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2011年3月29日
欧州労働安全衛生機構(EU-OSHA )が新しく刊行した7章156ページからなる報告書「仕事における暴力およびいやがらせ−欧州の実態」によれば、欧州の職場において、暴力、いじめおよびいやがらせが増加していることが分かった。また、本報告書では仕事における暴力に対する効果的な取り組みについて議論し、国や組織によって異なるニーズに対応した労働者の健康と福祉を保障するための新しい具体的な方法を明らかにしている。以下にEU-OSHAからプレスリリースのあった「欧州諸国で増加する仕事における暴力およびいやがらせ(Workplace violence and harassment on the increase in Europe )」および「仕事における暴力およびいやがらせ−欧州の実態(Workplace Violence and Harassment: a European Picture’ )」の報告書を紹介する。
欧州労働安全衛生機構(EU-OSHA)が新しく刊行した報告によれば、暴力、いじめ、いやがらせは欧州の職場でますますよく見られるようになった。しかし政府や各組織のこれに対する対応は非常に不十分であると思われる。
国、産業、調査方法により異なるが、欧州の労働者の5〜20%が、第三者による暴力およびいやがらせの被害を受けている。「仕事における暴力およびいやがらせー欧州の実態」と題する報告は、欧州リスク監視活動部門(ERO、European Risk Observatory、EU-OSHAの一部門)が収集した各国統計を含んでいる。直近の欧州労働条件調査企業調査(ESENER、European Survey of Enterprises on New and Emerging Risks )によれば、欧州の管理職の40%が仕事における暴力やいやがらせを問題視しており、約25%のみが対応策をとっているが、多くのEU諸国では10%以下である。この問題は保健・社会福祉分野と教育分野では喫緊の課題であり、管理者の半数以上が安全衛生の問題と確認している。
タカラEU-OSHA長官によれば、「暴力といやがらせは深刻さを示し、実際の報告よりも欧州の労働者の安全や福利に対し多くの脅威が存在している。労働者が顧客やサービスの提供相手から受けた暴力、乱暴な言葉、脅迫は重要な安全衛生の問題である。精神的影響は肉体的な負傷よりもしばしば深刻である。仕事におけるいやがらせにより、ストレスや長期休暇、場合によっては自殺に追い込まれる可能性まである。経済的な影響として、生産性の低下、病気休暇の増加、転職の増加、病気による早期退職等を引き起こす。」
報告によれば、また、多くの欧州諸国で仕事における暴力が今でも十分認識されておらず、この課題に対処するための具体的な戦略もあまりない。各国や各組織では、意識向上の必要性があり、仕事における暴力やいやがらせに対して取組み、それを防止する政策や手段を実行に移す必要性がある。
EU-OSHAは、政策立案者、研究者、事業主や労働者の代表者を一堂に集め、2日間のセミナーで仕事における暴力に効果的に取り組むという課題について議論し、労働者の健康と福祉を保障するために、国や組織によって異なるニーズに対応した、新しい具体的な方法を明らかにした。
ここ数年、仕事における暴力といやがらせの問題に多くの関心が持たれるようになり、学術的なものから一般向けのものまで多くの刊行物が出されてきた。社会的な関心も高まり、国内レベルでも国際レベルでも、さまざまな政治機関や労働団体がいろいろな文書によりこの問題への関心を表明している。
この報告は、
最近の欧州の文献を中心に文献調査を行った。書籍、研究報告、ワーキングペーパー、学術的記事を網羅した。2008年3月に、「仕事における暴力およびいやがらせに関する調査」をEU-OSHAの各窓口機関に送付した。調査の目的は、仕事における暴力に関し、欧州各国の概要を把握し、この問題についてより深く検討するためである。欧州27カ国のうち、19の窓口機関がこの調査に回答した。アルバニア、ノルウェー、スイスからも回答が寄せられ全回答数は22となった。
仕事における暴力およびいやがらせが意味するところについて、絶対的な定義はない。暴力とは、何らかのよくない取り扱い−人の福利、価値、尊厳に屈辱を与え、品位を落とし、損害を与える行為−に関する総称である。
仕事における暴力という概念には、多くの形態の行為が当てはまり、暴力的行為となるかどうかの感覚は背景や文化で大きく異なる。さまざまな形態の暴力を分類するのは困難で、用いられている分類は重複するところがある。
この報告では、「仕事に関する暴力」「仕事場における暴力」という用語は、第3者による暴力やいやがらせ(いじめ、集団でのいじめ)など、仕事におけるすべての形態の暴力的出来事を意味するものとして使われる。「第3者による暴力」という表現は、顧客、取引先、ものやサービスを提供するその他の者からの脅威、肉体的な暴力、心理的な暴力(たとえば言語的な暴力)を意味する。この報告では、「いやがらせ(harrassment)」は、1人または何人かの従業員に対する、同僚、上司または部下の、いじめや集団的いじめなどとも呼ばれる、被害を受けさせ、屈辱を与え、弱体化させ、脅威を与えることを目的とする、度重なる理性を欠いた行動を表す現象を意味する。
窓口機関調査によれば公式には「いやがらせ」の方が「第3者による暴力」より、(たとえば、公式な定義が存在する/法令で定められている場合)、頻繁に取り組まれている。欧州諸国においていやがらせと第3者による暴力の法令上の定義は、第3者による暴力と仕事におけるいやがらせを区別せず、仕事に関するすべての側面に適用される一般的な法令から、より明確な定義、たとえば、いやがらせといじめを法令の中で区別するものまでさまざまである。
暴力やいやがらせ、いじめが何を意味するか、通常法令は定義していない。しかし、いくつかの国におけるいやがらせやいじめに関連する法令は、度重なるよくない行為や被害者の健康への悪効果を意味する。
窓口機関調査によれば、EU新規加盟国におけるこの問題についての認識は、問題の関係性/重要性に比較してしばしば不十分であるように思われる。
国レベルでこの問題に関する認識が低い理由は:
欧州レベルでは、この問題に対するプログラムやキャンペーンによる意識向上が重要だと考えられている。仕事における第3者による暴力を評価し管理するための適切な手段/手法の策定についてもしばしば言及されている。
第4回欧州労働条件調査(EWCS、European Working Conditions Surveys) によれば、EU加盟27カ国の労働者の6%が、同僚の労働者(2%)またはそれ以外(4%)からの肉体的な暴力の脅威にさらされたと回答している。
しかし、北部欧州諸国において肉体的な暴力の事実や脅威に関する報告頻度は高いが、南部欧州諸国における報告頻度は低い。
第3者による暴力の特徴は、健康管理および社会福祉事業、教育、商業、運輸、公務、防衛、ホテル・レストランのような職種で危険性が明らかに高いことである。女性は、健康管理、教育、店舗で主に暴力を受けやすいのに対し、男性は主に警察、警備、運輸で暴力を受けやすい。これらの業種では、業務の特徴や職場環境に第3者による暴力にさらされる危険が現存している。
第4回EWCSによれば、回答者の5%が2005年において過去12カ月間に職場でいじめ/いやがらせにあったとしている。セクシャルハラスメントや意に沿わない性的関係にさらされたと回答したのは調査者の2%以下である。しかし、肉体的暴力でそうであったように、仕事におけるいじめ/いやがらせのレベルは国ごとに大きな差がある。ある諸国ではいやがらせの研究はセクシュアルハラスメントが中心で、仕事におけるいじめについて利用できる情報は皆無である。
さまざまな形態の第3者による暴力といやがらせの発生頻度や被害者となる割合について、国ごと、調査ごとに、結果を評価比較するのが困難であるEWCSに比較すると、国別統計調査では発生頻度がいくらか異なった結果となっている。
第3者による暴力のリスク要因は主に作業環境の特性から発生するが、それよりも幅広い状況や特別の事情でも発生する。個人の一定の特性、性別(男性)、年齢(若年者)、業務経験(短期)も第3者による暴力にさらされるリスクが高くなる。
一般に労働者が多様であるのと同じく、いじめの対象者も多様で、人格的に特徴があるわけではない。誰でも犠牲者となりうる:リスクが高い場合の特徴はない。個人的な要因や人格的な要因はいじめの要因でないことが多いが、特定の組織、環境、背景においては要因となりうる。
いやがらせの原因として、いじめの事例の大半に下記の要因が3〜4つがあてはまる可能性がある。
仕事に関する暴力は、深刻な安全衛生の問題である。第3者による暴力は、個人に対し、肉体的(打撲や創傷、極端な場合は死亡)、精神的(心配や恐怖、睡眠障害、心的外傷後ストレス障害)な結果を引き起こす。精神影響は肉体的な結果よりもしばしば深刻である。仕事におけるいやがらせの個人に与える影響は僅少なストレスに対する反応から長期間の病気欠勤、就労生活からの離脱までさまざまで、さらに時には自殺の要因になることさえもある。
仕事における暴力による経済的損失はかなり大きい。組織に与える影響は多様で、たとえば、被害者とその他の労働者の仕事に対する満足度の低下、生産性の低下から病気欠勤の増加、離転職の増加まであるが、どれもが経費高騰を招くことがある。
すべての形態の仕事における暴力は、間接的に被害者の家族や友人に影響を与えることに留意することが重要である。結局、仕事における暴力の結果は、それに関するリスクの全体的な枠組みとおなじぐらい広大なものである。
政策レベルの活動は、ほとんどの場合、この重要な課題に対するいろいろなレベルにおける意識や認識を向上させる、組織レベルや個人レベルでの態度に影響を与える、組織の取組みを奨励ときには推進させることを目指している。
仕事における暴力に対する政府の公式の政策および予防や介入の可能性は、国ごとに異なっている。政府の施策に加え、各国で、国際的に、各産業で、さまざまなパートナーが仕事における暴力に関する懸念を表明し、職場の暴力の防止や取組みに関する専門的な資料を策定した。それにより、さまざまな集団に対する訓練や情報資料が充実することになった。
多くの諸国では、組織内で仕事におけるいやがらせの防止や管理を支援し、いやがらせの事例に取り組むための行動規範および指針が策定されている。一般に、事業主は防止策や、組織の中で健康および安全に配慮することに責任がある。仕事における暴力やいやがらせへの取組への準備状況は、大企業と小企業で異なる。たとえば、大企業では信頼のできるカウンセラー等の専門家が仕事におけるいやがらせを受けたと感じた従業員を支援することができる。苦情手続きも大企業では大概利用可能である。中小企業では必ずしも外部専門家や介入を行う手段を持っていない。
すでに多くの情報が利用可能であるが仕事における暴力やいやがらせに関するリスクや先行事例、言語的な暴力、非言語的な暴力による深刻な損害を与える結果やそれに対する可能な対処方法について、さらに学問的に正しい知識と認識が必要である。また、いろいろな形態の仕事における暴力に関して使用される用語、定義、分類を明らかにする必要がある。