくなった場合に健康診断記録のコピーを渡すのもよいだろう。

加えて、健康診断の結果、労働者がHAVが原因と思われるはっきりした疾病に侵されていたり、健康に何らかの悪影響が出ていることが判明した場合、事業主は必ず適切な資格を持った人物(産業保健看護士や産業保健医)が当該労働者に、結果の深刻さを説明する機会を作らなければならない。また、その有資格者は、労働者に振動ばく露が続くことについての危険性と、今後受診を要する可能性のある健康診断についての情報を提供し、助言を行う必要がある。

その他、事業主が実施すべき事項は以下の通りである。

  • 健康診断の結果で深刻なものについては、産業保健専門家から該当する労働者に通知させる。特に、労働者が振動へのばく露を伴った作業を今後も継続していける状態にあるかについての助言は必ず行うこと(しかし、産業保健専門家は、労働者から書面での承認を得ない限り、守秘義務のある医学情報を事業主に開示してはならない)。
  • 振動リスクアセスメントや抑制措置を見直し、労働者を保護するために更に実施するべき対策が無いかを確認する。

もし、医師が振動へのばく露を伴う作業に適していないと労働者に通知した場合には、事業主はその労働者に代わりの作業を割り当てることを考慮しなければならない。また、他にもHAVにばく露している労働者が勤務している場合、事業主はその労働者らに対しても健康診断を行わなければならない。

HAVに関する健康診断については、労働者にも様々な義務が発生する。具体的には、健康診断の受診が挙げられるが、これらは通常の勤務時間中に行わなければならないため、事業主は労働者が被ったあらゆる費用(健康診断を行ったために得ることのできなかった給与、交通費など)を負担しなければならない。

懸念の理由

HAVばく露の危険性にさらされている労働者に必ず健康診断を受診させることは、事業主にとって頭痛の種である場合もある。しかし、私の経験から言うと、健康診断受診の理由や受診の流れ、受診の重要さを説明すれば、労働者はたいてい協力してくれるものである。いずれにせよ、雇用主はHAVばく露やその他作業関連の健康問題に関する健康診断プログラムを導入する前に、労働者、あるいはその代表者らに相談すべきである。

また、万が一振動へのばく露のある作業の継続に耐えられないと判明した場合、その後の措置について説明しておくのもよい考えである。

手腕振動

作業関連の健康障害を初期の段階で検出するシステムを導入することも健康診断の一要素である。そして何より重要なのは、診断の結果に基づいて対策を実施することである。事業主はこの2番目の側面を忘れてしまうことがよくあり、そうなると疾病を抱えた労働者が不適切に振動にばく露し続けたり、抑制措置が見直されなかったりする結果になる恐れがある。

健康診断の目的は労働者の健康を保護すること、抑制措置の効果を評価すること、労働者教育の機会を提供することだ。HAVに関して言えば、最も重要な目的は手の機能損失を予防することである。

恒常的に手腕振動にばく露している労働者は、手や腕の組織に損傷を起こす可能性がある。そしてその損傷から、HAVSと総称される以下のような症状が発生する。

  • 指の痺れ、チクチクする痛み、触覚および温覚の減退
  • 指への血流減少により指が白く変色する、いわゆる「振動白ろう病」の定期的な発作。発作中は指が痺れることがあり、血流が戻る際には指に痛みを感じることがある。主に症状を引き起こすのは寒さである。
  • 関節の痛み、こわばり、握力低下
  • チクチクする痛み、痺れ、手の部分的な痛みおよび麻痺を伴った手根管症候群
作業遂行の困難
職場振動管理規則では、ばく露アクションレベル(EAV)を超える手腕振動に恒常的にさらされる可能性のある労働者、EAVを超える振動にさらされることは時折しかないが、その頻度および程度でのばく露がリスクを生じる可能性がある労働者、そしてHAVSと診断された労働者には健康診断を実施すべきであると規定されている。

HAVSを患う労働者は、小さな部品の組み立てなどの細かい作業や、気温の低い環境での作業が難しくなる場合がある。日常の作業、例えば小さなボタンをかけたり、缶きりを使ったりすることが困難になる恐れもある。

振動管理規則の下では、以下の条件に当てはまる労働者は健康診断を受けなければならない。

  • EAVである2.5m/s/s A(8)以上のHAVに恒常的にさらされる可能性の高い労働者。このグループには、1日に15分以上ハンマーのような動作をする工具を使用したり、回転運動をする工具などを1日に1時間程度使用する労働者が含まれる。
  • EAVを超えてばく露される可能性は時折だが、リスクアセスメントの結果、その頻度と程度が健康に悪影響を与える可能性があると判断された労働者。このグループには、身体に伝わる振動が非常に大きな工具、つまり道路破砕機や解体ハンマーなどを使用する労働者が含まれる。
  • ばく露がEAVより小さいがHAVSと診断された労働者。
理解の獲得

効果的な健康診断を行う上での重要なポイントは、労働者の理解、参加、そして協力を得ることである。そのため、HAVS診断システムを導入する前に事業主は確実に以下のことを行わなければならない。

  • 労働者と代表者に相談する。
  • 健康診断のプロセス、労働者の役割と責任を理解してもらう。
  • 有能な産業保健サービス提供者を指名する。
  • 健康診断の結果、労働者の中に振動へのばく露のある作業に適していないと判断されたり、保健専門家に振動を伴う作業の制限を勧められた者がいた場合、当該労働者に別の仕事を割り当てるなどして対応しなければならない。
  • 医療における守秘義務について関係者全員が理解しなければならない。(HAVSと診断された労働者については、その労働者の同意があった場合にのみ事業主に報告される。万が一その労働者が、医療情報が事業主に渡ることに同意しなかった場合でも、事業主はやはり労働者ひとりひとりが、振動を伴う作業に適しているかどうかについての助言を受けなければならない。また、事業主は労働者全員の全体的な健康診断結果を受け取らなければならない)。
健康診断のプロセス

HSEのHAV(手腕振動)に関する新しい手引き(2005年職場振動管理規則、L140)では、手腕振動については段階的なシステムの健康診断を提案している。第一段階では、雇用前や振動へのばく露を伴う仕事に初めて異動してきた労働者に短い質問表を記入してもらう。この質問表のフォームは保健専門家に見直してもらわなければならない。HAVSの症状やHAVS関連の病歴の無い労働者は、振動にばく露しても問題ないとみなされる。HAVSと思われる症状の見つかった労働者は第3段階に分類され、有資格者から更に詳しいHAVS診断を受ける。

簡潔な質問表

第2段階では、1年に1回などの頻度で振動のリスクにさらされている労働者に簡潔な質問表に記入してもらい、この質問表を通じて第3段階に分類されるべき者がいるかどうかを確認する。第2段階は、事業主、あるいは保健専門家のどちらが実施してもよい。特に付け加えると、労働者には、この年1回の質問表に関わらず、HAVSの症状が新しく見つかった、あるいは進行した場合にはいつでも報告するよう奨励しなくてはならない。

第1段階あるいは第2段階で、HAVSの症状と医学的に特定された問題が見つかった労働者は、第3段階で有資格の産業保健専門家による健康診断を受けなければならない。

HSEはまた、振動へのばく露を3年間継続しても、HAVSの症状を訴えていない労働者に、産業保健看護士による詳しい診察を受けさせ、見過ごされている症状が無いかどうかを確認するよう勧めている。

第3段階では、詳しい問診表の記入や診察を通じて、有資格者(産業保健看護士あるいは産業保健医)による評価を行う。この評価の結果、労働者がHAVSを発症していることが判明した場合、第4段階が適用される。

この段階では、産業保健の分野で資格を持った医師が正式な診断を行う。医師は、当該労働者が振動を伴った作業を続けられる状態にあるかどうかを事業主に通知する。

しかし、産業保健専門家は、HAVSの症例が発見された際には、見つかった段階に関わらず、労働者の仕事の内容変更や制限について助言を行うことができる。1995年負傷・疾病・危険事態報告規則では、どの段階であろうとHAVSの症例はすべてHSEに報告するよう規定されている。

第5段階の実施は任意である。この段階では診断を明確にするために労働者にHAVSの専門的なテストを受けてもらう。定期的な健康診断では必須ではないが、急速に症状が悪化している場合や、労働者が振動工具を使用した作業に適しているかどうかの判断が困難であったときに実施するとよい。

健康診断の結果の管理

産業保健専門家による健康診断の結果は、「振動ばく露のある作業を行ってもよい/行ってはならない/具体的な制限事項(例えばある一定の量以上の振動ばく露にさらされてはならないなど)を守れば行ってもよい」のような形式である可能性が高い。アドバイスには、次回の健康診断の時期が記されていることが望ましい。

産業保健専門家が特定の労働者に対し、振動ばく露のある作業を行ってはならないとアドバイスをした場合、事業主はその労働者がこれ以上振動ばく露を受ける危険性がないよう他の作業を割り当てることを考慮しなくてはならない。また、振動ばく露のある作業の種類を制限すべきとのアドバイスを受けた場合にも、対象となる労働者は振動ばく露の少ない作業に従事することができてしかるべきである。

健康診断結果のグループ化

ある1人の労働者がHAVから悪影響を受けていると診断された場合、事業主は振動のリスクアセスメントを実施して、残りの労働者を保護するために更なる対応策を行うかどうかを決定すしなくてはならない。HAVに同じようにばく露している労働者がいる場合、その労働者についても健康診断を受けてもらい、事業主は保健専門家から提供された匿名のグループ記録を元に、現在行っている振動抑制措置の長期的な効果を確認する。

HAVSの症例が見つかった場合には、必ずばく露を低減する対応策を実施しなければならない。さもないと、健康を守るという健康診断の重要な目的が果たされないことになってしまう。

全身振動に関する健康診断

全身振動(WBV−whole-body vibration)へのばく露、特に大きな衝撃や揺れは、舗装されていない路上を移動式の機械やその他の作業用自動車を運転することが職務の大半を占める労働者に腰痛を引き起こすリスクを持っている。そのため、振動規則では事業主にWBVばく露による健康リスクを抑制するよう求めている。

このような健康リスクが発生する産業には、農業、建設業、林業、鉱業、そして採石業が挙げられる。舗装の行き届いていない路上を原料の運搬のために産業用トラックを使用する場合にも同じようなリスクが発生する可能性がある。バスや小型および大型トラックの運転手もばく露の可能性があるが、その程度は低いと思われるため、健康リスクも低くなる。

HSEは、WBVに関しては健康診断は適していないとしている。なぜなら、腰の状態の変化の様子から、腰痛の発症と、WBVばく露などの職場リスク要素の具体的関連を確実に示す妥当な方法が存在しないからである。

しかし、WBVやその他の腰痛リスクファクターにさらされている労働者の腰痛の症状を通知、観察する非公式システムを構築することで、事業主は、WBVや肉体作業、姿勢を原因とする筋骨格問題の予防のために行っている対策の効果を判断する重要な情報を得ることができる。

シンプルなシステム

結果として、WBVばく露の可能性がある労働者のために、健康観察のシンプルなシステムを立ち上げることは適切な措置である。しかしながら、WBVばく露に関する健康観察は、振動管理規則では必要事項として規定をされていない。

WBVの健康観察の方法として推奨するのは、平均以上の腰痛リスクのある作業を行う労働者に対し、質問表を使用したシステムを設定することである。対象となるのは、様々な種類の車両の運転手などである。こういった労働者の多くは、WBVへのばく露は低いが、貧弱な運転室の設計や、調整器具が最低限しか備わっていない粗末な座席、仕事の一部としての重度の肉体作業など、他の要素が腰痛を引き起こす可能性がある。

これ以外で高いリスクを持ったグループには、妊婦や若年、または腰痛歴のある労働者が含まれる。

この健康観察のアプローチは、WBVのみに着目するのではなく、幅広く車両の運転室の設計に目をむけ、データを収集し、職場の潜在的問題を分析するという全体論的方法である。問題を特定したら、腰痛リスクを最小限に抑えるために対応策を実施する必要がある。

HSEは、WBVやその他の要因から腰痛を発症する危険性のある運転手に対し、一年に一度、簡潔な質問表に記入することを奨励している。

質問表のサンプルは、HSEのウェブサイト(新しいウィンドウに表示しますwww.hse.gov.uk/msd)のMSDのセクションで見ることができる。

もし、労働者が深刻な腰痛の症状を訴えた場合、医師か産業保健専門家に詳細な診断をしてもらうべきである。事業主はまた、健康観察から得られた情報を元に、運転手の腰痛を予防するリスク管理が機能しているかどうかを確認し、必要な場合、改善しなければならない。

騒音に対する健康診断

2005年職場騒音管理規則は2006年4月6日に施行される。1989年規則と異なっている主な点は以下の通りである。

  • 一日の騒音ばく露アクションレベル(EAV)が上下限それぞれ5db下げられ、下限は80db、上限は85dbとなった。
  • ピーク騒音(非常に大きく断続的な騒音)に対しても下限135db、上限137dbのばく露アクションレベル(EAV)が設定された。
  • 新しいばく露限界値(ELV)が設定され、一日あるいは一週間のばく露限界値が87db、ピーク騒音の上限値が140dbとなった。また、聴力保護具の使用も考慮される。
  • 健康を損なう恐れのある場合には、健康診断を行うという具体的な要件が規定された。
健康への危険性
メリー・ノルティー博士はグロブナー・ヘルスの上級産業医である。産業保健の分野で18年間の経歴を持ち、そのうち5年間はHSEの雇用医療助言部(Employment Medical Advisory: EMAS)に、医療監査官として勤務している。博士はEMASでは特に騒音や振動の問題についての助言提供を担当し、HSEのHAVに関する新しいガイドラインの執筆にも積極的に取り組んだ。また、博士は労働医学部の認定を受けた専門家、特別研究員であり、バーミンガム労働環境衛生研究所の名誉上級医学講師である。

新しい規則の規則9では、リスクアセスメントの結果、騒音ばく露のある労働者が健康を損なう危険性があると判断された場合、労働者に聴力テストなどの健康診断を受けさせるよう事業主に求めている。

騒音に関する健康診断の目的は以下の通りである。

  • 労働者が聴力障害の兆候を見せ始めている際に、事業主に警告する。
  • 聴力障害がこれ以上ひどくならないよう対応策を実施する機会を事業主に提供する。
  • 騒音抑制策が機能していることを確認する。

振動管理規則と同様に、騒音管理規則でも健康診断記録の保存が規定されており、聴力の損失が確認された場合には適切な対策がとられなければならない。対策としては、当該労働者に騒音へのばく露に関し今後の助言を行うこと、騒音リスクアセスメント、抑制措置を見直し、更なる対応が必要か判断すること、そして同じように騒音にばく露しているほかの労働者の健康診断を実施することなどが含まれる。

HSEの騒音管理規則に関する新しい手引き(L108)には、健康診断の実施について更に詳しい情報を掲載している。健康診断は、ばく露アクションレベル(EAV)を超える騒音に恒常的にさらされる労働者に対し実施しなければならない。

ばく露アクションレベル(EAV)の上限と下限
グロブナー・ヘルスは、20年以上に渡りあらゆる業種や産業における事業主の産業保健ニーズに対応しているイギリス有数の産業保健サービス企業である。騒音や振動にばく露する労働者の健康診断などは、クライアント企業の事業所でも実施可能である。詳しいお問い合わせは、01527 532 100までお電話いただくか、
新しいウィンドウに表示しますwww.grosvenorhealth.comをご覧いただきたい。

ばく露量がアクションレベル(EAV)の上限と下限の間であったり、アクションレベルを超えるときがまれであったとしても、過去の病歴や、ばく露歴から労働者個人が特に騒音に敏感であると判断される場合には、健康診断を実施しなければならない。

騒音による聴力損失に対する健康診断の一部に聴力検査があるが、この検査を実施するのは、産業医や産業看護士か、あるいは聴力に問題が見つかった場合に有資格の産業保健医療の専門家とのつながりがあり、助言を仰いだり、紹介することのできる聴力学者や訓練を受けた聴力測定技師であってもよい。

推奨するプログラムは以下の通りである。

  • 聴力図の基準―騒音ばく露が基準を超える前に健康診断を行うのが理想ではあるが、騒音ばく露のある労働者であるなら随時導入可能である。
  • 最初の2年間については毎年1回評価を実施する。
  • その後は聴力に何らかの問題が発見された場合、あるいは高レベルの聴力損失のリスクがある場合には、1年に3回以上の頻度で評価を行う。

テストの実施者は、聴力の状態や事業主による騒音管理、および聴力保護プログラムに従うことの重要さなどを含む各テストの結果を労働者に説明し、事業主は労働者の継続的な騒音ばく露について産業保健専門家から受けたアドバイスにしたがって行動しなければならない。

また、事業主は匿名のグループ化された健康診断の結果を受け取らなければならない。この診断結果は、企業の実施している騒音リスク管理プログラムが機能しているかどうかを示し、企業のリスクアセスメントおよび騒音低減対策を評価するものである。内容に従って教育や法律の遵守において必要な部分に改善を行うことが必要となる。

  • 健康診断についての更に詳しい手引きは以下の小冊子に紹介されており、HSE Books(新しいウィンドウに表示しますwww.hsebooks.com)から購入することができる。
    Hand-arm vibration. The Control of Vibration at Work Regulations 2005(2005年職場振動管理規則―手腕振動)」、L140、ISBN 0-7176-6126-1、価格:£10.95
    Controlling noise at work: The Control of Noise at Work Regulations 2005(職場での騒音管理:2005年職場騒音管理規則―規則の手引き)」、L108、ISBN 0-7176-6164-4、価格:£13.95。

Adobe Reader サイン版ダウンロードPDFマークのファイルを閲覧するにはAdobe Readerが必要です。
最新版のダウンロードはこちら。(新しいウィンドウが開きます)