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イギリスの「団体による過失致死罪」に関する法案
「団体による過失致死罪」を新規につくり、それに関する規定を設けるための法案ドラフト

(仮訳 国際安全衛生センター)

掲載日:2006.10.16

編注
  イギリス議会において審議の進められている法案の2005年3月に公表されたドラフトである。意見の募集期限は、同年の6月17日となっている。

 この法案における新しい法人殺人罪は、被害者に死をもたらすような経営上の重大な過失について、より多くの企業に刑事責任を問えるようにすることを目的としたもので、現行の過失殺人法は根本的に見直されることになる。

 現行法の下では、殺人で企業を告訴できるのは企業の「責任者(controlling mind)」が同罪で有罪判決を受けた場合のみである。しかし新しい法人殺人罪の案では、企業の行動が、与えられた状況の中で合理的に期待されうる行動よりも著しく劣っている場合に、法人殺人で企業に罪を問えることになる。

 従来からこのHPにおける訳語は、「法人殺人」を用いてきたが、この訳では、「団体による過失致死」を用いている。

原資料の所在は、イギリス政府内務局(home office)HPである。
http://www.homeoffice.gov.uk/
documents/cons-2005-corporate-manslaughter/draft-reform-bill.pdf?view=Binary
PDF[598KB]

なお、2006年7月20日においては、これを改訂した案が下記に公表されている。
http://www.homeoffice.gov.uk/documents/corp-mans-homicide-bill.pdf?view=BinaryPDF[141KB]

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 聖職・世俗職からなる上院及び下院の助言に基づき、現在開会中の議会で、その議会の権限に基づき女王陛下により法律とされることを願う。

団体による過失致死
    1. 本条が適用される組織は、その上級管理職により管理・計画された活動が下記の事項を惹起した場合、「団体による過失致死」罪に問われる:
      1. 人を死に至らしめ、かつ
      2. その活動が、被災者に対してその組織が持っている適切な配慮義務に対する重大な違反を惹起したとき。
    2. 本条があてはまる組織は次のとおりである:
      1. 法人
      2. 政府部門又は付則に掲出されたその他の団体。
    3. 国務長官は命令により付則を改正できる。
    4. 「団体による過失致死」違反に問われた組織は、起訴による有罪判決を受けた場合、罰金を支払わなければならない。
    5. 個人は、「団体による過失致死」罪の援助、教唆、助言、又は周旋によって罪に問われることはない。
    6. 本条の下での罪に対する訴追は、検察庁長官(Director of Public Prosecutions)の同意なしには行うことができない。
    7. この法律における「上級管理職」、「重大な違反」、「適切な配慮義務」、及び「法人」については第2条から第5条に定義されている。
  1. 上級管理職
    • ある人が、次の事項で重要な役割を果たすようであれば、その人はその組織の「上級管理職」である:
    1. その組織の活動の全部又は重要な部分について、どのように計画・管理すべきかの決定を行う。又は
    2. その活動の全部又は重要な部分について、実際に管理・計画を行う。
  2. 重大な違反
    1. 組織が配慮義務違反を犯した場合、もし問題となっている不具合が、その状況から見てその組織に対して合理的に期待されるものをはるかに下回る行為から生じたものであれば、その違反は「重大な」違反である。
    2. その問題に対して判決を下す場合、陪審はその組織が、関連する安全衛生法令又は指針を遵守しなかった証拠があるかどうかを考慮しなければならない。そして、もしそうであれば次のことを考慮しなければならない:
      1. 遵守しなかったことがどれほど重大であったか;
      2. その組織の上級管理職が: 
        1. その組織が法令又は指針を遵守していないことを知っていたか、又は知っていたはずであるか;
        2. 遵守しないことによる死亡又は重大な危害のリスクに気づいていたか、又は気づいていたはずであるか;
        3. その不具合は組織に利益をもたらそうとして起こったものであるか。
    3. 前項において、「安全衛生法令又は指針」とは次のものを意味する:
      1. 1974年労働安全衛生法を含み、安全衛生事項を取り扱っているすべての法令又はそれらの下に作られたすべての法令;
      2. 安全衛生事項に関係し、(a)における法令の監督指導に責任をもつ当局が、法律に基づき又は法律に基づかずに作成又は発行したすべての基準(code)、指針、マニュアル又は同種類の公表物。
    4. 第(2)項は、陪審が当該の問題に関連していると考える、その他の事項を考慮することを妨げるものではない。
  3. 適切な配慮義務
    1. 組織に関連する「適切な配慮義務」とは、「過失法(law of negligence)」の下で、組織に課せられた次の義務を意味する:
      1. その従業員に対して
      2. 土地の占有者としての立場で、又は
      3. 以下の事項に関連して
        1. (i)当該組織による物品又はサービスの供給(検討用サンプルであるか否かにかかわらず)又は
        2. (ii) 当該組織による商業ベースで行われるその他の活動の実施。
          但しもっぱら公的である機能(exclusively public function)を行使する場合を除く。
    2. 公共機関(public authority)である組織は、社会政策事項に係る決定(公的リソースの割り当て又は相反する公共の利益の順位付けを含む)に関しては、この法律が意図する配慮義務を負わない。
    3. ある特定の組織が、ある特定の個人に対して、この法律が意図する配慮義務を負うかどうかは、法律問題(a question of law)である。裁判官は、得られたすべての所見を、この問題を決める材料としなければならない。
    4. 本条で
      「もっぱら公的である機能(exclusively public function)」とは、国の特権に属する機能、又はその性質上、次の権限が与えられた場合のみ行使できるものを意味する:
      1. 国の特権の行使によって授与された権限、又は
      2. 法律により、又は法律の下で授与された権限。
      「過失法」は、「1957年占有者責任法(Occupiers’ Liability Act, c31)」、「1972年欠陥建造物法(Defective Premise Act, c.35)」及び「1984年占有者責任法(Occupiers’ Liability Act, c.3)」を含む。
      「公共機関(public authority)」は、「1998年人権法(Human Right Act, c.42)」の第6条で使われているものと同じ意味である(当該条第3項(a)及び第4項は無視する)。
  4. 法人(Corporation)
    • 「法人」は、「単独法人(corporation sole-訳注参照)」は含まないが、法人組織となっているすべての団体を含む。
改善命令
  1. 違反等に対して改善を命じる権限
    1. 裁判所は、「団体による過失致死」によって有罪を宣告される組織に対して次の事項について改善のための具体的な措置をとるよう命令することができる:
      1. 第1条第1項に規定された違反
      2. 裁判所が、違反に起因し、かつ死亡の原因であったと考えるすべての事項。
    2. 命令は、措置をとるべき期限を指定しなければならない。
    3. そのようにして定められた期限は、期限内又は延長期限内に申請を行うことにより、裁判所の命令で延長又は再延長することができる。
    4. 本条による命令に従わなかった組織は、罪に問われ、以下のとおり処せられる:
      1. 起訴されて有罪判決をうけた場合、罰金;
      2. 略式手続(summary conviction)により、2万ポンド以下の罰
  1. 国の機関への適用
    1. 国に使用される(servant)組織又は国の代理を務める組織も、そのことをもってこの法律による訴追を免れることはない。
    2. 法律では国の行為又は不作為であるが、意図的に政府部門又は付則に掲出した機関によりなされた行為又は不作為は、この法律では、当該政府部門又は当該機関による行為又は不作為として取り扱われる。
    3. 政府部門又は付則に掲出されている機関の下で雇用されている者、又はそのために雇用されている者は、この法律では当該政府部門又は当該機関に雇用されているものとして取り扱われる。
    4. 第4条第(2)項に基づき、この法律では:
      1. 政府部門又は付則に掲出された機関、又は
      2. 国に使用される、又は国の代理を務める法人
      は、もし国に使用される法人又は国の代理を務める法人でなければ負ったであろうすべての義務を負う。
  2. 刑事訴追
    1. 法令に含まれる、又は法令に基づき作られた法人に対する刑事訴追に関するなんらかの規定があるものは(それが通過・成立したときは常に)、定められた所要の変更・修正を行った上で、政府部門又は付則に掲出されたその他の機関に対するこの法律の刑事訴追手続に関して、それが適用される。
    2. 第(1)項において、「規定された」とは、国務長官の命令により規定されたものを意味する。
  3. 機能の移転
    1. 本条は次の場合に適用する: 
      1. 第7条(国の機関)(4)の(a)号又は(b)号の組織がその機能(「当該機能(relevant functions)」を遂行することに関係して、人の死が発生したか、又は発生したと伝えられるとき。
      2. その後、「当該機能」の移転があり、その結果その機能は現在も行われてはいるが、もはやその組織によって行われているのではないとき。
    2. 移転後に人の死に関連して、この法律に対する違反について国の機関に対する訴追を行う場合、訴追は:
      1. 現在も「当該機能」を実行している国の機関があるならば、その機関に対して行う。
      2. 現在、国のどの機関もその機能を実行していない場合は、最後にその機能を実行した機関に対して行う。
    3. (3) その移転が、人の死に関するこの法律への違反について、国の機関に対する訴追が行われている間に起こった場合、訴追は次の機関に対して継承される:
      1. 「当該機能」の移転の結果、その機能を実行する国の機関があればその機関
      2. 移転の結果、その機能を実行する国の機関が存在しない場合は、以前と同じ国の機関。
  4. 軍隊
    1. 第1条第(1)項における活動には次のものは含まない:
      1. 戦闘活動中、その準備中、又はその直接支援中に軍隊の構成員により行われた活動
      2. そのような作戦の計画。
    2. この法律では、軍役に服している者は防衛省に雇用されているものとして扱われる。
    3. 本条では、「軍隊」は英国の法律の下で召集された海軍、陸軍、空軍のいずれをも意味し、「戦闘活動」とは:
      1. 平和維持活動を含む活動、及び軍の構成員が攻撃されているか攻撃又は武装抵抗の脅威に直面している状況下でのテロリズム又は秩序不安に対する活動;
      2. パラグラフ(a)に示された活動を模して行われる演習
      を意味する。
    4. (4) 本条において、軍の構成員又は軍役に服している者とは次のものを含む:
      1. 予備役(1996年予備役法(c.14)第1条第(2)項で規定されたもの)が、軍役に服しているとき又は訓練又は職務を行っている場合はその予備役
      2. 海軍艦船(1957年海軍軍紀法Naval Discipline Act(c.53) 第132条第(1)項の意味において)に乗務している者。
  5. 国に対する適用
    • この法律によって規定されている範囲において、この法律は国にも適用される。
全般と補遺
  1. 命令
    1. この法律に基づく命令は法律文書(statutory instrument)によりなされなければならない。
    2. 第1条第(3)項又は第8条に基づく規定を含む法律文書は、国会のいずれかの院の議決により取り消される。
  2. 慣習法における法人の過失致死責任の廃止
    • 重大な過失による過失致死を慣習法違反とすることは、法人に対してその適用を廃止する。
  3. 必要となる改正
    1. 1984年警察及び犯罪法証拠法(Police and Criminal Evidence Act c.60)の付則5第1章(逮捕すべき重大な違反)パラグラフ3の後へ次を挿入する:
      「3A 団体による過失致死」
    2. 1988年検死官法(Coroners Act c. 13)の次の条文における「過失致死」のあとに「団体による過失致死」を挿入する:
      1. 第11条第(6)項(検死の際、犯罪の所見なし)(2箇所)
      2. 第16条第(1)項(a)(i)(刑事訴追の場合の審問の延期)
      3. 第17条第(1)項(a)及び第(2)項(a)(刑事訴追の結果を知らせるべき検死官)。
  4. 発効と適用除外
    1. この法律のここまでの規定は国務長官が命令で指定する日に発効する。
    2. この法律は発効する前の行為、不作為には適用されない。
  5. 適用の範囲
    1. この法律はイングランドとウェールズにのみ適用する。
    2. イングランドとウェールズ又は次のところで、結果として死につながる危害が継続している場合、第1条が適用される:
      1. 連合王国に隣接した領海の範囲
      2. 1995年商船法(Merchant Shipping Act c. 21)の第2章に基づき登録された船舶上
      3. 1982年民間航空法 (Civil Aviation Act c.16)の第92条で定義されている、英国の管理下にある航空機内
      4. 1968年ホバークラフト法(Hovercraft Act c.59)に規定された、ホバークラフトに関して適用される条文が意味するところの、英国の管理下にあるホバークラフト上
      5. 1998年石油法(Petroleum Act c.17)の第10条第(1)項に基づく枢密院令(Order in Council)が適用されるすべての場所(沖合での活動に関する刑事司法権)。
    3. 第(2)項(b)から(d)における、船舶、航空機又はホバークラフトにおける継続した危害は、次の者による継続した危害を含む:
      1. (a) 船舶、航空機又はホバークラフトの遭難、それらに影響する又はそれらに対して起こりつつあるなんらかの事故の結果、その時点ではもはや船舶、航空機又はホバークラフトいなかった者;及び
      2. (b) その出来事の結果、継続して危害をもたらす者。
  6. 短縮呼称
    • この法律は「2005年団体による過失致死法」と呼ぶことができる。
付則
第1条 政府部門等のリスト
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