令和8年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」実施要綱

令和8年3月19日制定

1. 趣旨

夏季を中心に熱中症の発生が相次ぐ中、職場においても例年、熱中症が多数発生しており、令和4年から令和6年の3年連続で、重篤化して死亡に至る事例が年間30人程度発生する状態が続いたことから、業界、事業場ごとに、熱中症予防対策に取り組んでいるところである。昨年までの「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」においても、労働災害防止団体や関係省庁とも連携し、職場における熱中症の予防に取り組んできた。
昨年1年間の職場における熱中症の発生状況(速報値)を見ると、死亡を含む休業4日以上の死傷者は1,681人、うち死亡者数は15人となっている。死亡者数は減少したものの、死傷者数は前年比約4割の大幅な増加となっており、業種別にみると、死傷者数については、建設業278件、製造業337件となっており、全体の約4割がこれら2つの業種で発生している。また、死亡者数は、建設業が最も多く、警備業が続いている。熱中症予防のための労働衛生教育の実施を確認できなかった事例や、糖尿病、高血圧症など熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病や所見を有している者への配慮を行っていなかった事例も見られた。
このため、本キャンペーンを通じ、すべての職場において、「職場における熱中症防止のためのガイドライン」に基づく熱中症予防対策を講ずるよう広く呼びかけるとともに、期間中、事業者は①暑さ指数(WBGT)の把握とその値に応じた熱中症予防対策を実施すること、②熱中症重篤化による死亡災害を防止するため、「早期発見のための体制整備」、「重篤化を防止するための措置の実施手順の作成」、「関係作業者への周知」を行うこと、③糖尿病、高血圧症など熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病を有する者に対して医師等の意見を踏まえた配慮をおこなうことなど、重点的な対策の徹底を図る。
なお、労働者と同じ場所で作業に従事する労働者以外の者についても、上記措置の対象に含める。

2. 期間

令和8年5月1日から9月30日までとする。
なお、令和8年4月を準備期間とし、令和8年7月を重点取組期間とする。

3. 主唱

厚生労働省、中央労働災害防止協会、建設業労働災害防止協会、陸上貨物運送事業労働災害防止協会、港湾貨物運送事業労働災害防止協会、林業・木材製造業労働災害防止協会、一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会、一般社団法人全国警備業協会

4. 協賛

公益社団法人日本保安用品協会、一般社団法人日本電気計測器工業会

5. 後援(予定)

関係省庁

6. 主唱者及び協賛者等による連携

各関係団体における実施事項についての情報交換及び相互支援の実施

7. 主唱者の実施事項

  1. (1)厚生労働省の実施事項
    1. ア 熱中症予防に係る周知啓発資料等の作成、配布
    2. イ 熱中症予防に係る有益な情報等を集めた特設サイトの開設
      1. (ア)災害事例、効果的な対策、好事例、先進事例の紹介
      2. (イ)熱中症予防に資するセミナー、教育用ツール等の案内
    3. ウ 各種団体等への協力要請及び連携の促進
    4. エ 都道府県労働局、労働基準監督署による事業場への啓発・指導
    5. オ その他本キャンペーンを効果的に推進するための事項
  2. (2)各労働災害防止協会等の実施事項
    1. ア 会員事業場等への周知啓発
    2. イ 事業場の熱中症予防対策への指導援助
    3. ウ 熱中症予防に資するセミナー等の開催、教育支援
    4. エ 熱中症予防に資するテキスト、周知啓発資料等の提供
    5. オ その他本キャンペーンを効果的に推進するための事項

8. 協賛者の実施事項

  1. (1)有効な熱中症予防関連製品及び日本産業規格を満たしたWBGT指数計の普及促進
  2. (2)その他本キャンペーンを効果的に推進するための事項

9. 各事業場における重点実施事項

「職場における熱中症防止のためのガイドライン」(別添)に基づく措置を実施することが望まれる。
このため、準備期間中は、同ガイドラインを踏まえた準備、事前確認、検討等を重点的に行うとともに、重点取組期間中は、当該措置の確実な実施、取組状況の総点検、必要に応じた追加対策の検討等を行う。

職場における熱中症防止のためのガイドライン

第1 目的等

  1. 1 目的
    本ガイドラインは、労働安全衛生関係法令と相まって、職場における熱中症防止のための労働衛生管理体制の確立・作業環境管理・作業管理・健康管理・労働衛生教育等の熱中症リスクに応じて行うことが望ましい具体的方法を一体的に示し、事業者がその業種・業態に応じて適切に選択して取り組むよう促すことにより、職場における熱中症による労働災害等の防止を図ることを目的とする。事業者、作業従事者(労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)による改正後の労働安全衛生法(昭和47年法律第57 号。以下「安衛法」という。)第15条第1項に規定する者。以下同じ。)だけでなく、注文者、作業場所管理事業者、労働者と異なる場所で就業する労働者以外の作業従事者(以下「労働者と異なる場所で就業する個人事業者等」という。)においても、本ガイドラインを参考に熱中症防止対策を検討・実施することが望ましい。
  2. 2 適用
    本ガイドラインは、熱中症のおそれのある全ての作業を対象とする。
  3. 3 実施事項
    事業者は、第2に基づき、熱中症によるリスクを把握・評価した上で、その結果に基づき実施することが適切な対策を第3に掲げる措置から選択して実施することが考えられる。なお、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号。以下「安衛則」という。)に定められた措置は、実施しなければならないこと。
    作業従事者についても、自らの作業環境等における熱中症によるリスクの有無などについて、自らで危険予知を行い、可能な範囲でリスクの低減に努めることが求められる。
    なお、労働者と異なる場所で就業する個人事業者等については、自らの熱中症の発症を予防するために、各種支援を活用しつつ、事業者と同様の対応を行うことが望ましいこと。

第2 熱中症リスクの評価

  1. 1 有害性の要因の特定
    熱中症リスクを評価するためには、まず、事業場において、熱中症リスクとなり得る暑熱に関する要因があるかを特定すること。
    暑熱に関する要因としては、
    • 身体からの熱放散の阻害要因として、①高温・多湿な作業環境、②連続作業、③通気性や透湿性の低い衣服や保護具
    • 身体からの熱産生の上昇要因として、④身体作業負荷の大きい作業が挙げられる。
    具体的には、事業場において、温度や湿度が高くないか、連続した作業をしていないか、通気性や透湿性が低い衣服や呼吸用保護具を着用していないか、身体作業負荷が大きい作業をしていないかなどについて検討すること。
  2. 2 湿球黒球温度の値(WBGT値)の把握
    熱中症リスクを評価するために最も基本となる手法は、WBGT の把握である。WBGT は、暑熱環境による熱ストレスの評価を行う暑さ指数であり、作業場所にWBGT 指数計を設置する等により、湿球黒球温度の値(以下「WBGT 値」という。)を求めることが望ましいこと。
    WBGT 値の把握に当たり、日本産業規格JIS Z 8504 又はJIS B 7922 に適合したWBGT 指数計を準備し、点検すること。黒球がないなど日本産業規格に適合しない測定器では、屋外や輻射熱がある屋内の作業場所で、WBGT 値が正常に測定されない場合があること。
    WBGT 値の把握は、上記日本産業規格に適合したWBGT 指数計による随時把握(時刻や場所によって気温が変化することを考慮することが望ましい。)を基本とすること。その地域を代表する一般的なWBGT を参考とすることは有効であるが、個々の作業場所や作業ごとの状況は反映されていないことに留意すること。特に、測定方法や測定場所の差異により、参考値は、実測したWBGT 値よりも低めの数値となることがあるため、直射日光下における作業、炉等の熱源の近くでの作業、冷房設備がなく風通しの悪い屋内における作業については、実測することが必要であること。
    なお、地域を代表する一般的なWBGT は環境省熱中症予防情報サイト等に掲載されている。
  3. 3 熱中症リスクの評価・検討
    把握したWBGT 値を元に、作業や作業場所の状況に応じ、連続作業時間、服装、作業の身体負荷を勘案し、熱中症リスクが大きいかどうかを見積もること。熱中症に関するリスクの見積り、措置の検討は以下のように行うことが考えられる。
    1. (1)熱中症リスクの評価
      2で示した方法によりWBGT値を把握した上で、実測したWBGT値に対し、表1-2に基づき着衣補正を行うこと。着衣補正値を加えたWBGT値を、表1-1に掲げる身体作業強度及び暑熱順化の状況に応じたWBGT基準値に照らして、熱中症リスクを正しく見積もること。着衣補正値を加えたWBGT値が、表1-1に掲げるWBGT基準値を超えている又は超えるおそれのある場合には、冷房等により当該作業場所のWBGT値の低減を図ること、身体作業強度(代謝率レベル)の低い作業に変更すること、WBGT基準値より低いWBGT 値である作業場所での作業に変更すること等の熱中症予防対策を、作業の状況等に応じて実施するよう努めること。
      なお、着衣補正値を加えたWBGT値がWBGT基準値を超えない場合であっても、WBGT基準値が前提としている条件に当てはまらないとき又はそもそもWBGT基準値を算出することができないときなど、熱中症リスクがあるときは、当該WBGT値がWBGT基準値を超えている又は超えるおそれのある場合と同様に、対策を行うことが望ましいこと。
    2. (2)熱中症リスクの低減のための措置の検討
      1. ア まずは、着衣補正値を加えたWBGT値に係る作業場所のWBGT値の低減を検討すること(作業環境管理)。低減の方法については第3の2を参考に、事業場の実情を踏まえて検討すること。
      2. イ WBGT値の低減のための措置を行うことができない又は行ってもWBGT値がWBGT基準値を超えている又は超えるおそれのある場合には、第3の3を参考に、事業場の実情を踏まえて作業管理を検討すること。
      3. ウ 一般に暑さや水分不足に対する感覚機能が低下しており暑さに対する身体の調節機能も低下している高年齢作業従事者や、熱中症の発症リスクに影響を与える可能性のある疾病や障がいを持つ作業従事者については、作業管理の検討の際、作業時間の短縮、身体作業強度の低減等を検討するなど、特に留意すること。

第3 熱中症リスクに応じた措置

  1. 1 労働衛生管理体制の確立等
    事業場における熱中症防止対策については、衛生委員会、安全衛生委員会又はこれらを設けていない事業場における労働者の意見を聴く機会等を活用し、労働者の理解と協力を得つつ労使で話し合い、その内容を労働者に対して周知することが重要である。また、夏季の対策の効果を、秋季や冬季などに同様の会議体で確認し、次の年の夏季に向けた対策に活用することが望ましいこと。
    1. (1)各種管理者等の選任と役割
      事業者は、産業医の意見も参考にしながら、衛生管理者(50 人未満の事業場では安全衛生推進者又は衛生推進者)を中心に、本ガイドラインに掲げる熱中症防止対策について検討させ、以下の(ア)~(ク)に掲げる業務を行わせるとともに、事業場における熱中症防止に係る責任体制の確立を図ること。
      なお、職長等の現場で作業を管理する者等、衛生管理者、安全衛生推進者等以外の者に熱中症予防対策を行わせる場合は、5の(1)の教育研修を受けた者等熱中症について必要な知識を有する者のうちから、熱中症予防管理者を選任すること。
      1. (ア)作業に応じて、適用すべきWBGT 基準値を決定し、併せて衣類に関しWBGT 値に加えるべき着衣補正値の有無を確認すること。
      2. (イ)WBGT 値の低減対策を検討し、その実施状況を確認すること。
      3. (ウ)入職日、作業や休暇の状況等に基づき、あらかじめ各作業従事者の暑熱順化の状況を確認すること。なお、あらかじめ暑熱順化不足の疑われる作業従事者は第3の3の(2)に示す暑熱順化プログラムに沿って暑熱順化を行う必要があること。
      4. (エ)朝礼時等作業開始前において作業従事者の体調及び暑熱順化の状況を確認すること。
      5. (オ)作業場所のWBGT 値の把握と結果の評価を行う。事業者は、評価結果に基づき、必要に応じて作業時間の短縮等の措置を検討すること。
      6. (カ)職場巡視を行い、作業従事者の水分及び塩分の摂取状況を確認すること。
      7. (キ)退勤後に体調が悪化しうることについて注意喚起すること。
      8. (ク)熱中症に関する労働衛生教育の実施状況を確認すること。
    2. (2)各作業手順・作業計画の策定
      夏季の暑熱環境下における作業に対する作業手順・作業計画を策定すること。作業手順・作業計画には、特に新規入職者や休み明けの作業従事者については、熱中症を発症するリスクが高いため、作業内容等を十分に考慮した暑熱順化プログラム、WBGT 値に応じた十分な休憩時間の確保、WBGT基準値を踏まえた作業中止に関する事項を含める必要があること。なお、休憩時間の確保や作業中止に関する事項の検討に当たっては、作業場の設備、休憩場所、作業従事者の服装等の状況に基づいて実施する対策、労働衛生教育、労働衛生管理体制、あらかじめ定めた緊急時の体制等の状況を十分に踏まえたものとすること。
    3. (3)報告体制の整備及び手順等の作成並びに周知
      事業者は、安衛則第612 条の2に基づき、WBGT 値が28 度以上又は気温が31 度以上の場所において継続して1時間以上又は1日4時間を超えて行われることが見込まれる作業(以下「熱中症を生ずるおそれのある作業」という。)を行わせるときは、当該作業に従事する者が熱中症の自覚症状がある場合や、当該作業に従事する者に熱中症が生じた疑いがあることを当該作業に従事する他の者が発見した場合にその旨を報告させるための体制を整備し、関係者に周知すること。また、当該作業以外の作業に従事する者にも周知することが望ましいこと。報告体制の整備については、作業従事者から電話等による報告を受けることや第3の3の(6)の巡視のほか、2人以上の作業者が同時に作業を行うことにより互いの健康状態を確認させるバディ制の採用、ウェアラブルデバイスを用いた作業者の熱中症のリスク管理等が挙げられること。ただし、ウェアラブルデバイスによる管理については、必ずしも当該機器を着用した者の状態を正確に把握することができるわけではないため、他の方法と組み合わせること等により、リスク管理の精度を高めることが望ましいこと。
      また、事業者は、熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、作業場ごとに、当該作業からの離脱、身体冷却、必要に応じての医師の診察又は処置を受けさせることその他熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置の内容及びその実施に関する手順や緊急連絡先を定め、当該作業に従事する者に対し、当該措置の内容及びその手順等を周知させなければならないこと。
      手順等の作成に当たっては、必要に応じて手順例➀及び②を参考にされたいが、必ずしもこれらによらず、作業場所及び作業内容の実態を踏まえて、事業場独自の手順等を定めて差し支えないこと。
  2. 2 作業環境管理
    1. (1)事業者は、過去に熱中症による労働災害が発生した場所など、WBGT 基準値を超えている又は超えるおそれのある場所において作業を行うことが予定されている場合には、以下に掲げる措置を例としてWBGT 値低減対策を講ずること等により、WBGT 値の低減に努めること。
      1. ア WBGT 基準値を超えている又は超えるおそれのある作業場所(以下単に「高温多湿作業場所」という。)においては、発熱体と作業従事者の間に熱を遮ることのできる遮へい物等を設けること。
      2. イ 屋外の高温多湿作業場所においては、直射日光並びに周囲の壁面及び地面からの照り返しを遮ることができる簡易な屋根等を設けること。
      3. ウ 高温多湿作業場所に適度な通風又は冷房を行うための設備やミストシャワー等による散水設備などを設け、既に設置している冷房設備等については、その機能を点検すること。
        なお、屋内の高温多湿作業場所における当該設備は、除湿機能があることが望ましいこと。
        また、通風が悪い高温多湿作業場所での散水については、散水後に湿度が上昇することや滑りやすくなることに注意すること。
    2. (2)休憩場所の整備等
      熱中症の重篤化を防ぐためには、適切な身体冷却が有効であるため、事業者は、作業場所の近くに冷房を備えた休憩場所又は日陰等の涼しい休憩場所を確保すること。休憩場所は、空調設備等を備えていることが望ましいが、場所によっては制約要件があることに留意すること。休憩場所は、以下の点に留意して確保すること。
      1. ア 休憩の設備の設置については、作業場の性質により個別に可否を判断されるものであるが、港湾などの広い場所の場合は、熱中症の予防の観点から、休憩の設備はできる限り作業従事者が速やかに利用できる場所に設置することが望ましいこと。
      2. イ 休憩場所は、足を伸ばして横になれる広さを確保すること。
      3. ウ 休憩場所又はその近隣に空調設備、氷、アイススラリー(流動性の氷状飲料)、冷たいおしぼり、水風呂、シャワー等の身体を適度に冷やすことのできる設備又は物品を設けること。
      4. エ 電気、水道等のインフラが使用できない場所であっても、日傘や日よけテント等により日陰を作ることなどが有効であること。
      5. オ 水分及び塩分の補給を行えるよう高温多湿作業場所の近傍に飲料水、スポーツドリンク、経口補水液、塩飴等の備付け等を行うこと。配備にあたっては、糖分、塩分の含有量が摂取者に分かるものが望ましいこと。
      6. カ 熱中症のおそれのある作業従事者を発見し、作業離脱、身体冷却を行う際、当該作業従事者を、救急搬送前などに一時的に休憩させる場合は、休憩する者を一人きりにしないこと。熱中症のおそれのある又は発症した作業従事者を、救急搬送前などに一時的に休憩させる場合に備え、例えば、1の(3)で定めた熱中症が生じた疑いがあることを当該作業に従事する他の者が発見した場合にその旨を報告させるために整備した緊急連絡先などの体制や、熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置の内容及びその実施に関する手順を休憩室内に掲示することなどが考えられること。
  3. 3 作業管理
    1. (1)作業時間の短縮等
      1の(2)で検討した作業手順・作業計画に基づき、熱中症予防対策を作業の状況等に応じて実施するよう努めること。熱中症予防対策は、以下のものが考えられること。
      1. ア 作業の休止時間及び休憩時間を確保し、高温多湿作業場所での作業を連続して行う時間を短縮するよう努めること。休憩時間については、表1-1の注3を参考に、WBGT 基準値に応じたものとすること。WBGT 値を測定し、着衣補正値を加えたWBGT 値が WBGT 基準値を大幅に超える場合は、原則として作業を行わないこととすること。WBGT 基準値を大幅に超える場合に、やむを得ず作業を行うときは、単独作業を控え、休憩時間を長めに設定することに留意すること。
      2. イ 身体作業強度(代謝率レベル)が高い作業を避けること。
      3. ウ 可能であれば、日陰の場所に作業場所を変更すること。
    2. (2)暑熱順化
      高温多湿作業場所において作業従事者を作業に従事させる場合には、暑熱順化(熱に慣れ当該環境に適応すること)の有無が、熱中症の発症リスクに大きく影響することを踏まえ、計画的に、暑熱順化期間を設けること。
      特に、梅雨から夏季になる時期において、気温等が急に上昇した高温多湿作業場所で作業を行う場合、新規入職者などが新たに当該作業を行う場合、又は、作業従事者が長期間、当該作業場所での作業から離れ、その後再び当該作業を行う場合等においては、通常、当該作業従事者は暑熱順化していないことに留意が必要であること。その場合は、暑熱順化プログラムに沿って暑熱順化を行うとともに、WBGT 値に応じた作業の中断等を徹底すること。
      暑熱順化の方法としては、7日以上かけて暑熱環境での身体的負荷を増やし、作業時間を調整し、次第に長くすることが挙げられる。特に、新規入職者等に対して他の作業従事者と同様の暑熱作業を行わせないよう、計画的な暑熱順化プログラムを組むこと。
      暑熱順化の方法の例としては、職場での暑熱順化は暑さが本格化する前に作業時間を徐々に伸ばすなど調整し、発汗しやすい服装等で作業負荷をかけ、個人の健康状態を確認しながら7日以上かけて実施することが考えられる。職場以外でも、個人の運動、入浴等日常生活で無理のない範囲で汗をかくようにすることでも可能である。
      なお、夏季休暇等のため熱へのばく露が中断すると4日後には暑熱順化の顕著な喪失が始まり、3~4週間後には完全に失われることに留意すること。
      このため、連休前に7日以上かけて身体的負荷を増やすなど暑熱順化した作業従事者についても、連休後には、休暇中の活動状況をヒアリングするなどして、必要に応じ、暑熱順化期間の延長や、追加の暑熱順化を行うことも考えられる。
      暑熱順化ができていない場合には、特に作業時間の短縮を検討すること。なお、いわゆる「スポットワーク」を利用する労働者を含め、夏季に短期間就労する者については、短期での暑熱下での作業を連続して繰り返している場合など、暑熱順化ができていると確実に把握できた場合を除き、原則として、暑熱順化されていない者として取り扱うことが望ましいこと。
    3. (3)プレクーリング
      WBGT 値が高い暑熱環境下で、作業強度を下げたり通気性の良い衣服を採用したりすることが困難な作業においては、作業開始前にあらかじめ深部体温を下げ、作業中の体温上昇を抑えるプレクーリングについては、体表面から冷却する方法と、冷水やアイススラリー(流動性の氷状飲料)などを摂取して体内から冷却する方法を検討すること。また、必要に応じて休憩時間中のプレクーリングも検討すること。
    4. (4)水分及び塩分の摂取
      安衛則第617 条により、多量の発汗を伴う作業場では、塩及び飲料水を備え付けることが義務付けられており、当該作業場では、飲料水、スポーツドリンク、経口補水液、塩飴等を備え付けなければならないこと。
      高温多湿作業場所においては、作業従事者について自覚症状以上に脱水状態が進行していることがあること等に留意の上、作業従事者の自覚症状の有無にかかわらず、水分及び塩分の作業前後の摂取及び作業中の定期的な摂取を指導するとともに、作業従事者の水分及び塩分の摂取を確認するための表の作成、作業中の巡視における確認等により、定期的な水分及び塩分の摂取の徹底を図ること。
      塩分を摂取するときには、0.1~0.2% の食塩水、ナトリウム40~80mg/100ml のスポーツドリンク等を20~30 分ごとにカップ1~2杯程度を摂取することが望ましいが、摂り過ぎに注意すること。なお、尿の回数が少ない又は尿の色が普段より濃い状態は、体内の水分が不足している状態である可能性があることを作業従事者に周知すること。
      特に、加齢や疾病によって脱水状態であっても自覚症状に乏しい場合があることに留意すること。また、高血圧であって塩分等の摂取が制限される、糖尿病であって糖分等の摂取が制限されるなど基礎疾患を有する作業従事者については、主治医、産業医等に相談させること。
    5. (5)服装による身体冷却
      作業の性質上通気性の確保等が困難ではない場合は、熱を吸収し、又は保熱しやすい服装は避け、透湿性及び通気性の良い服装を着用させること。
      また、直射日光下における作業が予定されている場合には、通気性の良い帽子、ヘルメット等を準備すること。服装等の選定に当たっては、作業の実態に合わせ、送風や送水により身体を冷却する機能を持つ服やヘルメットの中から適切なものを採用するなど、作業中の深部体温上昇の抑制に資するものを積極的に採用すること。
      なお、身体を冷却する機能を持つ服を着用することは一定程度有効ではあるが、それのみでは熱中症を防止することは困難であるため、他の対策と組み合わせて実施することが望ましいこと。
      また、作業従事者の安全衛生確保のために、事業者が業務に関連し衣類や保護衣を指定することが必要な場合には、あらかじめ衣類の種類を確認し、WBGT 値の補正(表1-2)の必要性を考慮すること。
    6. (6)作業中の巡視
    7. (7)業種・作業別の対応例
      作業管理に当たり、業種・作業別の対応例は、以下のものが挙げられる。
      1. ア 建設現場をはじめとする屋外作業の場合
        • 太陽の位置を考慮して日陰となる場所で作業を行う、早朝から作業を行い、早帰りとするなどにより直射日光下での作業時間を短縮する。
        • 休憩場所まで遠い場合は、移動時間を考慮した休憩時間を設定する。
      2. ウ 運送業等の場合
        • 日陰でこまめに休憩する。
        • 温度差の大きい車内外を行き来することで身体に負担がかからないよう、自動車運転時に窓を開けて走るなどして車内外の温度差を作らないようにする。
        • 自転車に給水ボトルを付け、水分摂取を容易にする。
      3. エ 可能であれば、日陰の場所に作業場所を変更すること。
    8. 重量物の運搬作業など身体作業強度が高い作業を行う場合は、台車、リフターを使用する、複数人で作業するなど1人当たりの身体作業への負荷を下げる。
    9. 夜間のビルメンテナンス業等、屋内作業であっても冷房設備が停止している場合は、通気性の良い服装を着用させ、単独作業を避ける。
    10. 調理場では、グリスフィルターの清掃により排気機能を確保し、温度上昇を抑制する。
    11. WBGT 値が極めて高い傾向にあるビニールハウス、畜舎等での作業は、早朝作業を行い、こまめに日陰で休憩する。
  4. 4 健康管理
    熱中症の発症者については、当日又は前日に、睡眠不足、食欲低下、下痢や感冒様症状、全身倦怠感などの比較的軽微な体調変化が先行し、それが暑熱ばく露と重なることで急激に重症化する例が多いため、事業者による健康診断結果に基づく対応のみならず、作業開始前に、当日の体調に普段と異なる点がないか等を確認することや、作業従事者自身の日常の健康管理が重要である。
    1. (1)健康診断結果に基づく対応
      安衛則第 43 条、第 44 条及び第 45 条の規定に基づく健康診断の項目には、熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾病と密接に関係した血糖検査、尿検査、血圧の測定、既往歴の調査等が含まれていること及び安衛法第 66 条の4及び第 66 条の5の規定に基づき、異常所見があると診断された場合には医師等の意見を聴き、当該意見を勘案して、必要があると認めるときは、事業者は、就業場所の変更、作業の転換等の適切な措置を講ずることが義務付けられていることに留意の上、これらの徹底を図ること。
      また、熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾病の治療中等の作業従事者については、事業者は、高温多湿作業場所における作業の可否、当該作業を行う場合の留意事項等について産業医、主治医等の意見を勘案して、必要に応じて、就業場所の変更、作業の転換等の適切な措置を講ずること。
      なお、熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病は以下のものが挙げられる。その詳細については、「( 参考)熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病の特徴等」を参照すること。
      ①糖尿病、②高血圧症、③心疾患、④腎不全、⑤精神・神経関係の疾患、⑥広範囲の皮膚疾患、⑦感冒等、⑧下痢等
    2. (2)日常の健康管理等
      高温多湿作業場所で作業を行う作業従事者については、睡眠不足、体調不良、前日等の飲酒、朝食の未摂取等が熱中症の発症に影響を与えるおそれがあることに留意の上、日常の健康管理について指導を行うとともに、必要に応じ健康相談を行うこと。これを含め、安衛法第69 条の規定に基づき健康の保持増進のための措置を講ずるよう努めること。
      さらに、熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾病の治療中等である場合は、熱中症を予防するための対応が必要であることを作業従事者に対して教示するとともに、作業従事者が主治医等から熱中症を予防するための対応が必要とされた場合又は作業従事者が熱中症を予防するための対応が必要となる可能性があると判断した場合は、事業者に申し出るよう指導すること。
      また、熱中症の具体的症状について作業従事者に教育し、作業従事者自身が早期に気づくことができるようにすること。
    3. (3)作業従事者の健康状態及び暑熱順化の状況等の確認
      当日の作業開始前に、当日の朝食の未摂取、睡眠不足、前日の多量の飲酒、体調不良等の健康状態の確認を行うこと。また、職長等の管理者は、入職後1週間未満の作業従事者及び夏季休暇等のために熱へのばく露から4日以上離れていた作業従事者をあらかじめ把握し、巡視の頻度を増やすなどして当該作業従事者の作業時間中や作業終了時における健康状態に特に配慮すること。作業開始前に、作業従事者に対し、当日の体調に普段と異なる変化がないか、睡眠不足等がないかなど、声かけなどをすることが望ましいこと。
      健康状態又は暑熱順化の状況から熱中症の発症リスクが高いと疑われる者に対しては、必要に応じ作業の配置換え等を行うこと。
      また、休憩場所等に体温計、体重計等を備え、必要に応じて、体温、体重その他の身体の状況を確認できるようにすること。
      作業従事者は、作業当日に体調に普段と異なる変化や、睡眠不足等がある場合は、職長等の管理者に申し出ることが望ましいこと。これらの情報を申し出られた事業者は、その情報について、プライバシーに配慮して取り扱うこと。
  5. 5 労働衛生教育
    事業場で熱中症防止対策を的確に行うためには、対策に関わる熱中症予防管理者、職長等現場で作業従事者を指揮する者及び作業従事者に対し、それぞれ(1)~(3)に掲げる事項、範囲及び時間により、熱中症に係る労働衛生教育を行うことが望ましい。なお、教育の実施時期については、雇入れ時教育の機会に行うなど、事業場の実情を踏まえたものとすること。また、簡単な教材でも繰り返し参照することが望ましいこと。
    教材は、厚生労働省が運営しているポータルサイトに掲載しているものも活用できること。なお、事業者が自ら当該教育を行うことが困難な場合には、関係団体が行う教育を活用すること。
    1. (1)熱中症予防管理者労働衛生教育(必要に応じて衛生管理者や安全衛生推進者も受講することが望ましい。)
      事項範囲時間
      (1) 熱中症の症状*
      • 熱中症の概要
      • 職場における熱中症の特徴
      • 体温の調節
      • 体液の調節
      • 熱中症が発生する仕組みと症状
      30分
      (2) 熱中症の予防方法*
      • 熱中症リスク要因とWBGT(意味、WBGT基準値に基づく評価)
      • 作業環境管理(WBGT 値の低減、休憩場所の整備等)
      • 作業管理(作業時間の短縮、暑熱順化、水分及び塩分の摂取、服装、作業中の巡視等)
      • 健康管理(健康診断結果に基づく対応、日常の健康管理、作業従事者の健康状態の確認、身体の状況の確認等)
      • 労働衛生教育(作業従事者に対する教育の重要性、教育内容及び教育方法)
      • 熱中症予防対策事例
      150分
      (3) 緊急時の救急処置
      • 報告体制の整備及び周知・手順等の作成及び周知
      • 緊急時の救急措置
      15分
      (4) 熱中症の事例
      • 熱中症の災害事例
      15分
      (5) 関係法令等
      • 熱中症の関係法令等
      15分
      注 対象者の熱中症に対する基礎知識の状況に応じ、( 1 )及び( 2 )をそれぞれ1 5 分、7 5 分に短縮して行うこととして差し支えない。
    2. (2)職長等現場で作業従事者を指揮する者向け教育
      事項範囲時間
      (1) 熱中症の症状
      • 熱中症の概要
      • 職場における熱中症の特徴
      • 熱中症が発生する仕組みと症状
      10分
      (2) 熱中症の予防方法
      • 作業環境管理(WBGT 値の低減、休憩場所の整備等)
      • 作業管理(作業時間の短縮、水分及び塩分の摂取、服装、作業中の巡視等)
      • 健康管理(日常の健康管理、作業従事者の健康状態の確認、身体の状況の確認等)
      • 健康管理(健康診断結果に基づく対応、日常の健康管理、作業従事者の健康状態の確認、身体の状況の確認等)
      • 熱中症予防対策事例
      25分
      (3) 緊急時の救急処置
      • 報告体制の整備及び周知・手順等の作成及び周知
      • 緊急時の救急措置
      10分
      (4) 熱中症の事例
      • 熱中症の災害事例
      10分
      (5) 関係法令等
      • 熱中症の関係法令等
      5分
      注 (1)の熱中症予防管理者労働衛生教育の受講で代替可能。
    3. (3)作業従事者向け教育(短時間で、繰り返すことが望ましいこと。)
      事項範囲時間
      (1) 熱中症の症状
      • 熱中症の概要
      • 職場における熱中症の特徴
      • 体温の調節
      • 体液の調節
      • 熱中症が発生する仕組みと症状
      10分
      (2) 熱中症の予防方法
      • 作業環境管理(WBGT 値の低減、休憩場所の整備等)
      • 作業管理(作業時間の短縮、水分及び塩分の摂取、服装、作業中の巡視等)
      • 健康管理(日常の健康管理、作業従事者の健康状態の確認、身体の状況の確認等)
      • 健康管理(健康診断結果に基づく対応、日常の健康管理、作業従事者の健康状態の確認、身体の状況の確認等)
      • 熱中症予防対策事例
      25分
      (3) 緊急時の救急処置
      • 報告体制の整備及び周知・手順等の作成及び周知
      • 緊急時の救急措置
      10分
      (4) 熱中症の事例
      • 熱中症の災害事例
      10分
      注 (1)の熱中症予防管理者労働衛生教育の受講で代替可能。
  6. 6 異常時の措置
    熱中症を疑わせる具体的な症状については表2に掲げる「熱中症の症状と分類」を参考にすること。
    熱中症を疑わせる症状が現れた場合、周囲の作業従事者等は、熱中症が疑われる作業従事者を、必ず、一旦、作業から離し、救急処置として涼しい場所で当該者の身体を冷やし、水分及び塩分の摂取等を行わせること。また、症状に応じ、救急隊を要請し、又は医師の診察を受けさせること。
    なお、周囲の作業従事者等は、本人に自覚症状がない、又は大丈夫との本人からの申出があったとしてもためらわずに、あらかじめ定められた担当者に連絡し、措置の実施手順に従って、医療機関への搬送や救急隊の要請を行うこと。判断に迷う場合には、放置したり、措置を躊躇して先送りにしたりせず、#7119 等を活用するなど専門機関や医療機関に相談し、速やかに専門家の指示を仰ぐことが望ましいこと。医療機関に搬送するまでの間や救急隊が到着するまでの間には、十分に涼しい休憩場所に避難させた上で、必要に応じてアイススラリー(流動性の氷状飲料)や経口補水液などの水分・塩分を摂取させる、作業着を脱がせて水をかけて全身を急速冷却する、アイスバスに入れる、ミストファンを当てる、濡れタオルなどを身体に当て、扇風機で風を当てるなどにより効果的な身体冷却に努めること。この間、容態が急変する場合があることから、熱中症を生じたおそれがある作業従事者を一人きりにすることなく、他の作業従事者等が見守ることが重要である。
    熱中症を疑わせる症状としては、ふらつき、発汗、けいれん、めまい、頭痛等が挙げられるので、5の(3)の労働衛生教育で作業従事者に周知すること。
  7. 7 その他
    1. (1)実施時期
      当年の気温上昇の状況や地域差にもよるが、おおむね4月中までに、夏季に「第2 熱中症のリスクの評価」、第3の「1 労働衛生管理体制の確立等」、「2 作業環境管理」、「3 作業管理」、「4 健康管理」、「5労働衛生教育」が円滑かつ継続的に実施できるよう準備することが望ましいこと。
      特に、気温が急激に上昇する時期や、猛暑日等は、熱中症の発生リスクが高くなる傾向があることから、作業従事者に対して、いつも以上に注意喚起することが重要である。
    2. (2)いわゆる「スポットワーク」を利用する労働者について
      いわゆる「スポットワーク」を利用する労働者については、当然に安衛則第612 条の2で定めた体制や手順の周知対象である上、雇入れ時教育の対象ともなる。そのため、当該労働者を使用する事業者は、特に夏季においては、これらの労働者に対しても、法令や本ガイドラインに基づく措置を講じること。
    3. (3)注文者や作業場所管理事業者による配慮
      仕事を他人に注文する者については、特に当該仕事に係る夏季の屋外作業が、熱中症のおそれのある作業となる可能性が高いことから、経費や工期・納期について配慮することが望ましいこと。
      また、注文者は、熱中症の発症や重篤化を防ぐために作業中に作業従事者が休憩や水分補給をする可能性があることについて理解することが重要である。
      作業場所管理事業者については、当該場所で作業する作業従事者が熱中症を発症した際は、当該作業従事者の緊急連絡先や医療機関に連絡することが望ましいこと。そのためには、作業従事者は、緊急連絡先や、可能であれば既往歴を記載したカードを携行する、着用している服の分かりやすいところに貼るなど、工夫することが重要である。
      また、作業場所管理事業者は、当該場所での作業を請け負った事業者から休憩場所について要望等を受けた場合は、誠実に協議して適切に対応することが望ましいこと。
      併せて、注文を受けた者は、熱中症の発症や重篤化を防ぐために作業中に作業従事者が休憩等する可能性があることについては、あらかじめ注文者や作業場所管理事業者に対して伝達することが望ましいこと。
    4. (4)労働者と異なる場所で就業する個人事業者等について
      労働者と異なる場所で就業する個人事業者等については、熱中症による重篤化の防止のためには、熱中症の症状を自覚したときの連絡先や手順を自ら決定して対応するなど、本ガイドラインを参考に自ら熱中症防止に取り組むことが必要であることに留意すること。なお、熱中症の症状を自覚したときの連絡先としては、#7119 などが考えられること。
      また、作業従事者向けの教材や、元方事業者などから配布される資料などを用いて、繰り返し自ら熱中症の症状や防止対策などの知識を習得することが重要である。
  8. 表1-1 身体作業強度及び暑熱順化の状況に応じたWBGT 基準値
    区分身体作業強度(代謝レベル)の例WBGT 基準値
    暑熱順化者のWBGT 基準値 ℃暑熱非順化者のWBGT 基準値 ℃
    0安静安静、楽な座位3032
    1低代謝率軽い手作業(書く、タイピング、描く、縫う、簿記);手及び腕の作業(小さいペンチツール、点検、組立て又は軽い材料の区分け);腕及び脚の作業(通常の状態での乗り物の運転、フットスイッチ及びペダルの操作)。立位でドリル作業(小さい部品);フライス盤(小さい部品);コイル巻き;小さい電機子巻き;小さい力で駆動する機械;2.5 km/h 以下での平たん(坦)な場所での歩き。3029
    2中程度代謝率継続的な手及び腕の作業[くぎ(釘)打ち、盛土];腕及び脚の作業(トラックのオフロード運転、トラクター及び建設車両);腕と胴体の作業(空気圧ハンマーでの作業、トラクター組立て、しっくい塗り、中くらいの重さの材料を断続的に持つ作業、草むしり、除草、果物及び野菜の収穫);軽量な荷車及び手押し車を押したり引いたりする;2.5 km/h~5.5 km/h での平たんな場所での歩き;鍛造2826
    3高代謝率強度の腕及び胴体の作業;重量物の運搬;ショベル作業;ハンマー作業;のこぎり作業;硬い木へのかんな掛け又はのみ作業;草刈り;掘る;5.5 km/h~7 km/h での平たんな場所での歩き。重量物の荷車及び手押し車を押したり引いたりする;鋳物を削る;コンクリートブロックを積む。2623
    4極高代謝率最大速度の速さでのとても激しい活動;おの(斧)を振るう;激しくシャベルを使ったり掘ったりする;階段を昇る;平たんな場所で走る;7km/h 以上で平たんな場所を歩く。2520
    1. 注1 日本産業規格JIS Z 8504(熱環境の人間工学-WBGT(湿球黒球温度)指数に基づく作業者の熱ストレスの評価-暑熱環境)附属書A「WBGT 熱ストレス指数の基準値」を基に、同表に示す代謝率レベルを具体的な例に置き換えて作成したもの。
    2. 注2 暑熱順化者とは、「評価期間の少なくとも1週間以前から同様の全労働期間、高温作業条件(又は類似若しくはそれ以上の極端な条件)にばく露された人」をいう。
    3. 注3 身体を冷却する服を着用していないなど、特段の熱中症予防対策を講じていない場合における「休憩時間の目安」:暑熱順化した作業者において、WBGT 値が基準値~1℃程度超過しているときには1時間当たり15 分以上の休憩、2℃程度超過しているときには30 分以上の休憩、3℃程度超過しているときには45 分以上の休憩、それ以上超過しているときには作業中止が望ましいこと。暑熱順化していない作業者においては、上記よりもより長い時間の休憩等が望ましいこと(以下の表を参照)。
    WBGT 基準値からの超過休憩時間の目安(1時間当たり)
    1℃程度超過15 分以上
    2℃程度超過30 分以上
    3℃程度超過45 分以上
    それ以上超過作業中止が望ましい
    (出典)米国産業衛生専門家会議(ACGIH)の許容限界値(TLV)を元に算出。
    1. 注4 身体を冷却する服の着用等により、作業中の深部体温の上昇や休憩中の身体冷却の促進が図られるような場合については、休憩時間を、注3に示した休憩時間の目安より短縮し、又は作業中止とするWBGT 基準値からの超過の水準を高く設定することも可能であるが、その検討に当たっては、以下、参考に掲げる知見を踏まえたものとすること。また、熱中症の発症や発症後の重症化の有無及び早さは個々の作業従事者の健康状態や作業態様によって大きく異なるため、第3の4(2)に掲げる「作業中の作業者の健康状態の確認」に当たっては、周辺の作業従事者との間で2人1組で「バディ」を組ませて声かけ等により定期的に相互の健康状態や異常の有無を確認するなどにより、熱中症の未然防止や発症時の迅速な応急措置の実施に努めることが必要である。
    2. (参考)
      • ファン付き作業服の着用で、休憩時間を短くすることも可能である。温度30℃、湿度85%における運動実験の結果、ファン付き作業服の着用は非着用時と比較して同様の体温に到達するまで15 分遅らせる効果があることがわかっている。
      • 同実験の結果、ファン付き作業服の着用は非着用時と比較して推定発汗量を約20%減少させる効果があることもわかっている。 表1-2 衣類の組合せによりWBGT 値に加えるべき着衣補正値(℃-WBGT)
        組合せコメントWBGT 値に加えるべき着衣補正値(℃-WBGT)
        作業服織物製作業服で、基準となる組合せ着衣である。0
        つなぎ服表面加工された綿を含む織物製0
        単層のポリオレフィン不織布製つなぎ服ポリエチレンから特殊な方法で製造される布地2
        単層のSMS 不織布製のつなぎ服SMS はポリプロピレンから不織布を製造する汎用的な手法である。0
        織物の衣服を二重に着用した場合通常、作業服の上につなぎ服を着た状態。3
        つなぎ服の上に長袖ロング丈の不透湿性エプロンを着用した場合巻付型エプロンの形状は化学薬剤の漏れから身体の前面及び側面を保護するように設計されている。4
        フードなしの単層の不透湿つなぎ服実際の効果は環境湿度に影響され、多くの場合、影響は小さくなる。10
        フードつき単層の不透湿つなぎ服実際の効果は環境湿度に影響され、多くの場合、影響は小さくなる。11
        服の上に着たフードなし不透湿性のつなぎ服12
        フード着衣組合せの種類やフードの素材を問わず、フード付きの着衣を着用する場合。フードなしの組合せ着衣の着衣補正値に加算される。+1
        1. 注記1 透湿抵抗が高い衣服では、相対湿度に依存する。着衣補正値は起こりうる最も高い値を示す。
        2. 注記2 SMS はスパンボンド-メルトブローン-スパンボンドの3層構造からなる不織布である。
        3. 注記3 ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、その共重合体等の総称である。
  9. 表2 熱中症の症状と分類分
    分類症状重症度
    Ⅰ度めまい・生あくび・失神(「立ちくらみ」という状態で、脳への血流が瞬間的に不十分になったことを示し、「熱失神」と呼ぶこともある。)
    筋肉痛・筋肉の硬直(筋肉の「こむら返り」のことで、その部分の痛みを伴う。発汗に伴う塩分(ナトリウム等)の欠乏により生じる。これを「熱痙攣」と呼ぶこともある。)
    大量の発汗
    Ⅱ度頭痛・気分の不快・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感(体がぐったりする、力が入らないなどがあり、従来から「熱疲労」と言われていた状態である。)
    集中力や判断力の低下
    Ⅲ度・Ⅳ度意識障害・痙攣・手足の運動障害(呼びかけや刺激への反応がおかしい、体がガクガクと引きつけがある、真直ぐに走れない又は歩けないなど。)
    高体温(体に触ると熱いという感触がある。従来から「熱射病」や「重度の日射病」と言われていたものがこれに相当する。)
  10. 手順例①
    熱中症による健康障害発生時の対応計画
  11. 手順例②
    熱中症による健康障害発生時の対応計画
  12. (参考)熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病の特徴等
    糖尿病については、血糖値が高い場合に尿に糖が漏れ出すことにより尿で失う水分が増加し、脱水状態を生じやすくなること、高血圧症及び心疾患については、水分及び塩分を尿中に出す作用のある薬を内服する場合に脱水状態を生じやすくなること、腎不全については、塩分摂取を制限される場合に塩分不足になりやすいこと、精神・神経関係の疾患については、自律神経に影響のある薬(パーキンソン病治療薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬等)を内服する場合に発汗及び体温調整が阻害されやすくなること、広範囲の皮膚疾患については、発汗が不十分となる場合があること等から、これらの疾病等については熱中症の発症に影響を与えるおそれがあること。
    感冒等による発熱、下痢等による脱水等は、熱中症の発症に影響を与えるおそれがあること。なお、皮下脂肪の厚い者も熱中症の発症に影響を与えるおそれがあることから、留意が必要であること。
    心機能が正常な作業従事者については1分間の心拍数が数分間継続して180から年齢を引いた値を超える場合、作業強度のピークの1分後の心拍数が120を超える場合、休憩中等の体温が作業開始前の体温に戻らない場合、作業開始前より1.5%を超えて体重が減少している場合、急激で激しい疲労感、悪心、めまい、意識喪失等の症状が発現した場合等は、熱へのばく露を止めることが必要とされている兆候であること。