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中央労働災害防止協会(中災防)
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お知らせ
国からの委託事業であった
「国際安全衛生センター(JICOSH)」
が2008年3月末をもって廃止されました。
永らくのご利用ありがとうございました。
同センターのサイトに掲載されていた個別の情報については、中災防WEBサイトの
国別、
分野別情報にリンクして取り込んでおります。
2010年12月27日
安全で健康的な職場への改善を実現した事業者に、経済的優遇措置(インセンティブ、動機付け)が与えられる仕組みは、労働安全衛生の向上に大きな役割を果たすとされており、EUの2007−2012においても、特に中小企業を対象として推進することが掲げられている。
欧州労働安全衛生機構 (EU-OSHA)は、このような仕組みを一層普及させるために、これに関する文献調査結果、欧州各国政府の政策、実施事例及び成功を得るために必要な要素をとりまとめた「安全衛生を向上させるための経済的優遇措置」と題する報告を刊行した。
その概要及び同時に刊行されたファクトシート95「安全衛生を向上させるための経済的優遇措置―報告書の要約」の内容を紹介する。
原資料の題名と所在
「安全衛生を向上させるための経済的優遇措置」報告書本文
Economic incentives to improve occupational safety and health: a review from the European perspective
ファクトシート 95 「安全衛生を向上させるための経済的優遇措置―報告書の要約」
Factsheet 95 - Summary of the report on Economic incentives to improve occupational safety and health: a review from the European perspective
まえがき
全般の要約
文献調査の要約
政策概要の要約
実施事例の要約
1 まえがき
2 文献調査の概要
3 政策の概要
4 実施事例の概要
5 結論
安全で健康的な職場への改善を実現した事業者に、経済的優遇措置が与えられる仕組みは、労働安全衛生の向上に大きな役割を果たすとされ、「EUの2007-2012年における労働安全衛生戦略」においても、特に中小企業を対象として推進することが掲げられている。この報告書は、このような仕組みを一層普及させるために、これに関する文献調査結果、欧州各国政府による政策、実施事例及び成功のための必要な要素をとりまとめたものである。また、実施事例では、労災保険料割引制度について7件、国による助成金制度について8件が紹介されている。
EU、 ILO、その他専門家グループが作成した報告書
経済的優遇措置に関する科学的な概観及び評価
国別、産業別及び特殊な事例についての研究
中小企業の安全衛生に対する優遇措置
に関する49件の文献(リストを掲載)が概観されている。
政策の種類別分類(社会保障制度( ビバリッジ(Beveridgean system)方式又はビスマルク的伝統(Bismarckian tradition)方式)
優遇措置の種類(保険制度、税金・助成制度、非経済的優遇措置)
EU各国における法的枠組み及び労働災害補償スキームの概観
EU各国における等級付けシステムの概観
EU各国における労働災害補償以外の経済的優遇措置の概観
保険料軽減についての特殊な形態の措置
国による助成金、交付金
費用対効果に関する内部評価に基づく優遇措置
経済的優遇措置の評価
どのような社会システムに対してどのような優遇措置が適合するか
経済的優遇措置を成功に導くために必要な要素
労働安全衛生(OSH)における経済的優遇措置は、安全で健康な作業環境を確保し、維持する組織に見返りを与えることをいう。例えば、組織の安全衛生成績を低い保険料や低い税率などの財政的優遇措置に結びつけることを含んでいる。組織が安全衛生に投資する動機付けとしての経済的優遇措置に対する関心は高くなりつつある、というのは、法令による規制だけでは安全衛生の重要性についての説得力が必ずしも十分ではないからである。経済的優遇措置は、財政的なレベルで組織を刺激することにより、法令による命令を補足し、その結果として、加盟国すべてにおいて安全衛生に重点を置いた事業運営を事業者が心がけることとなるのである。
「EUの2007-2012年における労働安全衛生戦略」は、安全衛生意識の向上と法令の順守の向上策として、経済的優遇措置の役割を裏付けるものである。
「EUの2007-2012年における労働安全衛生戦略」においては次のように述べられている。
安全衛生意識の向上は、特に中小企業において、災害防止対策への直接または間接の経済的優遇措置の提供により強化されることとなる。これらの優遇措置には、作業環境を改善しまたは災害を防止するための投資に応じて社会的負担または保険料の軽減、安全衛生管理計画の導入及び公共契約の裁定の手続きにおける安全衛生事項の導入に対する経済的支援などがある。
この報告は、欧州域内各国及び産業全般にわたる経済的優遇措置に関し、応募かつ成功事例についての文献調査及び政策の概要から成っている。
全体的に、労働安全衛生を改善する企業の外部情報から生じる経済的優遇措置の利点についての説得力のある主張があった。この主張は、各種の優遇措置(動機付け)の仕組みの効果を評価することの困難さのために和らげられ、文献調査の不明瞭な結果を明らかにするためには更なる調査研究が必要であると提案された。
経済的優遇措置の法令による実施については、一般的な抑止力よりも、特定の抑止力が、病気による休業に対して、かなり大きい影響を持っていることがわかった。しかしながら、政府による(外部からの)優遇措置の有効性は必ずしも明確ではない。
優遇措置としては、
保険に関連した経済的優遇措置は、組織が安全衛生に投資することを動機付ける効果的な方法である。様々な証拠により経済的優遇措置は、組織における労働者の態度、または事故率を変えることを示唆している。これらについては、労災補償に関し、かなり多くの経験に基づく料率設定の研究データ(個別の組織の災害発生率から保険料を決めるボーナス方式が一般的である)がある。文献調査において、経験に基づく料率設定に関するいくつかの文献について解析し、保険請求件数を減らすであろうという証拠が少なくとも見出された。
社会保険と労災補償の基本的な制度設定基準においては、欧州域内各国間において大きな差異はない。多くの国は、国内の社会保障制度をビスマルク的伝統方式により設計しており、災害保険機関は国営独占方式である。いくつかの国は競争市場保険制度をともなったビバリッジ方式(訳注:イギリスのビバリッジ報告(Beveridge Report) に示された税を財源とする社会保障制度)であり、また少数の国がこれらの混合方式となっている。したがって、災害保険及び社会保険の各国間の相違は、細部において異なってはいるが、それらの相違はかなり限定的である。
経済的優遇措置に係る各国間の相違は、安全衛生に係る優遇措置の相互移動性に影響する。助成制度、税率優遇及び非財政的優遇措置は、理論的にはすべての域内各国に適用可能である。経験則による料率設定方式は、競争市場保険制度及び独占保険制度の双方において認められた。しかしながら、教育訓練、安全衛生投資などの将来志向の災害防止に関する財政支援については、かなりの相違がある。このことは、独占的保険制度では、問題ないと思われる、というのは、保険機関は投資が保険請求率に関連するという便益があるからである。一方、競争市場保険制度では、保険機関は、企業が急に保険提供者を変えることができるので、災害防止投資は当該保険機関の競争相手に利益をもたらすことになるというリスクを負っているからである。この解決方法としては、契約期間を数年の長期契約とする。または、保険機関間で共通の災害防止基金を設けることなどにより解決できるかもしれない。
ほとんどすべての域内の大きな国は、経済的優遇措置について積極的である。ドイツ、フランス、イタリア及びポーランドは、公的保険制度を通じて各種の優遇措置を提供しており、保険料の変動のみならず、特定の安全衛生投資計画に対する助成制度も提供している。スペインにおいては、保険優遇措置が国の安全衛生戦略において計画されており、非常に多くの助成制度が全国レベルと地方レベルの両方で提供されている。小さな国のベルギー、フィンランド、オランダにおいてもより積極的であり、経済的優遇措置は民間の災害保険機関においても実施が可能であることを示している。
全体的に見て、各国の社会保障制度の方式、または災害保険制度が民間か公的かにかかわりなく、経済的優遇措置が域内各国のすべてにおいて、提供が可能であることを示している。
安全衛生を推進するために効果的で多様な経済的優遇措置の実施事例を紹介している。すべての優遇措置については、効率的に管理され、かつ、何らかの評価を受けている。6件の実施事例について、対象企業の作業条件に対する効果の数量的指標を設け、次のような結果を得た。
本報告書の3つの部分について要約すると、以下の成功に導くために必要な要素を見出すことが出来る。