調査・研究
調査研究概要
小売業で働く人のこれからの安全と健康のために -百貨店・総合スーパー・食品スーパー・ホームセンターにおける安全衛生対策と活動好事例に関する調査研究結果-のポイント
Ⅰ 本調査研究の目的・手法
小売業では、休業4日以上の労働災害による死傷者が年間12,000件を超えており、年平均1%弱増加している。また近年、百貨店、総合スーパーにおいては、営業時間の拡大や店舗の休業日の減少により総営業時間の拡大が進行するとともに、健康やメンタルヘルスの問題が生じている。
このため、百貨店、総合スーパー、食品スーパー、ホームセンター等における安全衛生対策に関する調査を行い、業態に応じた労働者の安全と健康の問題点についての把握および安全衛生対策の好事例の収集を行うとともに、これからの小売業労働者の安全と健康のための具体的実施事項およびこれを普及するための方策について検討を行った。
アンケート調査は小売業関連団体の会員915企業の本社等に対し、郵送により発送および回収し231企業から回答を得た(平成21年9月~10月、回収率25.2%)。さらに、安全衛生活動に特長的な取組みを行っていると思われる9企業を選定し、訪問して、安全衛生管理の担当者に対し質疑応答を行った。
また、国の労働者死傷病報告から、小売業の労働災害のうち事故の型別で最も発生件数の多い転倒災害692件について、災害要因分析を行った。
Ⅱ 本調査研究で明らかになった主な事項
アンケート調査に回答した231企業の集計結果および9企業に対するヒアリング調査結果をまとめるとアからオのとおりである。
- ア
- 労働災害の発生状況
アンケートで、企業のいずれかの店舗で、過去3年間(平成18~20年度)に発生した休業4日以上の労働災害について聞いたところ、あったと回答したのは150企業(64.9%)であった。労働災害発生率を年千人率でみると、1未満の企業が16.2%であった一方、10以上の企業も9.2%あった。全体の平均は2.8で、百貨店(2.6)と総合スーパー(1.5)がこれより低く、食品スーパー等(5.1)とホームセンター(3.5)がこれより高かった。
労働災害が発生する主な原因について、アンケートの回答者に経営者はどう意識しているか尋ねたところ、「労働者の安全衛生に対する意識が低いため」が47.2%、「安全衛生活動が不十分なため」が40.7%であり、事業者側に問題があるとの認識が弱い企業がある。 - イ
- 安全衛生管理体制
アンケートで、常時50人以上の労働者がいる店舗において、安全衛生委員会等があると答えたのは71.4%で、業種別にみると百貨店、総合スーパーでは90%以上であるのに対して、食品スーパー等、ホームセンターにおいては60%程度であった。 - ウ
- 安全衛生教育
アンケートで店舗において新入労働者への安全衛生教育を行っているか聞いたところ、「実施している」が75.3%であった。新入の正社員に対してはほとんどの企業で教育の対象にしているが、新入のパート・アルバイトを対象にしているのは76.4%にとどまった。 - エ
- 労働災害防止のための安全衛生活動
アンケートにおいて、店舗で現在行っている安全衛生活動の状況を聞いたところ、通路・階段の整理整頓、火災など非常時の対応マニュアルの作成・周知は8割以上が実施しており、職場の安全パトロール、朝礼・終礼時の安全衛生講話、毎朝の健康状況の確認も半数以上で行われていた。このほか、総合スーパーでは、機械設備・作業環境の改善、作業方法の改善、ヒヤリハット報告が半数を超え、リスクアセスメントおよびリスク低減の実施率も40%程度と他の業種に比べて高かった。食品スーパー等では、作業方法の改善が半数を超え、ホームセンターでは、機械設備・作業環境の改善およびヒヤリハット報告を半数が行っていた(図1)。
製造業等では普通に行われている危険予知、安全提案、リスクアセスメントは、2割程度の企業で実施されているにすぎなかったが、これらを今後行いたいとする企業は4割近くあった。 - オ
- 心の健康問題とメンタルヘルス対策
アンケートで、過去3年間の労働者の心身の健康問題がどのように変化したか尋ねたところ、「心の健康問題が増加している」は35.9%、「心の健康問題による休職が増えている」が32.9%あった。
これに影響を与えている背景要因として、一人あたりの労働時間が減る中で、業務範囲・作業量が増えており、労働者同士のコミュニケーションの機会が減っている面があることがアンケートから伺えた。
常時雇用する労働者に対するメンタルヘルス対策を行っているか複数回答で聞いたところ、管理監督者に対する教育は33.3%、労働者が相談できる窓口の設置は35.9%、休職者の職場復帰支援が31.2%と比較的高く(図2)、百貨店、総合スーパーにおいてはこれらの対策が半数以上で行われていた。「特に対策をとっていない」は百貨店、総合スーパーでは2割に満たないが、食品スーパー等では半数を超えていた。
報告書では、以上の調査結果を踏まえて、小売業の今後の安全衛生対策のために実施すべき事項、一層活動を活発化させるための参考となる事項をまとめ掲載している。
図1 現在行っている労働安全衛生活動
- ①
- 通路や階段などの整理・整頓活動
- ②
- 毎朝の労働者の健康状況の確認
- ③
- 朝礼・終礼での安全、健康に関する講話など
- ④
- 職場の安全パトロール
- ⑤
- 火災など、非常時の対応・マニュアルの作成・周知
- ⑥
- 荷物の積み方など安全作業マニュアルの作成・順守徹底
- ⑦
- 機械設備・作業環境の改善(最近1年間)
- ⑧
- 作業方法の改善(最近1年間)
- ⑨
- 危険予知活動(KY)・指差呼称
- ⑩
- ヒヤリハット報告
- ⑪
- 安全提案制度
- ⑫
- リスクアセスメント及びリスク低減
図2 メンタルヘルス対策の実施状況
- (1)
- 心の健康に関する知識、ストレス対処の方法等についての労働者の教育
- (2)
- 心の健康問題を抱えた労働者への対応等について管理監督者に対する教育
- (3)
- 事業場内産業保健スタッフに対して心の健康づくりに関する専門知識を習得する機会の付与
- (4)
- 事業場外の専門機関の活用
- (5)
- 職業性ストレス簡易調査票などによるストレスチェック
- (6)
- 労働者が心の健康問題について相談できる窓口の設置
- (7)
- 心の健康により休職した労働者の職場復帰のための支援
- (8)
- 特に対策をとっていない
お問合せ
中央労働災害防止協会(中災防)
教育推進部 業務課
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