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各国情報・国際関係

欧州労働安全衛生機構(EU-OSHA)は、2015年12月1日に、「2016-17、すべての年代にとっての健康職場キャンペーンガイド」を公表しました。

EU-OSHA 2015年12月

欧州労働安全衛生機構(EU-OSHA)は、2015年12月1日に、「2016-17、すべての年代にとっての健康職場キャンペーンガイド」を公表しました。この新たなキャンペーンガイドは、2014から2015年の主要なキャンペーン「健康な職場はストレスを管理する」(注1)の実績を引き継ぎ、さらに発展させることを狙いとしています。この新たなキャンペーンガイドも、EUにおいても懸案である労働人口の高齢化を踏まえて、メンタルヘルス及び社会心理的ストレスへの対応の基本を示しているものであるとともに、いくつかの国で実際に展開されたキャンペーンの成果をケーススタディとして紹介していること等を含めて興味深い資料です。
全EU加盟国28カ国で、2016年4月以降、このキャンペーンが展開されます。

 

注1:
2015年6月5日の本ウェブサイト:欧州労働安全衛生機構(EU-OSHA)は、「2014から2015年の主要なキャンペーン、健康な職場はストレスを管理する」のキャンペーンガイドを公表した。をご参照ください。
注2:
以下において「(イタリック体のカッコ書き)」は、技術支援部国際センターで文意を補足するために加えたものです。

要約

職場における安全と健康を成功裏に管理することは、労働者、ビジネス及び社会全体にとって良いことです。現代の職場においては、様々なあつれきや要求があることから、労働安全衛生の重要性を見失いがちで、往々にしてこの課題を管理運営上の重荷であるとして退けることになりかねません。しかしながら、ヨーロッパの2020年(までの)戦略では、労働環境の安全と健康は、労働力及びビジネスの(国際的な)競争力を高めることにとって決定的に重要なことであると指摘しています。この小冊子は、欧州労働安全衛生機構(EU-OSHA)によって組織された「すべての年代のための健康職場」をスローガンとする「健康職場キャンペーン2016-2017」の主要なガイドです。その総括的な狙いは、次のとおりです。

  • 持続的な労働及び健康な(を保った)加齢を促進し、及び労働生活全体を通じた予防(活動)の重要性に脚光を浴びせること
  • 使用者(雇用者)及び労働者の双方に高齢化する労働人口という課題の下で、労働安全衛生を管理するための情報及び具体的な手段(道具)を提供すること
  • 情報交換を可能にし、及びこの分野での優れた実践活動を共有すること

原資料の題名と所在

Healthy Workplaces for All Ages
Campaign Guide
Promoting a sustainable working life
https://www.healthy-workplaces.eu/all-ages-splash-page/documents/HWC2016-campaign-guide.pdf
© European Agency for Safety and Health at Work, 2016.
Reproduction is authorised provided the source is acknowledged.

概要

この小冊子の「はじめに(Introduction)」では、概ね次のように記述しています。

「何が問題なのか?」
  • ヨーロッパの労働力は、高齢化に直面しており、2030年までには、多くの国で、55歳から64歳までの年齢の労働者が30%又はそれ以上の割合を占めると予測されています。そこで、多くのEU加盟国では、定年年齢を伸ばしつつあり、そのため多くの労働者がより長期化する労働生活と作業における危険有害要因へのばく露により長期化さらには労働社会の変貌(例えば、労働力配置及び労働環境の流動化)の両方に直面しつつあると見られています。
  • そこで、不健康な要因がより高くなることを防ぐためには、労働生活全体を通じて安全で健康な労働条件とする努力がなされなければなりません。
  • また、働くことは健康に良いことです。働くことが、身体的にも、精神的にも、良い効果があり、さらには幸福感をもたらすことについては、強力な証拠があります。例えば、労働することは、失業状態にあることと結びついて発症する不健康な状態を逆転させる効果があります。そのようなためには、適正な労働条件、より良い労働生活、労働福祉のすべてが確保される必要があります。

「なぜ、持続的な労働生活を促進することが重要であり、また、EU-OSHAは、このキャンペーンを推進するのか?」

  • 労働者にとって、「持続的な労働生活を促進すること」は、重要な健康上の利点を生み出します。2012年にEU-OSHAが実施したアンケート調査結果では、良好な労働安全衛生の実践は、健康状態及び労働生活の改善に役立つことができたとする広いコンセンサス(85%)がありました。
  • 企業や組織にとっては、人口統計上の変化による一般的な労働力の不足、熟練労働力の不足、生産性や欠勤率の問題への関心があります。その一方、ヨーロッパにおける使用者(雇用者)は、リスクアセスメントの実施及び作業を個人に適用させなければならない法的義務を負い、さらには年齢に基づく差別は明確に禁止されています。多くの使用者(雇用者)は、それゆえ、彼等の被雇用者(労働者)に対して良い仕事と健康な作業場を供与することに関心があり、そして、彼等の法的な義務を完全に履行すること及びすべての年代のために安全と健康の促進を行うことによって、要員の転職の減少及び生産性の向上を見ることができるであろうと考えています。
  • EU-OSHAは、このキャンペーンにおいて、使用者(雇用者)に対して、次のような方策を通じて支援をし、また、いくつかの成功例を提供しています。
    全体的で、生涯を通じた取組み
    外部サービスへのアクセスの供与
    中小企業のための支援及び対応策(道具)を提供すること
    労働安全衛生を能動的な加齢対応策として主流に入れること
    人的資源と労働安全衛生部門の間のより良い協力関係を作り上げる
    効果的なリハビリテーションと作業への復帰システム

また、この小冊子の全体の目次は、次のとおりです。

英語原文原典の
ページ番号
日本語仮訳
Introduction4はじめに
What is the issue?4何が問題なのか?
Why is promoting a sustainable working life so important?7持続的な労働生活がなぜ非常に重要なのか?
Why is EU-OSHA running this campaign?9なぜEU-OSHAはこのキャンペーンを推進しているのか?
Managing OSH in the context of an ageing workforce12高齢化する労働力という課題において労働安全衛生を管理すること
The importance of prevention for all throughout the working life and taking a holistic approach12労働生活のすべてを通じての予防及び全体的な取組みの重要性
The work ability concept and promoting work ability12労働能力の概念と労働能力の向上
Diversity-sensitive risk assessment14多様性に敏感なリスクアセスメント
Adapting the workplace16作業場の適応
Measures and policies for disability prevention, rehabilitation and return to work18労働不能の予防、リハビリテーション及び労働への復帰の手段と政策
Human resources management and OSH management18人的資源管理と労働安全衛生管理
Workplace health promotion20作業場での健康増進
Lifelong learning20生涯を通じた学習
What are the benefits? .22得られる利点は何か?
The Healthy Workplaces Campaign 2016-17:
Healthy Workplaces for All Ages
24健康な職場キャンペーン2016-17:すべての世代のための健康職場
About this campaign24このキャンペーンについて
Key dates25鍵となる日程
Practical tools and support26実務上の手段(道具)及び支援
Who can take part in the campaign?28このキャンペーンでは誰が参画するのか?
How to get involved29どのようにして参画させるのか
The Healthy Workplaces Good Practice Awards29健康職場における優れた実践賞
Our network of partners30我々のパートナーのネットワーク
Previous campaign success32これまでのキャンペーンでの成功(例)
Further information and resources34さらなる情報及び資源
ケーススタディ

この小冊子では、全部で9例の実践例(フィンランド(2例)、オーストリア、ベルギー、フランス、英国、ドイツ(2例)、ポーランド)を紹介しているが、本稿ではそのうち、3例(フランス、ドイツ及びポーランド)を次に紹介します。

(1)フランスの例

英語原文日本語仮訳
Well-being of older workers in the postal sector, France郵便部門での高齢労働者の福祉(の増進)、フランス
Solystic, a postal equipment company, employs 450 workers with a variety of roles. Over half of the workforce is over 45. In line with the global trend, the company is facing difficulties in hiring new staff and therefore needs to retain older workers. However, equipment installers experience physical strains (e.g. awkward postures) as well as mental strains (e.g. high levels of stress).ソリステイック社は、郵便設備会社で、多様で役割の異なる450人の労働者を雇用している。世界的な傾向の中で、同社も新規職員の採用が困難となっており、それゆえ高齢労働者の雇用を持続させることが必要となっている。しかしながら、(労働者としての)郵便設備の設置者は、身体的なストレス(例えばぎごちない姿勢)及び精神的緊張(例えば高度のストレス)を経験する。
There is also a lack of career development opportunities for workers.さらに、労働者には職業能力を向上させる機会が欠如している。
Achievements達成したこと
To tackle these problems, a company-wide agreement was adopted (in accordance with legislation) which involves:これらの課題に取り組むため、同社は、(法令に準拠しつつ、)次の事項を含む社内的に幅広いコンセンサスのある合意を採用された。
  • commitment to a comprehensive and holistic approach;
  • 包括的で全体的に取り組むこと。
  • measures to improve recruitment, career management, working conditions and skills development;
  • 採用方法、キャリア(職業及び職務経験)の管理、労働条件及び職業上の技能の向上を改善するための対策
  • an evaluation process in which each of these factors can be assessed.
  • これらの要因のそれぞれが評価させることが可能となる(勤務評価)プロセス
Success factors成功した要因
Through this approach, all dimensions of ageing of the workforce have been addressed, and the measures target the appropriate age group (i.e. 45 years and older) to allow for early detection and prevention. The agreement specifically targets older workers, but results in benefits for all, and the evaluation process means that implementation of the plan is closely monitored and changes can be made if necessary.この取組みを通じて、労働力の加齢(の高齢化)のすべての側面が取り扱われて、対策は、早期の検出及び予防対策が可能となる適切な年齢階層(すなわち、45歳以上)に焦点をあてている。この合意は、特に高齢の労働者に焦点を当てているが、結果的にはすべての労働者に利便を与えており、そして、評価プロセスは、この計画の実施が密接に検証され、必要があれば変更されることを意味している。

(2)ドイツの例

英語原文日本語仮訳
'Off the back' a roofing micro-enterprise, Germany背中から重荷を取り除く-小規模な屋根ふき工事会社
Anton Plenkers employs four workers whose average age is 40 in his roofing business. The heavy outdoor work means physical health risks are high, particularly of musculoskeletal disorders.アントン プレンケルンは、平均年齢が40歳の4人の労働者を(彼自身の)屋根ふき工事会社で雇用している。負荷のかかる屋外作業は、身体的な健康リスクが高く、特に筋骨格系の障害がある。
The University of Applied Science Lower Rhine, together with the Fraunhofer Institute for Work Organisation, followed Mr Plenkers' enterprise for 6 months in a project aimed at improving the retention of ageing workers, undertaken owing to pension age increases in Germany.ライン下流応用理学大学は、フラウンホーファー労働組織学研究所とともに、プレンケルンさんの企業に、ドイツで増加している年金受領年齢にある労働者の継続雇用を改善することをねらいとしたプロジェクトの中で、6ヶ月間関わった。
Achievements達成したこと
Mr Plenkers, his workers and the project researchers discussed measures to lift the heavy loads `off the workers' backs'. In response, mobile lifting aids, sack barrows and kneepads were introduced. Work organisation was also modified
―roofers were trained in office work. This gave them new skills and the option to transfer to lighter office work if required, with the added benefit of providing support to Mr Plenkers.
プレンケルンさん、彼の労働者及びプロジェクト研究者は、重たい物品を労働者の背中から取り去って運び上げる対策を検討した。対応策として、移動式の荷揚げ機の支援、布製の袋付きの二輪手押し車及び膝当てが導入された。作業手順も修正された。
―屋根作業者は、事務所作業の訓練がされた。このことは、彼らに新しい技能及びもし求められれば、プレンケルンさんへの支援を与える利点もある、より負担の軽い作業へ転職する選択肢を与えた。
Success factors成功した要因
The participative approach was key to this project's success. This case demonstrates what can be achieved in a very small organisation and highlights the importance of external support. This approach could be used in any similar working environment, but the engagement of workers in office work could be more difficult to implement in larger organisations.(外部からの)参画がこのプロジェクトの成功の鍵であった。このケースは、非常に小さな企業であっても、達成できることがあることを立証し、外部からの支援が重要であることに脚光を当てている。この取組みは、多くの同様な作業環境に使用可能であるが、労働者を事務仕事に転換させることは、より大きな企業ではより困難であろう。

(3)ポーランドの例

英語原文日本語仮訳
Healthier work at any age at DARTEX ― a Polish sewing plantダルテックス(社)―ポーランドの縫製工場―における健康的な作業
Dartex is a small enterprise employing 14 workers (all women). The women spend most of their day sitting, movements are repetitive and cause eyesight strains and there is continuous exposure to noise and vibration.ダルテックス(社)は、すべてが女性である14人の労働者を雇用する小さな企業である。女性労働者は、一日のほとんどを座り作業で過ごし、繰り返しの動作が続いて、視野の疲労の原因となり、そして継続的に騒音と振動にさらされている。
The employer introduced an initiative based on employees' observations of problems. The aim was to achieve a better working environment and to reduce sickness absence. The initiative resulted in new equipment, better work organisation and contracting of an external consultant to improve lighting, noise and vibration issues.使用者(雇用者)は、労働者が直面している問題の観察を踏まえて新たな改善策を導入した。そのねらいは、より良い労働環境を達成して病欠を減少させることであった。新たな改善策は、結果として新しい設備、より良い作業手順及び照明、騒音及び振動の問題を改善するための外部コンサルタントとの契約をもたらした。
Achievements達成したこと
Absences from work have decreased and employees are more enthusiastic about their work. Moreover, precision has improved thanks to the improved lighting, which has resulted in a 70.% decrease in the number of customer complaints, increasing the profitability of the company.欠勤は減少して、労働者は彼等の作業に一層熱中するようになった。さらに、改善された照明のお陰で(作業の)精度が向上して、顧客からのクレームの数が70%減少して、会社の収益性が向上した。
Success factors成功の要因
This is an excellent example of the success that can be achieved in a small enterprise through the employer's dedication and the active participation of workers. External support was also critical, and the measures undertaken to reduce manual handling, strain and repetition, which are common risks factors for musculoskeletal disorders, are particularly relevant to older workers.この例は、使用者(雇用者)のやる気及び労働者の積極的な参画を通じて小企業でも達成できる優れた成功例である。外部からの支援そして、手作業、繰り返し動作及び負荷-これらは筋骨格系障害の共通のリスクファクターであり、特に高年齢の労働者に関係することである-を減少させるためにとられた対策は決定的である。

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