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アメリカ1970年労働安全衛生法
Occupational Safety and Health Act of 1970


− 解説 −

米国の労働安全衛生法について

 ここに紹介する米国の安全衛生法は1970年に制定された。日本が1972年、英国が1974年であり、世界で初めての総合的な安全衛生立法であった。周知のとおり米国は州の独立制が強い国であるが、このように連邦としての安全衛生法が出来た背景としては、州ごとの安全衛生法制がまちまちであり、必ずしもこれが原因とは言えないまでも、労働災害の件数が1958年の180万件を最低にして1962年以降200万件、1966年以降220万件と増加傾向にあったことも契機となっている。制定当時に議会が考慮した背景としてはこの他に死亡災害14,000人、労働災害による損失日数がストによるものの10倍、30万件の職業性疾病の発生などがあげられている。

 この法律は、連邦政府の統治が行われる領土におけるすべての事業者とそこで働く労働者に適用される。この点は日本の安全衛生法と大きな違いはないが、内容的には、日本の安全衛生法が例えば化学物質の製造者、機械の製造者などにも規制の範囲が及んでいるのに対し、米国のものは事業者と労働者の関係に限定していることは異なる点である。また日本の安全衛生法は制定当初から快適職場という先進的な概念を取り込んでいるが、米国のものではそのような規定はない。

 事業者の義務は第5条に2点規定されている。即ち

  (1)  労働者に死亡又は重大な身体的危害を引き起こす可能性があると認められた危険に労働者各人がさらされないような雇用及び雇用の場所を提供し
  (2)  本法に基づいて公布された労働安全衛生基準を遵守するものとする

である。(1)は一般的な規定であるにもかかわらず、第17条を見るとこれに対する違反にも7万ドル以下の罰金が課せられることになっている。一方労働者についても同じ第5条で安全衛生基準の遵守を義務づけているが、第17条には労働者に対する罰則規定はない。
 
 上記(1)のように、安全衛生法では基本的な考えを定め、細目については基準にゆずるという考え方をとっており、英国安全衛生法と同様である。

 連邦政府と州政府の関係については法律の第18条に規定されているが、各州が安全衛生プログラムを作成し運用することが奨励されている。州のプログラムが連邦のものと同等以上に効果的であるとして労働長官により承認された場合、州プログラムの運用コストの50%迄が援助される。州のプログラムは連邦と同じく事業者と労働者の権利を保証するものでなければならない。このため事業者も労働者も、自分の関係する州が認可州かどうかを調べ、もしそうであるならばそのプログラムの内容を知っておかなければならない。州プログラムの運営に不満のあるものはだれでも連邦に対し不服申し立てをすることができる。

 1980年代以降は、この法律に基づいた安全衛生行政に加え、企業の自主的な安全衛生管理活動を促進、奨励するための活動もなされている。例えばVPP(Voluntary Protection Programs、自主的保護プログラム)もその一つで、優れた安全衛生プログラムをもつ企業を審査して認定し、その企業は一定期間監督を免除するという制度である。

 この法律の執行は米国労働省の一部である安全衛生庁が担当している。労働長官は安全衛生基準を制定するほか、それが企業に及ぼす金銭的影響などの調査が必要であるなどの手続きがある。



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