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国からの委託事業であった
「国際安全衛生センター(JICOSH)」
が2008年3月末をもって廃止されました。
永らくのご利用ありがとうございました。
同センターのサイトに掲載されていた個別の情報については、中災防WEBサイトの
国別、
分野別情報にリンクして取り込んでおります。
2010年8月11日
欧州安全衛生機構(EU-OSHA
)のリスク監視部門(
European Risk Observatory-ERO
)が「数字で見る欧州の職場ストレス」(JISHA海外トピックス
2010年2月16日に掲載)に続いて作成した欧州の筋骨格系障害の状況に関するものである。
欧州において、筋骨格系障害(Musculoskeletal disorders- MSDs)は、すべての産業及び職種の労働者において、最も多く存在する職業性疾患であり、例えばオーストリア、ドイツ、フランスの最近の報告によれば、経済的な損失は引き続き増大する傾向にある。EU-OSHAは、2000年にこの問題を安全衛生キャンペーンに取り上げて以来、この問題に取り組んできたが、その際に得られた情報、それ以降の傾向及び最近の情報に基づいてとりまとめた報告書である。
180ページにわたる膨大な報告書で、国別の詳細な情報などが掲載されているが、報告書にある要約の概要のみを紹介する。本文の目次については、要約の見出しとほぼ一致するので省略する。
原資料の題名と所在
EUROPEAN RISK OBSERVATORY REPORT
OSH in figures: Work-related musculoskeletal disorders in the EU-Facts and figures
著者: European Agency for Safety and Health at Work
刊行:2010年5月4日
世界保健機構は、筋骨格系障害(MSDs)は、多くの要因から起因し、作業環境及び作業の性質が著しく関係し、しかも障害の原因について、不確定的である業務関連疾病の1つであると定義している。MSDsという用語は、運動器官、すなわち、筋、腱、骨格、軟骨、血管系、靭帯及び神経の健康問題を意味している。業務関連筋骨格系障害とは、作業またはその性質により誘発され、悪化したすべてのMSDsを含むものである。
最近の欧州内における研究は、腰、首、上肢の障害のようなMSDsは、増大している重要な疾病であり、健康や費用における問題である証拠を提供している。毎年、すべての職種及び産業部門の数百万の労働者が作業によるMSDsの影響を受けている広範な健康問題である。主なグループは、腰痛及び業務関連の上肢の障害、いわゆる「繰り返し負荷による障害」である。下肢も、また、影響を受ける。物の持ち上げ、悪い姿勢及び繰り返し動作は、その原因となり、また、ある種の障害は特定の仕事や職種に関係している。治療と回復は、特に慢性的な原因の疾病について満足な結末が得られることは少なく、最終的には、雇用喪失を伴う永久労働不能となる可能性がある。
図1 EU27カ国における健康問題の存在を自己申告した労働者の割合(%)(2005)
資料出所:欧州労働条件調査(Eurofound: European Working Conditions Surveys- EWCS, 2005)
ESWCの最近の調査数値によれば、欧州の労働者の24.7%が腰痛を、22.8%が筋肉痛を訴えており、45.5%が苦しい、疲れやすい作業姿勢を強いられており、また、35%が重量物を取り扱う作業を要求されていると報告している。EU15カ国についてみると、腰痛が最も多い作業関連健康問題となっており、加盟決定または候補国では、これは第2番目の問題となっている。
下肢の健康問題は、ESWCにおいては、2000年に調査されたもののみであることから、データの傾向分析はできない。しかしながら、図2に見ることができるように、下肢の痛みは、上肢の痛みと同じように重要であるように思われる。いくつかの国のデータは、下肢障害に関するより広範囲の情報を提供している。ばく露と健康問題の各種の側面を各国の調査結果から見ることができる。これらの情報をもとに特定の職業の特定のグループについて追跡調査すれば、下肢の障害に長時間の立ち作業及び歩行作業がリスク要因として関係することが分る。
下肢の障害の種類と頻度については、性的差異がある。女性は長時間の立ち作業、歩行作業に従事することから、現在認定されていない下肢の障害に影響されていることが推定される。例えば、建設業においては、男性はひざの問題が最も大きく、一方、小売業と医療関連の女性については、腰、脚、足に多くの問題があることが報告されている。詳細な下肢の障害の傾向とこれらの関係する条件についてのデータを収集し、分析する必要があると考えられる。
図2 MSDsを報告した労働者の割合(%)、EWCS 2005, 2000及び加盟候補国の調査
註)EU加盟国の加盟時期等による分類  参照のこと。
資料出所:EWCS, ESCC(European Survey of Candidate Countries)
MSDsには、多くの原因因子があり、障害の個別の事例について正確な原因を指摘することは困難である。また、これらの原因は、国の労災補償または報告制度において職業性疾病として一般的に受け入れられているものではない。加盟国内で標準化された診断基準を使用していることはほとんどなく、用語の範囲と健康問題についての記述も国により区々である。このことから各国間の比較は困難である。しかしながら、各国のデータからは業務関連筋骨格系障害は欧州の作業環境における主要な健康問題であると結論付けることができる。ベルギーでは、機械的振動による疾病(主に輸送及び建設業における背部障害)は最も多い労災補償申請の事案である。チェコ共和国では、業務上の筋骨格系障害は、報告された職業性疾病の33%となっている。スペインでも業務上の筋骨格系障害が最も多い職業性疾病となっている。さらに、加盟国内においてこれら障害は、増加の傾向が見られる。
欧州統計局の職業性疾病統計(European Occupational Diseases Statistics, EODS)によれば、筋骨格系障害は最も多い職業性疾病となっている。前述したように、MSDsについては各国の労災補償制度においてかなりの相違がある。腰部、首部、肩部については、2〜3の加盟国においてのみ、また特定の疾病のみを職業性疾病と認めているにすぎない。したがって、認定された業務関連筋骨格系障害の欧州レベルの総合的なデータを収集することは困難である。この明白な過小評価にもかかわらず、MSDsは、2005年のEODSによる職業性疾病数値の39%を占めている。
2005年の認定職業性疾患の12加盟国のEODSによれば、最も多い業務関連筋骨格系障害は、上腕骨上顆炎(16,054件)、次いで手及び手首の腱骨膜炎(12,962件)となっている。さらに、17,395件の手首の手根管症候群と神経系障害がある。
職業性疾患の欧州一覧表には、腱、腱周組織及び腱付着部の振動、局部圧及び過剰使用に関連する特定の条件を掲げている。
図3 職業性疾患の割合(%)(EODS、2005)
MSDs+手根管症候群は、2002年から2005年で32%増加した(うち女性は39%)。 MSDs+手根管症候群は、EODSによりカバーされるすべての認定職業性疾病の59%に上っている(女性は約85%)。
死亡という結果になることはないが重篤な障害と重大な作業能力の低下に結びつく筋骨格系障害のような慢性的障害については、毎年の新規の数値でなく累積の数値に注目するべきで、数十万の労働者がこれらの筋骨格系障害に罹っていることが推定される。フランスでは、1996年から2006年の10年間で275,000件が認定され、労災補償を受けている、また、抑制的な作業姿勢による疾病は2003年の職業性疾病の68%に上っている。
作業場のアセスメントと調査結果を比較するとサービス産業の労働者が大いに影響を受けているが、業務関連疾病としての認定数は少ないという事実がある。医療、輸送などのサービス職種においては、労働者調査では健康問題が高い割合を占めているが、欧州の職業性疾病数ではこれらの分野ではいまだに比較的低く、平均よりも低い数値となっている。第三次産業化の進展がこれらの影響を促進しており、より多くの労働者、すなわち女性及び若年労働者がこれらの職業に就くことが多くなってきている。
認定の実際の多様さにもかかわらず、筋骨格系障害は男性よりも女性に多く影響しているが、しかし、これらの事案に対する認識が欠如しているようである。このことは、前述の数値で裏付けることができる。また、MSDsは全体像において非常に重要なことであり、女性労働者に急速に増加してきていることがわかる。労災認定は、主に、腰痛、上肢と首の疾患に焦点をあてているが、しかし、女性がより多く影響される下肢の疾患についてはあまり重視されていない。しかし、女性労働者の多くは、立ち作業であり、例えば、医療、ホテル、外食産業、クリーニング、教育、小売業などに従事している。
疾病の監視と認定については、年齢層から検討することも重要である。若年層の疾病の報告率が低くても、これらの年齢層が筋骨格系障害に影響されている兆候がある。国レベルの数値では、若年層において増加しており、スペインなどのいくつかの国では若年労働者が最も大きく影響を受けているグループとなっている。このことは、また、若年労働者の安全衛生状況と各国の数値を分析した以前の欧州リスク監視部門の報告でも確認することが出来る。このことについて、しばしば、若年者の虚弱性について議論されるが、報告では若年者が女性と同じようにサービス産業に従事しており、MSDsのリスクに過剰にばく露していることが分る。
スペイン、イギリスなどいくつかの国では、筋骨格系問題の急性事案を事故・災害の数値として取り扱っている、例えば、重量物を持ち上げたときに起きる事案などである。このような場合には、全体の事故・災害率におけるこれらの事故率の割合は多くなる。これらの急性事案の罹患率は、職業性疾病の率よりも高くなる傾向となる。しかもなお、若年、女性、サービス産業従事者などのグループは、なお、職業疾病について過小認識することが多い。
国別及び全欧州調査により、筋骨格系障害は業務関連欠勤に大きな影響を与え、加盟国の損失日数のうち、MSDsによるものが高い割合となっていることが確認されている。このことは、職場復帰戦略において強調されている。
EU-OSHAの以前の職場復帰報告において明らかにされたように、下肢障害のようないくつかのMSDsについては、職場復帰政策では取り扱われなかった。もう1つのOSHAの研究では、若年労働者がMSDsに関連していることが明らかにされたが、リハビリについては研究の対象でなかった。同様に社会心理的労働条件についても過小評価となっている。
したがって、疾病の用語、多様化する労働人口の範囲を含め、職場復帰及びリハビリ政策については拡大する必要がある。
業務関連筋骨格系障害は、個々の労働者の健康影響のみならず、業務の経済的影響と欧州各国の社会的損失にかかわっている。
前述のEU-OSHA報告において述べているように、加盟各国全体の作業場におけるMSDsによる損失の真の値を見積もることは困難である。これは、保険制度にかかる組織の違い、標準化された評価基準の欠如、報告されたデータの有用性に対する知見の乏しさによるものであると思われる。ある研究では、業務関連の上肢のMSDsによる損失は、GNPの0.5%から2%であると推計している。
最近の数値、例えばオーストリア、ドイツ、フランスでは、MSDsによる損失が増加していることを明らかにしている。フランスでは、2006年には、MSDsによる損失は700万人日、約7億1千万ユーロに上った。
前述したように、MSDsの原因は多岐にわたり、また、様々な筋骨格系障害に対する多くのリスク要因が明らかにされている。これらには、物理的、経済的及び社会心理的要因が含まれている。
比較可能なデータの主な出所は上述の労働条件欧州調査(EWCS)である。ここでは、MSDsの発症について下記のリスク要因を掲げている。
作業速度などの作業構成のリスク要因は含むが、組合せリスクの分析を規定するものではなく、靭帯組織に力を加えること、無理な移動、機械的圧力を加えることなどのリスク要因をモニターするものではない。
EUレベルでは、繰り返し作業は最も多く広く行われているMSDsの発症に係るリスク要因である。NMS-2(ブルガリア及びルーマニア)の労働者の約74%、EU15 とEU10の労働者の61.5%が手・腕の繰り返し作業に従事(ばく露)しており、その長さは労働時間の4分の1に上ると報告されている。
NMS-2の労働者の52.7%、EU12の労働者の46.4%及びEU15の労働者の44.4%が、苦痛を伴いまたは疲れやすい作業位置での作業に従事(ばく露)している。さらに、就労時間の4分の1以上を重量物取扱いに従事している労働者は、EU10の労働者の42.8%、EU12 の労働者の38%、及びEU15の労働者33.9%である。振動へのばく露は、EU15カ国及びEU12カ国において、重要なリスク要因である。
図4 MSDsのリスク要因、労働時間の4分の1以上のばく露労働者(%)、EWCS (2005)
資料出所:EWCS
いくつかの特定の分野及び職業について女性も、実際的に多くのリスク要因にさらされている。例えば、重量物取扱い作業は、全体で5.8%に過ぎないが、女性労働者が多い医療関連部門について見ると、ほぼ半分の43.4%を占めている。医療関連部門に従事する主要なグループは中高年女性であることを考慮すると、このグループに対する防止対策が必要であることが明確となる。製造業における女性が振動にさらされているリスクは、新しく重要なものであるが、振動におけるリスクの認識が低くまた、データを正確に収集しないとそのリスクについての発見が埋もれてしまう。
年齢別に見ると、若年労働者は、過剰なMSDsリスクにさらされていることがわかる。特に、サービス業、製造業の非熟練労働及び建設業において顕著である。若年労働者はMSDsリスクのばく露下にあり、筋骨格系障害に罹っており、スペインなどの疾病関連データから確認することができる。
各国の調査を詳細に検討すると、労働者が一時に複数のリスクにさらされている、特にサービス業での女性に多い。
ブルーカラー及びサービス業の労働者は、物理的リスクにさらされることが多い、例えば重量物取扱い、苦痛または疲労を伴う作業姿勢若しくは振動などがあり、繰り返し作業及び早い作業速度が要求される作業は、すべての職業において見られる。長時間の立ち作業や歩行作業は、農業や建設業などの伝統的な部門における典型的なリスク要因であるが、小売業や接遇業などのサービス業においてもリスク要因となっている、しかも下肢疾患についてのモニタリングや疾病認定も低調である。自営労働者も過剰なリスクにさらされることが多い、すなわち、疲労及び苦痛を伴う作業姿勢(労働者の43.5%に対して54.8%)、重量物取扱い(労働者の33.1%に対し44.7%)、繰り返し動作(労働者の61.7%に対し64.5%)、長時間の立ち・歩行作業(労働者の72%に対し77.3%)などである。加盟国のデータからより詳細な状況を把握することが出来る。
註)EU加盟国の加盟時期等による分類
欧州生活・労働条件改善財団(European Foundation for the Improvement of Living and Working Conditions- Eurofound
) の欧州労働条件調査(
European Working Conditions Surveys- EWCS
)についてのサイト
その他については、JISHA海外トピック2010年3月31日の記事の関連情報に以下のような掲載をしている。
MSDsは、労働者の健康確保のために最も重要な事項と認識されており、多くの情報が各機関等のサイトに掲載されている。「仕事への適合・欧州」(Fit for Work Europe
)ウェブサイトのリンク集(
Fit for Work Europe Links
)は、これらのサイトの多くを掲載している。
上記の他の諸機関におけるMSDsに関するウェブサイトの例として下記がある。