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国からの委託事業であった 「国際安全衛生センター(JICOSH)」 別ウィンドウが開きます が2008年3月末をもって廃止されました。 永らくのご利用ありがとうございました。 同センターのサイトに掲載されていた個別の情報については、中災防WEBサイトの国別分野別情報にリンクして取り込んでおります。

 

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各国情報・国際関係

機械安全に関するリスクアセスメント(シンガポール)

2011年4月6日

2010年度の1月25日から27日の3日間において、題目をリスクアセスメントとして、国際安全衛生セミナー※を開催しました。当該セミナーにおいて、シンガポールから機械安全に関するリスクアセスメントの取り組み状況について報告があり、リスクアセスメントを推進させる上で参考になると考え、シンガポールの報告要約を以下に紹介します。

※ 国際安全セミナーとは、厚生労働省から委託を受けて、当協会が平成19年度より実施している事業です。当該セミナーの開催目的、題目及び日程については、 当協会ホームページをご参照ください。

機械安全に関するリスクアセスメント
シンガポール人材開発省
リュー ワンセイン 氏

1
序論
2
安全衛生情報
2.1
業務上負傷(2004年〜2009年)
2.2
職業性疾病(1998年〜2009年)
3
労働安全衛生法令
4
労働安全衛生(リスク管理)規則
5
リスク管理についての政府の推進対策
5.1
リスク管理支援基金(Risk Management Assistance Fund-RMAF)
5.2
ビズセーフ(bizSAFE)−WSHMの能力構築
5.3
リスク管理能力の開発
5.3.1
認定リスクコンサルタント
5.3.2
リスクアセスメント(Risk Assessment-RA)指針
5.3.3
リスク管理要領
5.3.4
シンガポール規格及び実施規範
5.3.5
機械安全及び動力プレス機械の技術指導書
5.4
リスク管理要求への適合宣言
6
結言

1 序論

過去数十年間に、シンガポールは労働安全衛生(Workplace Safety & Health-WSH)において顕著に発展をしてきた。しかしながら、2004年に発生した4件の重大災害は、シンガポールのWSHの根本的な改革を推進する契機となった。シンガポールのWSHの新たな枠組は、2005年に定められた。新たな枠組は、すべての関係者の考え方にパラダイムシフトをもたらし、すべての事業場によいWSHの慣習が定着するよう設計されたものである。この新たな枠組みは、リスク管理をその基礎におく3原則により法制化されている。この3原則は、(i)関係者が、リスクを発生源において除去しまたは最小限化し、(ii) WHSの結果に対するより大きな当事者意識を持ち、(iii) 安全衛生管理の欠陥に対する罰則の強化による災害防止である。例えば、製造者及び供給者は、彼らが納品または保守整備した全ての事業場における機械設備は、安全使用の確保に対する責任がある。

新枠組の基本原則は、リスクが発生する前にこれを除去し、軽減することであり、現存するリスクを受入れ、または許容することではない。かくして、すべての関係者は、リスクとその発生源を特定し、リスクを除去または低減する対策のためのリスクアセスメントを実施することが必要となる。この原則に沿って、リスクを発生させる者は、これらのリスクを除去しまたは低減することに責任があることとなる。これには、(工場)所有者、事業者、供給者、製造者、設計者及び作業する者が含まれる。

シンガポールは、労働災害による死亡10万人率を2018年までに1.8とする目標をたてている。作業場のリスクを低減する鍵となる方策の1つは、リスクを発生させる関係者に当該リスクの管理責任を持たせることである。

この国別報告は、リスクが発生する前に産業界がこれらを除去または軽減し、より安全で健康的な作業環境の確保を促進するためのシンガポール政府の構想を概説するものである。

2 安全衛生情報

2.1 業務上負傷(2004年〜2009年)

2009年の業務上の負傷者は、2008年に比べ減少した。負傷者(死亡を含む。)は、10,834人で2.1%減少した。一時労働不能者についても、10,638人で減少した。永久(一部または全部)労働不能者についても、126人で減少した。2009年に報告された業務上の負傷者数のうち、機械に関係するものは、10.7%(1,154人)で、前年の11.4%に比べて減少している。
新たなWSH枠組みの開始以降、労働災害による死亡10万人率は、4.9(2004年)から2.9(2009年)へと大きく向上したが、2018年の1.8までには更なる努力を要する。

表1 労働災害による死傷者(2008年、2009年)

表1労働災害による死傷者(2008年、2009年)
  2008年 2009年
労働災害による死傷者数 11,072 10,834
死亡災害 67 70
永久(一部、全部)労働不能 132 126
一時労働不能(休業4日以上) 10,873 10,638

図1 労働災害による死亡者の推移(2004年〜2009年)
図1 労働災害による死亡者の推移(2004年〜2009年)

2.2 職業性疾病(1998年〜2009年)

2009年には、468件の職業性疾病が認定され、これは前年に比べて45%の減少である。10万人率では、19.3であり、前年の36.2に比べて減少している。

図2 職業性疾病発生状況(2004年〜2009年)
図2 職業性疾病発生状況(2004年〜2009年)

騒音性難聴と皮膚疾患は、依然として主要な職業性疾病であり、難聴は全職業性疾病の81%、皮膚疾患は12%を占めている。

3 労働安全衛生法令

労働安全衛生法は、2006年3月1日に施行された。これは、従来の工場法に置き換わるものであり、新たなWSH枠組みを発効させるものである。労働安全衛生法は、従来の法令の規範的な姿勢から結果重視の体系となっている。また、関係者が労働者及びその作業に影響を受ける人の安全衛生を確保する合理的で実行可能な(reasonably practicable)対策を講じることを積極的に要請することにより安全衛生管理の重要性を強調するものである。労働安全衛生法は、WSHのリスクを発生させ、リスク管理と制御を担当する者に法的責任を与えている。関係者には、所有者、事業者、請負業者、被雇用者、製造者及び供給者が含まれ、また、装置及び機械の建設、設置、保守を行う者も含まれる。

同法に基づき24の規則があり、鍵となる1つの規則に労働安全衛生(リスク管理)規則がある。この規則は事業者、自営業者及び請負業者(元請け及び下請けを含む。)に作業場の危険源を除去し、リスクを低減するための適当な行動を取ることを要請するものである。この規則の意図は、事業運営の一部としてリスクアセスメントを規定するものであり、WSHのリスクが積極的に除去され、低減されることを期しているものである。

4 労働安全衛生(リスク管理)規則

労働力省労働安全衛生局は、労働安全衛生審議会を通じて産業界とともに、事業場におけるリスク管理を推進し、促進している。このことは、企業が労働安全衛生の結果に対して大きな当事者意識を持つこととなり、自主規制の鍵となる戦略である。

2006年9月1日以降、リスク管理は労働安全衛生(リスク管理)規則(OSHRM規則)により義務となっている。全ての作業場においては、事業者、自営業者及び請負業者は、リスクアセスメントを行い、作業の開始前にリスクを除去しまたは受け入れ可能なレベルまで低減するためのリスク制御対策(Control measures)を実施することが要請される。リスクアセスメントの記録(評価様式、制御対策及び安全作業手順)は、3年間保管することとなる。リスクアセスメントは、3年以内ごとに1回、または事故が発生し若しくは作業工程の大きな変更があったときには見直しを行わなければならない。

WSH規則のもとでは、リスク管理の要求事項に違反した場合、初犯者は10,000シンガポールドル(S$)以下の罰金に処せられ、再犯者は20,000S$以下の罰金または6月以下の禁固刑に処せられる。作業場のリスクを取り除き、安全作業手順に適合させるように要請する完全命令が発せられる。この改善命令を遵守しなかった場合は、法違反とみなされ、最大限50,000S$の罰金または12月以下の禁固刑の処せられる。

5 リスク管理についての政府の推進対策

リスク管理は労働安全衛生枠組みの基本であることから、労働力省と労働安全衛生審議会は企業レベル及び個人レベルにおけるリスク管理能力を構築するために種々の施策を講じてきている。以下は、現在実施している推進策である。

5.1 リスク管理支援基金(Risk Management Assistance Fund-RMAF)

企業のリソースの不足に対応するために、2006年4月、政府は500万S$のRMAFを設立した。作業場のリスクを特定し、対応するために外部コンサルタントを雇う中小企業の負担軽減について支援し、リスク管理の企業内能力を構築するものである。リスク管理を成功裏に実施した中小企業の応募者は、コンサルタントの費用の70%または7,500S$のいずれか低い額の補助を受けることができる。

2007年11月、政府は2011年までの4年間での800万S$の追加を約束した。2009年5月、支援基準を見直し、認定リスクコンサルタントについて90%まで、最高6,000S$を補助申請できるように改正した。RMAF機関及び認定監査員にリスク管理過程の支援を依頼した場合には、管理費のうち400S$の相殺を申請することができる。

今日まで、1000以上の中小企業がこれを活用し、600万S$超がRMAFから支出されている。

5.2 ビズセーフ(bizSAFE)−WSHMの能力構築

2007年4月、労働安全衛生諮問委員会(WSF Advisory Committee-WSHAC、WSHCの前身)は、労働力省の支援もとに中小企業が労働安全衛生管理能力を構築し、リスク管理を実施するために、ビズセーフプログラムを開始した。WSHCは、ビズセーフパートナーとして、労働安全衛生について優秀な企業にプログラムに参加している中小企業の指導について協力を求め、また、大企業については業務上の影響を通じて、ビズセーフプログラムに中小企業が参加するための動機付けを行うよう協力を求めた。

プログラムに参加する中小企業は、5段階のビズセーフの水準を通じてリスク管理とOSHMSの能力を構築することができる。当該プログラムは、第1段階のCEOの教育から始まり、最終的には第5段階のビズセーフスターを獲得することとなる。最終段階では、独立した第三者認証機関が当該中小企業のOSHMSがシンガポール規格SS 506または同等以上の国際規格に適合していることを認証する。この間、参加企業は外部専門家の活用、職員研修等のために技能開発基金やRMAFを活用することができ、また、企業開発庁への補助金(コンサルタント費用の50%、5,000S$上限)を申請することができる。

参加企業は、保険料の節約や関係者の評価を享受することができる。また、評価を得るために名刺やレターヘッドにビズセーフのロゴを使用することができる。現在までに4,200を超える企業が参加し、210以上の大企業がビズセーフパートナーとなっている。

5.3 リスク管理能力の開発

リスク管理は、労働安全衛生管理に統合されるものであり、リスク管理の効率的な実施は、企業の労働安全衛生の結果に直接関連するものである。リスク管理の効率的実施の鍵となる要因は、正しいリスクアセスメントと適切なリスク制御対策を実施することができる企業能力である。機械安全に関するリスク管理能力開発のために、政府は、リスク管理安全コンサルタントを活用できるようにし、実施規範、指針及び技術指導書を作成発行している。

5.3.1 認定リスクコンサルタント

リスクアセスメントの十分な実施能力を持たない事業者は、職務安全分析とリスク管理に十分な経験を持つ認定リスクコンサルタントの集団を活用することができる。現在まで46の認定リスクコンサルタント機関があり、所属する認定リスクコンサルタントは143名である。

5.3.2 リスクアセスメント(Risk Assessment-RA)指針

2005年、労働力省は企業が法令の規定を順守できるようWSHリスク管理指針を策定した。この指針は、作業活動と職種に基づいて2つの方途を示している。使用者がよくわかるように、例えば、機械による紙断裁工程についてのRAなど、具体的事例を示している。
2007年、38ページの現行のリスク管理指針の具体版として、早分かり手引き(Quick Guide)が刊行された。この手引きは、RAがどのようにして適用されるか簡単なイラストを使用してRAの概念を示している。

5.3.3 リスク管理要領

RAの実施促進のために、労働力省は産業界と共同し、RAに関する多くの参考資料を開発している、例えば、業種別の共通危険源とその制御対策などである。企業がRAを実施するときには、これらを参考にしてリスクを除去し、低減するための対策を立てることができる。2006年、労働力省はシンガポール建設業協会などの業界と協力して13のリスク管理要領を作成した。

5.3.4 シンガポール規格及び実施規範

法令のほかにシンガポール規格が、特定作業分野の安全衛生指導規格を制定している。これらの規格は産業界と規制当局の協力により制定される。2008年、生産性・技術革新局の協力により、機械の安全な使用規格(SS537)が制定された。これは、機械の安全な使用について使用者及び所有者のための手引きであり、つまり機械の設計、設置、改造についての危険の特定及びアセスメントについて規定している。

WSHCは、現在、RAがどのように実施されるべきかをさらに明確にするための実施規範を開発している。2010年12月に当該実施規範(案)が示され、産業界のコメントを求めているところである。

5.3.5 機械安全及び動力プレス機械の技術指導書

2008年、WSHCは、労働力省と協力して機械の安全な使用のための指導書を刊行した。これは、機械の使用と保全の安全を支配する基本的事項を示し、機械において共通の危険源を特定し、そしてこれらの制御方策についての情報を提供するものである。その後2009年に、動力プレス機械とプレスブレーキについての技術指導書を刊行した。この指導書においては、操作の各段階での危険源を特定し、すなわち機械式プレスの安全覆いの設計と工学的管理、設置、移転及び改造において、配慮すべき事項から構成されている。さらに、金型取り付け時のRAの詳細な事例も紹介している。

5.4 リスク管理要求への適合宣言

2008年には、事業場または建設現場において労働力省に届出または登録することが法律により義務付けられている会社は、作業または業務を開始する前に承認を受けるに当って、リスク管理の法令の要求事項に適合していることを宣言しなければならなくなった。

6 結言

リスク管理についての関係者の義務と参画は、シンガポールの最近のWSHの進展に大きく貢献している。会社は、RAの重要性と有効性に実感しており、特に安全な機械の確保と保全の重要性と有効性について実感している。我が国は、今後とも、リスク管理の実施促進と会社におけるリスク管理の向上に向け更なる前進をすることとしている。

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