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欧州連合の労働安全衛生の状況−パイロット調査

資料出所:European Agency for Safety and Health at Work発行
「The State of Occupational Safety and Health」
http://osha.europa.eu/publications/reports/#stateofoshsum
http://osha.europa.eu/publications/reports/404/en/summary_report.pdf
(PDF format in English)

(訳 国際安全衛生センター)

初期的な教訓

本章で概説したとおり、「EUにおける労働安全衛生の状況−パイロット調査」プロジェクト実行の全過程から教訓が得られた。国別データとEUデータの比較の困難さ、さらにデータ上のギャップがある箇所については4.1で述べる。特定のリスク分類(企業規模、性別、年齢、雇用形態)に関するデータ不足については、4.2で述べる。最後に、このパイロット調査の主な長所と欠点について4.3で述べる。

このパイロット調査から、全プロセスのなかで改善の余地があり、今後の検討課題にすべきいくつかの重要な分野が明らかになったことは疑いない。報告過程の現段階でも、すでにいくつかの初期的な教訓が得られている。欧州安全衛生機構の「評価」プロジェクトによるフィードバックのなかでは、より多くの教訓が明らかになるだろう。

パイロット調査実行の過程で、15加盟国ごとに労働安全衛生システムに大きな差異があるという重要な事実が明らかになった。このため、各国のシステムから収集した情報を比較し、これに基づいて欧州全体の労働安全衛生の状況をとりまとめることが一層むずかしくなっている。

データ統合の作業を通して、情報収集のための質問内容をより精緻に定義することの重要性が明らかになった。こうすることで共通の認識を強め、あいまいさを排除し、データ統合のプロセスを容易かつ正確にする必要がある。

調査マニュアルの作成、使用、分析に関して、現在までに得られた教訓は、欧州レベル、各国レベル、欧州安全衛生機構レベルの3つのレベルに分けられる。

欧州レベルでは、労働条件に関する第2次欧州調査で使用した質問が、各国の統計での質問と若干異なっているとの指摘が多かった。質問に相違点があると、比較がむずかしくなるだけでなく、比較自体の正当性に疑問が生じる。今後の欧州調査では、標準化/統一化した質問表を導入し、各国段階で同一の質問を使用することが可能かどうかが、今後の調査戦略での検討課題のひとつになるだろう。

各国レベルでは、リスク分類の産業と職業についてフォーカル・ポイントは国内データ、統計調査、出版データなどの多数のデータ・ソースに基づいて、または専門家の判断の検討に基づいて回答を提出した。しかし、産業と職業以外のリスク分類に関しては利用できるデータは限られていた。とくに雇用形態、年齢、企業規模についてそうだった。これらのデータなしには、欧州全体の状況をまとめることや、上述の論点のいくつかを正当化することは不可能である。

統計的に信頼できる統合報告を作成するためには、加盟国が同様の質問表を使ったほぼ同一のデータ収集方式を国内で採用し、質問に対する共通の理解を確立しなければならない。

騒音やアスベストといった従来から存在する安全衛生問題については、利用できる情報は豊富だったように思える。これらの分野に対しては、法令、監視/調査、認識喚起/情報キャンペーンなどの制御策を通じ、一定の保護が確立している場合が多かった。これ以外のストレス、社会的要求に支配される作業ペース、機械に支配される作業ペースなどの暴露分類については、利用できるデータは少なかった。

欧州安全衛生機構レベルでは、自由回答式の質問のないマニュアルを作成することが最重要課題であると考えられている。今後の調査では、マニュアルの質問に追加的な文書/等級表を補足し、回答者が正確に回答できるよう手助けすることも考えられる。たとえば現在のマニュアルにある「リスク」の意味を、加盟国はどのように理解しているだろうか? 実績(負傷/死亡/疾病)を根拠にしているのか、それとも特定の危険有害要因に多数の個人が暴露していることを根拠にしているのか?

また使用しているリスク分類のそれぞれから有意義な結果が得られるのかも検討する必要がある。企業規模を例にとると、データが自由に収集できるかという問題がある。この分類を今後の労働安全衛生監視調査に取り入れる必要があるとすれば、「規模」の意味についての明確な指針が必要になる。たとえば労働者数500名の大企業が、実際には独自に業務を行う労働者数50名の小企業で構成されているという場合もある。これは大企業になるのか、それとも小企業になるのかといった問題である。

各リスク分類相互の関係についても調査を深め、結果と根本原因を区別するなど、分類の定義を明確化する必要があるかもしれない。

国別報告で収集されたデータは、すでに発生した状況を明らかにするもので、つまりは事後的な調査である。現時点では、個別の欧州法令がどの程度実行され、どの程度効果があったかといった、予防的な課題についての示唆は得られていない。完全な労働安全衛生マネジメント・システムの実績評価では、事後的な要素と予防的な要素の両方が不可欠である。

今後ふたたびパイロット調査を行う際は、ここで述べた課題のなかでより明確にする必要のあるものがある。とくに調査での評価質問に対する回答がある。フォーカル・ポイントが新たな防止策の策定の必要性を指摘した場合、その必要性がどの程度なのかは必ずしも明確ではなかった。防止策には新法の導入から認識喚起キャンペーン、調査、現場監督まであり、情報発表の方法も指針メモ、実践規範、または一般的な情報リーフレットまである。防止策の適用方法も、特定の産業と関連プロセスに焦点をあてる方法と、多数の産業やプロセスを対象に幅広く適用する方法がある。いずれにせよ、これらの情報収集の必要性をふまえてマニュアルを作成する必要がある。



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